「テイルズ オブ ヴェスペリア」ヒットの理由を聞いてきたCEDEC 2008

Xbox 360本体を品切れにさせたタイトル「テイルズ オブ ヴェスペリア」。その開発スタッフを代表して、プロデューサーの郷田努氏、制作プロデューサーの樋口義人氏、ローカライズプロデューサーの三好秀一郎氏の3名が、CEDEC 2008でセッションを行った。

» 2008年09月11日 01時19分 公開
[遠藤学,ITmedia]

 昭和女子大学で開催中のゲーム開発者カンファレンス「CESAデベロッパーズカンファレンス 2008」で、バンダイナムコゲームスのCSカンパニー第2プロダクション第4課 プロデューサーの郷田努氏、コンテンツ制作本部第6制作ユニット 制作プロデューサーの樋口義人氏、CSカンパニーCS海外事業部海外制作課 ローカライズプロデューサーの三好秀一郎氏によるセッション「Xbox 360『テイルズ オブ ヴェスペリア』から見たハイデフRPG開発」が行われた。

photophotophoto (写真左から)郷田努氏、樋口義人氏、三好秀一郎氏

 まずは郷田氏から、リアルな映像表現ではなく、「テイルズ オブ ヴェスペリア」(以下、TOV)をアニメ絵路線とした理由が語られる。「単刀直入に言えば(TOVのキャラクターデザイナーである)藤島康介先生の絵がそのまま動くようなものを作るのが、ユーザーに対するひとつの回答だろうと考えたんです。ゲーム開発に正解はないですけど、失敗しない方法はある。ユーザーが何を求めているのか? 僕らなりに考えた回答が藤島先生の絵をそのまま動かせたらよい、というものでした。もちろん、ほかにアプローチの仕方はあったと思います。ただ、“アニメのようなRPG”“次世代テイルズ オブ”という2つのキーワードで、海外の人たちにも理解してもらえましたし、(発売から1カ月が経過して)思っていた通りの結果も得られました」。

 郷田氏はまた、6月に行われた「Xbox 360 RPG Premiere 2008」で、TOVに対する自信を深めたと述べる。RPGを中心にラインアップを紹介する同発表会にて、ほかのタイトルがリアルな映像表現を追及している中、TOVはしっかりと差別化ができていると感じたのだという。

photo

 TOVの開発経緯を知る樋口氏は、「テイルズ オブ ジ アビス」(以下、TOA)の開発が終わるか終わらないかくらいの時期に、TOVのプロジェクトが立ち上がったと説明する。当時はハードをXbox 360とすることが決まっておらず、そもそも樋口氏自身がXbox 360で発売することに不安を抱いていたと話す。

 「次のテイルズ オブ(TOV)はHDクオリティでいけと上から言われましたが、プレイステーション 2で出すのはダメかと相談しました。TOAが成功したタイトルでしたし、同じくPS2でいきたいと。その案が却下されて、いろいろと考えた結果、当時の次世代機として発売されていたXbox 360でやっていこうと決めたんです」(樋口氏)。

 その後、しばらくしてから郷田氏がプロジェクトに参加したものの、Xbox 360で発売すると聞いた時は、やはり不安を感じたのだという。郷田氏はその時のことを「当時の(Xbox 360の)国内普及台数は60万もありませんでした。テイルズ オブシリーズは、PS2では50、60万本は売れているタイトルでしたけど、ハードの普及台数がそれと同じくらいなんです。あまり普及していないハードでゲームを出すとなった時、開発スタッフに対して頑張って、と言うのもなかなか残酷な話ですよね」と振り返る。

 開発スタッフのモチベーションを上げるため、別の目標を設ける必要があると感じた郷田氏は海外に目を向ける。日本市場ではふるっていないXbox 360も、世界に目を向ければ2000万台以上が売れている。世界に受け入れられるタイトルかつ国内で一番売れたXbox 360タイトルを目指そうと熱心に説いたと郷田氏。結果、Xbox 360でいく覚悟が決まったのだという。


photo

 海外の話が出たところで、ここでは三好氏からはローカライズの苦労話も語られた。「日本のキャラクターの中には、英語を交えながら話すキャラクターがいますけど、TOVにもそういったキャラクターがいます。北米版で英語の代わりに日本語を話させるわけにもいきませんし、どうしようかと悩みました。最終的には発音のアクセントを変えることで、キャラクター性を保持したんです」。

 また、日本ではTOAがシリーズ10周年記念タイトルだったが、北米ではTOVがそれに当たるとのことで、北米版としては初めて、スキットのフルボイス化に挑戦したと三好氏。その際に気づいた日米の違いとして「すべてにおいてそうなのかは分かりませんが、日本では声優さんに集まってもらってスキットのシーンを収録していますが、北米では声優さんごとに個別で収録を行いました。最終的に音声をミックスする段階までフルデータを聞くことができないので、日本と同じように仕上がっているのかというドキドキ感がありましたね。最終的には日本版と遜色ないデキになったと思います」といったエピソードを披露した。

