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» 2013年11月29日 10時00分 公開

虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ! 第9回:社畜からプア充へ 貧乏ネタ満載マンガ「ふら・ふろ」「NieA_7」で「少欲知足」を知る

お金がない方が充実した暮らしができる……? プア充な作品で生き方を考えてみます。

[虚構新聞・社主UK,ねとらぼ]
画像 アニメ「蟲師」(C)漆原友紀/講談社・アニプレックス

 ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。来年早々、漆原友紀先生の「蟲師」の新作「日蝕む翳」(ひはむかげ)がアニメになると聞いて、うれしさのあまり寒中の琵琶湖に飛び込んで風邪を引いた虚構新聞の社主UKです。ズズー(鼻すする)。

 「蟲師」はどのエピソードも素晴らしいのですが、社主のおすすめは「籠のなか」「筆の海」「硯に棲む白」の3本。漆原先生が「江戸時代と明治時代の間にもう1つ別の時代があるような世界」とおっしゃるように、スケジュールに追われて忙しいこの現代とは全く異なる、ゆったりとして落ち着いた時間の流れが味わえます。時を同じくして、ちょうどコミック愛蔵版の刊行も始まったので、これを機会に読んでみてはいかがでしょうか。

マンガのトレンドは日々移ろうものです

 さて、マンガのトレンドというのは日々移ろうもので、この数年は食べ物マンガであったり、エッセイマンガであったり、萌え4コマであったり、書店に行くとそういう旬のマンガが続々と発売されていて、週2回は書店をじっくり逍遥(しょうよう)する社主でさえ、もう把握できないほどです。さらに最近はニコニコ動画のボカロ曲を原作にした「ボカロマンガ」なんかも新ジャンルとして目立ってきてますね。

画像 「ひまわりさん」(C)菅野マナミ

 そんな最近のトレンドの中では比較的古い「日常系」と呼ばれるジャンルの人気は何だかんだ言われつつも根強く(以前本連載で紹介した「ひまわりさん」もそうです)、マンガの世界に競争や戦いを求めない読者層が確実に一定数いるのだということをうかがわせます。「他人を蹴落としてまで前に出ないと生きていけないような競争至上主義には着いていけない、いきたくない」という日常系を愛する人には、きっと「蟲師」も気に入ってもらえるはずです。

 信じてもらえるか分かりませんが、最近どこかと大ゲンカしてしまった社主も、人生観に影響を受けた3大アニメの1つとして「蟲師」を挙げるほど、あのゆったりとした世界が大好きで、主人公のギンコのようにお金と時間にしばられないような生き方ができればどれほど幸せだろうと思うばかりです。いつでも社主から蟲師にジョブチェンジする準備と覚悟はできています。

ゆっくり生きたいんです

 そうしたらちょうど先日、「そういうゆっくりした生き方もあるんじゃないの」という本に出会いました。「プア充―高収入は、要らない―」(早川書房)です。マンガをオススメする本連載ですが、その前提としてまずはこちらをご紹介。

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 これは宗教学者として知られる島田裕巳さんが提唱した造語で、簡単に言えば「お金がなくとも幸せに暮らしていける。いや、むしろお金がない方が充実した暮らしができる」という主張です。帯にも「年収300万円だからこそ、豊かで幸せな毎日!」と書いてあります。

 連日の早朝出勤と残業で、毎日馬車馬のように働く人にとっては何だか夢のような殺し文句と、流行語大賞でも狙ってるんじゃないかと邪推したくなるようなキャッチーなワードが気になったので、さっそく買って読んでみました。

プア充ってなんぞ

 登場人物はIT代理店営業の西野ヒロシくん30歳。年収450万円。大学卒業後新卒で居酒屋チェーンに就職したものの、高級スーツを着こなし、女の子に囲まれながら高級バーに入り浸る「リア充」な同級生に嫉妬して、転職を決意。インセンティブ制度のある今の会社で営業活動に勤しむ毎日です。

 そんな西野くんですが、大学時代のゼミの同窓会で再会した恩師・島崎教授から、貧しいからこそ充実した生活が送れるというプア充の話を聞き、少し心が揺さぶられます。「過剰な労働で体を酷使して得たお金で、ストレス発散として衝動買いやエステなど無駄な出費を重ねるのは本末転倒」と、島崎教授。なるほど、確かにそうかもしれません。

 ……という冒頭から始まるストーリーですが、この後西野くんの尊敬する上司が過労で入院、さらには務め先がいきなり倒産した挙句、社長が夜逃げ。途方に暮れる西野くんに対して、仏様のように「これからはプア充の生き方だよ」と説き、手を差し伸べる島崎教授。そして最後は「先生が言うとおりにプア充目指してみたら、簡単に再就職口が見つかって、彼女までできました!」というエンディング。さらには年収水準維持にこだわるIT代理店時代の同僚がなかなか再就職できず途方に暮れているというおまけ付き。

 「まーた、社主が嘘を書いている」と言われそうですが、本当にこういう本なのです。活字が大きいうえ、大事なところは太字、さらには章ごとに「まとめ」まで入れてくれる懇切丁寧な作りで、3時間もあれば読み通せます。なかなか面白い本なので、ぜひご一読ください。

