「彼岸と此岸を行き来」「結界を越える」 意外にファンタジーな獅子舞の世界:司書メイドの同人誌レビューノート
この時期に赤と緑のカラーリングと言えば獅子舞しかないですね。一択です。
慌ただしい12月。街には緑と赤の色使いがあふれて、にぎやかな音楽も聞こえてきますね。緑と赤……そう、獅子舞の定番カラーリングですよね! 新年まで、もうあと数える程の日数。「もういくつ寝ると♪」と、歌が聞こえてきそうなこのごろ、きたるお正月にぴったりの同人誌をレビューします。
今回紹介する同人誌
「おししまいまい 改訂版 1」 A5 54ページ 表紙カラー 本文モノクロ
「おししまいまい 改訂版 2」 A5 60ページ 表紙カラー 本文モノクロ
「おししまいまい 3」 A5 52ページ 表紙カラー 本文モノクロ
著者:昆乃ノギ
想像と違う!? あなたの獅子舞は「二人立ち」派? それとも「三匹獅子」派?
はじめましてこんにちは。
みなさん、獅子舞は好きですか?
私は大好きです。
1行目からこんな気の利いた文句で始まる今回の同人誌。「これはいい本だ!」と直感しました。大好きなものを大好きって言える同人誌はすてきです!
とはいえ、獅子舞って日常であまり接する機会がないですし、好きかどうかと問われても「考えたことなかった」と答えるレベルです。しかし、読んでいくうちに「ん?」と引っ掛かるところが。あれ? 獅子舞って、緑のボディーに赤い顔の姿で、人間2人が中に入っているものを想像していたのですが、それ以外にもあるんですか?
こちらの本によると、獅子舞は大きく分けて2種類。「おししまいまい」の1巻右に描かれている「二人立ち」と、左に描かれているような「一人立ち」(3人で舞うことも多いので「三匹獅子」とも)があるんですって。私が想像していたのは二人立ちの方でした。同じ獅子舞というくくりの中でも、一見して分かる違いがあるんですね。前者は海を渡った大陸にルーツがあり、後者は日本古来の動物を頭のモチーフとすることが多いのだとか。一口に獅子舞と言っても幅が広い。これを一言で作者さんは「いろんな獅子舞、万歳!」と表現しています。強い……あまりにも獅子舞に対する愛が強い……!
ルーツを調べて現場に行こう! いとおしくなるレポート
「おししまいまい」は獅子舞の系統にはじまり、舞の意味、頭部や持ち物の解説、どこで獅子舞が見られるのかなど、充実した情報が掲載されています。
例えば、舞のストーリーを読み解くと、三匹舞で多く見られる弓をくぐる動作は、「異界から現世にやってくる」「彼岸と此岸を行き来することで特別な力があることを示す」という意味に解釈できるのだとか。うわ、ものすごくかっこいい! 胸が高鳴ります。異形の神が里に降りて舞うんですよね? うう、ファンタジー設定好きの血がふつふつと沸騰してきます。
さらに「死力を尽くして結界を越えた獅子たちが安住の地を見つける」という流れもあり、なかには「越境に精魂尽き果てて獅子が眠ってしまう舞」もあるんですって。ちょっとお聞きになりました? 眠っちゃうんですって! もー、獅子舞、かわいすぎじゃないですか!? あと、「花見に行って、その美しさに酔って花を散らさんばかりに楽しく遊ぶ姿が演じられたり」とか。特別な力を持つ強い獅子が、お花見でダンス……。かわいい……。ちょっぴり強面(こわもて)かなぁと思っていた大きな目や、ゴツゴツした口元が、ものすごく愛らしく見えてきました。
他にも、一体を複数人で操る「獅子神楽」の見どころ紹介では、あの風呂敷のような体部分にスポットライトが当たっています。実は、体部分にはよく見ると、獅子舞独特の「獅子紋」が描かれていて、若い獅子(ライオン)に現れる、体毛の渦巻きを表現しているのだとか。えっ、なんだか妙なところでリアルなこだわりですね。そんなところから、「獅子神楽」が大陸を渡ってやってきた文化だと言うことをあらためて感じたりします。現在では、各地で微妙に模様が違うらしいので、獅子舞に出会った時は体も要チェックですね!
こういった知識を仕入れたら、「やっぱり実際に獅子舞を見てみたい」という気分になりますよね。そんな時は、作者さんが実際に各地に足を運んで書かれた見学記がとっても楽しく、お役立ちです。イラストがついたレポートは分かりやすく、お祭りをそっと拝見していたら、あったか甘酒をいただいたというすてきなエピソードや、「夏場の獅子舞見物は虫刺され対策必須ですよ。すごいことになるから」など、ちょっとしたこぼれ話にもくすっと笑ってしまいます。
参考文献も紹介されていて、獅子舞ファンにうってつけの1冊
現地見物記には開催時期、伝承地(開催地)、問合せ先と交通機関などの情報が添えられ、巻末には参考資料一覧も載っています。獅子舞に興味を持った時には、これはとってもありがたいですね。さりげなく「CiNiiがいいですよ」(日本の論文や、大学図書館所蔵の資料が探せるWebサイト)と、より深く調べるためツールを紹介されていたりして、作者さんが日々獅子舞の資料を探し求めてこられた、地道ながらも愛ある探究心をひしひしと感じます。
他にも、獅子舞モチーフのお菓子や、自宅を改造して作ったため館長が在宅時しか開館しない私設獅子博物館の来訪レポートなど、隅から隅まで獅子舞好きの気持ちが伝わる1冊です。
今週のシャッツキステ
著者紹介
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