かなわぬ「夢」に価値はないのか? 「映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ」レビュー(2/3 ページ)
夢を語る時、大人はつい「かなえられるか」「かなえられないか」という現実的な「結果」を重視してしまいがちだ。しかし、多様な夢の過程の価値を教えてくれる本作は、子どもの教育上、あるいは大人こそがハッと気付かされる物語になっていて素晴らしい。
夢を魔法だけで達成しないどころか、「魔法があるとかえって夢が分からなくなる」ことまで示唆してくれる物語は、やはり誠実で、新しい知見を与えてくれている。
※以下、少しだけ中盤のネタバレに触れた上で、不満点を書いているのでご注意を
「優しい話すぎる」からこその不満も
ただ、作品としてのインパクトや感動が前作にはおよばないというのも正直なところだ。すみっコぐらしという作品に対して「切実さ」や「シビアさ」を望むのはお門違いかもしれないが、これらの欠如に不満を覚えてしまったのだ。
例えば、とかげはスミッシーという恐竜のお母さんと暮らすことを夢見ているのだが、序盤で「再会」を果たした後に「やはり一緒には暮らせない」理由が伝わってこず、そこが気になってしまった。
もちろんとかげが恐竜であることをみんなにないしょにしているという設定上の理由は分かる。あるいは脚本を書いた吉田が説明しているように、現実で会いたい人に会えないさまざまな理由を重ねられるように、あえて明確な言及を避けたという理屈も理解できる。だが、これによりクライマックスの「夢を実現させようと頑張る」カタルシスを阻害してしまっているように感じてしまった。
また、劇中ではすみっコたちの「夢がなくなってしまう」という展開があるのだが、みんなが「いつもと真逆の行動をとる」のも気になってしまった。この展開にはコミカルで楽しい面もある(特に自己肯定感が持てずに三角コーナーを被って「どうせゴミだし……」と言うトンカツがかわいい)のだが、現実では大きな夢がなくても楽しく暮らしている人もいるし、寓話にせよ「夢をなくしたと分かっても、目覚めてすぐに真逆の行動を取ったりはしないだろう」と思ってしまった。
例えば、それなりの時間経過があってから「夢がないことに気づいて落胆する(それで捻くれて真逆の行動をとる)」展開の方が、納得できたと思う。
また、「5年に1度の青い大満月の夜の時だけ魔法使いがやってくる」という長いサイクルの設定が生かされていないのも気になった。もう少しだけでも、ふぁいぶが深刻なホームシックになったり、それこそ数年の時が経過して「やっと」の重みを持たせた方が、クライマックスの感動は増しただろう。
やりすぎかもしれないが、個人的には「ドラえもん」における「無人島へ家出」(単行本14巻収録)の「無人島で10年間取り残されたのび太」に似たことをやっても良かったと思う。すみっコぐらしの「優しい話」そのものは愛すべきものだが、優しすぎると作品としては物足りなくなってしまう、ということも思い知らされた。また、「魔法で安易に夢を達成できてしまう」ことそのものも、より明確な形で否定しても良かったと思う。
そんな細かな不満も残るものの、これは個人的な好みの問題にすぎない。基本的にはかわいいキャラたちによるほんわかとした優しい世界を堪能できるし、前作にはなかったナイトパーティーという暗がりに煌びやかな演出が映える画もあって、まさに子どもから大人まで万人が楽しめる作品に仕上がっている。
何より、「魔法」と「夢」への鋭い視点は、現実の自分にフィードバックしたいと思うほどに大切なものとなった。前作を見た人にとってのサービスもあるので、エンドロールの最後までじっくりと見届けてほしい。
(ヒナタカ)
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