「これは僕の廃墟願望を満たすゲーム」 押井守、『ドラゴンクエストビルダーズ』に妄想の塔を建築す 前編(2/2 ページ)
―― 無人の風景とはいえ、やっぱり動物ぐらいはいたほうがいいですか。『ビルダーズ』の場合はモンスターですけど。
押井 うん。ドラキーがいるだけで全然違う。遺跡感が出る。本当は鳥がいたらもっといいんだけどね。
―― 『ビルダーズ』の場合、鳥らしい生き物ってキメラとかですからねえ。
押井 まあ、スライムとドラキーだけでもいい。がいこつとかは邪魔なんで出ないでほしい。あと作業中に次々とモンスターが出てくるわけなんで、これと戦いながら作るのがなかなか大変。アクションは苦手だけど剣とかに持ち替えるのはかったるいんで、大体トンカチでたたき殺す。だからトンカチの消耗がすごくて、いま鉄不足。
―― 『ビルダーズ』の本編で鉄鉱石って有限なんで、どんどん掘っていくとハンマーが壊れて、そのハンマーを作るための鉄がなくなるんですよね。
押井 そうそうそう。そういう理屈なんだよね。銀とか金とかも掘れるけど使い道ほとんどないしさ。金は掘り尽くしちゃったけど、メルキドで金って「えっちなライト」以外に使い道ないから。
―― 使い道が増えるのは後半の章ですね。
押井 でも先の章にはアイテムを持ち越せないじゃん。なのに銅鉱石とかあると、よせばいいのについつい掘っちゃうんだよ。だから銅のインゴットが気がついたら何百本もあってさ。倉庫2つ丸ごと銅のインゴットなんだよ。
―― (笑)。鉄鉱石になるモンスターもいないですからね。資源管理が必要なゲームじゃないですけど、倉庫に大量に溜め込んでたりするとつい資源問題まで考えちゃうようなゲームですよね。
押井 それはある。途中で気がついたんだけどこれはエンパイアビルダーズ、つまり帝国主義なんだよ。拠点の島以外に旅の扉で行ける島がいくつかあるけど、要するにこれは植民地だよね。そこに行って野生のモンスターを倒しまくって、資源を収奪して帰ってくる。それで町をリッチに作り上げる。「あ、要するにこれは帝国主義なんだ」と。エンパイアビルダーズというのは、かつてイギリスの植民地を作ったジェントリたちの総称で、有名なオックスフォード大学とかは、もともとエンパイアビルダーズの養成校なんだよね。途中でそういうゲームなんだと気がついて「これは帝国主義者になるしかないな」と。
―― 帝国主義者になるしかないと(笑)。
押井 で、徹底的に収奪してやろうと。でも収奪していくだけでは満たされないんで、じゃあ何をするかなんだけど、町を作ることの限界にはすぐ行っちゃったわけ。このゲームの町ってある限られたエリア内に決まってるから、どんなにリッチに作ったって知れてるわけだ。広げて作る意味があんまりないんだよ。
―― つまり手付かずの自然が残る植民地があって、そこから文明を築く喜びを経て、その文明が滅んだ後までも自分の思うままにしてしまえるという、人類が何千年もかかって駆け抜けてきたものを『ビルダーズ』で体験しているわけですよね。
押井 僕が魅力を感じるのも多分そこだろうね。つくづく人間って貪欲にできているなというか、僕にとっては廃墟願望を充足させるためのゲーム。だから取りあえず資源が尽きるまでやってみようかなというさ。
―― じゃあまさにかつて西洋人がアメリカやアフリカを制服していった歴史のような。
押井 本当にだから収奪者。コンキスタドール。征服者。だってそういうふうにしか見えないもん。ばくだんいわはダイナマイト(まほうの玉)の材料にしか見えないし、そういう意味で言えば徹底的に帝国主義の尖兵になるしかないの。じゃないと楽しくない。そこの自然環境のことなんて考えてもさ。だからそれこそ宮さん(宮崎駿)が見たら激怒するような……(笑)。
―― (笑)
押井 もう片っ端から木を切り倒してるからさ。木を見たら直ちに切り倒すからね? だから原木も余っちゃってるんだけどさ。
―― ジブリアニメで言えば、大自然を全部ラピュタの雷でぶっ壊してるみたいなもんですからね。
押井 そうそうそう。だから「(天空の城)ラピュタ」で言えば『ビルダーズ』はあのラピュタ自体を作った連中の話だよ。ただあんまり木を切りすぎると風景が単調になっちゃうので、最近は残すようにしてるんだけど、最初は切って切って切りまくったから。草のブロックを刈るとドラキーが湧いてこなくなるかなという心配もしたんだけど、それはなかった。ドラキーが湧いてくる現場も見ちゃったし。食料はキメラのたまごで目玉焼き作ったりとか、アルミラージでステーキを作ったりとか、モンスターからある程度食料に変換できる。だけど鉱石はなくなる。深刻なのは鉄鉱石がなくなったら終わりなんでさ。鉄の需要がすさまじくて、まず真っ先に鉄鉱石が切れそう。最初は資源を掘るのもそのまま穴を掘ってたんだけど、これが結構危ない。出てこれなくなったりするんだよ。だから最近やってるのはいわゆる露天掘り。山を丸ごとすり鉢状に掘っていく。そうすると風景が変わっちゃうんだよ。山が低くなったりとか丘が消えちゃったりとかね。そのときハタと気がついたわけ。風景を改造したほうが面白いなと。で、露天掘りが一番楽で、掘ると膨大な土くれがたまるわけだ。「どうすんだこれ」ってなるんだけど、世界の(ブロックの)総量をあまり変えたくないなと思って、最初は倉庫に残してたの。でも最近は容赦なく削除してる。
―― 倉庫にブロックを99個ずつスタックしても限界がありますからね。どんどん押井監督の世界から物質が消失していっているという(笑)。
押井 そうそう(笑)。
―― タレントの伊集院光さんも『ビルダーズ』にハマって、最後は地形をさら地にして、全てのブロックを無にする作業に没頭し始めたそうで(笑)。
押井 (笑)。だからね、世界の改造。情景を作り出す。で、ブロックの種類がもっとあったらいいかと言うとそれはべつかもしれない。ブロックの積み上げ、切り崩しだけで、ある程度ブロックを置ける高さも決まってるから、高さを出すために下のところを全部掘り下げて、水を引いたらもっといいなとかね。あとこのゲームをやっててわかったのは山の上に乗って遠くを見渡すときに何が邪魔になるかってさ、高さなんだよね。
―― 高さですか?
