絶妙に練られたパズルを惜しみなく消化する快感 「ElecHead」を通してゲームにとっての“ぜいたくさ”について考える:水平思考(ねとらぼ出張版)
サクッと終わる良質なゲームに目がないという人にぜひ。
1980年にリリースされ、世界的に大ヒットした「パックマン」の何が優れているかといえば、そのあまりに秀逸なビジュアルデザイン以上に、「食う」と「移動する」という2つの動詞、2つのアクションを1つのレバー操作に統合するという、極めて洗練されたキャラクターの機能設計がなされているということに尽きる。
レバーを操作するだけで、ステージ上をただ「移動する」だけではなく、ステージ上に配置されたドットを「食う」ことができ、さらに貴重なパワーエサを「食う」ことでパックマンを襲ってくる敵キャラクターを一転して「攻撃する」ことが可能になる――。
シンプルな操作から多彩な結果が生まれるその優れたゲームデザインの根本には、複数の機能を自然な形でキャラクターに格納する巧みな設計が存在する。特筆すべきは当時はまだゲームというメディアが生まれて間もない黎明期であるにもかかわらず、ボタン操作をなくすという「引き算」的な思考が働いている点である。そうして操作系をシンプルにしているにもかかわらず、キャラクターの機能設計の妙によってゲーム内容は奥深いものになっているのだから見事という他ない。
「パックマン」と同様に、プレイヤーキャラクターの行うアクションに複数の機能を込めているゲームを挙げろと言われれば、ジャンプにさまざまな機能が含まれる「スーパーマリオブラザーズ」や、「撃つ」という行為を「塗る」に変換し、射撃という行為自体を拡張したゲーム「Splatoon」なんかが挙げられるだろう。どちらも任天堂のゲームであり、個人的に「Splatoon」は「パックマン」の直系の子孫になるんじゃないかと思ってたりするのだが、それについて述べると長くなるのでまたの機会に改めよう。
今回私が紹介したいのは、このたびNintendo Switch版が発売されたタイトル「ElecHead」(Switch / Steam)である。
ライター:hamatsu
某ゲーム会社勤務のゲーム開発者。ブログ「枯れた知識の水平思考」「色々水平思考」の執筆者。 ゲームというメディアにしかなしえない「面白さ」について日々考えてます。
Twitter:@hamatsu
鍵にも壁にもなりうる「通電」
なぜ「ElecHead」を紹介する前に「パックマン」の話をしたのか。それは、「ElecHead」が「パックマン」と同様に複数の機能を1つの身体に備え、その機能がただ「移動する」という最小限の操作だけで発現されてしまうという、根っこの部分で通底しているキャラクターの機能設計がなされているゲームだからである。
「ElecHead」というタイトルが示すように、本作の主人公となるプレイヤーキャラクターはその身体に「電気」を宿すことで電源としての機能を有し、地面や壁に身体が接触するだけでその場所に「通電」させ、接している地形に備わっていた仕掛けを作動させることができる。
このゲームが秀逸なのは、この接している地形に「通電」させられるという機能が、障害を乗り越える「鍵」であると同時にそれ自体が進行の妨げとなる「壁」にもなってしまうという両義性を持っている点にある。
「鍵」にもなれば「壁」にもなりうる「通電」機能を、地形との関係性を読んで適切に作用させることで目の前の障害を一つ一つ乗り越えていくパズルアクション、それが「ElecHead」というゲームなのである。操作入力はシンプルなのに、そこで発揮される機能は複合的であるため出力される結果や解法が多彩になるという、ゲームにおけるキャラクターデザインのお手本のような一作である。この秀逸なゲームキャラクターデザインの妙を味わうためだけでも本作はプレイする価値がある。
絶妙な難易度設計を一気に食らいつくすという「ぜいたくさ」
以前、このねとらぼの私の連載コラムで「A Short Hike」というゲームをオススメしたとき(関連記事)、サクッと短時間で終わるゲームって本当に素晴らしいってことを述べたのだが、「ElecHead」もまたそこに連なるサクッと終わる良いゲームだ。本作は3〜5時間程度あればクリアすることができる。
