寝るために頑張る人生があってもいい 『魔王城でおやすみ』スヤリス姫は“睡眠版”『孤独のグルメ』だあのキャラに花束を

欲しいものは救いじゃなくて「ハイテク入眠用酸素カプセル」。

» 2017年06月17日 13時55分 公開
[たまごまごねとらぼ]
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 最近プチトレンドなのが「睡眠マンガ」。食欲が「グルメマンガ」、性欲が「エロマンガ」。となると「寝る」マンガがあってもいいはず。

 今回紹介するのは、睡眠に異常なまでに執着する『魔王城でおやすみ』のスヤリス姫。フルネームは「オーロラ・栖夜・リース・カイミーン」(サンデーまんが家BACK STAGEより)。


魔王城でおやすみ 『魔王城でおやすみ』1巻表紙。彼女が寝ているのは、魔王のお城

とらわれのお姫様、ご乱心

 地の底から現れた魔王が、軍勢を率いて人間の国の姫をさらっていった。「返して欲しくばこの世の支配をすべて魔の物に引き渡せ!」

 国中の民が怒り悲しみ、勇者は姫を取り戻すべく立ち上がる。ああ、スヤリス姫かわいそうに……!

 一方スヤリス姫はというと、とにかくやることがない。寝るしかない。


魔王城でおやすみ 人の国のお姫様、スヤリス姫。人質生活、ヒマです(1巻8ページ)

 人質になる=国の公務がない。あくまでも人質なので、3食きちんと食べさせてくれて、待遇はいい。

 でも安眠ができない! 周りはうるさいし、寝具は質が悪い。

 かくして彼女は魔王城をふらつきながら、逃げ出すことを一切合切忘れて、最高の睡眠環境づくりを開始します。


寝るためなら魔物の命も自分の命も軽いもの

 3巻の現時点まで、寝るための行動しかしていないというすごいマンガ。魔王の城にあるものなら何でも使う。魔物たちの身体を切ったり、毛を抜いたり、皮をはがしたりと、通り魔状態。シーツがよれると、毎回おばけふろしき(一反木綿みたいなやつ)をハサミで切り刻んで殺すもんだから、魔物たちからはすっかり恐怖の対象。

 そもそも、牢屋からも城からもしれっと出られるような状態なのに、なぜか姫は逃げない。城の外に行って寝具の素材を拾って戻ってきたりします。

 眠りを追求しすぎて、毒やらマグマの中に潜り込んで死にまくる彼女。魔王側も人質を失うわけにはいかないので、週一でよみがえらせる忙しさ。魔王軍、だんだんマヒして目的が分からなくなってきます。なお勇者はいまだ城にたどり着けないまま。


スヤリス姫特選、こだわりの寝具

 スヤリス姫の睡眠へのこだわりは多岐にわたります。その幾つかを見てみましょう。


姫特製安眠まくら


魔王城でおやすみ 最後のコマに効果音つけたいですね(1巻16ページ)

 危険度1。まずは小さいクマ型悪魔の毛づくろいをするふりをして、毛を集めて糸を作ります。針の生えた魔物から数本頂いて、ハーブで染めたカーテンを裁縫。残った毛を入れたら、フワフワ枕の出来上がり。

 柔らかさにこだわりの一品。針を抜くのに気を付ければできないことはないので、興味のある人は試してみよう。


魔王城・夢の地獄風呂


魔王城でおやすみ なおポーションもかっぱらってきたやつです(2巻12ページ)

 危険度3。よい睡眠に欠かせない、入浴。しかし魔王城では1人でくつろげる風呂がない。そこでロケットタートルを爆殺、甲羅を湯船に改造して、故郷でも体験したことのない「夢の1人お風呂睡眠」を実現! タートルが爆発するときかなり危ないので気をつけよう。


電撃マッサージ


魔王城でおやすみ それは死ぬ(1巻94ページ)

 危険度5。快眠のために肩こりをほぐそうと、サンダードラゴンの電撃を浴びにきたスヤリス姫。さすがに魔物たちもこれにはあきれるばかりで「いのち大事に」「ガンガン行かない」と彼女を叱りつけます。優しい。

 それでも諦められなかった彼女は、ある方法で再挑戦。飽くなき探究心に心打たれます。死ぬので絶対にマネしないでください。


魔王も怖れる最狂の姫君

 魔物たちがドン引きする彼女の安眠への執念。とはいえ3巻まで進めばそこそこ睡眠グッズが整ってくるわけで、快適なスリープライフを送れるようになってきます。

 ところが彼女の睡眠への欲望は尽きるところを知らない。


魔王城でおやすみ 姫、壊れる(3巻119ページ)

 眠りすぎて眠くないから寝るために何かする、というもうよく分からない境地に。途中から完全にキレて「君達には!! 私が寝るまで!! つきあってもらう!!」と魔物たちに言い出す始末。

 起きてればいいじゃん! もうそれ睡眠ジャンキーだよ! 魔物たちは根がいいやつらばかりなので、みんなで傍若無人な姫の面倒をみている状態。優しい。

 「孤独のグルメ」の井之頭五郎は、1人で試行錯誤しながらおいしいものを探し、歩きます。失敗も多いけど、その過程も含めて楽しんでいる。

 スヤリス姫も、途中からは寝るための作業を試行錯誤すること自体が、楽しくなってきている。「寝る以外することがない」のではなく「寝るための下準備が趣味」です。失敗もします。目の前にあるもの全て、睡眠用に改造できないかと、チャレンジ精神旺盛。これぞ睡眠道。

 おいしいものを食べるため、人間は頑張れる。なら寝るために頑張る人生があってもいいじゃないか。姫が探求するアロマや保湿化粧品などは、実際の世界でもお金をかけてこだわる人が多いはず。


魔王城でおやすみ フリーダムスヤリス姫、魔王城のイベントすらぶち壊す(2巻64ページ)

 魔物たちの修練大会にも、呼ばれてないけど参加します。身体が疲れたらよりよい睡眠が取れるから。目的と手段が逆になるってこういうこというんだね。でも楽しそうだね。

 寝るためなら世界征服すらするんじゃないかという勢いの彼女。なお最近は魔王城以外でも、安眠の追求を始めています。もし国に戻れたとしたら、かえって彼女は熟睡できなくなるのでは。

 4巻は7月18日発売です。


(C)熊之股鍵次/小学館・少年サンデー


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