レビュー
» 2021年05月30日 12時00分 公開

柿の種、ナポリタン、鈴カステラーー あなたの“読書のおとも”は何ですか? エッセイ同人誌につづられた三者三様の読書時間司書みさきの同人誌レビューノート

読むことと食べること。

[みさき,ねとらぼ]
同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 しばらく雨が続いたあと、青空がのぞいた日の、その爽やかさにびっくりしました。窓を開けるだけでぜいたくな気分になるような、さっぱりとした空気です。何をしても楽しそうな一日、吹き込む風を受けながらの読書はいかがでしょうか。そしてかたわらにはおいしい“読書のおとも”もご一緒に……。

今回紹介する同人誌

『読書のおとも』A5 52P 表紙カラー・本文モノクロ

著者:海乃凧、二見さわや歌、奈良原生織、岸波龍、柿内正午


同人誌 図書館 司書 やわらかな黄色にタイトルだけの表紙ですが、書体からちゃめっ気を感じます

さまざまな “読書のおとも”をエッセイで

 こちらの同人誌は、読書と食をテーマにしたエッセイのアンソロジーです。5人の書き手さんが自分の体験、感じたことを短編でつづっています。柿の種、鈴カステラとコーヒー、ナポリタン、香り高いお茶などが登場し、どんな風に本と向き合い、おいしい“おとも”をそばに置いているかが時に軽快に、時に穏やかに5通りに語られます。

 共通するのは、どの方も日常の読書体験を書いていらっしゃることでしょうか。特別ではく、いつもの日々に本がある、その暮らしぶりが見えるような飾らない風景が書かれます。そんな中でも“おとも”となる食べ物については少しだけ丁寧に描写される温厚な空気感が心地よいです。

同人誌 図書館 司書 余裕を持たせたレイアウトからもゆったりとした雰囲気が感じられます

オカメサブレから1冊の本へとつながる

 実はご本が編まれるきっかけに、とあるお菓子があったと、あとがきで語られているんです。

 本文にも参加されている二見さわや歌さんは、鳥の形をした焼き菓子“オカメサブレ”を焼き続け、2020年、販売をスタートさせます。その活動を知らせるお店のSNSアカウントでよく使っていらした「読書のおとも」という言葉に影響を受けたのがきっかけだったそうです。確かに手に取りやすく、甘みの優しいクッキーやサブレは読書のおともにぴったりですね。1枚のサブレを作り、活動を広げていく過程が本づくりへとつながったなんて、蝶の羽ばたき効果ならぬ、オカメサブレの羽ばたき効果も面白いですね。

同人誌 図書館 司書 赤いほっぺもかわいいオカメサブレ(画像はKIBI’S BAKE SHOPから)

1人の読書時間を味わう楽しさ

 読書と食にまつわる個々の体験はそれぞれで、なかには具体的な食べ物を挙げず、読む・食べる感覚についてを中心にした作品もあります。本を読むという行動はおおむね1人の時間です。舌に乗せた物を他者と共有するのは難しい感覚と思えば、食もまた1人の時間かもしれません。

 けれど、その感覚が記され、読んで分かち合うことで、文字からの共有が発生していきます。例えばサウナでの読書のおともは……という場面では、サウナで本! と自分の発想になかったことを知り、その上、サウナで長持ちする文庫本の各社比較情報についてつづられているのには目を丸くしました。そしていかにも爽快(そうかい)そうな、サウナ読書後の飲み物への憧れが私のなかに生まれてきてしまいました!

 読書も食も1人の作業でありつつ、このご本を読んでいると、それは孤独ではなく穏やかさだと感じられるのは、どの作品も文中のどこかから他者の気配がしているからのように思います。他人が記した文章が印刷され、製本され、手に届くまでの社会があるからこそ成り立つ読書は、そもそも1人であって1人でない瞬間なのかもしれません。そんなひとときをどんなふうに過ごしたいか……作者5人の感覚を知り、読書のおともについて考え、読書のおともを選ぶ愛おしい時間を、まずは目から味わうようなご本でした。

同人誌 図書館 司書 5人それぞれの感覚、おともがあります

サークル情報

サークル名:KISHINAMi

Twitter:@kishinami8

Webサイト:https://kishinami1867-1916.hatenablog.jp/

現在入手できる場所:CHIENOWA BOOK STORE、本屋イトマイ

今後、NENOi、H.A.B(ookstore)、双子のライオン堂でも発売予定



今週の余談

 私もオカメサブレ、食べましたよー。厚みのあるサブレは、ひとくちかじればさっくりと、くるみを使っているという優しい甘さとじんわり塩っけが追ってきます。1枚をゆっくり大事に味わう、すてきな時間になりました。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。


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