絞ることで得た成功――「『龍が如く』を生み出すタイトルプロデュースの未来」:CEDEC2008
CEDEC最終日となる9月11日、セガの名越稔洋氏が自らプロデュースした「龍が如く」シリーズを例に、無闇に世界を標準にするのではなく、絞り込み捨て去ることも選択肢としてはあると語る。
信念に従い、どう絞り込んでいくかがプロデュースである
ゲーム開発者カンファレンス「CESAデベロッパーズカンファレンス 2008」(CEDEC2008)の最終日、「龍が如く」シリーズのプロデューサーであり、セガ CS研究開発本部 第一CS研究開発部 R&Dクリエイティブオフィサーの名越稔洋氏が、「『龍が如く』を生み出すタイトルプロデュースの未来」と題したセッションを行った。
まず名越氏は、セガがアーケード事業で落ちこんだ理由として、ゲームに対するユーザーの興味が薄れてしまっている現状について切り出した。規模が縮小するにつれて経営的にどうしても“売れるもの”に偏り、ゲームセンターに足を運んでも画一的なものしか置いていないと嘆く。気分やスタイルの違いに見合ったゲームをそろえるべきであり、バラエティーに富んでいないことが要因のひとつと考えられている。それは家庭用ゲーム機でも同様だ。
名越氏は、日本のゲーム市場規模が84%の成長だったのに対し、北米は140%の成長だったと先月まとめたデータを示し、マーケットの温度差を改めて紹介。いまだに日本のゲームは良質とした考えは妄想だと切って捨てた。ゲームにしろアニメにしろ、確かに優れた作品を排出し、エンターテインメントとして確立したとはいえ、産業的に見れば日本のマーケット規模は小さく、島国根性でしかないと説明。成長率からも、欧米のほうが多様なタイトルを生み出しているという。
ゲーム開発にはある程度の期間と資金が必要であり、特に次世代機と言われる最新ハードの開発費は高騰の一途をたどっている。経営的に見れば、新規タイトルの開発に二の足を踏むのはどこだって変わらず、プロデューサーとしては2年〜3年先を見られなくてはならないと解説する。特に大作では期間も開発費も莫大なものになり、10億円かけるものもザラにある。プロデューサーとしてはいくらでも膨らむ開発費を抑える努力もするが、それにだってちゃんとしたものを作ろうとすると限度がある、参加する開発者に同意を求める。
そうした膨らむ開発費をまかなうために海外で売れるものを作ろうという流れもあると名越氏。しかし、海外展開に目が行くばかり、足元が見えていないのではないかと投げかける。結局のところ海外仕様にすることで手間もかかるし、第一日本人に喜ばれるものにしたかったと「龍が如く」では、欧米を切り捨て、さらに子供や女性のユーザー層を切り離し、男性ユーザーに絞ったものにしたのだそうだ。なによりもかっこいい大人を描きたかったという自身の興味も大きかった。フタを開けてみれば多くの女性ユーザーが購入してくれており、年齢層も幅広いものとなり、販売本数35万本のヒットとなった。
これは、ワンソースマルチユースという現在の潮流に逆らうもので、あえて“絞る”という選択をしたことで成功した例といえる。先述したように、膨らむ開発費を補うためには、市場の大きい北米や欧州で売れるものにしないといけないという考えもあるが、どこに向けて売りたいのか明確なものがないと、結局のところ面白味のないものになりはしないかと懸念があるいうのだ。
もちろん、名越氏は「龍が如く」という、一種変わり種ゆえ興味本位で購入したユーザーがほとんどであるという点についても理解している。しかし、あえて日本人にしか理解されないであろう裏社会やキャッチコピー、俳優の起用などの物珍しさが功を奏したことには代わりはない。名越氏は、「説教くさいものが作りたかった」と語る。プロデュースするにあたり、ゲームそのものの期待値を上げるものを目指すべきだし、何よりも自分が作りたいものにしたかったという基本を守ったに過ぎないと淡々と述べた。
名越氏は、マルチ展開を切り、海外を捨て、訴求すべきユーザー層を絞るなどの決断をすることで、日本でのヒットをたぐり寄せたことになった。現在、躍進めざましい任天堂だが、ニンテンドーキューブを発売した際、「任天堂のゲームは子供向けだけではない」として、焦点があいまいになっていた時期もあった。Wiiではもう一度立ち返り、ファミリー(特に子供)に焦点を絞り込むことで、分かりやすくなったのではないかと名越氏は分析する。プロデュースするということは、成功失敗にかかわらず、どこに向けて売りたいのかを明確にすることであり、自分がどういうものを遊んでもらいたいかというビジョンを持つことと述懐する。
