植物の見えない部分をのぞいてみよう 同人誌『切ってみた』が伝える顕微鏡越しの小さな神秘:司書みさきの同人誌レビューノート
断面を通して植物を知ろう。
よく晴れた日、足元がかさりと音を立てたのに下を向くと、坂道にきれいな黄色の葉が散らばっていました。青々としていた木々が色づく不思議……そこからさらにクローズアップして、今回の同人誌は、顕微鏡で植物の美しさをのぞくご本です。
今回紹介する同人誌
『切ってみた“KITTE-MITA”』 A5 40ページ 表紙・本文カラー
『切ってみた“KITTE-MITA”II水のとおり道編』 A5 34ページ 表紙・本文カラー
作者:モスモス コケの森
肉眼では「見えなかった美しさ」を顕微鏡で
『切ってみた』のご本のタイトルと一緒に、表紙に並ぶのは繊細な模様、不思議な色の重なり……すぐに植物の葉っぱですね、と気付く写真もありますが、一方でつぶつぶきらきらしたビーズ細工のようなものや、四角や五角、六角形の見慣れない画像に目を引かれました。これらは植物の茎や葉の一部を薄く切り、顕微鏡で拡大したものだそうです!
植物の茎といえば丸いイメージでしたが、ご本ではいろんな形のものが紹介されています。『切ってみた II』に取り上げられた、規則性を持ったみずみずしい切口は、レース編みのコースターのように繊細に美しく見えます。植込みによく使われるという樹木や水田の雑草に、こんな美しさが隠れていたとはびっくりです。
また、左右対称になっているものもかわいらしさがあります。ソテツのころんとした断面をたくさん並べた様子には、ゆるキャラを金太郎アメにしたみたいで、ほんわかします。
作者さんは『切ってみた』の中で、「切片を観ている時が一番楽しい 見えなかった美しさがそこにあるから」とその発見の喜びを表現されています。その言葉通り、肉眼では見えなかった世界が、ページをめくるごとに現れてきます。
説明が、驚きを興味につないでいく
ご本は対象となる植物と、顕微鏡を通して撮影した写真がカラーで掲載され、作家さんがこの対象のどこに引かれたのか、なぜこんな形状や色になっているのかが説明されています。
単純に「いつも見ていたものにこんな面白いことがあったなんて」と見た目に驚いたあと、さらにその世界を写真に添えられた文章が深めてくれるんです。
例えば、緑の葉っぱに赤い模様が浮かぶ植物ヒポエステス。葉っぱが赤くなっているところを切り、顕微鏡を見ると、やっぱり赤い色素が見えるところまでは予想通り。でもよく観察すると、色は層になって重なっています。赤と緑の葉っぱだから、切片の層も赤と緑では? と私は考えましたけど……実は、赤い模様の下層には緑の色素はほとんどなく、白い色素が敷かれていることが示されます。それを「印刷の手法のよう」と説明されると、はっと「そういえばアクリルキーホルダーとかはそういう方法で印刷されてますね……!」と身近に感じます。
植物の色は単純ではなく、小さなかけらが組み合わさり、ときに層を成して自然のカラフルさを生み出している……解説を読むことで、複雑な色味の世界にぐっと興味が湧いてきました。
顕微鏡から、植物を楽しむ世界へようこそ!
作者さんは、小学生最後の夏休みに手に入れた顕微鏡で、小さな世界をのぞく神秘に引きずり込まれた、と書かれています。以来、海や山をフィールドとし、顕微鏡をのぞき込んでこられたようです。ご自身の体験を基にされた顕微鏡切片の作り方も掲載され、繊細な美しさに魅せられたお気持ちと同時に、この楽しさを読者に届け、植物がこんなにいとおしいものだと気付いてほしい! という願いがこもっているように思いました。
身近な植物一つをとっても、そこにはいろんな楽しみ方があるんだ、知識を深めることで身近な植物でこんなにも楽しむことができるんだと、愛情あふれるメッセージを感じるご本です。
今週の余談
先日、街に濃霧が立ち込めて話題になっていました。毎日のように霧が発生するところもある中で、大きな都市の気候の違いだけニュースになるのがちょっと面白く感じました。きっとどこかでは「いつも霧だけど今朝は夜明けから快晴だね!」なんてニュースな出来事も、そこここで起こっているのでしょうね。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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104ページという力作。
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