「レベルの高い魔物は勇者の村へ直行で」 人間界の有能秘書が魔王の世界征服にバリバリ協力する「魔王の秘書」
「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!」第82回。さらってきた人間の奴隷は、超有能な女性秘書だった!
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。
2カ月ほどお休みをいただきましたが、連載再開となる今回は、Webコミックサイト「アース・スター」から、鴨鍋かもつ先生のRPG風ファンタジーコメディマンガ「魔王の秘書」(〜1巻、以下続刊/アース・スターエンターテイメント)をご紹介します。
さらってきた奴隷が世界征服にめっちゃ協力的
長らく平和が続いていた地に、光の勇者の誕生と同時に封印されていた魔王が復活するという、RPGの王道から展開する本作。うっかり寝過ごして復活が14年遅れるなど何とも中年オヤジっぽさが漂う魔王でしたが、魔物たちを前に自らの復活を高らかに宣言。さらに世界征服の野望を実現するため、まずは奴隷にする人間を捕らえるよう命じます。
その条件は「知能の高い学者など」「男はむさくるしいからなるべく女」「愛嬌のあるタイプで年齢は若いほど良い」「できれば胸も大きめで、常に三歩下がってついてくる慎ましさ」「奴隷生活を耐え抜く生活力」「相手の言動に否定から入らない気遣い」などなど。
最初の1つを除いてただの個人的趣味ではないかというツッコミはさておき、それなりに条件に合うかたちで手下がさらって来たのは某先進国の国王秘書。クールなメガネ秘書とか完璧じゃないですか!
捕まえてきた他の人間たちとは違い、抵抗することもなく感情も乱すこともない彼女。命が惜しくば従えと脅す魔王に対して堂々と答えます。
「頑張って世界から人間を根絶やしにしましょう!!(私以外の)」
命惜しさに腹をくくった末のすがすがしい物分かりの良さ。その上、奴隷ではなく部下としての雇用契約(給金あり)を要求する彼女は、かくして「魔王の秘書」として魔王の居城で働くことになるのでした。
秘書「勇者は最初の村にいる段階で叩け」
さて、秘書として世界征服に手を貸すことになった彼女は、就任のあいさつを兼ね、まず多くの魔物を前に今後の計画について語りはじめます。
「レベルの高い方は勇者の故郷に直行で」「そこでまず一気に勇者を叩きます」「蘇生手段を絶つため神官や僧侶も順に手にかけましょう」
援軍を送るであろう周辺国との関係遮断や回復アイテムの強奪など含め、勇者を失った世界を掌握するのにかかる時間は75時間(秘書調べ)。計画を聞いていた魔物たちからも「さすがに3日はないだろ……」と人類に情けをかけられる始末。
さらに魔王軍のリスクを軽減する別案として、彼女が提案したのは、遅効性の疫病を農作物に仕込み、交易を通じて病を広め、社会混乱が起きたところを一気に叩くというアイデア。仮にその後、勇者が現れたとしても、「死にゆく人々と混沌に包まれた世界を見てメンタルは非常に弱まると思いますので、そこを魔王軍総員で潰しましょう」。この秘書、有能。超有能。
計画を聞いていた魔王軍一同さえ目が点になるほどの征服計画ですが、RPGをプレイしたことのある人なら、レベル1のフィールドにいきなりギガンテスがうろついていたり、回復アイテムを売る道具屋や、蘇生してくれる教会が焼き払われて回復の手段を絶たれたりする辛さが身にしみて分かることでしょう。伝染病でじわじわと人間社会を蝕んでいくアイデアにいたっては、いったい人と魔物のどちらが悪魔なのか。やはり一番怖いのは魔物より人間なのかもしれません。
最短75時間で終了する秘書立案の世界征服計画は、さすがに時期尚早と判断したのか、ストーリーは、旧世紀的なやり方がはびこっていた魔王軍の組織改革に向かいます。
「労働環境の改善」「新しく軍に採用する魔物の集団面接」「営業、開発、総務、人事などの部署作り」「保養施設や家族手当の支給ほか福利厚生制度の充実」など、社員……もとい魔物が働きやすい環境を秘書は次々と整備。やり手の秘書を前に魔王の威厳も形無しですが、ともあれ魔王軍は着実に力を蓄えていきます。
一方その頃、秘書を失った某先進国は、それまで彼女に束縛されていた国王が解放感から専横を悪化させて混乱。秘書の有能さは世界のパワーバランスを崩すレベルに達していました。
RPGあるあるだけじゃない物語の深み
こんなふうに本作は、RPGのお約束に現代的なツッコミを入れていくコメディがメインではありますが、一方で「なぜ魔王が生まれるのか」という魔王本人にも答えが出せない根源的な問い、またなぜ彼女が名前ではなく「秘書」と肩書きで呼ばれるのかという、出生の秘密など時折交じるシリアスさも物語に深みを添えています。
さらに、本巻のラストでは社内、じゃなかった魔王軍の環境整備に目が行ってばかりで、すっかりスルー扱いだったあの名前が告げられます。そう、光の勇者です。
有能な秘書の手腕によってホワイト企業へと変貌を遂げた魔王軍は、「まばゆい光の強大な力」で一瞬のうちに魔物を討った光の勇者を打ち破り、世界征服を果たすことができるのか。RPGのお約束「正義は勝つ」を覆せるかどうか、次巻に注目です。
それにしても、手下の魔物たちを無計画に特攻させては返り討ちに遭う「魔王にありがちなこと」は、あくまでゲームだから本作のように「バカだなー」と笑ってツッコめますが、哀しいかな、社員の負担と犠牲の上に成り立ち、なおかつ福利厚生もなおざりな魔王軍顔負けのブラック組織が少なからず現実にあることを考えると、やっぱり本当に怖いのは魔物より人間なのかもしれません。
そんなしんみりした気持ちになりつつ、またクールなメガネ美人好きとして、「冒険者の身ぐるみは所持金半分と言わず、全部剥いでください」をこともなげに言える秘書のさらなる活躍を願いつつ、今日はこれにて筆を置きます。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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