デモクラタイズなゲーム業界へ!――2008年のGDCを総括:くねくねハニィの「最近どうよ?」(その21)(7/8 ページ)
カーツウェル博士のキーノートスピーチ
インベンター(発明家)兼フューチャリスト(未来思想家)であるレイ・カーツウェル氏のキーノートは難解でした。「The Next 20 Years of Gaming」(ゲームの今後20年)というタイトルでしたが、フタを開けてみると「ゲーム業界がどうなる?」といった話はあまり触れられることもなく……。ゲーム系ライターは頭を悩ませたのではないでしょうか。記者もそのひとりでしたが(苦笑)。
さまざまな産業で活躍する氏は、バイオの世界、燃料の世界など、ありとあらゆる業界において、常に今後どのように発展、進化していくのかを考えている。氏のロジカルによれば、現在の進化は若干の世界史の異変(戦争とか)による若干の影響以外は「通常進化」、つまり過去から見て予想した軌道上の進化であるとのこと。夢としていたものは実現可能なことなのだとか。これは目からウロコで、記者のパラダイムもシフトしたような気持ちになりました。
「人間という生き物だけがバイオロジーに制限されるのを拒む種なのだ」という言葉通り、人間は自然の流れに身を任せることなく研究開発に勤しみ、進化を求めている。生物学で言われる進化論と、人間が人工的に導き出す進化を加味して「通常進化」を予期できれば、未来がどうなっていてどういうものが必要になってくるかを考えることができるということ。「成功の鍵は、タイミングです。プロジェクトはそれなりのリソースがあればそれなりの結果が得られるはずで、その確率は95%である。ただし、それらのプロジェクトは95%は失敗に終わる。なぜならタイミングが間違っているからです」とカーツウェル氏は含蓄ある言葉を我々に投げかけました。
特にコンピュータや携帯電話などのデバイス群は、今後さらに低価格かつ高機能で小型化という目覚ましい発展を遂げるとのことでしたが、これ以上小さくなるとは驚きです。カーツウェル氏は、今回の講演で何を言いたかったのかを考えてみました。
「このデバイスにパワーを与えるのは『ソフトウェア』です。ただし、このソフトウェアも、ソフト開発者がデバイスの進化を予期して設計しなければ意味がない」との言葉から推測するに、ゲームを開発するにしても、開発を開始して世に出るまでの期間は長く見積もって2年くらいはどうしてもかかり、そのたった2〜3年後の世界であっても、今現在とはデバイスそのものやその環境が違っていることを適切に予測すべきであるということを言いたかったのではないでしょうか。
ただし、クリエイティビティと技術進化の話はある意味相反するものなので、すべてがこの論理にあてはまるものではないとも思います。一概に未来だけ見ているのは乱暴な話だと記者は思いますが、ここでは、デバイスやその環境という物理的なインフラのことに限定して言っていると思えば理解できました。
最後に付け加えておくと「クリエイティビティのツールはデモクラタイズされるべき、また、制作や生産に関するツールもデモクラタイズされるべきである」と博士が語っていたのですが、ここでも「デモクラタイズ」という言葉を耳にするとは思いませんでした。ソフト供給側にも未来を予測する能力が問われると同時に、デバイス(ハード)側での未来予測能力とオープン化が求められてる。ある程度の開放がないと、通常進化も滞りがあるということなのでしょうね。ハードメーカーには頑張っていただきたいですね。
セッションとアワードは盛況! 日本離れは鮮明
60分刻みで行われていたセッションはとても盛況でした。セッションが始まる前に並ぶ列の長さも、例年より長い気がしました。帰国後、史上最多参加者と聞いて納得しましたが……。サンフランシスコのある一角はゲーム関係者だらけでしたが、キーノートも任天堂やSCEなど日本からの参加がなかったことや、例年に比べると若干ながら日本からのセッション講師が少なかったことが影響してか、日本人率は昨年に比べて低かったと感じました。
これらのセッションは会期中、ビジネス面、制作面、その他制作パーツ(プログラム、サウンド、グラフィックなど)面などなどテーマ別のセッションに分かれてたくさん行われていました。有名クリエイターやその関係者が招待されて、質疑も含めた講義がいろいろなところで行われており、ラウンドテーブル(いわゆるパネルディスカッション)も各所でにぎわっておりました。ただ、すべてが必ずしも実になるものかと言えば、そうでもなく……。
ワタシが見に行った「MMOの将来」(「MMO」に関しては、通常の「最近どうよ?」で今後触れていく予定です)というラウンドテーブルでは、 EA、Blizzard、Nexonからの登壇者による夢の競演となるかと思いきや、けん制しあったのか、時間を大きく余らせておりました(笑)。30分程度でディスカッションは終了し、質疑にたくさんの時間をかけておりました。
日本からの講師も複数招かれており、もちろん盛況でしたが、残念ながら立ち見まででる「Assassin's Creed」などの講義とは印象が違いました。日本人講師のセッションではやはり日本人率が高い。いわゆるクリエイティビティのところでのセッションは、日本から学ぼうという姿勢も少なからずあったのですが、ビジネス面やテクニカル面でのセッションがほとんどないことを考えると、ちょっぴり危機感を感じます。
アワードで日本勢のノミネートが2つだけだったのも会場にいて悲しい気持ちになりました……。第8回Annual Game Developers Choice Awardが現地時間の2月20日(水)に行われたのですが、ノミネート段階で日本勢はほとんど名前が挙がることもなく、「The Legend of Zelda:Phantom Hourglass」はベスト携帯ゲーム機向けゲームソフトとして表彰されたものの、昨年までとは一変しておりました。
今回アワードを総ナメと言った感のある開発会社Valveは、北米では知らない業界人はいない「HalfLife」シリーズを製作した会社ですが、これら北米の会社だけがフィーチャーされるようになったのではありません。フランスや東欧の会社が名を連ねてノミネートされており、ゲーム機としてPCやXbox 360が出回ってない日本市場では触れられる機会がないという意味で、日本とのさまざまな乖離を浮き彫りにしにくい状況になっているといった印象です。また、さらに大きな溝が、日本と欧米の間に生まれてしまった気がするのは筆者だけだと……いいのですが。
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