「モバイルゲームは最近どうよ?」:くねくねハニィの「最近どうよ?」(その7)(2/2 ページ)
BREWはCPを救う?
CDMAのライセンサーである米国QUALCOMMは、2001年にBREWというケータイ電話向け実行環境を発表したんですが、この説明を少ししてみようかな。BREW向けに作られたアプリケーションは現在、日本ではKDDI(au)さんのEZアプリ(BREW)という名前で展開されてるけど、このBREW、すごい画期的なものだったんですよん。それまでケータイ向けゲームといえば、バーチャルマシン(VM)という環境で、Javaというプログラミング言語で作られていたんですね。ところが、BREWは、ゲーム業界で一般的に使われているC、またはC++という言語でプログラミングができるわけです。
ちなみに、Javaは携帯電話の仕様においてライブラリを含めたプロファイルの標準化が遅れたので、日本で作られたJavaのアプリケーションを“まんま”海外にってわけにはいかないんです。実は日本国内のJavaもキャリアによって若干の方言(笑)があって、こちらもまったく同じではないんですね。しかしながらBREWは、それらの仕様がちゃんと標準化されてるから、C/C++言語で書けば、論理上は“そのまんま”行くわけですわ。“論理上は”なので、実際にはBREW自体のバージョンや端末によって若干のカスタマイズがいることは周知の事実ですな。でも、言語自体のコンバージョンも込み入っていて、端末によってのカスタマイズも結構大変なJavaのコンバージョンを考えれば、“論理上は”ゲーム内テキスト翻訳のみでアプリケーションの展開が可能になったわけですね〜。
また、Java言語で作られたゲームアプリで対戦ゲームなどを行う場合は、原則的に各端末がサーバにアクセスを要するのに対して、BREWにおいてはアプリをダウンロードしてしまえばその後の対戦はサーバを介さず端末間の通信だけ(ピアツーピア)で対戦ができるの。つまり、CPにとってはマッチングだけしてあげればいいだけで、ゲーム中のサーバ負荷がかからないというメリットがあるのね。
日本で作られたBREWのアプリケーションはそのままBREWを採用している端末、キャリア向けに展開できるのでいいことずくめであるはずなんですけど、端末のネイティブをたたけるという利便性があるため、セキュリティも厳しくせざるを得ないわけで、海外ではQUALCOMMの承認がいるんですわ。と、なると、キャリアの承認だけでも大変なのに、さらにOSライセンサーの承認が必要……。要はローンチまでに時間がかかる、ってことですわ。また、現地のQUALCOMとの密なコミュニケーションが要求されるので、手間もあわせてかかるわけですな(ちなみに日本では事情は異なる。詳しくはこちらを参照)。
CPにとっては、コンテンツが作りやすいこと、サーバなどのコストがかからないってことで、BREWはいいよね。ただ物理的に作れるってのがすぐ展開できるってことなわけではない。「売り」の部分で見ると、ユーザーからのアプローチは一緒なので、コンテンツの質(品質だけではなく、競争力という部分での品質ですな)が問われているの。
家庭用ゲームより早く進むハリウッド化
このような状況の下では、有名コンテンツは有利だよね。コンテンツの総売り上げ中、9割程度がトップ20コンテンツから入る(アメリカ某CP談)ということからすると、あとの1割を他の数百のコンテンツで取り合いをしているわけで、ゲームの中身で勝負! ってのはなかなか難しいことは否めないのですわ。ただ、欧州やアジアなどでは、いろいろなPCWebサイト上でケータイ向けコンテンツを購入することが可能で、有名なゲームやプロパティをお持ちのCPさんは、家庭用またはPCのゲームを見にサイトに集まってきたユーザーに対して直接プッシュできるってメリットもあるから、日本よりも訴求効果はあるかもね。でも、この場合、課金システムを自前で持ったり、課金システムを持っているポータルに預けると課金手数料が取られる、などなど、リスクも大きい。いずれにしても、ケータイゲーム一発だけで勝負を挑むには非常に厳しいのは事実。単価の安いケータイコンテンツだと大きな広告を打つわけにもいかないので、コンテンツそのものの知名度に依らざるを得ないってとこも苦しいところですね〜。
世界最大のケータイ向けコンテンツ会社JamdatさんのJamdatボーリングに関しては、ケータイを買ったらとりあえずダウンロードしておけ、といわれるほど海外では浸透しているゲームだったんだ。そのJamdatを世界最大のゲームパブリッシャーであるエレクトロニック・アーツ(以下、EA)が買収したのは有名な話。ジャイアントがジャイアントを買っちゃったもんだから大変だ〜って感じ。コンテンツの知名度、ブランド力すべてを兼ね備えた彼らは、鬼に金棒ですよね。ロサンゼルスの405というフリーウェイを走ってると、Jamdatさんの大きな文字をつけたビルがあったんですが、今回行ったら文字がなくなってた……。EAと一緒になって移転してしまったんだなぁ、などとよそ見をして考え事をしながら運転していたら前の車にぶつかりそうになったわ……。
