連載
» 2017年11月05日 12時00分 公開

愛しいユキは男で、オレの妻っす 『おとこのこ妻』理屈のない“好き”を信じられる幸せあのキャラに花束を

とってもフツーな、ある夫婦の愛のお話。

[たまごまごねとらぼ]
※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

画像 抱きかかえられているのは男で妻。女装の割にトランクス?

 現在放送中のアニメ『お酒は夫婦になってから』の原作者、クリスタルな洋介さんは、夫婦愛の描写がめちゃくちゃうまい。ノロケがメインな割にいやみがなく、二人の日々の頑張りも描いているので、素直に応援したくなる。

 作者が描くもう1つの夫婦譚『おとこのこ妻』から、かわいい妻のユキと、旦那のコウ夫妻をご紹介。

美しいこの人は、男で妻


画像 そら一瞬戸惑うわな(P113)

 長身の凛々しいコウ。物腰柔らかくかわいらしいユキこと雪緒。二人は誰から見てもお似合いの夫婦。特に妻のユキは海ではナンパされ、街頭ではインタビューされるほどの美人さん。

 ただしユキは「彼女」ではありません。男で、妻です。

 先に書いておきます。この作品は「女性に扮しよう」とする男の娘もの・女装男子ものと、ちょっと違います。もちろんそう読んで楽しむのには全く問題ないくらい、要素は詰まっています。ただ、ジャンル分けしてもいいのかな? と悩まされる。BLでもあるのですが、そこも微妙にニュアンスが違う。簡単にカテゴライズできない部分をおさえた、「幸せ」を描いた作者の思想の詰まった作品です。


画像 説明が難しい(P06)

 ユキの性別は、本人もコウも、心身ともに男であるとはっきり認知しています。トイレもお風呂も男性用に入ります。周りの男性は一瞬ぎょっとしますが、まあ、ついてるから見れば分かる。なのでスカートや長い髪は、客観的には「女装」にあたります。

 ユキは女性になりたいとは考えているわけではありません。コウもユキを女性扱いしていません。「ユキは男で、オレの妻っす」と言うのは、あくまでも「男」だという性自認が先に立つからです。

なぜ女性の格好なんだろう


画像 相手は女性だと思っているようですが(P25)

 映画館のレディースデイで、女性にお得といわれてユキがごまかそうとするシーンがあります。しかしコウ、正直を貫き通します。「ユキは男だから」

 バカ正直なコウ。ただこのシーン、彼にもれっきとした信念がある様子が伺えます。自分が好きなユキは、男である。うそをついて、ユキではない何者かにしたくない。

 ユキがなぜ女性の格好をしているかは、コウの妹・福ちゃんとの会話から分かります。ユキのことを「お義兄さん」と読んで、コウよりはるかに信頼している福ちゃん。彼女は二人の良き理解者として、言います。

 「女装を望まないのなら、嫌だと言っていいんですよ。兄は基本的に鈍感です。ハッキリ言わなければ伝わりません」

 それに対してのユキの回答。「確かに女のコの格好は恥ずかしい…けど。でもね、かわいい服着ると…あの…コーさんすっっっごく喜ぶから…」


画像 妹さんもユキのことが、お義兄さんとして好き(P49)

 愛する人が喜ぶのが、自分の最大の喜び。さすがにそういわれたら、なんの言葉もでません。素敵ですよ、うふふ。

人の好奇心

 ユキとコウ夫婦は、多くの人に祝福されているカップルです。本人たちの幸福っぷり、周囲もほんわかうれしくなる。やぼなことはみんな言いません。

 ただ、やはり人には好奇心があるもの。「珍しい」と考える人間も、当然います。


画像 興味を持つ人は、絶対います(P72)

 ユキもコウも、お互い愛し合っているけれども、別に性的に男性が好きというわけじゃない。ユキは男性として、他の女性の体にも反応する。これを「実に希少だ!」と言うのは、デリカシーがなさすぎる……のだけど、そう感じる人がいるのは否定してはいけないと思う。特に幼い子どもなんかは、ユキを見てからかったりもします。

 けれども、二人に接し、話していくうちに、全く気にならなくなっていく。コウの同僚は、ユキのかわいさを見て、全く男性だと認められず最初は混乱しっぱなしでした。ところが二人の生活の幸せさに触れるうちに、夫婦愛とは考える以前の問題であることに気付きます。

