口コミからスマッシュヒット。自分探しタップゲーム「ALTER EGO」が生まれるまで(2/3 ページ)
放置系タップゲームと組み合わさった「性格診断」
――ゲームジャンルは放置系タップゲーム。出てくる吹き出しをタップするか時間経過でポイント「EGO」が貯まり、アドベンチャーパート(ストーリー)が開放されていきます。このゲームジャンルになったのはなぜでしょうか。
大野: 自分を見つめなおす、内省的なゲームをやりたかったんです。出てきた吹き出しを見ながら「自分ってなんじゃろう」と考える。その問いにも答えにも終わりはありません。その“積み重なっていくけど、終わりが見えない感じ”が、放置系タップゲームと相性がいいと感じました。
ただ、吹き出しをタップしていくだけではゲームとしては弱い。あまりにも地味なものになってしまいます。そこで出てきた要素が「性格診断」でした。
――プレイヤーは不思議な空間で謎めいた女性「エス」と、彼女と敵対しているような存在「エゴ王(壁男)」と出会います。アドベンチャーパートは、エスとの会話を進めていくうちに、プレイヤー自身やエスの内面を掘っていくようなものになっていきますね。最初からキャラクターやストーリーは固まっていたのでしょうか。
大野: まだ「エス」という名前は決まっていませんが、「プレイヤー」「難しいことを言ってくる壁」「性格診断をしてくる女性キャラ」という配役は最初期から固まっていました。
いとう: この配役は、フロイトの精神分析のモデルに当てはまりますよね。壁男はスーパーエゴ、エスはそのままエス(イド)。その間に自分(プレイヤー)がいる。エス(イド)は、快楽原則にのみ従う、衝動や欲動を司る存在。そんな名前をしているのに、軍服っぽい……つまり抑圧・コントロールされていそうな服装をしていて、プレイヤーの精神を分析してくるわけですよ! ストレートなようでいて、ちょっとねじれがある。
大野: 最初から「フロイトだ!」と思って配役をしたわけではないんですけどね。ただ、頭の中では最初からそのモデルが存在していて、あとから「あっ、これはもしかしてあのモデルを無意識に使っていたのか」と気付いたパターンだと思います。
――序盤、エスがプレイヤーに心理テストを出してきます。その結果がかなり“当たっている”と思わされるもので、ドキリとするプレイヤーが多いです。この心理テストはオリジナルのものですよね?
大野: そうですね。僕は大学で心理学を勉強していて、「働きたくない!」「大学で勉強しながら研究職をやって小説を書いていたい!」という思いをくすぶらせながら、結果社会に出てしまった。「自分のやりたいことを思いっきりやる」を目指していたので、学生時代に学んでいた心理学もゲームの中に入っています。
いとう: このゲーム、ものすごく“自分語り”をしたくなるんですよ。私も初めて診断されたとき、「なぜ私のことがわかるんだエス!」という気持ちでSNSにシェアしてしまいました。ふとTwitterのタイムラインを見ると、みんなが診断をシェアしながら「なぜわかるんだエス……」とつぶやいていて、迫力がありました。
――そういえば、リリース直後に「ALTER EGO」がトレンド入りしていました。
大野: ゲーム内での診断内容をSNSにシェアできるようにしていました。最初の診断のチャプターはプレイしてわりと早い段階で解放されるようなバランスにしていたので、「このタイミングで出てきたら、シェアしてくれるのでは」と狙ってはいました。ただ、エスが下す診断は、けっこうキツい言いぶりなわけですよ。だから「シェアしたくない」と思う人もいるだろうと懸念していました。けれどふたを開けてみると、予想以上にそのキツい診断に喜んでくれていて。
いとう: 最初は「なんだこの女は」と思うのですが、どんどんエスを好きになってしまう……。ゲームを進めていくうちに、「この子を絶対に放っておけない」という気持ちにさせられるんです。気付いたら彼女に飲み込まれているというか、すごく危うい形で寄り添って離れられなくなっている。
――選択肢によってストーリーが分岐して、エスとプレイヤー(=旅人)の関係や、エスのありようが変わってしまうんですよね。
いとう: 最初、プレイヤーを分析する側として存在していたはずのエスが、プレイヤーの選択によって変わってしまう。私が衝動的な選択肢を選んでいくと、彼女もどんどん衝動的になって、バッドエンドを迎えてしまうんです。1つエンドを終えたころには、今度はいつのまにかプレイヤーが分析者側になっている。きわどく危ういゲームだと思います。
大野: 攻守交代するような作り方はしているかもしれません。精神分析のゼミで勉強していたころ、いくつかケーススタディーを学んだのですが、分析者と対象者のコミュニケーションは時折非常に流動的になります。転移、逆転移といった言い方をされますが、例えば親に関する問題を抱えている対象者が、分析者に親を重ねて依存したり反発したりすることがある。逆に分析する側が影響を受けて、親のようなふるまいをしてしまうこともあるんです。
――プレイ中、エスと自分(プレイヤー)が共依存のようになっている感覚もありました。
大野: 配役が流動的になるように作っています。「どちらが分析する側か」は流動的ですし、もしかしたら両方かもしれない。
いとう: 1周目はどんなゲームなのかわからないまま、「自分を分析するゲームなのかな?」と思ってエンドを迎える。「なんだったんだ……」と2周目に突入してみると、今度は全く反対の結末に至るわけです。3周目をやるころには、「自分の性格診断」を目指してはプレイしなくなっているんですよね。ひたすらエスのことを考えているんです。
大野: ダークな話のつもりではなくて、エスがようやくエスという自我を身につける、アイデンティティーを見つけ出すというストーリーです。道中ではエスがひどいことを言ったり、エスをひどい状態にしてしまったり……がありますが、3周やったらエスもプレイヤーも報われるような話として届いていればいいなと思います。
――シナリオは大野さんがクレジットされています。全部ひとりで執筆したんでしょうか?
