虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第33回:担当編集って大変な仕事なんですね…… 働かないマンガ家とその担当による実録バトル「楽屋裏」がすさまじい
「描けば原稿料が入るんですよ!」が殺し文句。
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。
月平均30〜40冊ペースでマンガを買い続ける生活がすでに10年を超えてしまった社主ですが、長くマンガを読み続けていると、作品作者だけでなく、掲載誌、出版社、担当編集者など、その背景にあるさまざまな部分にまで興味が湧いてくるもので、いつの頃からかマンガを読み終えた後はその奥付までしっかり確認するようになりました。
出版社によって形式は異なりますが、気に入った作品が全て同じ編集者さんによるものだったり、以前取り上げた「ひまわりさん」(紹介記事)と「あの娘にキスと白百合を」(紹介記事)のカバーデザインが同じデザイナーさんによるものだと知ったり思わぬ発見もあるのでマンガをたくさん所蔵しておられる方は一度奥付まで確かめてみると新しい発見もあるのではないでしょうか。
さて、今回はそんなマンガ業界の最も核心部分である「マンガ家と編集者」の関係を描いた実録的作品として、「月刊コミックゼロサム」(一迅社)にて2006年から今年まで8年間にわたって連載されてきた4コママンガ、魔神ぐり子先生の「楽屋裏」(全3巻)とその続編「楽屋裏 -貧乏暇なし編-」(全3巻)をご紹介します。
働かない漫画家vs.担当編集、ファイッ!
魔神先生は「ドラゴンクエスト4コママンガ劇場」でマンガ家デビュー。名前を聞いてピンと来た方は社主と同じく少年・少女期に「少年ガンガン」を愛読していた30代前後ではないかと推察します。その魔神先生がエッセイマンガという体裁で連載を始めたのが本作でした。
掲載誌「ゼロサム」は高河ゆん先生の「LOVELESS」、峰倉かずや先生の「最遊記」など、どちらかと言うと女子人気の高いファンタジー作品が多いのですが、そんなラインアップの中で本作「楽屋裏」はその開始当初から異彩を放っていました。
何しろ連載が始まったもののどういう方向性にするかすら決まっておらず、後に「お面の人」として名をはせる担当編集・小柳好夫氏から「仕事ナメてんのか うすらハゲ!!」「黙れクソが」とののしられるありさま。しかしピンクのドレス姿に縦ロールがトレードマークの魔神先生も「死ねばいい」「ナメとんのかオッサン!!」と全くたじろがない。とにかく連載当初から先生と小柳氏が力一杯罵声で応酬しあうというすさまじい作品でした。当時の「ゼロサム」読者は相当面食らったのではないかと思います。
しかし、この全力の殴り合いが本当におもしろかったのです! エッセイマンガと言うには余りに過激、かと言って実録マンガとするには余りにマンガ的。結局当初予定していたであろうリポートマンガから転換し、働かないマンガ家と「描けば原稿料が入るんですよ!」という殺し文句を武器に描かせようとする担当編集が「打ち合わせ」という名を借りたつばぜり合いを展開するという、過去に例を見ないマンガ作品へと変貌していきました。
毎月のように「ブタ」だの「ババァ」だのすさまじい言葉が飛び交う中、ついに発売された「楽屋裏」単行本第1巻もまた過去に例を見ない本として登場しました。
表紙の7割を覆う巨大なピンクの帯、そして推薦文を寄稿した峰倉かずや先生の名前の方が作者名より大きく、「峰倉先生の本と間違って買っていく需要を期待した」というウソか本当か分からない外見は、当時書店で手に取りながら「ひどい本があったものだ(褒め言葉)」と思ったのを覚えています。
意外にちゃんとしたエッセイマンガの側面も
ここまで読むとどうにも毒舌格闘ばかりのマンガであるかのように見えるかもしれませんが、本作の見どころはそれだけではありません。今回紹介するにあたり改めて読み返していく中で、「QBK(急にボールが来たので)」や「ビリーズブートキャンプ」など今となっては懐かしい連載当時の流行が結構盛り込まれていたことに気づきました。東日本大震災直後の連載では猫とニンテンドーDSを抱えて自宅から飛び出してきた話なども描いてあり、「あ、意外にエッセイマンガしていたのだな」、と。結果論ながら、今読めばこれまでの8年間を懐かしみながら振り返ることのできる作品にもなっています。(ちなみに魔神先生、このころは「ビリー」含め本格的にダイエットに取り組んでいたようで、最終的に15キロも痩せています。すごい!)
また魔神先生には毒舌腐女子とは別に「無類の猫好き」というもう1つの顔があり、愛猫・るるとの暮らしを描いた「猫好きあるある」なエピソードの数々には、今月新しく女子社員(推定4カ月)を迎えた社主もずっと和ませてもらっていました。本作とは別に先生の猫好きエピソードをまとめた「漫画家と猫がまあまあ仲良く暮らすマンガ」(イースト・プレス)という4コマ作品も出ているので、こちらもぜひ読んでみてください。
「おもしろければ何でもアリ」の精神
「楽屋裏」というタイトルが示すように、本作はいわばマンガ業界の裏側をぶっちゃけてしまった作品ではありますが、これほど長く愛された秘訣は怠け癖のあるマンガ家と何かにつけてアバウトな担当編集が毎度繰り広げる掛け合いの裏にある「おもしろければ何でもアリ」の精神だったのだろうと思います。
編集者も編集長も実名のままネタキャラとして登場、出版元である一迅社さえも「穴の開いた船底」という自虐ネタに晒されつつ、それらにNGを出すことなくそのまま掲載しているところに懐の広さと「読者第一」のプロ精神が垣間見えるように思うのです。魔神先生自身も女性ながら連載中に患った「痔」を持ちネタにする本気度でした。
「ふざけるなら中途半端でなく本気で」という心構え――、こういう発想は本当に素晴らしい。社主がマンガの中の世界だけでなく、広くその業界にまで興味を持つきっかけになったのは、この作品があったからと言っても過言ではありません。
さて、8年間ずっとテンションを落とすことなく全力で駆け抜けた魔神先生ですが、現在は姉妹誌「ゼロサムWARD」にて「コトノハ」を連載中。「楽屋裏」ではあまり語られてこなかった先生の亡くなったお母さんや家族のことなど、今度は非常に「泣かせる」作品として新境地を開きつつあります。
「楽屋裏」さえもエンターテイメントに
連載当初はまだほとんど存在しなかった各種SNSの普及により、今ではマンガ家も編集者も「楽屋裏」についてオープンにつぶやくことができる時代になりました。しかし、たとえそれが本当のことにせよ、読者やマンガ好きをがっかりさせてしまう発言があることも事実。そういう光景を見るにつけ、その楽屋裏までも1つのエンターテインメントとしておもしろおかしく仕上げた魔神先生の実力は並々ならぬものだったのだな、とあらためて思うのです。
8年の長きにわたって体を張って読者を楽しませてくれた魔神先生と、今や「ゼロサム」編集長に就任した小柳氏に感謝の念を込めて敬礼しつつ、そろそろ大量に買い込んだメロンパンの皮(関連記事)も食べたくなってきたので、今日はこれにて筆を置きます。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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