同人誌の制作者は沖縄県立図書館の職員 図書館での取り組みをまとめた『本気(マジ)で薄い本を作ってみた』:司書みさきの同人誌レビューノート
実際に同人誌即売会への参加も。
昨年末、驚くおしらせが飛び込んできました。「沖縄県立図書館さんが地元の同人誌即売会に参加するって!」。図書館が同人誌即売会に参加? この事態に興味津々の私が、なんとその会場で頒布された同人誌を手にすることができました。今回は、沖縄県立図書館さんが出された同人誌2冊をレビューします。
今回紹介する同人誌
『沖縄県立図書館職員が本気(マジ)で薄い本を作ってみた〜一般展示編〜』B5 32P 表紙カラー、本文モノクロ
編集・発行:沖縄県立図書館
『沖縄県立図書館職員が本気(マジ)で薄い本を作ってみた〜郷土資料編〜』A5 32P 表紙・本文カラー
編集:チーム「図書館の推し事」
発行:沖縄県立図書館
オタク系展示、郷土マンガのレビュー……図書館ってこんなこともしてるんだ
即売会の新刊は2冊、どちらも無料配布だったとのことですが立ち寄った方に「いくら払えば?」と問われたというのも納得のしっかりした作りです。
『一般展示編』は沖縄県立図書館がこれまで館内でどのような展示を行ってきたのか、具体的な展示の作り方を文章と写真で紹介しています。どこの図書館でも所蔵資料を紹介する展示をよく行っているのですが、その中でも沖縄県立図書館では“オタク系展示”に力を入れていて、この本でもスポットを当てています。展示テーマをマンガやアニメ、ゲームに関連させて行うことをオタク系展示とこのご本では呼ばれていますが、テーマの設定、実施時期、広報、そしてただ作品の流行に乗るのではなくどう作品愛を織り込んでいくかという大切な部分も含まれています。キャンプや歴史的英雄、文豪たちなどの切り口もあれば、画像を使用するにあたり権利元に確認して許可を得た「サクナヒメ」の展示の例など、実例に基づいての解説には説得力があります。
『郷土資料編』は沖縄を舞台にしたマンガ、小説の紹介にはじまり、「沖縄の歴史を知るための10冊」「沖縄の地図を知るための10冊」などのテーマに沿った本がフルカラーで紹介されています。選者も琉球大学の先生がいらしたり、下地がしっかりしてバランスがいい感触を受けます。
『一般展示編』は図書館や書店さんで役立ちそうな内容、『郷土資料編』は広くみなさんに紹介する内容と、それぞれにアプローチは違いますが、どちらからも「こんな面白いきっかけがあるよ! いろんな人に図書館を便利に使ってみてほしい!」という気持ちが随所から伝わってきます。
これまでの積み重ねをアウトプットした充実の内容
同人誌の発行、同人誌即売会への参加という思い切った踏み込みの裏には、実はこれまでの積み重ねがあることもご本から伺えます。参加を決めた担当さんは、学生時代に何度も同人誌即売会にサークル参加をしコスプレもしてきた体験者(ジャンルは東方Project)。またご本の内容はこれまでの展示のまとめや、実施してきた選定をもとに掲載したりと、豊富にインプットされたものがありました。楽しい思い付きを充実の結果に結び付けたのは、その積み重ねの厚みだと読み取れます。
同人誌とは? 即売会に参加するとは? 可能性を広げる一歩
同人誌を作るにあたり、本づくりの準備や、参加したい即売会に図書館として申し込めるかと問合せをして……と、担当者さんの経験が大きく生かされたのは間違いありません。
そして、さらなる強みは周囲の方々とのタッグの強さではないでしょうか。2冊のご本にはそれぞれに担当された著者に加え、他職員さんのコメントが寄せられたり、たくさんの方の協力の様子、見守ってこられたあたたかいまなざしがあって完成されたのが伺えます。
職場を巻き込んで作るものは同人誌か? サークルって何だ? 同人誌ってなんだ? この前代未聞の事態にそんな疑問もよぎります。けれどそこで足踏みを繰り返すだけでなく、あたたかな土壌を拠点にまず一歩を踏み出したご本を熱く歓迎したいと思いました。
今週の余談
面白い同人誌が発行されるならその現場を見てみたい! 行って手にしたい! とじたばたする気持ちを抱えてごろごろしつつ、遠方にいてもリアルタイムのように情報交換できる昨今の通信のありがたみを感じたりもしています。これからにいっぱい期待します。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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104ページという力作。
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