片想いの女の子が16年前からタイムスリップしてきた 失恋の古傷を深くえぐる「青春のアフター」
漫画紹介連載「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!」の第79回。自分を振ると同時に目の前から消えてしまった女の子が、そのままの姿で16年後にまたやってきたら、あなたはどうする?
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。
今回は「失恋を経験したことがある」男女にこそお勧めしたい作品、緑のルーペ先生の「青春のアフター」(〜3巻、以下続刊)をご紹介します。既にご存じの読者なら、このタイトルを聞いただけで「うっ……」と、胃がキリキリ締め付けられるような気持ちになっているかもしれません。それほどまでに強い印象を読者に植え付けている作品でもあります。
好きな娘が「呪いの言葉」を残して消えてしまう
「青春のアフター」というタイトル通り、本作は青春の後始末(アフター)の物語。「後始末」と言っても、ほとんどの人は青春というものをそこまで意識して片付けたこともなく、「気が付けば通り過ぎていたあのころ」くらいの感覚でしょう。
しかし、本作の主人公・鳥羽まこと32歳にとっての青春は必ず始末をつけなければならないものでした。なぜなら、彼の高校=青春時代は、今日まで生きる理由そのものでもあったから。
さかのぼること16年、同級生の十和さくらに恋をした高校生の鳥羽は、次第に彼女と親密になっていき、ついに意を決して告白。けれど、直前に鳥羽が犯したある出来事が原因で「ただの友達のくせに」とひどく愛想をつかされ、終いには「鳥羽なんていなくなっちゃえばいいんだ!!!」とキツい一言を浴びせられます。
しかしそう叫んだ瞬間、さくらは姿を消します。立ち去るとかではなく、テレポーションのようにこつ然と消えてしまうのです。
わけが分からぬままさくらは世間的に失踪扱いに。もし振られた後もさくらがいたなら、鳥羽も失恋を受け入れ、友達としてうまくやっていけたのかもしれません。しかし失恋相手は神隠しのようにいなくなってしまった。残されたのは、片想いの相手から浴びせられた「いなくなればいいのに」という呪いのような言葉だけ。
「『突然消えたなら突然帰ってきてもおかしくない』(中略)その思いだけで僕はゲームオーバーを迎えた後の現実に立ち続けていた。」
さくらの失踪という現実を受け入れきれず「ゲームオーバー後の現実」を長く引きずってきた鳥羽にも、ようやくみい子という彼女ができます。しかし、同棲生活を始め、結婚も視野に入った32歳のある日、鳥羽の目の前にあのさくらが再び姿を見せます。しかも16年前に消えた姿そのままで。あの雨の日、彼女が消えた理由はタイムスリップだったのです。
終わったはずの青春が終わってくれない
16年後の現在に飛ばされてきたさくらは、唯一の肉親だった祖母も亡くなっていたため、鳥羽とみい子が同棲している部屋で預かることに。さくらの事情を知るたった一人の味方になった鳥羽は、みい子への思いとの間で葛藤しながら、青春の後始末へと歩みを進めていくことになります。
実を言うと1巻を読んだ時点では「いくら16年間待ち続けていた片想いの相手とは言え、既に結婚目前の彼女がいて気持ちが揺らぐことなんてあるのだろうか?」というクエスチョンが消えないままでした。しかし2巻では、好きになった女の子が目の前で急に消えるという事実を消化しきれないまま堕ちていった鳥羽の過去が明らかになっていきます。
「全部がダメになって、なお、人生は続く。なんだこれ。なんで終わってくれないんだ。」
ゲームならバッドエンドでも終わりは終わり。けれど現実の人生はバッドエンドだろうと否応なく続く。2巻の超展開には、鳥羽の迷いも「仕方ない……」とつい思い至ってしまいます。
また2巻は、失恋や挫折によって自分の人生を「終わってしまったもの」「ゲームオーバー後」と一時でも考えたことがある人なら、必ず突き刺さるセリフや独白に満ちています。
例えば思いが届かない相手に向けた「自分のものにならないなら せめて 一生消えない傷を――」という言葉。失恋後の心境の中でも、最も暗くて澱(よど)んだエゴむき出しの闇。表に出せない、出してはいけない感情だからこそ、よく研がれたナイフのように読み手の心の臓の奥底まであっさり届いてしまう。本当に心をえぐってくる名ゼリフが多く、今年泣いた数少ないマンガの1つです。
次で最終巻なのに青春の着地点が読めない
さくらの呪縛にとらわれたままという印象が強かった2巻に対して、11月発売の最新3巻では、鳥羽の「大人」としての側面が強く出たのと軽いエピソードが多めで、青春の後始末も順調に進むかに思えました。
が、最後の最後で「どうしてこうなった」という頭を抱える展開に。その上、次巻で完結ということで、正直言ってもう全く先が読めません。少なくともソフトランディングはあり得ない流れです。ゲームオーバーなどと言わず、ハッピーエンドを期待したいところですが果たして……。
しかしまあ何と言いますか、幸せや充実というのは100点の理想より、70点くらいの現実の中にあるような気もします。それを人は「妥協」と呼ぶかもですが、妥協に生きるのも決して悪いことではないと思うのです。そういう意味で社主とほぼ同世代の鳥羽が、自身の青春にどう後始末を付けるのか、注目しています。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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