ローカル線を救う夢の乗りもの……!! きっと興味が沸く、いちばん分かりやすい「DMV」のお話【写真62枚】:月刊乗り鉄話題(2019年11月版)(3/5 ページ)
各地のローカル鉄道・自治体が注目! しかし……
DMVは開発当初から各地の自治体に注目されていました。特に過疎地の交通手段、ローカル鉄道の救世主として期待されました。
DMVは2008年の洞爺湖サミットでダーウィン920形が公開され、世界からも注目されました。JR北海道では開発当初から4路線で営業試験運行を実施します。他の自治体にも貸し出され、岳南鉄道(静岡県)、南阿蘇鉄道(熊本県)、天竜浜名湖鉄道(静岡県)、明知鉄道(岐阜県)で走行試験を実施します。このほかにも、山形鉄道や三木鉄道(兵庫県、後に廃止)などが試験導入を検討します。
しかし、これまで10年以上、実用化に至りませんでした。その理由は前述した定員の問題だけではありません。列車/バスに変身する「モードチェンジ」に必要な設備が新たに必要でした。車両のサイズに合わせて駅のプラットホームも低くする必要もありました。
さらに深刻な問題は保安設備です。鉄道は信号機や踏切を作動させるために、線路側に検知システムを設置しています。DMVはバスとしては重い車体ですが、鉄道車両に比べれば軽いため、検知システムが作動しにくいのです。そのために「DMV用の保安システムを用意する」ことになります。車両は安くできるかもしれませんが、線路側に追加コストが掛かります。既存の鉄道車両と同じようには扱えないので「混在しにくい」ことも分かりました。
さらにJR北海道の問題も重なりました。JR北海道は2013年ごろから不祥事が発覚。合わせて赤字体質が大きな問題となりました。そのため経営資源を新幹線と安全対策に集中し、あらゆる新規開発は停止となります。DMVについては、国が注目していたことから国土交通省の活用検討会に引き継がれました。
徳島県の英断で「阿佐海岸鉄道の実用化」が決定
各地のローカル鉄道と自治体がDMVを検討しつつも不採用となる中で、ただ1つDMV実用化を諦めなかった自治体がありました。徳島県です。
徳島県は高知県などと出資している第三セクターの阿佐海岸鉄道でDMVを運行することに決めました。阿佐海岸鉄道は、徳島県南東部の海陽町にある海部駅と、高知県東端の東洋町にある甲浦駅を結んでいます。中間駅は宍喰駅の1つだけ。距離は8.5キロという短い路線です。もともとは室戸半島を周回して徳島市と高知市を結ぶ壮大な計画「阿佐線」の一部でした。しかし当時の国鉄の赤字問題で建設中止となり、完成されても未開業だった区間を引き継いだ路線ということになります。
阿佐海岸鉄道も多くのローカル鉄道と同様に赤字です。しかし営業距離が短いことが幸いし、他の赤字路線ほど赤字額は大きくありません。そして他の路線で導入できなかったDMVを導入できる理由も、この路線長の短さにありました。駅の改良も、保安システムの整備も、DMV用に改修する区間が短いので、投資額を抑えられたのです。
DMVの欠点の1つである定員についてもここでは大きな問題になりませんでした。幸か不幸か、阿佐海岸鉄道の1列車あたりの平均乗車人数は約4人。通学時間帯の混雑もありません。なにしろ通学定期の発行数はゼロの路線。通勤定期もごくわずか。乗客のほとんどが観光客か、JRを利用して遠方に出掛ける人、そしてお遍路さんです。
つまり、定員100人のコストが掛かる大きな鉄道車両を走らせるよりも、定員22人のDMVで十分です。むしろ、その定員22人を埋めていく努力が求められます。こちらは、世界で初めて運行するDMVによって、観光に活路を見いだす考えです。
2019年11月現在、甲浦駅ではスロープとモードチェンジ設備を建設中。海部駅側はスロープの建設が難しいため、JR四国より牟岐線の地上駅、阿波海南駅にモードチェンジ施設を作る予定です。牟岐線の阿波海南駅〜海部駅は、阿佐海岸鉄道に移管されます。
残す問題は他の地域からの「遠さ」です。徳島空港からも高知空港からも遠い場所。徳島からはJR四国の牟岐線で、高知からは土佐くろしお鉄道と高知東部バスを乗り継ぎます。DMVに乗りに来た人が心地よく滞在できるリゾートへ。沿線地域のチャレンジが「DMV」で始まります。
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