「量を増やすだけでは面白くならない」――宮本茂氏が語った、ゲームの「密度」を高めるポイントとは:日々是遊戯
経済産業省およびNPO法人映像産業振興機構が主催する、クリエイター発掘・育成プロジェクト「コ・フェスタPAO」。その一環として、任天堂の宮本茂専務のトークセッションが六本木にて開催されました。
誰だってモノ作りは楽しい?
「マリオ」の生みの親は、どんなことを考えてモノ作りをしているのか――。1月19日、東京・六本木の東京ミッドタウンにおいて、任天堂の宮本茂専務によるトークセッションが行われました。
スーパーファミコンの「マリオペイント」や、ニンテンドー64の「マリオアーティスト タレントスタジオ」など、昔から“ユーザーが自分で作る遊び”に取り組んできたという宮本氏。今回は「ものを作らなソンやと思わへん?」というテーマで、京都を中心に活動する劇団「ヨーロッパ企画」の上田誠氏、角田貴志氏の二人と、ゲームだけに留まらない、モノ作り全般の全般の楽しさについてトークを繰り広げました。
宮本氏は以前から「ゲームを作る人だけでなく、本当は遊ぶ人もクリエイティブ」という考えの持ち主で、特に昨年「マリオうごメモコンテスト」を開催し、1800通もの応募があったのを受け、「普段モノを作っていない人でも、作り始めたら病みつきになる」と確信したとのこと。今回「ヨーロッパ企画」の二人をゲストに呼んだのも、もしもモノを作るプロであり、普段からモノをつくることを楽しんでいる二人に「うごくメモ帳(うごメモ)」を使ってもらったら――という発案からで、会場では上田氏、角田氏がこの日のために「うごメモ」で作った作品も公開されました。
うごメモ劇場
うごメモホラーテキスト
うごメモゲームブック
ひなくこツイスター
うごメモ特別企画
上田氏らの作品の中で、特に宮本氏が食いついたのが「うごメモホラーテキスト」と「うごメモゲームブック」の2点。前者は、容量制限の厳しい「うごメモ」で、あえてテキストしか使わないことで2分以上という長尺を実現。後者は、うごメモのインターフェースを逆手にとって、ゲーム感覚で遊べる作品になっているのがユニークな作品でした。
「僕は制約をおもしろがるタイプなんです。(うごメモのシステムで)長尺にしようと思ったらテキストにするしかないぞとか。今までの文法と違うところに視点を置くと、新しい発見があるんですね」(宮本氏)
この「制約をおもしろがる」というのは、宮本氏なりのゲーム作りのコツのひとつだそう。特にファミコンの時代にはハードのスペックが低く、今と比べて制約も多かった。しかし「制限があるから練り込める、というのが最近になって分かってきた」と宮本氏は指摘します。
例えば初代「スーパーマリオブラザーズ」の容量はわずか40キロバイト。その中でどれだけ遊べるようにするかとなったら、量を増やすのではなく密度を高めていくしかない。ところが最近のゲームのようにほぼ何でもできてしまう状態では、人は密度を上げるのではなく、どうしても量を増やそうとする。しかし、それでは面白いゲームにはならない、と宮本氏。
「物量を増やすなら、他人以上のことは簡単にできる。ハリウッド映画のように(ある作品が)50億円使ったら、次は100億円、次は200億円と。でも、それでは面白くはならないんです。量を増やすだけでは、密度は上がっていかない」(宮本氏)
宮本氏によれば、密度を上げるポイントは「新しいフィールドに乗り出す」こと。「その方がずっと簡単だし、快感。でも今のゲームは、物量で攻めないと勝てないようなところにみんな行きたがってる」と続けます。ただお金をかけて、量を増やすだけでは市場を食い荒らすだけ。このあたり、筆者には「クリエイターなら、ゲームの密度を上げ、新しい視点を開拓してみてほしい」という宮本氏からのメッセージのように聞こえました。
宮本氏は最後に、「作るのは楽しいというのを、どうすればたくさんの人に伝えられるかと思い、今日はこういった話をしました。何かを楽しんでいる時、きっと(演じ手だけでなく)観客の中にも作るものは動いてる。そういう共感を引き出していくのが、僕のモノ作りなんです」と語り、イベントを締めくくりました。ゲームを遊んでいる人もクリエイターになりうるし、作ること自体がまたゲームになる。宮本茂氏のゲームがなぜ全世界で愛されるのか、少しだけうかがえた気がしました。
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