長く遊べるゲームはそれはそれで全く悪いわけではない。Switch版を購入した「HADES」は60時間ほど夢中でプレイし大いに満足したし、ようやく手に入れたPS5でプレイしている「ELDEN RING」は既に100時間以上遊んでいまだにクリアしていない、というかまだ当分は狭間の地を離れるつもりはない。時間がないので動画は倍速再生で見る時代なんてちまたで言われようが、なんだかんだどっぷりゲームに時間を費やして遊ぶ習慣をまだ私は失ってはいない。
それでもサクッと短時間で終わるゲームは、仕事に子育てに忙しい自分のような人間にとっては一本のゲームで遊びきれたという実感を短時間で得られて大変有難いのも事実だし、もっと増えてほしいとも思っている。ちなみに私が個人的にもっともオススメの数時間でサクッと終わるゲームは「ゴロゴア」(Switch / PS / Xbox / Steam / iOS / Android)である。スマホでも遊べるこのゲームだが、実は大きな画面で皆でやいのやいの言いながらその美しいビジュアルの仕掛けに見ほれるのもまた醍醐味であるため複数人でのプレイもオススメだ。
話を戻そう。数時間でクリアすることができるけれどもゲーム全体にのんびりとした空気と時間が流れていた「A Short Hike」とは対象的に、「ElecHead」は忙しいゲームだ。
特に中盤以降、自分の電源のコアとなる頭部を切り離して投げられるようになって以降は、頭部とそれ以外が切り離しておける時間に10秒という制限がついているためよりその傾向は強まる。
しかし、その忙しさが決して不快ではなく、むしろ心地よいのである。それは、プレイヤーの目の前に出される仕掛けの一つ一つが本当によく練られており、無駄な引き延ばしや水増し的な要素が極力排除されているからだ。
本作には一応、ステージを探索する要素や寄り道的な収集要素、そして終盤にはある“ひねりの効いた展開”が存在する。しかし「ElecHead」をプレイして私が最も強く感銘を受けたのは、一つ解いたらまたすぐに提示される、非常に良く練られた、似ているようでそれぞれに違いのある個々のレベルデザインの妙である。
この、一つ解いたらまた次のお題が提示されていくというプレイ感覚に一番近いのは、2011年にリリースされた「Portal2」におけるシングルキャンペーンモードではないかと思う。
「Portal2」のようなパズルゲームに限らず、2000年代後半から2010年代序盤にかけて、「コール オブ デューティ4 モダン・ウォーフェア(CoD4)」に代表される歴史的な傑作キャンペーンモードが多数登場し、ネット対戦もせずに私は一人でこれらのゲームを遊んでいた時期があったのだが、「ElecHead」の特に序盤から中盤にかけてのひたすら前進を繰り返すパズルのつるべ打ち状態を遊んでいて思い出したのは、かつてAAAタイトルのキャンペーンモードを遊びながら感じていた、手間暇をかけて作られた凝った仕掛けの数々を次々に踏破し、後ろを振り返ることなく前進し続け遊び散らかしていくあの感覚だった。
当然「ElecHead」と「CoD4」ではゲーム内容は全く別のものだし、かけられた予算に至っては桁が3つくらいは違うだろう。しかし、目的地から次の目的地へと突き進み、一つ一つが丁寧に仕掛けられたネタを惜しみなく消化し尽くすそのプレイスタイルにおいて、私は「ElecHead」というゲームにとても「ぜいたくさ」を感じるのだ。
先にも述べたように「ElecHead」には、中盤以降獲得できる能力を使って再度過去に訪れたステージを探索するといった、いわゆるメトロイドヴァニア的な要素もあるし、終盤のとある展開もこれはこれで私はとても楽しんのだが、序盤から中盤以降にかけてのとにかく次から次へと目の前に現われる、絶妙に練られたパズルアクションの連打に私は完全にノックアウトされてしまった。
そしてこのゲームはやはりというかなんというか、手軽にサクッと遊べるSwitch版との相性は抜群に良い。サクッと終わる良質なゲームに目がないというあなたにぜひともオススメしたい。
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「一手差のゲームデザイン」と小気味よさの両立。
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