女子2人が極貧生活満喫中 マンガ「ふら・ふろ」

 と、ここまで何とも「ネタ本」的な取り上げ方をしてしまいましたが、その一方で、1つ1つの主張には「なるほど、なるほど」とうなずける部分も多いのです。

  • 本当にお金をかければかけるほど娯楽は楽しくなっていくのか?
  • 高収入を得るための忙しさにかまけて、人間関係をおろそかにして、孤独になって、それが本当に幸せなのか?
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 この言葉に一瞬「うっ」と詰まってしまうところはありませんか。「貧しいは正義」はさすがに言いすぎでしょうが、このような問いかけへのヒントになるかもしれないマンガが社主の本棚に2冊ほどあります。まずはカネコマサル先生の「ふら・ふろ」(全3巻/芳文社)の紹介です。

 登場するのは古ぼけたアパートの管理人を任せられている女の子ハナとナツ。本作は入居者も少ないうえ、特に働いている描写もなく、一体どうやって生活費を得ているのかよく分からない2人とアパートの住人たちとのユルいやり取りを描いた1ページマンガです。


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 粗大ごみを拾うのが趣味のハナがいるのに部屋にコタツがないため、冬は布団にくるまって過ごしたり、1皿50円の回転寿司に入ることさえ諦めるなど、何かと貧乏な生活を送る2人ですが、彼女たちからは貧乏生活が醸し出す悲壮感など全く感じません。むしろお金がないからこそ、何か工夫して日々の生活に楽しみを見つけ出そうとするところに、ほんのり温かいユーモアを感じさせます。

 また無口の幼女「お師匠」や、天然ドジのメガネ女子高生・アオらアパートの住人たちとの仲良しエピソードもほっこり楽しいです。社主もこういう温かな記事が書ければサイトを炎上させずに済むのですが、あいにく全方位射撃みたいなものしか書けないという前世からの業(カルマ)を背負っております。

貧乏ネタといえば「NieA_7」は外せない!

 同じく「プア充」と聞くと、安倍吉俊先生の「NieA_7」(ニア アンダーセブン)を取り上げないわけにはいきません。オリジナルはもう10年以上前の作品であるにも関わらず、昨年「NieA_7 Recycle」(KADOKAWA)として復刊したことからも、本作への根強い人気がうかがえます(余談ですが、安倍先生は「蟲師」と並んで社主の人生観に決定的な影響を及ぼした3大アニメの1つ「灰羽連盟」の原作者でもいらっしゃいます)。

 頭からアンテナの生えた宇宙人が日常に溶け込んだ下町の銭湯。そこに下宿する貧乏予備校生・茅ヶ崎まゆ子と、居候の宇宙人ニアとの掛け合いを楽しむ漫才のようなコメディで、ネタからキャラの画風から手書きの枠線まで、とにかく脱力に徹しているのが本作の特徴です。そして、まゆ子とニアが、メザシ1匹を真剣に取り合っているこの表紙からも分かるように、本編でも「紅茶パックを乾かして10回以上使い続ける」、「空腹のあまり下駄の入った闇鍋ですら我慢して食べる夢を見る」など、「ふら・ふろ」以上に貧乏ネタ成分が強いです。

 しかし、これも「ふら・ふろ」と同じく、貧乏ゆえの悲壮感はありません。さすがに紅茶パックを10回以上使い続けるレベルの生活水準は個人的にノーサンキューでありますが、だからと言ってまゆ子とニアが不幸なのかというと、そうは思いません。それは、まゆ子がまだ前途ある予備校生(しかも頭がいい)だという理由もありますが、根本的な部分で「お金がないことは不幸である」という考えを否定しているように見えるからです。そうでなければ、まゆ子が間違って受け取ったお釣りをネコババせず(頭の中の天使と悪魔は大戦争でしたが)、ちゃんとお店に返しに行くはずがありません。

あっそうか、これが「プア充」の生活なのか

 つまるところ「プア充」というのは人生観の問題なのです。コラ画像でおなじみの某シェフのお店で800円の水を飲むことで得られる幸せが、コンビニで100円で売っている水の8倍幸福感を生むかと問われると、なかなかそうは言い切れないわけで。

 それなら「ふら・ふろ」のハナとナツのように、アパートの庭で住人たちと雪合戦やったり花見やったりしている方が、大金をはたいておもちゃを買うよりよほど幸せに見えます。「プア充生活を支えるには、いい人間関係と縁を築くことが重要である」と「プア充」の本にもそう書いてあります。

 そう言えば、今年の流行語大賞に「さとり世代」がノミネートされましたが、教育の問題は別の話として、今の若者を「ゆとり」や「草食系」と名付けるのは、プア充的な観点から言えば、決して悪くない言葉だと思うのです。見栄を張らず、飾らず、争わない。いずれも心の安静には大事な要素です。島田裕巳さんが宗教学者であることを考えると、「さとり世代」という言葉はまさに打ってつけとしか言いようがありません。

 「ああ、やはり最後に残るのはお金ではなく、人間関係なのだなあ、うんうん……」などとうなずいて納得しつつ、「プア充」を読み終え、「そう言えば」と、久々に今回の2冊を本棚から取り出して読み返し、「アパートの住人にせよ、宇宙人にせよ、確かに豊かな人間関係あってこそのプア充生活だよなー……」などと、ここまで書いてきたようなことを思い巡らし、そしてまたこの2冊を棚にしまい、今の自分に当てはめてみながら、一呼吸おいて一言。

「友達いなかったらただのプアだ、これ!」


 今回も最後までお読みくださりありがとうございました。……若いうちに友達作っておいた方がいいですよ(小声)。



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