 Xbox 360での発売を目指し、開発が進められていったTOV。しかし、次世代機になったとはいえ、開発スタッフの数はTOAとほとんど変わらなかったのだという。救いとなったのはTOAからそのままTOVの開発に移行したスタッフが多かったこと。これにより効率化を図れたと郷田氏は話す。

 「効率化を図る方法として、ソフトウェアを導入する、プロジェクトの新しい管理方法を取り入れるなどがあると思いますが、実際問題として、ゲーム開発は水物というか生き物なんです。杓子定規には考えられない。今回、TOAと人数がほとんど変わらない体制で、物量も確保しつつ、クオリティもしっかりと出せた最大の理由は、ツール群や手法の話ではなく、同じメンバーで続けてきた結果だと考えています。ツールだけで効率化するのは難しい、というのを改めて体感しました」(郷田氏)。


photo

 続けて、TOVを通じて学んだこととして“知ってもらう、興味を持ってもらう、購入してもらう”の3点を挙げた郷田氏。曰く「知ってもらわないと興味を持ってもらえない。興味を持ってもらえなければ、店舗に足を運んでもらえない。当然、購入するという行為にはならない」とのこと。

 「TOVではXbox 360ユーザーとテイルズ オブシリーズのファン、両方に喚起したいという思いがあって、やれることをすべてやった。その結果が購入してもらうまでに結びついたんです。でも、これは皆さん(受講者のクリエイター)もやっている当たり前のことですよね。我々と同じようにやれば成功するわけではありません。時には運も必要で、今回は運が良かったとも考えます。たまたまうまくいったかもしれないので、今回の講演を聞いて生かせる部分があれば、現場に持ち帰ってほしいと思います」(郷田氏)。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/18/news134.jpg 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  2. /nl/articles/2404/18/news025.jpg 生後5日の赤ちゃん、7歳のお姉ちゃんから初めてミルクをもらうと…… 姉も驚きの反応がかわいい
  3. /nl/articles/2404/18/news057.jpg 9カ月の赤ちゃん、バスで外国人の女の子赤ちゃんと隣り合い…… 人生初のガールズトークに「これは通じあってますね!」「ベビ同士の会話、とろけます」
  4. /nl/articles/2404/17/news037.jpg 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  5. /nl/articles/2404/17/news034.jpg 「妹が入学式に着るワンピース作ってみた!」 こだわり満載のクラシカルな一着に「すごすぎて意味わからない」「涙が出ました」
  6. /nl/articles/2404/18/news155.jpg 大谷翔平選手、ハワイに約26億円の別荘を購入 真美子夫人とデコピンとで過ごすかもしれないオフシーズンの拠点に「もうすぐ我が家となる場所」
  7. /nl/articles/2404/17/news179.jpg 「ケンタッキー」新アプリに不満殺到 「酷すぎる」「改悪」の声…… 運営元「大変ご迷惑をおかけした」と謝罪
  8. /nl/articles/2404/16/news192.jpg 「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
  9. /nl/articles/2404/17/news129.jpg 「ハーゲンダッツ硬すぎ!」と力を入れたら……! “目を疑う事態”になった1枚がパワー過ぎて約8万いいね
  10. /nl/articles/2404/16/news175.jpg 「そうはならんやろ」をそのまま再現!? 「ガンダムSEED FREEDOM」のズゴックを完全再現したガンプラがすごすぎる
先週の総合アクセスTOP10
  1. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  2. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  3. 安達祐実、成人した娘とのレアな2ショット披露 「ママには見えない!」「とても似ててびっくり」と驚きの声
  4. 兄が10歳下の妹に無償の愛を注ぎ続けて2年後…… ママも驚きの光景に「尊すぎてコメントが浮かばねぇ」「最高のにいに」
  5. “これが普通だと思っていた柴犬のお風呂の入れ方が特殊すぎた” 予想外の体勢に「今まで観てきた入浴法で1番かわいい」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評
  8. お花見でも大活躍する「2杯のドリンクを片手で持つ方法」 目からウロコの裏技に「えぇーーすごーーい」「やってみます!」
  9. 弟から出産祝いをもらったら…… 爆笑の悲劇に「めっちゃおもろ可愛いんだけどw」「笑いこらえるの無理でした」
  10. 3カ月の赤ちゃん、パパに“しーっ”とされた反応が「可愛いぁぁぁぁ」と200万再生 無邪気なお返事としぐさから幸せがあふれ出す
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」