震災からの復興を機に駅弁業へ 鳥取駅弁・アベ鳥取堂 阿部社長に聞く(1/12 ページ)

毎日1品、全国各地の名物駅弁を紹介! きょうは鳥取の名駅弁店、アベ鳥取堂編(2)です。

» 2021年05月27日 08時30分 公開
[ニッポン放送(1242.com)]
ニッポン放送
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
駅弁 城下町とっとり
駅弁 駅弁 駅弁 駅弁 駅弁 駅弁 駅弁 駅弁 駅弁 駅弁

「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第25弾・アベ鳥取堂編(第2回/全6回)

駅弁 キハ187系気動車・特急「スーパーまつかぜ」、山陰本線・泊〜松崎間

駅弁店には、鉄道駅で販売されるご当地名物の弁当の製造という“表の顔”と、地域の食のインフラという“もう1つの顔”があります。地震国・ニッポン。これまで多くの地域をさまざまな地震が襲い、地域の暮らしに大きな影響を及ぼしてきました。今回の「駅弁膝栗毛」でお邪魔している鳥取駅弁「アベ鳥取堂」は、鳥取を襲った大きな地震が大きなターニングポイントとなった駅弁屋さんです。

駅弁 鳥取駅

東海道本線の京都から日本海側を回って、下関の手前、幡生までを結ぶ山陰本線。国鉄時代、名物列車として知られたのが、大阪〜博多間の特急「まつかぜ」でした。平成15(2003)年10月、山陰本線・鳥取〜米子間の高速化工事の完成を受け、「スーパーまつかぜ」として、“まつかぜ”の愛称が山陰本線に復活。キハ187系気動車によって、上下14本が鳥取〜米子・益田間で運行されています。

駅弁 阿部正昭(あべ・まさあき)氏 昭和32(1957)年1月1日、鳥取市生まれ。株式会社アベ鳥取堂3代目。東京都内の大学を卒業後、昭和54(1979)年に帰郷し、アベ鳥取堂入社。昭和59(1984)年、27歳の若さで社長に就任。以来40年近くにわたって、アベ鳥取堂が誇る数々の駅弁を送り出している

そんな山陰本線の主要駅の1つ、鳥取駅。鳥取駅の駅弁を製造・販売するのが「株式会社アベ鳥取堂」です。阿部正昭代表取締役社長に、お店のヒストリーとエピソードを伺います。

アベ鳥取堂、ルーツはお菓子屋さん

―:「アベ鳥取堂」は、明治43(1910)年創業で、去年(2020年)が創業110年でした。阿部家が商売を始めたきっかけについて、簡単に教えていただけますか?

阿部:いまは鳥取市内となっている宝木(ほうぎ)出身の私の祖父(初代)が丁稚奉公して、菓子の製造卸・小売の店を開いたのが最初です。だから、「○○堂」という菓子屋がつける屋号なのです。祖父は、経営が軌道に乗るにつれて徐々にお店を拡大し、酒の卸・小売、米の卸・小売、さらには木炭の販売をしたり、鳥取の菓子業者の組合で役職も務めたと聞いています。

駅弁 アベ鳥取堂・阿部正昭代表取締役社長

―:いまは鳥取駅に近いところですが、昔はいまより少し離れた場所にあったそうですね?

阿部:創業の地は、いまある場所からは少し離れた、鳥取市の立川1丁目というところです。お城の山の麓で、昔はこの辺りが、まちのメインストリートだったと言います。通りのつき当たりに戦前は陸軍があって、演習場のあった砂丘と結ばれていたそうです。そのころ、どんなお菓子をつくっていたのかという記録は残っていませんが、私が小さいころ、カニの形をした「かにあめ」をつくっていた記憶があります。

―:その旧陸軍とも関係があったそうですね?

阿部:昭和の初めごろ、鳥取にあった陸軍歩兵第40連隊の御用達となりました。陸軍にも近いところにあったお店ということで、終戦までの間、食糧をはじめ、さまざまな物資のお世話をすることになったのではないかと思います。いま鳥取駅がある辺りは、当時としては街はずれで、鉄道の開通によってまちが発展していったものと考えられます。

駅弁 現在の立川町1丁目付近。自由律俳句の俳人・尾崎放哉の句碑がある

鳥取地震から3週間、「旅人のために」駅弁参入を決断!

―:鳥取駅から遠かったにもかかわらず、戦時中の昭和18(1943)年というタイミングで、「駅弁」に携わることになったきっかけは何ですか?

