いつの世も人は不倫にドハマリする 一途ストーカー女子が恋の泥沼に沈むSF「あげくの果てのカノン」:ねとらぼレビュー(2/2 ページ)
その理由は1つ。境先輩は、既婚者だからです。
お似合いの彼女と誰もがうらやむ結婚をして、仲睦まじく過ごしているはず。なのになぜ、自分なんかに構うのか……? 先輩に全速力で振り回されつつ、かのんは不倫へと一歩、また一歩と進んでいきます。
……と、ここまで書いていると、境先輩がクズなだけの恋愛漫画に見えるかもしれません。個人的にはそんな作品も好きですが、本作の場合はひと味違います。
エイリアンと戦う隊員は、激しい戦いで損傷します。ひどいときには腕がもげたり身体が両断されたりしますが、それでも彼らは死にません。「修繕」を受けることで、傷はきれいさっぱり癒えます。
でもその修繕には副作用が――好みのタイプや性格が変わってしまうのです。修繕を繰り返せば繰り返すほど、大きな欠損を癒せば癒すほど、修繕前の人格とは遠ざかっていきます。……じゃあ、現在の「境宗介」は、本当に「境宗介」なんでしょうか?
恐らく、それを一番気にしているのは当人。先輩はかのんに尋ねます。
「僕を見て、昔と変わったなって…思うことある?」
対するかのんはこう返します。
「…そ、そんなに…先輩は昔と同じで優しいし…どこに行ってもすごいままだし……たしかに全く同じってことはないけど、それは高校とは環境が違うんだから、ちょっとくらい違ってるのは、当たり前かなって…」
なぜ先輩はかのんの想いを揺るがすようなことをするのか――その答えのヒントは、この会話に詰まっているのではないでしょうか。自分に自信がなくなったとき、ひたすらに想いを寄せてくれる女の子の存在が、どれだけの救いになるか!
だけど不倫は不倫。「中身が変わってきているからバンバン不倫してOKっす!」とはならないところが、この物語の面白いところです。
謎の要因によって世界が危機状態に陥り、主要な登場人物に世界の命運が託されている。そして「きみ(境先輩)」と「ぼく(かのん)」の物語である――というところから、「あげくの果てのカノン」は広義の「セカイ系」と称してもよいのではないでしょうか。
そして「きみとぼく」感は、かのんの性格によるところに大きいです。先輩だけ見ていたい、先輩しか見たくない、先輩のことを考えているときだけが幸せ……。
でも読者としては気になります。かのんが好きな「先輩」は、目の前にいる「先輩」と同じなんでしょうか?
かのんが好きなのは、「昔と変わっていない境先輩」なのか、「昔と変わってしまった境先輩」なのか、それとも「かのんの頭の中にいる境先輩」なのか……。その答えは多分、かのん自身分かっていないはず。
ドロドロの不倫の恋模様を描くと同時に、「恋をする」ことの身勝手さや、「あの人が好き」ってどういうことなのかを問う本作。少女漫画的な変則コマ割りやきらきらしたかのんの表情(と、気持ち悪さ!)にぐいっと引き込まれます。コミックス1巻は6月に発売したばかり。この恋の「果て」を追いかけていきましょう!
■イベント情報
米代恭×村田沙耶香「この世界を自由に生きることとは?」 『あげくの果てのカノン』刊行記念
出演:米代恭(漫画家)
村田沙耶香(小説家)
日時:7月23日19時〜21時 (18時30分開場)
場所:本屋B&B
世田谷区北沢2-12-4 第2マツヤビル2F
料金:1500円 + 1 drink order
URL :http://bookandbeer.com/event/20160723_agekunohate/
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