“子ども時代に、大切なものを奪われてはいけない” 「屋根裏のラジャー」西村義明 1万4000字インタビュー(4/10 ページ)
文学としては成立するけれど、映画として提示するには、作り手の中に根拠は必要です。とはいってもでっちあげるわけにはいかない。だって、イマジナリ(イマジナリーフレンド)であるラジャーを想像したのは、作り手ではなくアマンダですからね。アマンダの人生を具体にイメージできないと、このラジャーは生まれ得ない。原作ではアマンダの描写は多くなかったので、家が本屋ということ以外にも、アマンダの人生はさまざまに考ました。
個人的な考えですが、いい映画とよくない映画を分ける要件のひとつに、「映画本編の前と後にもキャラクターが生きていることを想起できるか」というのがあります。もちろん、メルヒェン的な枠組みの場合は違いますけどね。人間を描くということが主たるものになる映画は、始まって終わるまでの映画内時間だけなく、その前後にも彼らは生きていたし、生きているし、生きるだろう、という人生がまずあって、そのうちの映画分を切りとるわけですから。
アマンダの他にも、中盤から登場するエミリというキャラクターが、なぜオーバーオールを着ているのか、なんでゴーグルをつけてるのかということは考える必要があるし。それも、彼女が自分で選んだわけじゃなくて、人間の友だちが想像したものです。そして、その友だちが不在となれば、彼女は人間の友だちが想像したままの姿で居続けるはずですし、想像された以上のことはできない。
想像の存在ならば自由に変形させてしまえばよいと進言されたこともありますが、では、その変形は誰が想像して変形させたのかを問われる。例えば、アマンダはラジャーを自在に想像し、巨人にも怪物にも変化させることもできたはずですが、彼女はそれをやろうとはしない。それには理由があるはずです。意識的なものか無意識的なものかに関わらず、この姿でなければダメだという強固な理由がアマンダにはある。
一方で、自分が作り上げた想像を場当たり的に、自分の都合のよいように変形させて、目的達成の手段にしてしまうミスター・バンティングという輩も現れる。自分が想像したイマジナリに対するこの扱い方の差は、漫画的なるものに慣れた方は気に留めないかもしれませんが、映画の強度においては重要な違いです。自分が作り上げた想像たちへの愛の差が言外に表出するわけですから。
――なるほど、イマジナリーフレンドをモチーフにした作品だからこそ、その想像をした人間の友だちのことから描く必要性はありますね。キャラクターみんながとても愛らしくて、それぞれの背景や過去も想像したくなるというのは、彼らのことを真剣に考えた証拠でもあると思います。
散文と韻文の間にある映画になるだろうという推測はありましたね。わかりやすく言い換えれば、「見えているものがすべてじゃない」というか。基本的に映画は表面的に見て楽しめるのが大前提ですし、背景情報や裏設定を知らないと面白く見られないというのは作り手のエゴイスティックな姿勢を感じてしまって少し苦手です。でも、だからと言って表面だけの物語というのも味気ない。別角度から見ようとしたときに、もう1つの姿が顔を出すというような類の映画を僕は好んできましたから。例えば、「おかえり」という台詞をいつ言わなくて、いつ言うかという場面の1つにも、意図をもって描きますよね。
ソウゾウと聞くと、多くの人が「クリエーション」を意味する「創造」の方を想起すると思います。でも、相手を慮(おもんぱか)る、誰かの気持ちを察する「想像」こそ本当は誰にとっても大切だったりしますよね。慮る能力と想像力というのは関係していて、それは1本の映画をどう勘ぐって観るかとも関係している。つまり、アニメーション映画という想像物とラジャーという想像物とは、関係あるだろうと思っていたりもする。ハナから虚構であると言外に伝えている手描きアニメーションと、最初から自分は想像の友だちであると明言するラジャーは、根っこのところで似ている。虚構の真実性とでもいうか。映画の作り手ってしばしば「嘘で真実を語る」仕事って言われますから。
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