 「男と女の違いってなんだろう… オレ…今まで小さな事で縛られてたのかな…」

 この作品はあまり、セクシャルマイノリティ問題に触れようとはしていません。というか「触れる必要はない」と考えているのがテーマだと思う。

 二人の恋愛になんらかの名称を付ける必要はない。コウとユキが愛し合っている。それ以外何も要らない。(ただし、法律とかには触れていません。入籍とかうんぬんはちょっと不明なまま)

 ユキの家族は、二人が愛し支え合っているのを見て、心から祝福しています。「雪緒、幸せそうだったね」「いい人にもらわれて良かったぁ」

 満たされているのだから、周りがどうこう言う筋合いないですよ。

愛し合う二人

 もちろん、すんなり二人が今の状態になったわけではないです。もともと不登校のユキは引きこもり。中学時代、ユキのためにプリントを持ってきたのが出会いでした。

 当時は「男が男を好きになる」ということに、ユキも迷いがありました。けれどもコウは、ざっくり。「好きに理屈はないだろうからな」

 ユキもコウも、さすがに高校時代は自分を整理するため迷います。けれど二人は、高校卒業時に結論を出しました。


画像 奇遇だな。(P147)

 「ぼく、ひきもりだよ?」「料理も掃除もできないよ?」「不器用だよ?」と、いろいろ自らの欠点を問うユキ。そして、最大の欠点だと思い込んで今まで言えなかった「ぼく…おとこだよ?」の言葉。

 コウの答えは「奇遇だな。オレもおとこだ」。欠点なんかじゃない。めちゃくちゃデリケートで、かつ力強い返答。「男でもいい」じゃないし「男だからいい」でもない。好きな相手がユキで、たまたま自分の方もおとこだった。

 この作品、特に「男」と「おとこ」の使い方に気配りされていますので、ぜひ読んでチェックしてみてください。

 「幸せ」という抽象的なものを考える際、どうしても人それぞれ、バラバラな基準点が介在します。夫婦の場合は、顔だったり、人柄だったり、財産だったり、家庭環境だったり。

 『お酒は夫婦になってから』では働き者の妻と、家事をこなしながら在宅仕事をする夫が、お酒を飲む一時に心をさらけ出す幸せを描きました。『おとこのこ妻』では、ユキとコウがお互い男だと理解し、愛し合ってバカップルっぽい日々を送る様子を甘々に描きます。

 基準になる題材が全く違うこの2つの作品、「家で二人、お互いの全てをさらけ出し、愛し合う」という部分では一致しています。作中のキャラクターたちも、どちらのカップルも笑顔で見守ります。ぼんやりと皆が考える「幸せ」を、理屈ではない部分で双方つかんでいるからなのでしょう。

 もう1つ、「幸せ」の判断基準には将来性も入ってきます。ユキとコウはどうなの?


画像 末永く、っていい言葉(P30)

 映画館で割引の話を聞いた時、夫婦どちらかが50歳以上の夫婦50割引があると係員から教えてもらった二人。

 「50歳…」「しばらくは定額か」「しかたないね」「また来ます」

 これから先、年をとってもずっと、一緒にいるって信じて疑わない。それに対する「末永く当館をよろしくお願いします!」って言う係員の返し、気が利いていて本当に素敵。

 2人の幸福な姿が見られたら、こちらも幸せになるし、なんだか勇気も元気も湧いてくる。自分が好きなもの、愛するひと、何者にも惑わされず、信じていい。それが幸せ。夫婦愛の伝道師として、ユキとコウは手を取り合って、マイペースに歩んでいきます。

