口コミからスマッシュヒット。自分探しタップゲーム「ALTER EGO」が生まれるまで(3/3 ページ)
Twitterで見つけたクリエイター
――キャラクターデザインはいとうさん。どういう経緯で依頼をしたのでしょうか。
大野: 2018年2月終わりくらいに、キャラデザ担当の方を探していたんです。イラストレーターさんのリストを見ながら「この人がいいかな?」「いや、この人かも……」と100人ほど見て、でもまだ決まってはいなかった。そんなタイミングでTwitterで同人誌「最悪にも程がある」を見かけて、「……これだな!」と。すぐに取り寄せて内容を読んだら、「ALTER EGO」がやりたい方向性にも通じるものがあるなと感じました。
※「最悪にも程がある」
文学を好むモラトリアム女子大生が、自意識と巨大な感情をぶつけ合う百合漫画。同人誌でシリーズ展開しており、既刊3巻が刊行中。
いとう: 最初にキャラデザを依頼するメールが来たとき、既に企画書が添付されていて。内容を読んで、あまりの“俺が好きなものを作るんじゃい!”という抜き身の剣のようなオーラに、「こんなものを送ってくる人は絶対面白いでしょ」と受けることを即断即決しました。
大野: ありがたい限りでした。いとうさんが受けてくださったおかげで、その前に調べたイラストレーターさんのリストはなかったことになりました(笑)。
――エスのデザインのこだわりはどんなものですか?
いとう: 最初のオーダーから「軍服ワンピース」でという指定がありました。それから企画書を読んでいて「めんどくさい女が好き!」という大野さんの気持ちが伝わってきたので、「私も好きだよ!」という思いを詰め込んでいます。コンセプトは“衝動にいろいろなものがかぶさっている状態”。すごく窮屈そうで、デコラティブな感じを目指しました。髪型はオーソドックスでいくなら三つ編みなんですが、フィッシュボーンという編み込みにしてみました。
大野: ほとんど一発オーケーでした。
いとう: 本当に配信が始まるまでは怖かったです。どういう顔をして向き合っていいのか……と思っていましたが、いざプレイしてみたら大好きになってしまいました。
――音楽はamikoさん。少し寂しげで雰囲気のあるサウンドが魅力的です。
大野: イラストはまだ勘所がありましたが、音楽は一切わからなくて。自分で詳しいオーダーができないし、修正依頼もできないだろうと思ったので、お任せできる方を探していました。キャラデザのときと同じく、ゲームミュージック作曲をやっている方のリストを作っていたんですが……amikoさんのピアノ楽曲とTwitterで偶然出会ってしまい。
――同じパターンだ!
大野: 「やべえ、これだ!」と。すぐさまリプライをして、引き受けていただくことになりました。amikoさんは基本的にゲームミュージックをやっている方ではないし、業界やTwitterでのクラスタも違うんですが、たまたまタイムラインに流れてきたありがたい出会いでした。
大変だったことばかりの制作
――制作時、大変だったことはありますか?
大野: ……苦労したことばっかりですね……。基本、ゲームって作るのが大変で……。
いとう: でしょうよ……。
大野: ゲーム業界歴はフリー時代も含めて10年近くあるのですが、ゲームのディレクターをするのは「ALTER EGO」で2作目。自分にノウハウがあるわけでもないし、会社の他スタッフに詳しい人がいるわけでもなかったので、慣れないことばかりでした……。特に大変だったのはパラメータ周りですね。ストーリー進行やアイテム管理に必要な「EGO」の数字の設定をどうすればいいのかが見当がつかなくて。
※EGO
作中で「吹き出しをクリック」するか「時間経過」で増えるポイント。ストーリー開放や、よりEGOを集めやすくするアイテム(本)の開放に必要になる。
――EGOをためるの、すんなりできるときもあれば、妙に詰まるタイミングもあって、一筋縄でいかない感じがありました。
大野: そうなんですよ。ストーリーでエスが「少し考えさせて」など、自分を振り返る時間をほしがっているときは、次のストーリーが開放されるまでにちょっと時間がかかるようにしています。ストーリーの流れとプレイヤーの放置時間が重なることで、エスとの関係を体験してほしいという思いからです。ただ、11月頭にベータテストを行った段階では、まだ細かい数字を詰め切れていなくて。ベータテスト後に「これは無理だな!」と思い、エンジニアに神Excelを作ってもらって数字周りを全て見直しました。
――リリースは12月。つまり、1カ月で全部の数値を変えているわけですね……。
大野: そのときでも、一応バランスはとれていたんですけど、どうしてもやりたくて。本のページ数も、当初は1000ページで統一していたんです。でも途中で「いや、どの本もページ数って違うよな」ということに気付いてしまい、本ごとに最大レベル(ページ数)が違うようにしました。『星の王子さま』と『山月記』のページ数が同じというのは、やっぱりちょっと違う感じがしました。
※本
EGOで開放できるゲーム内アイテム。放置時間で得られるEGOの数が増える。『山月記』など古今東西の名作を“読書”していくようになっており、最も開放しにくく読み進めにくい本(エンドコンテンツ)が『ドグラ・マグラ』。
――すごい制作進行ですね。
大野: ひどいですね。
――ベータテスト後に変わったことはほかにもありますか?
