ニュース
» 2019年01月26日 11時00分 公開

アニメ会社「リテイクが直らなかったら50%減額」 その発注書大丈夫? アニメ会社、日本動画協会、JAniCAに聞いた

どうなのでしょう。

[福田瑠千代,ねとらぼ]

 2018年11月、あるアニメ制作会社(以下、A社)の、アニメーターへの発注書がTwitterに投稿され注目を集めました。


画像 取材の中で入手した実際の発注書

 そこに書かれていたのは、「(原画が)リテイクを経ても評価が変わらない場合、発注時提示価格から-50%の支払い」「納期超過した場合 48時間経過で-5% 以後24時間ごとに5%ずつ減額し、累積で25%まで減額」など、クオリティーや締め切りに対する厳格な内容でした。



 これに対しTwitterでは賛否が巻き起こります。「スケジュールを管理する立場からするとこれくらい厳しくても良い」と発注書の文面に賛同する意見もある一方で、「下請法に抵触するのではないか?」という意見も。



 納品物のクオリティーや、納期超過へのペナルティーについてこれほど厳密に定めた発注書は珍しいため、ねとらぼ編集部ではその意図や効果についてA社に取材を申し込みました。

 合わせて、「下請法上問題はないのか?」という疑問もあったため、その適法性について、アニメ制作等に詳しいB弁護士、業界団体の日本動画協会と日本アニメーター・演出協会(JAniCA)にそれぞれの見解を聞きました。

 結論からいうと、「下請法違反とは断定できない」「ただし一考の余地あり」というのが実際のところのようです。


そもそも資本金1000万円以下の会社に下請法が適用されない

 ツイートでは当該アニメ制作会社の社名は明かされていませんでしたが、取材を進めていく中でA社だと判明。公式サイトの情報によると、同社は資本金が1000万円以下であることが判明しました。

 下請法は資本金が1000万円を超える法人企業に適用されるものなので、この時点で「下請法には抵触しない」ことが確定します。しかし公正取引委員会は「下請法の対象とならない取引であっても、独占禁止法上の優越的地位の濫用(らんよう)に当たる行為に対しては、厳正かつ効果的に対処してまいります」とも表明しています。

 以下の取材では、A社の発注書は「独占禁止法上の優越的地位の濫用」に当たるのか? と、資本金が1000万円を超える会社が同様の発注書を使用した場合に問題はないのか? について各所に取材しています。


A社「下請法違反ではない」

 A社に質問状を送ったところ、次の回答がありました。


ねとらぼ:発注書に対して「下請法違反」あるいは「独占禁止法上の優越的地位の濫用」に当たるのではないか? という意見がありますが、こちらについてどうお考えでしょうか。

A社:お問合せの件、下請法における下請代金の減額(4条1項3号)に該当するのではとのご趣旨と理解いたします。この点、下請代金の減額が禁止されるのは、条文上「下請事業者の責に帰すべき理由がない」場合とされております。

 本件では、下請事業者が納期遅延を起こす場合であり、顧客に対する納期厳守が求められている現場において、それにより下請事業者による給付の価値が低下することは明らかですので、減額は可能であり、また減額の割合も客観的に相当といえます。従いまして、ご指摘は当たらないと考えます。


画像 取材の中で入手した実際の発注書

 この他、ねとらぼ側からは「同様の発注書をどのような作業者(社内・外のアニメーター、色彩、美術等)に対して使用しているか?」「このような発注書を定めた経緯」「どのようなメリット・デメリットがあったか?」といった質問を送りましたが、A社からは「(前述の回答については)適法性の問題であるため念のため回答いたしましたが、その他のご質問については、弊社の社内情報に関するものとなりますため、回答を控えさせていただきます。ご理解のほど、よろしくお願いいたします」と、ノーコメントでした。

 このA社の回答を受けて、ねとらぼ側でB弁護士に質問しました。


弁護士「適法性に疑問」

ねとらぼ:A社の回答について、どのように思いますか。

B弁護士:先方の回答の妥当性には疑問があります。

ねとらぼ:考えられる問題点としてはどのようなものがありますか。

B弁護士:資本金1000万円以上のアニメ会社が同様の発注書を用いた場合、親事業者として下請法に抵触するおそれがあります。また、本件の場合でもA社が優越的な地位に当たる場合、独占禁止法で禁じられている不公正な取引方法(優越的地位の濫用等)に該当するおそれがあります。

 取引の相手方の仕事に関して、遅延や瑕疵等が仮にあったとしても、その事由を勘案して相当と認められる範囲を超える金額が減らされる場合には、下請法違反や優越的地位の濫用に当たるおそれがあります。

 本件では、納期超過の場合、48時間経過で5%、さらに24時間ごとに5%(最大25%)という金額が減額されるとされていますが、その減額金額に相当性があるか疑問が残ります。