セッションでは倫理問題の重要性についても触れられた。日本では暴力表現よりもセクシャルな表現のほうが問題になることが多いと前置きした上で、だからといって暴力を全肯定したくはないと語る。なんでもありの暴力全肯定のゲームを作れば、ある程度は話題になるだろうが、それによってゲームというエンターテインメントそのものが失うことも多いのではないかと心の内をもらす。以前、三池監督と映画談義をした際、どんなに残酷な死に方でも、最後に笑えるセリフなり場面であればぐっと倫理の基準が下がると聞いたことを引き合いに出し、倫理の判断基準は実にあいまいなものだと結論づける。それゆえに、部分で見るのではなく、作品そのものを判断基準で見てもらいたいと苦言も呈した。
現在、ゲームの倫理観はCEROを基準としているが、過去血の色について物議を醸したこともあったように、その時々で変わるものだ。名越氏は、だからこそ自身がかっことした倫理観なり線引きが求められることをしていると理解し、“ゲームは責任の重いメディア”なのだと説く。ゲームの是非はさておき、ゲームは自らが動かし介入することができるゆえに、いたずらに扇動的なものであってはならないと、律するべきとした。名越氏は自ら「麻薬」と「子供が殺される」ことについて嫌悪感もあり、ゲームでは扱わないとしているとも語り、CEROとは別に審査団体を作ってもいいとまで発言していた。
ゲームはれっきとしたメディアであるとする名越氏は、ユーザーが時間を割き、必要とされるものにこだわってきた。もし、ワールドワイドに展開するならば、日本からでもいいだろうし、例え日本でのみ売れるタイトルでもいいという持論だ。そんな名越氏は、会場に集まった参加者に、もしワールドワイドで展開し売れるものを作るとしたら普遍的なものがひとつあるとヒントを与えた。それは「新しい技術」にほかならない。人が触ってみたくなる新しいハードなりデバイスなり、もちろんソフトであれば、ある一定のユーザーは歓迎するはずだと、締めくくった。
例え100万しか出荷されていない機種であろうと、そのハードの50%のシェアを取れば50万本販売したことになる。名越氏の計算は、ある意味ビジネスの本質をついている。ニッチな市場であろうと、そこで確実なシェアを獲得し、絞っていくことでリスクを回避しようとしている。確かにマルチに展開し、成功する場合もあるが、それだけ工期もかかるし手間も人件費もかかる。広げていくリスクよりも、絞ることで発生するリスクを選択しただけなのだ。ただし、それは新規タイトルの場合に限るとも名越氏。普遍的に売れるシリーズものは、もちろんマルチで展開したほうがいいとも語り、しっかりとタイトルの特性を見極めることを勧めていた。
関連記事
- CEDEC 2008:「テイルズ オブ ヴェスペリア」ヒットの理由を聞いてきた
Xbox 360本体を品切れにさせたタイトル「テイルズ オブ ヴェスペリア」。その開発スタッフを代表して、プロデューサーの郷田努氏、制作プロデューサーの樋口義人氏、ローカライズプロデューサーの三好秀一郎氏の3名が、CEDEC 2008でセッションを行った。 - CEDEC 2008基調講演:未来のために攻撃へ転ずるべき――「ゲームというビジネス、ビジネスというゲーム」
2日目の基調講演に登場したのは、カプコンの稲船敬二氏。サッカーを例に、グローバルな視点と攻めの姿勢こそがこれから求められることだと、クリエイターと経営者にモノ申す。求められるのは経営と向き合うこと? - CEDEC 2008基調講演:CEDECは「新しいこと」と「次にくること」を提示する――「CEDECの10年、これからの10年」
9月9日、日本最大級のゲーム開発者カンファレンス「CESA DEVELOPERS CONFERENCE 2008」が始まった。先陣を切るのは、CESA副会長兼技術委員会委員長を務める、コーエー代表取締役社長の松原健二氏。CEDECのこれまでを紐とき、これからを指し示す。 - CEDEC 2008:「99のなみだ」はどうして生まれたのか?