大野: 「もっと“読書体験感”がほしい」となって、吹き出しの仕様を変えました。内省を迫るような言葉が出てくるのは変わらないのですが、本を読み進めるごとに出てくる吹き出しのフレーズも少しずつ変わっていきます。また、一定ページ数を読むごとに、作品の印象的な文章が出てくるようにもしました。本を買いなおして、参照している書籍と同じページ数で出てくるようにしています。
いとう: このゲーム、参考文献と出典がものすごくしっかりと明記されているのが、地味にすごいところだと思います。
――プレイヤーはどういう層でしょうか。
大野: “村”がいくつかあるイメージですね。「メギド72」クラスタだったり、TRPGクラスタであったり、「Doki Doki Literature Club!」であったり、さまざまな作品を好きなクラスタの中で、口コミで広がっていった印象です。村のひとつひとつは大きくはありませんが、たくさん飛び火して、束になって今のダウンロード数になっていると思います。詳しく数字を見れてはいないのですが、当初想定していたのは本が好きな20〜30代ユーザーでしたが、中高生にもリーチしている感覚があります。
いとう: 中高生のときにこのゲームと出会っていたら、私ヤバかったと思いますね!
――Twitterで大野さんが「ゲーム開発者からはピンと来られていなかったから、むしろヒットするのではないか」という趣旨の発言をされていて面白かったです。
大野: ゲーム開発に慣れている人たちに「今こういうゲームを作っているんですよ」と話しても、「あ〜、いいじゃん(あっさり)」くらいの反応で、全然ピンと来ていない雰囲気だったんです。でも、リリース前に出展したイベント「Tokyo Sandbox」で、まだ発表もしていないのにコンセプトとビジュアルだけで猛烈に惹かれてくれている方が何人もブースに来てくれまして。だから「このゲームは一般受けはしないかもしれないけど、求めている人は確実にいる」と実感しました。
いとう: 「これは自分のための話だ」と思いながら作った個人的な作品って、意外と自分だけの話にとどまらないんですよね。狭い範囲ではあるかもしれないけれど、“刺さる”層がいる。
大野: そうなのかもしれません。そもそも「これがウケているからやろう」と追いかけてやるのでは、開発スピードや資本などがある大手ゲームメーカーには勝てません。世に既に出ているものだと、うちがやる需要は発生しないんです。だから「ALTER EGO」に関しては、半分以上自分のためと割り切って作ったところがある。それが意外と需要があって、たくさんの人に遊んでもらえました。「『ALTER EGO』が初めてプレイしたスマホゲームです」という人もいました。
――うれしかった反響はありますか?
大野: 「ATLER EGO」がきっかけで本に興味を持ったという声はうれしかったです。元からそういう影響を与えられたらいいなと思っていて。ゲーム内で読む本は、比較的読みやすい順にオープンされるようになっていて、『人間失格』が最初。小説を読む人が減っている中で、「本とか読んだことほとんどないけど、『人間失格』から読んでみよう」と読み始めてくれるとしたら、それはすごくいいことですよね。
いとう: 最後には『ドグラ・マグラ』にたどりつくわけですね……。
「ALTER EGO」のその次
――口コミからスマッシュヒットになった「ALTER EGO」。今後の展開は予定されているでしょうか。
大野: こんなに「ALTER EGO」を楽しんでもらえているので、クリア後に遊べるコンテンツを増やしていきたいですね。エスとの雑談をもっと増やしたり、新しく診断ができるようにしてみたり……ということができればなと。エスと一緒に詩を作ったりできれば楽しいかも……。
いとう: 本を増やすことは考えていないですか?
大野: 悩ましいですね。現状の『ドグラ・マグラ』も読破するのは相当大変なはずなので(笑)、さらに上位コンテンツはまだ考えていないです。
いとう: エスとともに、ゆっくり『ドグラ・マグラ』を読むことにします。
大野: 他展開で言うと……「ALTER EGO」中国展開の話はきています。ただ単純な翻訳にするのか、それとももっと現地にローカライズした形になるべきなのかは固まっていません。他の言語に関しては、道筋が見えたら……どのみち、できる範囲でやっていきたいですね。
また、ありがたいことに「課金アイテムを増やしてほしい」という声もいただくのですが、現在の課金アイテムに拡張性があまりないので、ゲーム内バランスを考えると少し難しい。LINEスタンプ、サウンドトラックといったデジタルコンテンツは既に配信していますが、グッズやイベントコラボカフェなどの展開もしていけたらなと。お声がけお待ちしています!
――いま課金の話がありましたが、売り上げはどうでしょうか。
大野: 本作はかなり自分がどっぷり入って作った作品なので、厳密に計算はできていないのですが、単純な制作費で言えば1月中には回収できる見込みです。このタイプのゲームにしては課金率が高く、課金しなくてもクリアできるゲームなのですが、クリア後に「お布施のつもりで課金しました」と言っていただけることが多いです。これも本当〜にありがたい話です……。
――直接的な続編や、いわゆる精神的続編を期待する人も多そうです。
大野: ストーリーから考えると、続編に発展できない設定なので、「ALTER EGO2」は作れません。ただ、エスが直接出てくるわけではないけれど、モチーフやテーマになんらかの“気配”を感じる作品をいつか作れたらいいのかなと今は考えています。
また、カラメルカラムにはいろいろな制作ラインがありまして。「ALTER EGO」は“自分のやりたいことをやる”ことを目指した「EGOライン」でした。その他には、エンタメを目指す「エンタメライン」、他クリエイターさんや版権とガッツリ組んだ「版権ライン」などがあります。「ALTER EGO」の開発でストップしていたその他のラインを2019年は動かす予定です!
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