画像 ちなみに入手した発注書では作業期間は3日間だった

B弁護士:納入物の合否について不合格かどうかについても、合格査定項目が定められているものの、注文内容が不明確であるなどするのであれば、一方的な減額となりかねず問題となります。また、不合格であった場合には、程度について考慮されることなく、一律50%減額としている点には相当性があるとは言い難いと考えます。


 B弁護士によると、発注書の文面は明確に違法であるとは言い切れないものの、納期超過やリテイク時に発生する減額が一律で行われる点には疑問を覚える、というものでした。適法性についてさらに確認を取るべく、業界団体である日本動画協会とJAniCAにそれぞれ取材しました。


日本動画協会とJAniCAの見解

日本動画協会の回答

ねとらぼ:発注書の文面は下請法違反、もしくは独占禁止法上の優越的地位の濫用に当たる可能性はないでしょうか? なお、該当企業は資本金が1000万円以下のため、下請法は適用されません。

日本動画協会:当協会は下請法ならびに独占禁止法について判断する立場になくお答えできない。

ねとらぼ:このような発注内容はアニメ業界で一般的なのでしょうか?

日本動画協会:発注方式は各社で形式等を定めており、当協会では把握していないためお答えできない。

 なお、当協会としましては、「アニメーション制作業界における下請適正取引等の推進のためのガイドライン」講習会を会員を対象に毎年開催しているほか、放送コンテンツ適正取引推進協議会の一員としてテキストの作成や研修会の開催、「放送コンテンツの製作取引適正化に関するガイドライン」講習会について開催告知を行うなど、会員各社が適切な発注体制を整えるための支援を継続して行っております。


 と、残念ながら事実上のノーコメントでした。


JAniCAの見解は

ねとらぼ:発注書の文面は下請法違反、もしくは独占禁止法上の優越的地位の濫用に当たる可能性はないでしょうか? なお、該当企業は資本金が1000万円以下のため、下請法は適用されません。

JAniCA:アニメ制作にも下請法が適用され得ますが、お尋ねの発注書は資本金1000万円以下の株式会社によるものということですので、下請法の資本金要件を満たさず、法的に下請法違反の可能性はないと言わざるを得ないかと存じます。

 他方、独禁法上の優越的地位の濫用については、専ら減額率が一義的に定められている点、リテイクが戻ってきてから納期までの長短に関わらず納期に関しては原則変更がないとされている点などに関して、議論の余地はあり得るといってよいと考えます。下請法の適用基準としての資本金基準の問題を別とした場合には、下請法違反の可能性がないわけではないものと理解しております。

ねとらぼ:このような発注内容はアニメ業界で一般的なのでしょうか?

JAniCA:一般的ではありません。アニメ業界の場合、発注に際して契約が定められる場合は少なく、対象カットと単価など、ごく限られた記載しかされていない発注書などの伝票が取り交わされる場合が一般的ですが、今回の発注書のように具体的な記述のあることはまずないと思います。

 業界の現状に一石を投じようとした、この発注書を定めた制作会社の意図は一定、評価されてよいと考えます。しかし、「絵に問題があっても、芝居や動きはとても良い」、逆に「一見絵は良いが、動かす技術や描こうとしている芝居自体に問題がある」など、明らかな「不良」以外にも「不良」の程度や内容はさまざまです。このような個別事情からすると、検討の余地があると考えます。


「現状に一石投じる」側面も?

 JAniCAによると、近年アニメーターの不足などから、「水準に達していない原画上がりをスケジュールなどの理由からリテイクとせず、メインスタッフで全面修正するが、使われなかった原画を上げた原画マンには満額が支払われる」ケースが見られるとのこと。

 腕が伴わないにもかかわらず「描き散らす」ことで多くの収入を得るアニメーターがいる一方で、腕の良いアニメーターが他人の修正に追われ、ほとんど全てを描き直した当人が、修正前のカットを担当した人よりも少ない対価しか得ることができない不合理な状況が生じているといいます。

 A社から発注書の意図についてコメントを得られていないため、JAniCA側の推察という形にはなりますが、過激とも取れる発注書の文面にこうした現状を改善しようと試みる意図を読み取るのは自然であると感じました。

 とはいえB弁護士やJAniCAも指摘したように、ともすれば一方的に減額ができてしまう文面には疑問が残ります。また、そもそも原画を「描き散らす」アニメーターがいたとして、そうした作業者に発注せざるを得ないスケジュール体制や、それを助長している業界構造が問題の根本であるように思えます。

 JAniCA側は加えて、アニメ制作の取引を巡り、2018年秋以降総務省や経産省厚生労働省など、官邸を中心に公的な取組が進められている取り組みを紹介。今後は「事実に基づき、より多くの関係者が参加して、建設的な議論の上に取組の進められることを期待しております」ともコメントしています。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.