押井 みんな単純に高いところに登れば眺望がよくなると思ってるわけだよね。これはとんでもない間違いで、むしろ(高さは)下げなきゃダメなの。下げなきゃ視点は広がらない。だから断崖はどんどん下げる。そうすると眺望がどんどんよくなる。そのことに気がついてから、山のてっぺんはどんどんフラットにしちゃった。そのほうが画になるアングルがどんどん増える。
―― そういう情景を捉える感覚は過去の映像作品とも共通するものですか?
押井 あるんじゃない? 結局はレイアウトのセンスで、個々のディテールをどう作るかより全体のレイアウトをどう仕上げるかがメインだから。アニメでロケハンするときもそれはもちろん考える。「(GHOST IN THE SHELL /)攻殻機動隊」はその典型だったけど、香港にロケハンに行ったときにたまたま夕方すごい豪雨が降ったの。そのときに「この道路が全部運河だったらどう見えるんだろう?」と思ったんだよね。それでああいうベネチア化した香港みたいな世界にした。僕の場合アニメのロケハンってそういうもので、実写映画のロケハンともまた全然違う。実写映画のロケハンはそこで実際の撮影をする段取りのためにやる。この場所だったらどこに電源車を停めるかとか、どこに撮影許可をもらいに行けばいいかとかね。でもアニメのロケハンというのは妄想の依代を求めて行ってるわけだから、常に目の前の風景を頭の中で改造して見てるわけ。写真もたくさん撮るけどモノクロで、カラーじゃ絶対に撮らない。だって色はあとで変えなきゃいけないというか、変えて当たり前だからね。
―― 「ここをモデルに使おう」という場所で頭の中でぐるぐるカメラを回して情景を探ってるわけですよね。
押井 そうそうそう。必要ならヘリも飛ばすけど「上から見たらこう見えるだろうな」というのもその場である程度想像する。夜はどうだろうというのも、実際に夜に行くことも大事だけど、想像するほうはもっと大事。そこで存在しないものを加えてみたり、あるものを引いてみたりする。それはだからその風景、山なら山に実際に登ってみないと、ここをどう改造しようかというアイデアは出てこない。都市開発みたいに設計図を考えて作ってるんじゃなくて、その場に立ったときのインスピレーションで「じゃあここに何を置こうか」と考えるわけだからね。『ビルダーズ』でもタワーのシルエットがどう並んで見えるかはそのタワーに近い場所では確認できないから、シルエットがどう見えるかは町に戻って確認する。「ああ、ちょっと足りなかった」とか「あそこの稜線はもっと下げてもいいな」とかね。そこからまた現場に走っていって、また崩して、またキメラの翼で町に戻って確認して……というその繰り返し。カメラの高さをどこにしようかとか、人物をどこに置けば画になるかとか、ここにちょっとシルエットが欲しいんだとかね。で、それは時刻によっても刻々変わっていくから。断崖に建てたモニュメントも岩だけで作っちゃうと夜は何も見えない。これは照明を作らないとダメだというので、モニュメントの裏側の崖にたいまつをダーッと並べてたの。そうすると間接照明が当たってそのモニュメントが浮かび上がってくる。そういう仕掛けというか、照明も考える。だから結構いまはね、たいまつの需要が激しい(笑)。
―― 最近のゲームにはアップデートもあるので、実現するかどうかはさておいてスクウェア・エニックスへの要望がもしあれば。
押井 やっぱり金とか銀とかあまり使わない鉱石の使い道を考えてほしいんだよ。特殊なアイテムとかはいらない。銀のハンマーでもなんでもいいから、とにかくトンカチが絶対的に足りない。あとはできることならスクリーンショットの写真集を出したい。書籍じゃ無理だと思うからデータでもいいんだけど。だってもったいないもん。それで売っちゃったりするとスクエニ的に問題になるだろうから、例えばどこかネットで公開するとかね。
―― そうですね。今回の記事にスクリーンショットの一部を掲載するので、まずは読者のみなさんに押井監督の世界の一端を感じてもらおうと思います。
引き続き後編では押井監督のドラクエシリーズへの思い入れのほか、度々押井作品の劇中にキーワードが登場する『ウィザードリィ』、また自ら制作に携わったRPG『サンサーラ・ナーガ』の思い出などについても聞いていく。
[聞き手 Tomohiro Noguchi]
[写真撮影 Shuji Ishimoto]
[協力 Production I.G、押井守メールマガジン編集部]
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