岡山駅はなぜ「東口・西口」なのか?〜岡山駅弁・三好野本店(1/12 ページ)
毎日1品、全国各地の名物駅弁を紹介! きょうは岡山・三好野本店の駅弁「味折小町」です。
【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
今年(2021年)3月で開業130周年を迎えた山陽本線・岡山駅。山陽新幹線の開業からも半世紀近い月日が経とうとしています。岡山駅開業当初から駅弁をはじめとした構内営業に携わっているのが「三好野本店」です。今回は創業130周年を迎えた三好野本店の若林昭吾社長に、お店の歴史から岡山駅に隠されたヒミツまで、たっぷりとエピソードを伺いました。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第26弾・三好野本店編(第2回/全6回)
“晴れの国おかやま”というキャッチフレーズでおなじみの岡山県。この日も雲ひとつない晴天の下、真新しいN700S新幹線電車の「のぞみ」号が時速300kmで岡山県内の山陽新幹線を走り抜けて行きます。いまや東京〜岡山間は、最速の「のぞみ1号・64号」で、3時間9分で結ばれる時代となりました。EX早得21(ワイド)で予約すれば、東京から岡山まで片道1万3000円台。駅弁代を捻出して快適に移動することもできます。
岡山駅開業130周年、岡山駅弁も130周年!
―「三好野本店」は、ちょうど創業130周年の「節目」の年ですね?
若林:岡山駅が開業して今年(2021年)で130周年ですので、駅弁屋としても130年になります。正確には、3月に岡山まで開業した際に支度所として営業を開始し、4月に倉敷まで延伸されたことを受けて、駅弁の販売を開始しました。ただ、前身の米屋は、天明元(1781)年の創業ですので、今年で240年となります。米屋を始めて100年あまりで、「駅弁店」を始めた格好ですね。
―米屋さんは、どの辺りでやっていたんですか?
若林:西大寺(現・岡山市東区)で津山藩・松平家の蔵元(藤屋)をしていましたが、明治維新で廃業を余儀なくされました。ただ、サイドビジネスとして、岡山の京橋にあった「三好野」という旅館を買い取って経営していました。これがいまの駅弁店としてのルーツとなります。この旅館を経営していたのは吉野(よしの)惣兵衛さんという親戚で、ご病気をされて続けられなくなり、買い取ったという経緯があると聞いています。
「三好野」の屋号は、義太夫の芸名が由来!
―「三好野」という屋号は、どこから生まれたんですか?
若林:惣兵衛さんが「義太夫(節)」が大好きで、岡山の歓楽街で演舞場もやっていました。惣兵衛さんの義太夫の芸名が「みよしの」。自分の名前の吉野(よしの)から桜の美しい美吉野にかけて「みよしの」、花札の桜の札と同じです。旅館の名前を付けるときに、それをしゃれて漢字に直し「三好野」という名前を採ったと聞いています。
―なぜ、京橋で旅館をやっていたのですか?
若林:昔は瀬戸内海の水運が移動手段でしたので、京橋の辺りが船着場でした。ですから、船で岡山へ来た人たちが泊まっていました。そのなかに、いまから130年以上前、1年以上にわたって長く投宿したお客様がいました。中上川彦次郎(なかみがわ・ひこじろう)という人物です。山陽鉄道(現・山陽本線)を敷くために来ていたんです。建設工事はまだ兵庫・岡山県境付近でしたが、ひと足早く、岡山を拠点に工事をしていたと言います。
岡山駅の用地確保に尽力した若林加之(わかばやし・かじ)
―駅弁参入のきっかけは?
若林:中上川彦次郎氏は、三好野の女将・若林加之(かじ)に「これからはステン所(ステーション)の時代だ」と話しました。ただ、当時は鉄道反対運動のため、岡山駅を作ることすらままなりませんでした。そんな折、三好野はまち外れだったいまの岡山駅付近に蓮根畑を持っていました。この土地を相場の10倍で購入するという約束を取り付けたことで、加之は周辺の地主に声をかけて、何とか鉄道用地を確保することができたんです。
―鉄道用地確保の功績で、構内営業へということですね?
若林:岡山駅の「支度所(鉄道旅行者の茶店・座敷)」の権利を無料でいただいて、自費で建設しました。ただ、若林加之には唯一の「失点」がありました。とにかく協力して貰える方の土地を買い集めたため、南北に長い土地になってしまったのです。山陽本線は多くの駅で「北口・南口」ですが、岡山駅は「西口・東口」になっています。地図を見ると、山陽本線が岡山駅の前後だけクランクのようになって見えるのは、そのせいなんです。
130年前、「おにぎり3個、奈良漬2切れ」のおにぎりから始まったという三好野本店の駅弁。その後、普通弁当(幕の内弁当)が「三好野の普通弁当は日本一」と評判になりました。作家の椎名誠氏もその著書のなかで、三好野本店の幕の内弁当の美味しさについて記しています。その流れを汲む駅弁が「味折小町」(900円)。岡山の最もベーシックな幕の内駅弁です。
【おしながき】
- ご飯 梅干し
- 赤魚白ごま焼き
- 玉子焼き
- 天ぷら(えび、れんこん)
- 鶏肉ごま南蛮漬け 大根なます
- 牛しぐれ煮
- 肉団子
- いかチリソース和え 玉ねぎソテー
- 煮物(椎茸、高野豆腐、人参、いんげん)
- きんぴらごぼう
- 菜の花チキンくらげ和え
- 小松菜おひたし
- 大根漬け
俵型のご飯に赤魚の焼き魚・玉子焼きが入った幕の内駅弁。特筆すべきは10品目以上入ったおかずの多さです。そのおかずも、鶏肉料理の上に大根なますが載ったり、いかチリソースに玉ねぎソテー、菜の花チキンくらげ和えといったひと手間掛かった魅力的なもの。蓮根の天ぷらを噛みしめれば、昔は岡山駅の辺りが蓮根畑だったというエピソードが思い出されます。手間を惜しまず作られている様子が感じられ、とても嬉しくなりました。
江戸時代、津山藩と深い関係があった岡山駅弁・三好野本店。現在、県庁所在地の岡山と津山の間は津山線で結ばれています。快速「ことぶき」なら岡山〜津山間は約70分。津山駅近くには扇形機関庫に懐かしの蒸気機関車や気動車が展示された「津山まなびの鉄道館」があって、岡山の鉄道旅ではぜひ訪れたいスポットとなっています。
次回は、山陽新幹線が開業した当時のエピソードなどを伺ってまいります。
(初出:2021年5月3日)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/
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