「自分や自分に似た人に向けた製品を作りたい」――。ニンテンドーDS用ソフト「99のなみだ」の起源は思いがけないものだった。 - CEDEC 2008:「スペースインベーダー」「パックマン」を振り返りつつ次世代を考える
「すべてはここからはじまった 〜スペースインベーダーとパックマンから学ぶ事、そして次世代へ〜」と題したパネルディスカッションには、西角友宏氏、岩谷徹氏、高橋利幸氏といった豪華メンバーが登場した。その中身をお伝えしていく。 - CEDEC 2008特別インタビュー:手を抜いているところはない――CEDECで公になるMGS4のデザインワークフロー
CEDECでの講演を間近に控えたKONAMIの根岸豊氏にインタビューする機会を得た。根岸氏は、小島プロダクションで歴代の「METAL GEAR SOLID」シリーズのデザインを手がけてきた人物。今年のCEDECでは「METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS」のデザインについてワークフローを紹介するという。デザイナーの立場から見た「METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS」とは? - CEDEC 2008特別インタビュー:「日本はもうゲーム先進国ではない」――岡本吉起氏が語る“世界に通用するゲームプロデュース”
日本最大級のゲーム開発者カンファレンス「CEDEC 2008」で講演を行うゲームリパブリック社長の岡本吉起氏に、講演内容として「いま、必要とされるゲームプロデュース」を選んだ理由や、ゲームリパブリック立ち上げから5年間が経っての今を振り返ってもらった。 - CEDEC2008の基調講演に宮本茂氏と稲船敬二氏決定
- 「CEDEC AWARDS」のノミネートが発表に――本日より投票受付開始
- CEDEC2008の開催日が決定
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
そば屋の看板のはずが…… 雪で“別の店”みたいになってしまった光景が北海道の豪雪のすさまじさを物語る
-
ウソだろ…… フリマに5000円で売っていた“信じられない商品”に思わず二度見 「やっぱり寂しい」
-
友達が描いた“すっぴんで麺啜ってる私の油絵"が1000万表示 普段とのギャップに「全力の悪意と全力の愛情を感じる」
-
ブックエンドの“じゃない”使い方が200万再生 驚きの発想に「痒いところに手が届く」「参考にします」
-
「人のような寝方……」 “猫とは思えぬ姿”で和室に寝っ転がる姿が377万表示の人気 「見ろのヴィーナス」
-
刺しゅう糸を20時間編んで、完成したのは…… ふんわり繊細な“芸術品”へ「ときめきやばい」「美しすぎる!」
-
【編み物】カラフルな毛糸で四角いモチーフを作り、一気につなげると…… 太陽のような輝きの完成品に驚き
-
「イブの日って空いてますか?」 ドキドキのメッセージ送付→“まさかの返信”が590万表示 「今日一番笑ったw」
-
【今日の難読漢字】「勿忘草」←何と読む?
-
「最強でしょ」 佐々木希、作った“我が家のクリスマスディナー”がすごすぎる! 料理上手で「こんなお母さんになりたい」
- ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
- ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
- フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
- 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
- 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
- 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
- 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
- ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
- 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
- セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
- 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
- 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
- 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
- アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
- 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
- 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
- ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
- 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」