大野: はい。けっこうシナリオはあっちに行ったりこっちに行ったりで、ギリギリになってから大きく方向変換がありました。ルート(エンド)の構成は変わらないのですが、メタっぽすぎたりあっさりしすぎたりと、今よりもエスが苦しそうではなかった。粘ってシナリオ変更をして、今の形になりました。
いとう: さっきも言っていましたが、「恥」を全開でさらしているんですよね、いい意味で……。
大野: ただ、他の商業的な作品のキャラやストーリーと比べると、エスの情緒不安定さはある意味で「キャラぶれしている」といわれうるんですよね。とがったキャラ設定や世界観を押し切って作れたのは、この制作体制だったからかもしれません。
もしもっと大人数で作っていたら、「もうこの設定をFIXしちゃったから変更できないな」「お願いしちゃったからこの方向でいかないとな」となっていたかもしれない。大人数だからできることもありますが、一方でシュリンクしたりこぼれおちたりするところはあります。「ALTER EGO」は小人数開発だったので、自分のイメージや初期衝動のままやりきることができました。
関連記事
- 「百合」と「SF」、好きなものが両方入っていたら2倍うれしい 『裏世界ピクニック』宮澤伊織に百合を聞く
「最悪にも程がある」のいとうさんを聞き手に百合トーク。 - 2018年は「百合の多様性の時代」 『裏世界ピクニック』宮澤伊織×「最悪にも程がある」いとうに聞く、激動する百合の現在地
これからの「百合」の話をしよう。 - 「“りぼんっぽさ”が独り歩きしている」 りぼん相田編集長が『さよならミニスカート』を“激推し”したワケ
「りぼん」相田聡一編集長に聞いてきました。 - 同人と商業の「決定的な違い」とは? ついに完結『クズの本懐』横槍メンゴが大事にする”コミュニケーション”
「クズの本懐 デコール」の秘話も聞きました。 - あなたは誰のためにメイクしてますか? 15人の女の告白『だから私はメイクする』が心に刺さる
「会社では擬態する女」を出張掲載。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
-
自宅のウッドデッキに住み着いた野良の子猫→小屋&トイレをプレゼントしたら…… ほほ笑ましい光景に「やさしい世界」「泣きそう」の声
-
「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
-
「ヤバすぎwwww」 ハードオフに1万8700円で売っていた“衝撃の商品”が690万表示 「とんでもねぇもん見つけた」
-
330円で買ったジャンクのファミコンをよく見ると……!? まさかのレアものにゲームファン興奮「押すと戻らないやつだ」
-
ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
-
大量のハギレを正方形にカット→つなげていくと…… “ちょっとした工夫”で便利アイテムに大変身! 「どんな小さな布も生き返る」
-
58歳でトレーニングを始めたおばあちゃん→10年後…… まさかまさかの現在に「オーマイガー!!!」「これはAIですか?」【海外】
-
母犬に捨てられ山から転げ落ちてきた野良子犬、驚異の成長をみせ話題に 保護から6年後の“現在”は……飼い主に話を聞いた
-
「水曜どうでしょう」“伝説のシーン”そっくりな光景にネット騒然 「ダメだ笑っちゃう」「なまら怖い」
- アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
- 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
- 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
- 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
- イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
- 「この動画お蔵かも」 親子デートの辻希美、“食事中のマナー”に集中砲火で猛省……16歳長女が説教「自分がやられたらどう思うか」
- 老けて見える25歳男性を評判の理容師がカットしたら…… 別人級の変身と若返りが3700万再生「ベストオブベストの変貌」「めちゃハンサム」【米】
- 「ガチでレア品」 祖父が所持するSuica、ペンギンの向きをよく見ると……? 懐かしくて貴重な1枚に「すげえええ」「鉄道好きなら超欲しい」と興奮の声
- 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
- 「天才」 グレーとホワイトの毛糸をひたすら編んでいくと…… でっかいあのキャラクター完成に「すごい」「編み図をシェアして」【海外】
- 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
- 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
- フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
- 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
- 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
- ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
- 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
- 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた