将棋電王戦FINAL 第2局――人間側の連勝なるか Selene VS. 永瀬拓矢六段の見どころは
第1局は人間側の先勝に終わった「将棋電王戦FINAL」。第2局の対局者プロフィールと、注目すべき見どころをお伝えする。
プロの将棋棋士とコンピュータソフトが5対5の団体戦形式で対決する「将棋電王戦 FINAL」。3月14日に行われた第1局は、人間側の先勝という結果に終わった。
内容は非常に見ごたえのあるものであり、終盤には電王戦ならではの、見ている者の価値観を揺さぶるような展開もあったのだが、各局の振り返りについては稿を改めて考えてみたい。本記事では、続いて今週末に行われる第2局、Selene(セレネ) VS. 永瀬拓矢(ながせ・たくや)六段戦の見どころについて紹介する。
なお、第1局では人間側が先手番、コンピュータ側が後手番を持って戦ったが、第2局以降は毎回先後を逆にして(第2局・第4局はコンピュータ側が先手)、対局が行われる。
Selene――“人間のように学ぶ”ことを目指し作られた月の女神
昨年、六本木ニコファーレで行われた「電王戦FINALに関する記者発表会」でのこと。今回の電王戦に出場するプロ棋士とソフト開発者の全員が初めて顔を合わせ、静かな緊張感が張りつめていたこの場で、ほんの数秒間だけ会場中が笑いに包まれたシーンがあった。
「あのー、これまでSeleneが人間と指したのって、今まで娘と私くらいしかいないので……初めて指していただける外の方が、永瀬先生ということで……」
第2局に登場する将棋ソフト「Selene」の開発者である、西海枝昌彦(さいかいし・まさひこ)さんの発言だ。電王戦出場のモチベーションを問われ、「やはり棋士の方と対局させていただけることですかね」と答えたあとに、そう続けた。
開発者本人、家族(それも娘さん)、と来て次がいきなりプロ。「いくらなんでもレベル上がり過ぎだろ!」ということと、西海枝さんの朴訥とした語り口に、他の開発者も、対戦相手の棋士たちも思わず笑みを漏らしてしまったのだった。
西海枝さんは銀行や保険会社のシステム開発を手掛けるシステムエンジニアで、4年ほど前から将棋ソフトの開発を始めた。初めて世界コンピュータ将棋選手権に出場したのは2012年のこと。電王戦FINALで第1局に登場したAperyと、第5局に登場するAWAKEとは“同期”だ。
Seleneの特徴は、常に「アプローチが異なる複数種類を並列的に、というか気が向いた順に」開発を進めている点。そのため、出場する大会ごとに毎回かなり毛色の違うソフトが出来上がる。同一のソフトを少しずつ改良し、その延長線上で高みを目指す――というアプローチは取らない。
コンピュータ将棋に精通する書き手・松本博文氏の取材(電王戦ファンは必読)からも、西海枝さんのオリジナリティに対する強いこだわりが伺える。過去にはそのこだわりを「封印開放度」というユニークな指標で説明していたこともあり、西海枝さんの「できれば楽な道(=人間の棋譜や定跡に頼ること)は選びたくない……でも弱くなるのも悲しいし……しかしやっぱり……」という(半分楽しみながらの)葛藤が聞こえてくるようだ。
ソフト名の由来はギリシャ神話に登場する月の女神から。人間にたとえると「イメージはエビちゃんですね。蛯原友里さん」とのこと。
例えば穴熊の場合、いったいどこまで対局を続けたら発見できるのか? などと考えると人間の創意工夫や構想能力がどれだけすごいか思い知る展開に。
目標は、人間のように学習して、人間のように探索したい! ということです。
永瀬拓矢――将棋しかない、ケタはずれの“努力できる才能”
「あなたにとって将棋とは?」という、あまり新鮮味があるとも思えない質問に、この22歳は「……ありきたりかもしれませんが」とわざわざ前置きしてからこう答えた。「生きる目的をくれているもの」(電王戦FINALへの道#1)
人間側の次鋒、永瀬拓矢六段は1992年生まれ。第1局でソフトに完勝した斎藤慎太郎五段(18歳でプロ入り)よりもさらに早い、17歳と0カ月でプロの世界に足を踏み入れた。20歳時には、トッププロを目指す棋士の登竜門とも言える棋戦「新人王戦」で優勝。早くから頭角を現す。
当初は独特な棋風の振り飛車党として知られ、先手番でも千日手(※)をいとわないことで有名だったが、後に居飛車党に転向してからはそうした傾向も目立たなくなった。それ以上に永瀬の名を知らしめたのは、第39期棋王戦本選における、羽生善治現名人との戦績「2戦2勝」である。若手が棋界の頂点である羽生相手に連勝したという事実は、ファンのみならず同業の棋士間にも強いインパクトをもたらした。
将棋以外の趣味をたずねられると口ごもってしまう。「永瀬くんは放っておいてもずっと指し続けるんじゃないですかね」(西尾明六段)、「将棋95%というタイプじゃないですか」(戸辺誠六段)、「将棋以外がない」(阿部光瑠五段)。ひと月のうち20日以上を研究会(複数人の棋士で将棋の勉強をすること)に費やす。
そんな棋士が、ソフト対策のために普段の研究会を「ほぼゼロ」にして臨む。「将棋というのは、努力ですべて決まると思っているので。将棋には才能なんか一切いらないんです。逆に負けるというのは努力が足りなかっただけなので」
プロを目指したのは12歳。普通に暮らして普通に勉強して普通に遊びたかったなあとは思いましたけど、やはり人にとって普通というのはそもそも違うので、それに気付けた自分は幸せかなあと思いました。今自分に頑張れることがあるというのが人生で幸せなことかなあと思います。
今の人生に悔いはありません。
第2局の見どころは
ニコニコ動画上で公開されている練習対局の結果では、1分将棋(永瀬六段勝利)と30分切れ負け(Selene勝利)とで1勝1敗の成績。ただし、30分切れ負けでのSeleneは「鬼殺し」と呼ばれる有名な奇襲戦法(相手に正しく対応されれば自分が不利となる)を用い、早々に駒損をしたにも関わらず、そのまま剛腕で攻めつぶすという衝撃的な勝ち方をしている。
記事冒頭で述べた通り、今回は人間側が後手番だということも考慮する必要がある。先週の斎藤五段がお手本のように示して見せた、「序盤はできるだけ時間を使わずに事前の想定局面へと誘い込み、相手にミスが出たらすかさず踏み込んで終盤に突入する」という戦い方が、後手番では難しくなるからだ。
それを踏まえ永瀬六段は、事前インタビューで「個人の戦いではなく団体戦で、絶対に負けられないので、負けないように戦いたいなと思っています。将棋というゲームには勝ち負けではない方法もありますので、それも視野に入れて研究はしています」と発言している。
「負けない戦い」「勝ち負けではない方法」とは、入玉による持将棋(※)含みか、それこそ彼が過去に得意とした千日手も辞さず、という方針かとも想像できるが、いずれも最初から狙ってその局面に誘導するのは困難という見方もある。
見どころとしては、まずは序盤の駒組み、戦型選択がどのように進むか。Seleneが早い段階で定跡を外してきた場合、永瀬六段の想定局面に進まない可能性は十分にある。もう一つは、永瀬六段自身の言う「負けない戦い方」について――だろうか。
西海枝さんは過去に、まだ叶えられていないSeleneの目標として「人間のように学習して、人間のように探索したい」と書き、第2局のPVの中でも「人間の方が全然すごいっていうのが、やればやるほど分かっていくんですけれども」と述べている。
一方の永瀬六段は、前述の羽生現名人を倒して勝ち進んだ棋王戦挑戦者決定戦・三浦弘行九段戦で、局面を検討していた棋士から「こういう手はコンピュータなら指すけど、人間には指しにくいかもしれませんね。あ、でも永瀬さんならもしかして……」と指摘されたその手をまさにそのまま指して見せたことがある。
人間から学ぶのではなく、「人間のように学ぶ」ことを目指し生み出されたソフトと、「ソフトのような手を指す」ことをいとわない人間。電王戦FINAL第2局は、3月21日午前10時、高知城・追手門で対局が開始される。
関連記事
将棋電王戦FINAL第1局は人間側が勝利 21歳のイケメン棋士・斎藤慎太郎五段がAperyを真っ向勝負で撃破
プロ棋士も斉藤五段の指し手を「ノーミス」と絶賛。将棋電王戦FINAL 第1局――プロの意地、ソフトの歴史 斎藤慎太郎五段 VS. Aperyの見どころは
今年で最後となるかもしれない将棋電王戦。観戦前に知っておくと100倍楽しめる情報をまとめました。「将棋電王戦FINAL」出場棋士5人が決定 若手精鋭を揃えた「勝つためのメンバー」でコンピュータ将棋に対抗
結果にこだわる姿勢を強く示しました。団体戦は次がラスト! そしてタッグマッチへ 「将棋電王戦FINAL」2015年春に開催決定
プロ棋士とコンピュータソフトが戦う「将棋電王戦」は対決から共存へ。タイトルホルダーの参加はあるか!?「将棋電王戦FINAL」来年3月14日に開幕! 元チェス世界王者・カスパロフさん「1試合でも勝てる限り、人間vsコンピュータは終わらない」
記者発表会に元チェス世界王者のカスパロフさんが登場。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
絶対にプラスチックのカップで「焼きプリン」を作るという執念 森永「焼きプリン」の製法特許がすごいと話題
13年外につながれボロボロのおばあちゃんワンコを保護 人間を信じ始める姿に涙「今まで苦労した分以上の幸せな余生を送れますように」
犬同伴OKのビュッフェに柴犬と行ったら…… 全く別の楽しみ方をしてしまう姿に「かわいいいいい」「気持ちよさそう」
入院で2週間不在だったママを待ち続けた猫、再会の瞬間…… 涙を誘う喜びあふれる“お返事”に「深い絆に涙が」「嬉しさがひしひしと」
同居猫のおしりを嗅いで「テメェ屁こいたなぁ!!!!!??(怒)」と理不尽ギレする猫の姿に抱腹絶倒「夜中に爆笑させないで」「名作」
遠藤憲一、保護犬を家族に迎える 「保護時には栄養失調と足に怪我を」悲しい過去も、ウキウキお散歩ショットにほっこり
愛猫が息を引き取る直前「ありがとう、楽しかったよ」と声を掛けたら…… 家族みんなが久々に集った夜の奇跡に涙
短編ホラーゲーム「8番出口」で“開発者も知らない異変”が発生し笑いと恐怖 「マジでホラー」「本物の『怪異』だ」
捨てられて真っ黒だった元野良猫が、家猫になった今では…… 真っ白で幸せいっぱいの暮らしに「ほんときれいな美猫さんに」「胸が熱くなる」
ミス東大の水着グラビアデビューに「東大まで行って」と失望の声 本人&現役グラドルも加わるネット論争に
- オール巨人、30年モノな“伝説の1台”に自負「ここまでキレイな車はない」 国産愛車の雄姿に称賛の声「気品がある」「凄くエレガント」
- 「明らかに写真と違う」 東京クリスマスマーケットのフードメニューが物議…… 購入者は落胆「悲しかった」
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 田中みな実、“共演した姉”の存在に反響「居るとは聞いていたけど」「激似やなぁ」 すらっとしたたたずまいに「品のあるお方」
- 藤本美貴、“全然かわいくない値段”のテスラにグレードアップ スマホ一つでの注文に「震えちゃ〜う!」
- マックで「プレーンなバーガーください」と頼んだら……? 出てきた“予想外の一品”に驚き「知らなかった」
- 伊藤沙莉、“激痩せ報道”の真相暴露→広瀬アリスの株が上がってしまう 「辱めったらない」告白に「アリスちゃん、ええ人や〜」
- 「あなたは日本人?」突然送られてきた不審なLINE、“まさかの撃退方法”に反響 「センス良い」「返しが秀逸」
- “鬼ダイエット”で激やせの「Perfume」あ〜ちゃん、念願の姿に「着れる日が来るなんて」と大喜び
- 900万再生のワンコに「電車で笑ってしまった」「つられてめちゃくちゃ笑っちゃうw」 “突然魔王になった犬”に腹を抱える人続出
- 「酷すぎる」「不快」 SMAPを連想させるジャンバリ.TVのCMに賛否両論
- 会話できる子猫に飼い主が「飲み会行っていい?」と聞くと…… まさかの返しに大反響「ぜったい人間語分かってる」
- 実は2台持ち! 伊藤かずえ、シーマじゃない“もう一台の愛車”に驚きの声「知りませんでした」 1年点検時に本人「全然違う光景」
- 大好物のエビを見せたらイカが豹変! 姿を変えて興奮する姿に「怖い」「ポケモンかと思った」
- 渋谷駅「どん兵衛」専門店が閉店 店内で見つかった書き置きに「店側の本音が漏れている」とTwitter民なごむ
- 西城秀樹さんの20歳長男、「デビュー直前」ショットが注目の的 “めちゃくちゃカッコいい”声と姿が「お父さんの若い頃そっくり」「秀樹が喋ってるみたい」
- “危険なもの”が体に巻き付いた野良猫、保護を試みると……? 思わずため息が出る結末に「助けようとしてくれてありがとう」【米】
- 「やばい電車で見てしまった」「おなか痛い、爆笑です」 カメがまさかの乗り物で猫を追いかける姿が予想外の面白さ
- おつまみの貝ひもを食べてたら…… まさかのお宝発見に「良いことありそう」「すごーい!」の声
- 「3カ月で1億円」の加藤紗里、オーナー務める銀座クラブの開店をお祝い “大蛇タトゥー”&金髪での着物姿に「極妻感が否めない」