マンガに忠実な「べそべそ」名演 ドラマ「きのう何食べた?」の内野聖陽がすごすぎる
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よしながふみ原作、西島秀俊、内野聖陽主演のドラマ24「きのう何食べた?」(テレビ東京)がスタートした。4月12日深夜0時12分に2話が放送される。
人気マンガの実写化には「イメージと違う!」というネガティブな感想がつきものだが、本作に関してはほぼ絶賛のみ。それぐらい筧史朗(シロさん)役の西島秀俊はぴったり合っていたし、矢吹賢二(ケンジ)役の内野聖陽は役柄に見事なまでになりきっていた。
せりふやエピソードも、原作1巻のいくつかのエピソードを巧みにシャッフルしつつ、見事なまでの原作リスペクトぶりを発揮。細かなせりふまわしも原作に忠実で、「ああ、おれは今、『きのう何食べた?』を見ているんだなぁ……」と至極当たり前の感想を抱いてしまった。
それにしてもすごいのは内野聖陽だ。クライマックスでケンジが泣くシーンは本当に「べそべそ」という擬音が聞こえてきそうだったし、ハーゲンダッツを食べないと拒否するシロさんをジト目で見る表情は本当にケンジそのものだった。すごすぎ。
平成最後のホームドラマは同性カップルが主役だった
オープニングは、ケンジが料理中のシロさんと自分をスマホの自撮りで撮影しているという趣向。スマホを横置きすると2人が「いただきます」と手を合わせて、メインタイトルが出て本編に入る。まぁ、なんというかケンジが可愛らしく、ニコニコ笑っているシロさんも含めて大変ほほえましい。
前回のレビューで、本作について「(グルメドラマというより)同性カップルの家庭生活を描く王道のホームドラマ」と予想したが、1話を見るとまさに的中したと言っていいと思う。昭和の時代に隆盛を極め、平成の時代には(アナクロな「渡る世間は鬼ばかり」以外)ほとんど見られなくなったホームドラマが、新しい元号を迎える間際にこうした形で世の中に登場したのが感慨深い。「平成最後のホームドラマは同性カップルが主役」だったというわけ。
オープニングの最後で横置きされたスマホが映し出すものは、40代半ばを迎えた同性カップルの普段の生活だ。彼らは弁護士と美容師なので基本的に休みが合わず、顔を合わせるのは朝夜の食事ぐらい。だから必然的に食事が彼らの生活の中心になる。料理シーン、食事シーンも原作ファンの期待にたがわぬもの。レシピは原作通りで、西島のナレーションにあわせて料理の手順もしっかり見せる。「クツクツ」「ジャーッ」「ジュー」などの調理音も心地よい。調理道具や家電に注目するのも楽しいと思う。
彼らの部屋の照明はちょっと暗めなんだけど、食卓だけはバッチリ明るくて、食事をよりおいしそうに見せてくれる。細かい揉めごとはしょっちゅうあるし、将来のことを考えるとちょっと暗い気持ちになったりするけど、好きな人と一緒においしい食事を食べれば幸せな気分になる。そんなことをくっきり伝える食卓の演出だった。
ちょっとゆったり、極力普通
「原作通り!」「イメージぴったり!」という声が圧倒的に多い本作だが、ドラマを見た後に原作を読み返すとテンポ感が1.5倍ぐらい早く感じる。コマの中にはセリフが多く、登場人物たちは、たぶんけっこうな早口で喋っている。逆に言えば、ドラマのテンポはちょっとゆったりめ。週末の深夜に見る番組だから、視聴者にリラックスしてもらおうとする意図があるのかもしれないが、このゆったりしたテンポもちょっとホームドラマ感がある。
監督の中江和仁は主にCM畑で活躍してきた人物。CMからドラマや映画にやってくる人といえば、キレキレでキメキメの中島哲也的な映像をイメージしがちだが、中江監督が手掛けてきたのは食べものや飲みもののCMが中心。いわば、どこにでもあるようなものをごく普通に、自然に描いてきた。長編初監督作である、長澤まさみ、高橋一生主演の映画「嘘を愛する女」でも、「極力普通っぽくすること」に一番こだわったと語っている(「Rolling Stone」2018年4月5日)。
なんでもないような日常となんでもないような食事を、ちょっとゆったり、極力普通に描いたのがドラマ「きのう何食べた?」なんだろう。主人公は同性愛者だけど、そんなこと別に特別なことじゃないんだよ? ドタバタすることもなくない? と静かに語りかけているようなドラマだった。
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4月2日20時57分よりTBS系列でゴールデン初放送。
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