ファミコン初期のナイスボート「ミシシッピー殺人事件」:ゲイムマンの「レトロゲームが大好きだ」(3/3 ページ)
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アドベンチャーゲームは、途中で詰まるとゲームがまったく前に進まなくなる。しかもどこで詰まったのかがわからない。それでも普通はコマンド総当たりで何とかなるものだが、「ミシシッピー殺人事件」の場合、「もういいました」のせいで、何をやってもクリアできないハマリ状態に陥ることがある。古いPC版のアドベンチャーゲームには、たまにこういうハマリがあったが、ファミコンでこれはかなりつらい。
当時のゲームブックに近いゲームバランスかもしれない。ファミコンで「ミシシッピー殺人事件」が発売された1986年には、東京創元社のゲームブック版「ドルアーガの塔」(鈴木直人著・全3巻)が発売されている。原作にはない雰囲気や、数々のパズルが盛り込まれた名作で、ファミコン版に勝るとも劣らない人気だった。でも、1巻1巻がかなり長いのに、ゲームオーバーになるとその巻の最初からやり直し。
また、社会思想社から「ウォーロック」誌が創刊されたのもこの年。当初はゲームブック情報誌だった。ちなみに、この雑誌の末期にわたしが書いていた連載記事が、今の「レトロゲームが大好きだ」のもとになっている。
東京創元社主催で、第1回創元ゲームブックコンテストが開催された年でもある。コンテストは第3回まで行なわれたが、いまだに第3回の結果が発表されていない。わたしは第3回に応募したが、あの応募作は当時としては出来が良かったから、悪くても佳作、運が良ければ入賞して、商品化できていたと思う。……何「ミシシッピー殺人事件」と関係のない愚痴を書いてるんだわたしは。
とにかく、従来のアドベンチャーゲームの面倒な部分を排除し、初めての人でもプレイできるシステムや難易度に調整したのが「ポートピア連続殺人事件」であり(同じことをRPGでやったのが「ドラゴンクエスト」)、そうしなかったのが「ミシシッピー殺人事件」だったと言えるだろう。
ちなみに、わたしは見たことないけど、実際に双葉社から「ミシシッピー殺人事件」のゲームブックが出ていたらしい(樋口明雄著・スタジオハード編)。
いろんな見方 −ネバダカラキマシタ−
チャールズは、乗客やクルーの証言だけで事件を解決するわけではない。船内では数多くの証拠品も発見でき、それらを調べることで、新たな事実が浮かび上がってくる。
証拠品は自室の机に載せて調べる。2つの品物を机に置くと、その2つの関係を調べられるのがユニーク。
大半の証拠品は、「つくえがある」のようなメッセージが出た場所を探すと見つかるが、中には“こんな場所わかるか!”と思うような意地悪な場所を探さないと出てこない物もある。これがまた「ミシシッピー殺人事件」の難度を上げていた。
それにしても、デルタ・プリンセスにいる人々は、いい性格をしている。
大富豪夫人のヘレンは、若い女性客・テーラーのことを「田舎者」、慈善事業家・ウィリアムのことを「表面上は立派なように見えるけど実はバカ」、船員・ヘンリーを「不潔でみだらで下劣」とののしり倒す。一方で船長のネルソンについては「有能だし寛大だし愛想も良いし礼儀正しい」と持ち上げているが、当のネルソンはヘレンのことを、「マナーは悪いし意地の悪い女」と思っている。
ウィリアムは慈善事業家なのに、判事のカーターのことを「アメリカ法学が戦わねばならない邪悪な怪物」、ネルソンのことを「無愛想すぎるしカリカリしすぎ」、ヘンリーのことを「お金もなければ常識もないし頭も良くない」と言う。相当に口が悪い。
カーターもひどい。ヘンリーに対しての悪口は、もしクリアに関係なかったとしても、メモして本人に見せたくなる。さらにテーラーについても「下品な若い女」と言い放つ。
ヘンリーはヘレンを「権力を持つ人は何か人の命にかかわることをするのかもしれない」と疑い出す。テーラーは中盤以降、いろんな人物を犯人じゃないかと疑い始める。もう1人の若い女性・ディジーは、あまり汚い言葉は使わないが、カーターのことは「野蛮人」と言い切る。
ファミコンゲームとは思えないギスギスした人間関係に、プレイしていて陰々鬱々たる気分におちいった。
ポアロになれなくて
さて、数々の証言や証拠品を照らし合わせて、いよいよチャールズは犯人を告発するわけだが、ここでも気をつけなければならない。もちろん犯人じゃない人を告発してはいけないし、真犯人であっても証拠品が足りないと、追い詰め切れずにゲームオーバーとなる。もちろんスタートからやり直しだ。
無事に真犯人を告発すると、晴れてハッピーエンドになる、のが普通のアドベンチャーゲームだが。
被害者が今まで行なってきたことを知って、みんなが真犯人に同情したようだ。だからといって、事件を解決したチャールズに向かって、「あんなふうに言うなんて」だの「ひどいじゃないか!」だの、こぞってああまでボロカスに言わなくても。
この超展開なエンディングは、もしかしたら「オリエント急行殺人事件」の影響を受けているのかもしれない。だとすればチャールズも、エルキュール・ポアロのように、前もって“もう1つの可能性”を提示しておいたらよかったのに。
「ミシシッピー殺人事件」は、ファミコン版のほかにMSX2版もあるが、それ以外に日本のPC向けの日本語版は作られていない。
フジテレビ「ゲームセンターCX」制作スタッフの皆さんが作ったDVD「THEゲームメーカー ジャレコ編」では、DVD発売当時ADだった中山さんが、このゲームをプレイしている。攻略動画ではないので、だいぶ行程が省略されているものの、当時ジャレコが作っていた資料(質問電話への応対マニュアルなど)を見られるのがおもしろい。
発売当時は、あまりの難しさと理不尽なゲームオーバーで“クソゲー”扱いされた「ミシシッピー殺人事件」だが、今あらためて、複数の攻略サイトを見ながらプレイしてみたら意外と楽しめた。落とし穴もナイフも、ネタとして笑えるし。……といっても、あのギスギスした人間関係は、ちょっとキツいけど。
そんな中、ヘンリーの恋物語は一服の清涼剤だ。一途な純愛ぶりに好感が持てる。彼の恋はぜひとも実ってほしいと思う。
わたしは琵琶湖のミシガン号に乗った後、ケーブルカーで比叡山は延暦寺まで行き、根本中堂・不滅の法灯の前で、「良縁成就」のお守りをお受けした。
もちろんヘンリーくんのためではなくて、自分のためだけど。……俺、この原稿を書き終わったら、告発するんだ、じゃない、告白するんだ……。
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