3G(third generation、第三世代)から3.5Gへの移行に伴って、ケータイのデータ転送速度は家庭用ブロードバンドと互角(DSLとかがメジャーなアメリカでは言い過ぎではないのだ)になってきているので、大きなデータをダウンロード、ストリーミングができることになるのね。そうなると、ゲームがデータサービスの需要を牽引するって時代は一気に過ぎ去り、キャリアにとっては必然的に映像コンテンツへの関心へと移行していると言えるの。そうは言ってもゲームコンテンツをなくすわけにはいかないから、もちろん生き残るんですけどね! キャリアからすると手間がかかるやりとりは増やしたくないから、一度にたくさんのコンテンツを持ってきてくれるCP、大きなブランドでユーザーを魅惑するコンテンツがあるCPなどに限られるわけ。実際に海外のキャリアが取引するゲームCPの数を減らしてるってのは良く聞く話ですねん。
ハニィのあとがき
ケータイ向けゲームコンテンツはちょっと前までは花形ビジネスだった。ゲームビジネスからケータイ向けゲーム業界へと移っていった人も多いしね。コンテンツがここまで増えてくると日本国内でも飽和状態。皆様海外に目を向けられて、有名コンテンツをお持ちの大きなCP(老舗のゲーム会社系が多いね)や、ケータイ向けにイノベーティブなものを供給したCPは先駆者利益を得たかもしれないけどね。
ただし、海外においてケータイ向けゲームコンテンツは「いいものを提供すれば成功する」とはもはや言えない。大きなブランド力とマーケティング力がなければ、どんなにいいものでも発売すらできない状況になっているということ。いいゲームを世に出すためには、既に海外で有名になっているブランドやプロパティを持っている場合を除き、日本からは非常に厳しい。まさに労多く功少なし。海外にゲームコンテンツを持っていく場合は強力な現地コンテンツアグリゲータ(コンテンツを束ねて包括でキャリアに交渉するCPのこと)にお任せすべし、とハニィは考えておりまする。
ケータイ向けをさらに追求したいのなら、ゲームアプリケーション単独ではなく、家庭用ゲームやPCゲームなどとの連動や、映像とか音楽コンテンツとの複合コンテンツをトライすべし。ただ、品質だけではなく、キャリアとの友好な関係構築とマーケティングも要するのでご注意を。いずれにしても、ケータイ向けゲームは一気に成熟期を迎えてしまったのですな。ゲーム業界だけでなく、ケータイコンテンツ業界も、甘くないってことです。
しかし! 最初に書いたように、海外では独自ポータルを立ち上げていて、PCからダウンロードするシステムがあるってことは、フリープラットフォーム化が進んでいるとも言えるし、また、ケータイ電話でフルブラウザ化が進んでいることを考えると、PC向けポータルがモバイルコンテンツを展開することがフツーになってくることも期待されるわけ。キャリア経由のダウンロードだけを考えれば、非常に厳しくなるけど、このコンテンツダウンロードのプラットフォームの自由化が進めば、小さなモバイルコンテンツCPはいろいろなチャネルを駆使してユーザーに訴求していくことができるわけ。
また、限られたスペックに対して新しいアイデアやイノベーションを持ち込むのが得意な日本人気質! 家庭用/携帯ゲーム機におけるコナミさんの「ダンスダンスレボリューション」のように、任天堂さんの「脳トレ」シリーズのように、海外ではきっと難しいだろうと言われていたにも関わらず、ヒットを生み出すものを日本人はまだまだ作れるのだ! がんばれ日本! でも、まんまはダメよ(笑)。苦言を呈しつつも前向きなハニィであった。
くねくねハニィのプロフィール
1967年アメリカサウスダコダ生まれの日本人。
小学生からはゲームセンターに通いまくって育つ。
1990年に都内K大学を卒業後、大手ゲーム会社にて海外ソフト担当となり、2001年に退職。それ以降は自称フリーのゲームアナリストとして暗躍。暗躍しすぎたので名前を変えて表舞台に。くねくねと唐突に現れて「親父ギャグ」をかまして周りの人々のレベルを下げまくる困ったやつ。独特の口調ですが、慣れてください。言ってる中身は至極マジメです。ちなみに「風来のシレン」が好物で、名前もそこから借用。この度、なんだか公認してもらったそうですが、どういう経緯でそうなったかはよくわかりません。なぜだか知りませんが、ちょこちょこ海外に出没しますが、何をしてるんでしょうね……?
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