阿部:昭和18(1943)年9月10日に発生した鳥取地震(地元では鳥取大震災)です。これで鳥取の中心部の建物は、ほとんどが倒壊、焼失してしまい、それまでの駅弁屋さん「木島屋(きしまや)」も廃業することになってしまったんです。祖父は戦時中も食材の仕入れ等で全国を回っていて、駅に食べ物がないことが、旅行者にとってどんなに辛いことであるかを知っていました。

―:アベ鳥取堂にも被害はあったのですよね?

阿部:ただ、アベ鳥取堂があった山に近い地域は、地盤が強くて大きな被害を免れました。祖父はこの緊急事態に「何かできることはないか、ものをつくって駅で売りたい」と決心して、鉄道省に鳥取駅における構内営業の申請を出しました。そして、大地震から約3週間後の10月から「アベ鳥取堂」は、鳥取駅の駅弁を製造・販売することになったのです。

最初の駅弁は「パン」駅弁から!

―:参入当初、どんな駅弁をつくっていましたか? 菓子の技術を使っていたそうですが?

阿部:「ほんじゅう」という駅弁をつくって売っていたと、父から聞いています。レシピは残っていませんが、かつて祖父を取材した新聞記事によると、食糧不足ゆえに、昆布で味付けしたサツマイモと大豆、小麦粉を混ぜて固めたパン弁当だったそうです。見た目が黒くて、誰にも見向きされなかったそうですが、さまざまなお店に、試食をお願いして歩いて、1年後には行列ができるほどになったと言います。(参考)読売新聞・昭和44(1969)年9月22日付

駅弁 城下町とっとり

鳥取地震やその後の大火のために、残念ながら古い建物が残っていない鳥取のまち。かつての城下町で育まれてきた文化を後世に残す役割も持ってつくられている駅弁が、「城下町とっとり」(1080円)です。掛け紙は、天和3(1683)年、鳥取城の修復を幕府へ願い出たときに提出した絵図の控えで、鳥取県立博物館の貴重な史料を借りて作成したと言います。

駅弁屋さんの多くは、いまも駅のそばに立地しており、列車が災害等で長時間足止めを強いられた際などの炊き出しに対応できるようになっています。その意味では、駅弁と災害は、切っても切り離せない関係と言ってもいいでしょう。

もう1つ、駅弁に大事なのが「ご当地性」。山陰・鳥取の名物といえばやっぱり「かに」です。駅弁膝栗毛の人気特集企画「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第25弾・アベ鳥取堂編。次回は、阿部社長に名物、「元祖かに寿し」の誕生秘話を伺います。

城下町とっとり

駅弁 城下町とっとり

【おしながき】

  • 白飯 梅干し
  • 焼き鯖
  • 蒲鉾
  • 玉子焼き
  • 天ぷら(いも、海老、紅生姜)
  • 鶏の唐揚げと玉ねぎの南蛮漬け
  • 鯛ちくわ素揚げ 七味がけ
  • 煮物(信田巻、大根、椎茸、もみじ人参)
  • 蓮根酢漬け 枝豆
  • するめの麹漬け
  • うずら豆甘煮
  • 梨のワイン煮
駅弁 城下町とっとり

脂がのった鯖の塩焼き、蒲鉾、玉子焼きの“三種の神器”が入った正統派幕の内駅弁。なかでも注目すべきは、鯛のちくわの素揚げ。さまざまな魚で練り物がつくられている鳥取らしいおかずで、七味のピリ辛食感が好印象。するめの麹漬けと合わせて、酒のつまみにも合いそうな構成となっています。デザートに梨のワイン漬けまで入って、至れり尽くせりのお得な幕の内です。

駅弁 キハ126形気動車・快速「とっとりライナー」、山陰本線・泊〜青谷間

(初出:2021年4月12日)

連載情報

photo

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史

昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。

駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/


※新型コロナウイルス感染症、Go To事業、運行状況に関する最新情報は、厚生労働省、内閣官房、首相官邸、国土交通省・観光庁のWebサイトなど公的機関で発表されている情報、鉄道事業者各社の情報も併せてご確認ください


