「SEKIRO」のGOTY受賞から考える、なぜ今日本のゲームが世界のゲームアワードを席巻しているのか:水平思考(ねとらぼ出張版)(2/2 ページ)
ねとらぼ いやーでもSEKIRO面白かったですね。
平 「ダークソウル」のフォーマットを使って、よくこんなプレイフィールが違うものを作れるなと思いましたね。
ねとらぼ 攻略順けっこう迷いませんでした? 後から振り返ってみたら、けっこうぐちゃぐちゃな順番でクリアしてしまっていた。
hamatsu 宮崎(英高)さんのゲームって、ミニマップとか全体マップみたいなのを絶対に出さないですよね。あれってなんか意図があるんですかね?
平 絶対あると思います。
hamatsu ダークソウルとかをやってて思うのは、プレイヤーに世界の全貌を把握させまいとする意思があるというか、悪夢的な状況に放り込んだような感覚を与えたいというか。
平 ナビゲーションに従うゲームは作りたくない、というのは明確にあると思いますね。実際、それは「Demon's Souls(デモンズソウル)」で初めて宮崎さんに取材をさせてもらったときに話していたと思いますし)。
hamatsu あー、なるほど。
平 宮崎さんの作るゲームって、遊んでいる中で自然にマップの特徴に気付いて、自分の中に地形がマッピングされていくんですよね。この感覚って、他の同タイプのゲームにはなかなかない感覚で。宮崎さんって、人間が何があると認知(記憶)できて、逆に何がないと認知できないか? みたいなところの考えがすごいしっかりしていて。彼の話を聞いていると、そういうところがゲームデザイン力のバックボーンとしてもあるように思えますね。
hamatsu “体感性”みたいなところにすごくフィットするように作ってるなと思うんです。だから遊んでいるとだんだん自分の中で土地勘みたいなものができてきて、ショートカットも開けるからどんどんサクサク進めるようになっていく。ミニマップ的なものがあって、明確に目標地があって……っていうのは、宮崎さんのゲームではかたくなにやらないですよね。
平 ミニマップを作るとミニマップを見てゲームするようになっちゃうんですよ。
hamatsu 画面の片隅のちっちゃいところだけを見てプレイするようになってしまう。
平 そうそう。
hamatsu 宮崎さんのゲームって、自分の中にルールというか文法を生成していくような感覚があって。逆に他のゲームは自分の“外側”に文法を作ってしまって、結果としてナビゲートに従うだけになってしまうというか。
ねとらぼ 確かに今のゲームって、ナビゲーションが洗練されすぎてしまったんじゃないかと思うところはありますね。SEKIROってすごく不親切な部分もあるんですけど、ある意味でプレイヤーを信じている。
平 とはいえ、ゲーム中に露骨なナビゲーションがないかっていうとそうでもなくて、例えばSEKIROでは、城の屋根を移動するマップにある狼煙(のろし)なんかは、露骨なナビゲーションなわけですよ。だから……。
hamatsu 線引きというか。
平 そうそう、「これはこれでいいや」っていう見極めというか、割り切りの判断もある。たぶんだけど、大まかなコンセプトはコンセプトで持ちつつも、一方でプレイヤーが不便だったり不快に思う要素は、バッサリと削ってるんですよ。そのあたりのバランス感覚が良いんでしょうね。
ねとらぼ それもあるんですかね、あんなに最後まで新鮮な気持ちで遊べたゲームは久しぶりでした。ゲーマーとしてスレてくると「ここで開発者はこうさせたいんだろうな」っていうのを想像しながら遊んじゃうじゃないですか。
hamatsu あるある。
ねとらぼ SEKIROはそれが最後までなかったんですよ。だからあんなに難しいのに、本当に遊んでいて気持ちいいゲームだった。
hamatsu 宮崎さんのゲームってそういうところがありますよね。なんというか、ダルいなあみたいなところを極力排除しているというか。ダークソウルも操作に習熟するとどんどんサクサク敵を倒せるようになっていく。
ねとらぼ そういえば平さん、ラスボスどれくらいで倒せました?
平 5時間くらいかかったかな?
ねとらぼ あー平さんでも結構かかってた! クリア報告のツイートが早かったので、てっきりもっとサクッとクリアしてたのかと思いました(笑)。
平 でも5時間同じボスを繰り返すっていう、この時代にこれをやらせるかっていう(笑)。
hamatsu その“確信”の強さに驚くするんですよね。
平 だってヘタしたらねえ、アクション苦手な人だったら10時間とかかかるでしょ? いやー、みたいな。
ねとらぼ 僕も記事で書きましたけど(関連記事)、普通は誰か「イージーモードつけましょう」って言いますよ。
hamatsu 確か序盤の赤鬼だけ修正入ったんでしたっけ。
ねとらぼ 入ってましたっけ?
