『連ちゃんパパ』作者が描く「あだち充を漫画家にした男」の豪快エピソード! 『あだち勉物語』ありま猛インタビュー(3/3 ページ)

» 2021年08月12日 11時30分 公開
[しげるねとらぼ]
前のページへ 1|2|3       
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

ありま ただ、僕から見るとけっこう「兄弟だな〜!」っていうところもあるんです。麻雀の打ち方も似てるし、博打でついてない時のむくれ方も似てる。

――そんな充さんから、『あだち勉物語』に関して反応は何かありましたか?

ありま 最初は「兄貴、大人しくない?」「こんなにおとなしい兄貴は兄貴じゃねえよ」って言われましたね。「じゃあ描いちゃうよ」って勉さんが拘置所にぶち込まれてる話を描いちゃいましたけど(笑)。まあ、充さん公認と言っていいでしょうね。じゃなかったら描いていいって許可は出ないでしょうから。

――充さんに関して言えば、読んでいて劇中に登場する充さんが描いたカットが気になったんですが、あれは本物なんですか?

このカット、実際に充さんが描いたものだそうです

ありま 全部本物です。第1話に出てきた機関車のカットとか。充さんに背景描かせるやりとりは、目の前でやってましたよ。勉さんを訪ねて行ったのに、まさかあんなに絵がうまい人がいるなんてとびっくりしました。「まだデビューしてないってどういうこと!?」って。僕は1回勉さんのところを「やめます」って言って自分からやめてるんですけど、充さんの存在があったからあんなことを言ったのかもしれないですね。

――第1話にあったエピソードですね。

ありま あれもねえ、「最初は誰だってうまくいかないもんだよ」って引き止められるのかと思ったら「ご苦労さん」で終わりだったんですよ。勉さんが亡くなるちょっと前に「なんであの時出て行かせたの?」って聞いたことがあるんです。そしたら「だって、そっちのが面白そうじゃん」って言われて(笑)。

 ただその前に「お前はどっちみち学歴も何にもないんだから、ダメ元でやってみろよ。博打だろうよ」って言ってくれたのは感謝してます。どうせやるなら一発やってみろ、ダメ元だから後悔ないだろうと。いきなりアシスタントにしてくれと頼むなんて断られると思っていたから、本当にあの言葉はうれしかった。

あだち勉が意地悪をしていた理由とは

――当時の漫画家さんやアシスタントさんで、今でも付き合いのある方はいますか?

ありま 何人かいますよ。てらしまけいじさんとかはまだ時々連絡取り合ったりしてます。徐々に連絡が途切れたりとかはしてますけど、例えば漫画に出てきた「見開きいっぱいに東京の風景を描かされたアシスタント」の人とかはまだ知り合いです。あれは僕も横で見てたんですけど、本当に全然怒らなかった。「なんで怒らなかったの?」って聞いたら、「絶対いたずらだと思ったんだよね」って言ってました。

――何十年も付き合いがあるのはすごいですね。

ありま あの当時のフジオ・プロって特殊でしたからね。他の漫画家さんに聞くと「アシスタントを募集したんだけど、来てくれた人が何を考えてるかわかんないから断った」みたいな話がよくあるんですけど、そういう人はフジオ・プロに来たら一発合格だよっていう感じでした。常に2〜3人、誰のアシスタントだか分からない人がいましたから。

――そんな人がいるんですか!?

ありま 赤塚先生も「あれ誰?」とか言って、「先生が呼んだんでしょ」って言われるんだけど全然分からない。先生が外で飲んだ時に「今度遊びに来たら?」とか言って連れてくるんだけど、本人はなんにも覚えてないんです。それで遊びに来た人がずっと居座っちゃったりとか。でも「どうせ誰かのアシスタントなんだろう」って誰も疑わないんです。今の漫画家の仕事場とは、かなり環境が違うと思います。

――は〜、なるほど……。じゃあ今後は、そういう人たちもたくさん出てくる感じの内容になるんでしょうか?