おすすめ記事

「駅弁膝栗毛」バックナンバー

       1|2|3|4|5|6|7|8|9|10|11|12 次のページへ

Copyright Nippon Broadcasting System, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2403/21/news036.jpg 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  2. /nl/articles/2504/19/news039.jpg 人里離れた山にカメラを設置→1週間後…… 「なんで?」映っていた“意外すぎる住人”に「笑った」「実在していたのか!」
  3. /nl/articles/2504/21/news024.jpg 「安すぎる!」 ワークマン“980円バッグ”に絶賛の声続出 「文句なし」「コスパ最強」「シンプルで使いやすい」
  4. /nl/articles/2504/18/news140.jpg 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」話題になった飼い主に聞いた
  5. /nl/articles/2504/19/news051.jpg 湘南の砂浜に打ちあがった“超危険生物”を飼育したら…… 貴重な姿に「初めて見ました」「かっこいい」と大反響→2年後の現在について話を聞いた
  6. /nl/articles/2504/21/news036.jpg 押し入れに眠っていた“40年前の出産祝い”、開けてみると…… “昭和らしい品”に反響「感無量ですね」「状態がいいのも驚き」
  7. /nl/articles/2504/20/news028.jpg 庭にビオトープを作ったら、生物多様性が爆上がりして…… “まさかの生き物”の来訪に驚がく「え?マジすかw」「存在感すごい」と620万表示
  8. /nl/articles/2504/21/news034.jpg ゴミ屋敷に嫁いだ女性 あるとき“9歳息子の本音”を耳にし……100日間の戦いが1000万再生「最後泣きました」「大変だったろうな」
  9. /nl/articles/2504/21/news043.jpg ←お弁当の理想 現実→ 高校生息子の母が明かした“リアルな光景”に「共感しかない」「ジワっときました」
  10. /nl/articles/2504/21/news032.jpg 150万円で買ったジャングル廃墟→家族3人で本気DIYしたら……「良くなりすぎた」 見違える結果に「やばい」「憧れる」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 小学生時代「こんなプラモ誰が買うんだよw」→40年後…… “大人になった”を実感するエピソードに「分かる」「特大ブーメランw」
  2. パパに、保育園へ行く娘のヘアアレンジを任せたら…… ママがひっくり返った“仕上がり”が400万表示「重力どこ?」「頑張った感がいい!」
  3. 「神パンツきた」 ユニクロ新作“3990円パンツ”が品切れラッシュの大人気 「過去イチかも」「本当にこれは買い」
  4. なんとなく捨てにくい紙袋→2カ所切り込みを入れるだけで…… 目からウロコの“活用術”に「これすごくいい!」【海外】
  5. 「見習うことばかり」 80代おばあちゃんの春服&収納術がステキ! 上品かつオシャレで「憧れです」「尊敬します」
  6. ファスナーに直接毛糸を編み付けていくと…… 完成した“便利でかわいいアイテム”が100万再生「天才だ」「これ大好き」【海外】
  7. 「尊厳を踏みにじる行為」 八代亜紀さんの“物議のCD”は「流通会社がすでに流通を中止」 タワレコが回答
  8. 古くなったジーンズは捨てないで! 目からウロコの“アイデア”に大反響「なにこれかわいい!」「こんなの作れるんだ」【海外】
  9. 指先サイズの小さな器に木を植えて、育てたら…… 「芸術だ」「半端ない」鳥肌モノの“神盆栽”に反響
  10. 義母「ランドセル代を振り込みました」→銀行口座を見ると…… 2児ママ絶叫の“神対応”が1520万表示「凄すぎる!」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 【べらぼう】“問題のシーン”、「子供に見せられない」 身体張った27歳俳優へ「演技やばくない?」
  2. 「恩師ビックリするやろなぁ」 中学3年で付き合い始めた“同級生カップル”が10年後…… まさかの現在に反響
  3. 「本当に迷惑」 宅急便の「不在連絡票」と酷似のチラシが物議…… ヤマト運輸「配布中止申し入れ」
  4. 「うそでしょ!?」 東京ディズニーランド、“老舗”レストランの閉店を発表 「とうとう来てしまったか」「いやだああああ」と悲しみの声
  5. 雑草ボーボーの運動場に“180羽のニワトリ”を放ったら…… 次の日、まさかの光景に「感動しました」「すごい食欲」
  6. 40歳・女性YouTuber「18年間、脇毛を処理していない」→“処理しない理由”語る 「脇のみならず……」
  7. コメダ珈琲店で朝、ミックスサンドとコーヒーを頼んだら…… “とんでもない事態”に爆笑「恐るべし」「コントみたい」
  8. 息子の小学校卒業で腕を組んだ34歳母→中学校で反抗期を迎えて…… 6年後の姿に反響 「本当に素敵!」「お母さん、変わってない!?」
  9. Koki,、豪邸すぎる“木村家の一室”がウソみたいな広さ! 共演者も間違えてしまうほどの空間にスタジオビックリ「コレ自宅!?」「ちょっと見せて」
  10. 使わない靴下をザクザク切って組み合わせると…… 目からウロコの再利用法が2500万再生「とてもクリエイティブ」【海外】