「24時間『死ね』と言われる」「病んで倒れて一人前」 テレビ業界のイジメ体質と問題点を現役映像作家が告白(2/2 ページ)
――具体的にはどういう状況なのでしょうか。
米田:ポスプロ中は編集マンの横にディレクターがピッタリ付いて編集の指示を行うのですが、その際に「俺の指示を待てよ、死ね!」「言えよ、死ね!」「何やってんだ、死ね!」「バカ! 死ね!」という感じで全ての語尾に「死ね!」がついてきます。
編集は24時間では終わらないため、それ以上の時間ぶっ続けで「死ね!」と言われ続けるので、かなりしんどかったです。
この一件は、私と先輩の2人で担当していたのですが、普段お世話になってる先輩が「死ね」と言われて疲弊していく姿を真横で見ているのも辛かったし、クライアントに何も言い返せない自分自身にも嫌になりました。
――その後もそのディレクターとの仕事が続いたのでしょうか。
米田:基本的には1度担当したディレクターは同じ編集マンが担当するのが慣例なのですが、2回目は別のベテラン編集マンがあてられていました。私から上司に報告するなどはしていませんでしたが、おそらく状況を知った上司が配慮してくれたのだと思います。
――現在は自身で映像デザイン事業を営んでいる米田さんですが、テレビ業界と距離を置いたきっかけは何だったのでしょうか。
米田:過労による体調不良です。お世話になった上司からは「残念だ、惜しい」と声をかけてもらったのですが、生理が止まってしまうぐらいだったので、辞めようと決断しました。
ハラスメントや暴力が横行する原因は――
――米田さんが今回、テレビ業界の問題点をお話しようと思ったのはどういう気持ちからですか。
米田:私が経験したことは8年以上前のことで、今のテレビ局の大勢が昔とどのくらい変わったか定かではありませんが、私自身も周りの人たちも性別に関係なくひどい目に遭っているのを見ていると、これから人生を歩む人たちに同じ目に遭ってほしくないと思うようになりました。
人間は間違いを繰り返してしまいます。だからこそ、何度でも問題を反芻(はんすう)して、一人一人が間違いを繰り返さないための意識を持つことが大切だと感じ、お話しようと決めました。
――性別に関係なくというお話がありましたが、どういう人がハラスメント被害に遭いやすいのでしょうか。
米田:性別は本当に関係ないですね。私が見た中での共通点は、「その場で強く反発しない人」「まじめな人」「華奢な容姿をしている人」が、ハラスメント被害を受けやすいように感じました。特定の独裁的権力のある環境と習慣が、被害を助長するのだと思います。
――テレビ局での勤務時代と独立後ではハラスメントについて意見しやすくなったなど、変化はありましたか。
米田:ハラスメントについて意識する機会は増えましたが、意見したり行動したりはしやすくなっていません。
近年ハラスメント問題に取り組む団体や窓口が増えてきましたが、そうした団体では必ず“誰かの知り合いは知り合い”なんです。映像業界であっても、テレビ業界であっても誰かが被害を告発すれば「その人知り合いだわ」という人が現れます。なので根本的な問題解決には至りにくいんです。
また組織と思想という観点では「保守派」と「過激派」の存在がつきもので、結局派閥の問題になっていきます。どの組織においても、本質的な問題解決のために取り組んでいるのかどうか。私にはときどき覇権争いをしているように見えます
――ハラスメントや暴力が横行する原因は何だと思いますか。
米田:まずは加害者に加害意識が全くないことだと思います。現在私は顧問弁護士と共にハラスメント・誹謗中傷等について勉強しているのですが、いくつもの事例を見て、加害者が「一方的な好意」「正義感」「かわいがり」といった認識をもって良かれと思って加害している場合が少なくないと感じました。
ジャニーズ事務所の性加害問題でもそうですが、前述の通り「独裁的権力のある環境」では被害が見過ごされ、表ざたになりにくいんだなとも感じます。
また被害者側の意識に起因して声を上げづらくなっている場合もあると思います。
――被害者側の意識とは。
米田:そうですね。私にとって映像業界におけるハラスメント問題が始まったのは実は学生時代からで、教員から「ホテルに行こう」と誘われたことがあります。