ありま 勉さんと、周囲の漫画家や漫画家の卵たちとかとのつながりを描いていければいいかなと思っています。勉さん本人はどんどん漫画の世界から離れていって、プライベートで変な人たちと遊んでばかりいたから、それに付き合わされるこっちはたまったもんじゃなかったですけど(笑)。ただ、漫画から離れても、勉さんはすごく漫画に詳しかったんです。

――やっぱり、ずっと漫画が好きだったんですね。

ありま でしょうねえ。誰にも言わなかったけど、いつもコンビニで片っ端から雑誌をチェックして、知り合いの漫画家に会うと「お前あの雑誌で描いてただろう」ってすぐ言えたんです。離れたと言っても充さんのマネジャーになるまでは学年誌の連載を長くやっていたし、赤塚先生のところをやめても仕事は抱えていましたからね。

――完全に離れきったわけでもなかったんですね。

ありま だから、やっぱり『あだち勉物語』は漫画に関する話の延長で描きたいと思ってます。本人はやっぱり漫画が好きだったんで。

 勉さんが亡くなる前から、勉さん主催で毎年新年会をやってたんです。「しょぼくれ漫画家のためのボランティアだ」とか言って、あんまりメジャーじゃないフジオ・プロの漫画家を集めて。そこで「俺がなんでお前らに意地悪するか分かるか?」と言ったことがありました。

――意地悪の理由ですか。

ありま その理由というのが、「俺が意地悪をすれば、俺が死んだ後に嫌でもお前たちは酒を飲むたびに俺を思い出す。だからだよ」って話で。「墓参りなんていらない。お前たちが集まって飲んで俺の話をしているうちは、俺は死んでねえからな!」って言われたんですよね。

 よく、「人は一度死んで、その人のことを記憶している人たちが全員死んだところでもう一度死ぬ」っていうじゃないですか。それなんですよね。で、最初に話したように、この新年会のメンバーで集まって飲むと、やっぱり「俺も勉さんにあんなことをされた、こんなことをされた」っていう話になるんです。

――なるほど。この漫画が多くの人に読まれて勉さんのことを知る人が増えれば、それだけ勉さんは長く生き延びるわけですね。

ありま そうですねえ。まあ、自分をネタにされると喜ぶタイプだったし、人に構ってもらえるとうれしいっていう人だったから、案外本人は喜んでるんじゃないかな、と思いながら描いてます(笑)。

――今後勉さんと周囲の人々がどうなっていくのか、とても楽しみです! ありがとうございました!


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/18/news134.jpg 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  2. /nl/articles/2404/18/news025.jpg 生後5日の赤ちゃん、7歳のお姉ちゃんから初めてミルクをもらうと…… 姉も驚きの反応がかわいい
  3. /nl/articles/2404/18/news057.jpg 9カ月の赤ちゃん、バスで外国人の女の子赤ちゃんと隣り合い…… 人生初のガールズトークに「これは通じあってますね!」「ベビ同士の会話、とろけます」
  4. /nl/articles/2404/17/news037.jpg 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  5. /nl/articles/2404/17/news034.jpg 「妹が入学式に着るワンピース作ってみた!」 こだわり満載のクラシカルな一着に「すごすぎて意味わからない」「涙が出ました」
  6. /nl/articles/2404/18/news155.jpg 大谷翔平選手、ハワイに約26億円の別荘を購入 真美子夫人とデコピンとで過ごすかもしれないオフシーズンの拠点に「もうすぐ我が家となる場所」
  7. /nl/articles/2404/17/news179.jpg 「ケンタッキー」新アプリに不満殺到 「酷すぎる」「改悪」の声…… 運営元「大変ご迷惑をおかけした」と謝罪
  8. /nl/articles/2404/16/news192.jpg 「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
  9. /nl/articles/2404/17/news129.jpg 「ハーゲンダッツ硬すぎ!」と力を入れたら……! “目を疑う事態”になった1枚がパワー過ぎて約8万いいね
  10. /nl/articles/2404/16/news175.jpg 「そうはならんやろ」をそのまま再現!? 「ガンダムSEED FREEDOM」のズゴックを完全再現したガンプラがすごすぎる
先週の総合アクセスTOP10
  1. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  2. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  3. 安達祐実、成人した娘とのレアな2ショット披露 「ママには見えない!」「とても似ててびっくり」と驚きの声
  4. 兄が10歳下の妹に無償の愛を注ぎ続けて2年後…… ママも驚きの光景に「尊すぎてコメントが浮かばねぇ」「最高のにいに」
  5. “これが普通だと思っていた柴犬のお風呂の入れ方が特殊すぎた” 予想外の体勢に「今まで観てきた入浴法で1番かわいい」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評
  8. お花見でも大活躍する「2杯のドリンクを片手で持つ方法」 目からウロコの裏技に「えぇーーすごーーい」「やってみます!」
  9. 弟から出産祝いをもらったら…… 爆笑の悲劇に「めっちゃおもろ可愛いんだけどw」「笑いこらえるの無理でした」
  10. 3カ月の赤ちゃん、パパに“しーっ”とされた反応が「可愛いぁぁぁぁ」と200万再生 無邪気なお返事としぐさから幸せがあふれ出す
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」