(C)Kurisutaruna Yousuke / Shogakukan



たまごまご


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2312/11/news037.jpg まるで絵画 SNSで公開された“世界屈指の美しい犬”の姿に「女神様」「サラブレッドのお馬さんかと」
  2. /nl/articles/2312/10/news033.jpg 捨てられて真っ黒だった元野良猫が、家猫になった今では…… 真っ白で幸せいっぱいの暮らしに「ほんときれいな美猫さんに」「胸が熱くなる」
  3. /nl/articles/2312/11/news030.jpg 猫たち、日常を写した1枚に爆笑ポイントを詰め込みすぎてしまう 108万件表示された光景に「猫4匹いる!?」「笑っちゃったw」
  4. /nl/articles/2312/11/news094.jpg ハロプロアイドル、自撮り加工での大失態暴露「最悪です」「あー恥ずかしい」 やらかし写真は投稿済でファンの反応まちまち
  5. /nl/articles/2312/10/news018.jpg 同居猫のおしりを嗅いで「テメェ屁こいたなぁ!!!!!??(怒)」と理不尽ギレする猫の姿に抱腹絶倒「夜中に爆笑させないで」「名作」
  6. /nl/articles/2312/10/news019.jpg 入院で2週間不在だったママを待ち続けた猫、再会の瞬間…… 涙を誘う喜びあふれる“お返事”に「深い絆に涙が」「嬉しさがひしひしと」
  7. /nl/articles/2312/11/news074.jpg ロッチ中岡、「エンゼルスの大谷翔平」をすべり込みセーフで撮影 “お別れ1時間前”の写真に「マジ? 奇跡だ」「さすがもってる!」
  8. /nl/articles/2312/08/news128.jpg 木村拓哉、「DA PUMP」ISSAとの舞台裏ショットが感動モノ「兄弟みたい」「泣きそうになる」 “縁のあるチームTシャツ”に反響「愛を感じます」
  9. /nl/articles/2312/11/news097.jpg King Gnu井口理、プライベートでスペイン旅→同行した“超大物”に驚きの声 「まさかの」「番組一本できるやつ!」
  10. /nl/articles/2312/11/news078.jpg 4児のパパ・岩隈久志、“スタイル抜群”と話題の長女が20歳バースデー 感慨深すぎる父娘ショットで「何歳になっても可愛くて」
先週の総合アクセスTOP10
  1. オール巨人、30年モノな“伝説の1台”に自負「ここまでキレイな車はない」 国産愛車の雄姿に称賛の声「気品がある」「凄くエレガント」
  2. 「明らかに写真と違う」 東京クリスマスマーケットのフードメニューが物議…… 購入者は落胆「悲しかった」
  3. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  4. 田中みな実、“共演した姉”の存在に反響「居るとは聞いていたけど」「激似やなぁ」 すらっとしたたたずまいに「品のあるお方」
  5. 藤本美貴、“全然かわいくない値段”のテスラにグレードアップ スマホ一つでの注文に「震えちゃ〜う!」
  6. マックで「プレーンなバーガーください」と頼んだら……? 出てきた“予想外の一品”に驚き「知らなかった」
  7. 伊藤沙莉、“激痩せ報道”の真相暴露→広瀬アリスの株が上がってしまう 「辱めったらない」告白に「アリスちゃん、ええ人や〜」
  8. 「あなたは日本人?」突然送られてきた不審なLINE、“まさかの撃退方法”に反響 「センス良い」「返しが秀逸」
  9. “鬼ダイエット”で激やせの「Perfume」あ〜ちゃん、念願の姿に「着れる日が来るなんて」と大喜び
  10. 900万再生のワンコに「電車で笑ってしまった」「つられてめちゃくちゃ笑っちゃうw」 “突然魔王になった犬”に腹を抱える人続出
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「酷すぎる」「不快」 SMAPを連想させるジャンバリ.TVのCMに賛否両論
  2. 会話できる子猫に飼い主が「飲み会行っていい?」と聞くと…… まさかの返しに大反響「ぜったい人間語分かってる」
  3. 実は2台持ち! 伊藤かずえ、シーマじゃない“もう一台の愛車”に驚きの声「知りませんでした」 1年点検時に本人「全然違う光景」
  4. 大好物のエビを見せたらイカが豹変! 姿を変えて興奮する姿に「怖い」「ポケモンかと思った」
  5. 渋谷駅「どん兵衛」専門店が閉店 店内で見つかった書き置きに「店側の本音が漏れている」とTwitter民なごむ
  6. 西城秀樹さんの20歳長男、「デビュー直前」ショットが注目の的 “めちゃくちゃカッコいい”声と姿が「お父さんの若い頃そっくり」「秀樹が喋ってるみたい」
  7. “危険なもの”が体に巻き付いた野良猫、保護を試みると……? 思わずため息が出る結末に「助けようとしてくれてありがとう」【米】
  8. 「やばい電車で見てしまった」「おなか痛い、爆笑です」 カメがまさかの乗り物で猫を追いかける姿が予想外の面白さ
  9. おつまみの貝ひもを食べてたら…… まさかのお宝発見に「良いことありそう」「すごーい!」の声
  10. 「3カ月で1億円」の加藤紗里、オーナー務める銀座クラブの開店をお祝い “大蛇タトゥー”&金髪での着物姿に「極妻感が否めない」