しかし私自身虐待家庭で育ってきて「ブス」「脂肪の塊」「糞みたいな臭い」と日常的に暴言を吐かれていたこともあり、「自分は生きている価値がない」「ブスはハラスメントをされるわけがない」「セクハラは美人がされるもの」という考えを持ってしまっていたので、当時は「ブスの私がホテルに誘われる」という状況が理解できず被害申告できませんでした。発言した本人たちは加害してる意識はないので、覚えていないと思いますが。
また、ネットメディア、SNS等ではハラスメント被害を訴える人に対し「ブスが勘違いしてる」といった容姿の品定めのような二次加害もよく目にしますね。冷やかしやスティグマ(特定の人などがいわれのない差別などによって不当な扱いなどを受けること)の対象にされる光景を何度も目撃したのも、被害を訴えづらい空気のひとつです。このように(被害者側には非はまったくありませんが)被害者が被害者自身を下げているパターンでは、(加害行為を止められない)悪循環を招く事例があっても不思議ではないと思います。
また、私自身もそうでしたが、仕事をしていくうえで良い上司もいたり、技術を身につけさせてもらったという罪悪感もあったりで、なかなか言い出せない人もいると思います。
ハラスメント被害を減らすために必要な事
――映像業界のハラスメント問題を減らすために必要なことは何だと思いますか。
米田:一つは目の前で起こっていることがハラスメントだと自覚できる環境を整えることだと思います。私は映像業界以外の職に就いたこともありますが、社員研修がしっかりしているところは、組織的な虐めを防ぐ効果があったと感じます。
人間関係においては好き嫌いが存在するのは自然ではあるものの、嫌悪や妬みといった感情を理由にハラスメントに発展させない仕組のひとつが研修といえると思います。
私が体験した接遇マナー研修では、誰しも顧客になり得るということと、自分の行為は会社の看板を背負っているという意識づけを教育していました。
これを通して、組織内の人間個々が、虐め行為に対して違和感を抱き、目の前の業務に集中する意識が根付いたのではないかと思います。
映像業界においてはコストも手間もかかる新人研修を省いて、いきなり現場に入れるケースが多く、その空気間に揉まれて異常な労働環境になっていくというのがパターンです。
研修を1回したら終わりではなく、都度コンプライアンス意識を保つ機会を持つこと。こうした対策で“黙認”を減らすことが健全な労働環境への第一歩だと思います。
――米田さんが映像業界の体質改善に向けて望むことは何でしょうか。
米田:体質改善に向けて、問題の解決には映像業界に限らず、さまざまな業界が連携することが鍵だと思います。
これは映像業界だけに限らずですが、多様な問題を自分事として捉えることが解決策を見つける第一歩であると思います。そして、専門家による安全が保持された外部相談窓口を設置し、問題をたらいまわしにしない受け皿を用意することが必要だと思います。
相談者本人が「話を聞いてほしい」のか、「解決してほしい」のかによっても対応が変わってくるのですが、現状は専門的な経験や知識がない相談窓口が独断で対応せざるを得ません。だからこそ相談窓口側も連携・協力・相談できるところがあるとより良いと思います。
またテレビ局自体には産業カウンセラーなどもいますが、制作会社レベルではそこまで追いついていません。例えば報道番組を取り扱う場合、素材にショッキングな映像が含まれている場合もありますが、日常的にそうしたものを見ていて平気な人ばかりというわけではありません。しかし実際にその素材を扱う制作会社のスタッフにまでケアをする環境は整っていないのが現状です。
これまでの時代は「人の尊厳を傷つけるぐらい常軌を逸した方が監督らしい」「クリエイティブらしい」という、間違った“やってる感”があったと思います。
しかし本当に必要なことは、その作品に関わる全員が対等な立場でクリエイティブすることだと思います。性別や上下関係に関係なく人と人とが対等に向き合って、問題に目をそらさず作品を作っていくことが大切ではないでしょうか。
(Kikka)
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