平 してなかったと思います。
ねとらぼ 珍しくサイトで攻略法みたいなのは載せてた。
hamatsu あーそれだ。
ねとらぼ CupHeadってあったじゃないですか。あれもめちゃくちゃ難しくて、「イージーモードを入れるべきだ」って議論が当時ありましたよね。SEKIROも絶対、作ってる間「イージーモード入れなくていいの?」って声があったと思うんですよ。
平 そうですね。
ねとらぼ しかもダークソウルみたいにシリーズを積み重ねてだんだん難しくなっていくんじゃなくて、新しいシリーズの一発目であの難易度というのは、かなり肝が座ってるなとびっくりしました。
hamatsu でも理不尽ではないんですよね。敵が大技出す時はちゃんと「出すよ」っていうサインを出した上で出す。だから基本的にSEKIROで死ぬのってこちらの判断ミスなんですよ。
平 アクションゲームとしてのSEKIROの一つの特徴は、敵の一連の動作がかなり意図的に、固定的に作られているというというところですね。連続攻撃などは決まりきったパターンしかしてこない。
hamatsu コンボというか、技に流れがありますよね。
平 そうそう。敵の動きを一回覚えてしまえば、次に来る技が正確に予測できる。だから、例えば仮に初撃を食らったとしても、2発目3発目は知ってる技が来るから対処できるんですね。
これはダークソウルなどにもいえることですが、宮崎さんのゲームって、プレイヤーが「記憶する」ということを、かなり上手にゲームデザインに組み込んでいる作品だと思うんです。SEKIROやダークソウルでは敵の配置が固定なのも、「覚えること」で、次からはそれに対処できるという仕組み。操作の上手さやパラメータによる強化といった軸の他に、「覚える」だけでも有利になるって部分を、かなり巧みに作っているなと思うんです。
hamatsu いま死んだのは、判断や操作をミスったあなたの責任なんですよ、っていうのがちゃんと納得できるんですよね。だから死んでも「もう1回やろう」と思える。
平 あまり考えていないゲームだと、敵の動きにしても、唐突な動きが“バラ”で来るんですよ。いきなり薙ぎ払いがくるとか、頭で攻撃してくるとか、そういうのが別々にあって、それがたまたま2回続いたりする。こういうのは予測できないし、対処が難しいから、理不尽に感じる典型なんですが。
hamatsu こういうのが続くとやる気がなくなっていくんですよね。でもこっちのミスをミスとして認識しながら繰り返し戦っていると、やがてはあんなに強いと思っていたボスが「弱いなこいつは」って思える瞬間が来る。弦一郎も最初は「こいつ倒すの絶対無理!」って思ってたのが、回数を重ねていくとだんだん戦いに余裕が生まれてきたり。
平 SEKIROで僕が感動したのは、序盤で弦一郎と戦うじゃないですか。で「超強え」と思って。ところがクリアしてから2周目の弦一郎と戦うとあっさり普通に倒せたりするわけですよ。この、プレイヤーとしての成長を実感するあの感覚ってけっこう久しぶりで。ああ俺ゲームうまくなったなっていう。
ねとらぼ そういえばhamatsuさん、弦一郎は何時間くらいで倒せました?
hamatsu いやもう自分は数日がかりでしたよ(笑)。1回弦一郎にボロ負けして、いったん寄り道して別のところで鍛えてこようと思って。
平 僕も最初はこんなん倒せんのかなと思いました。
ねとらぼ (笑)。あれ最初、ルート間違えてるんじゃないかと思いません?
平 そうそう、僕も1回戻りました。ちょっとHP足りてないのかなとか。
ねとらぼ 絶対思いますよね。でももっとビックリするのは、戻って寄り道してもそんなに強くはならないっていう。
hamatsu 攻略サイトも容赦なく見ましたよ。でも回復薬がちょっと多く持てるようになるくらいで。
ねとらぼ 結局自分が上達するしかないんですよね。でも、だからこそ倒せたときはうれしい。
hamatsu 宮崎さんが作るゲームって、新しいものを作ろうとしているわけではなく、むしろ本当にゲームのコアの部分を突き詰めてるって感じがするんですよね。一番深い部分に根ざしているというか。だからSEKIROって、異端というより王道なんですよ。めちゃくちゃベーシックだし。でも、そのベーシックな部分を普通の人はやっぱり信じられなくなっちゃうんですよね。もっと売れ筋の要素を入れようとか、イージーモード追加しようとか思っちゃう。そこで折れないのは、やっぱ肝が座ってるなと。
ねとらぼ 最近のゲームって、RPGでもFPSでもある程度フォーマットは固まっていて、その上に乗ったストーリーとかフレーバーを楽しむ傾向が強くなっていますよね。そんな中で、SEKIROはゲームのコアな部分を存分に楽しんだ感覚がありました。
hamatsu 肝の座り方という意味では、ダークソウルを遊んでいても感じたんですよね。「これで良しとする」「これはこれでいいんです」っていう確信を半端じゃなく強く持ってる人だなって。きっと“売れ筋”と“自分の中の王道”が明確に区別されて存在していて、ダークソウルはまだ“売れ筋”ではないかもしれないけれど、“自分の中の完全な王道”に従って作っていて、しかも「これに共感してくれる人は居るはず」っていう確信が尋常じゃなく強い。
ねとらぼ ベタ褒めですね。
hamatsu 宮崎さんと同じくらい強く“確信”を持っているクリエーターって、多分宮本茂さんくらいなんじゃないかなと。宮本さんも恐らく、「マリオはこういうもの」「ゼルダはこういうもの」っていう取捨選択の確信が尋常じゃなく強いんですよ。それこそが宮本さんの才能の根幹を成していると考えていて。宮崎さんもそれと同様に、ボスの一撃で瀕死になったりするけど、「このゲームはこれでいいんです」っていう判断を、明確な確信を持って下している。そしてそれが極めて的確であるという。
平 純粋に頭が良いというか、ロジカルなんでしょうね。デモンズソウルの非同期のオンライン要素とか、当時4Gamerでインタビューしたから記憶にあるんですけど、あれは単なる思い付きではなくて。オンラインの良さとか、同期・非同期のメリットデメリットみたいなのを冷静に分析していった結果、必然としてあれにたどり着いているんです。その思考のプロセスがなんてすばらしいんだと。
hamatsu 普通はそこに確信が持てないんですよね。宮崎さんくらい頭のいい人って他にもきっといると思うんだけど、これを仕様として実装して、それなりに売れるだろう、っていう確信まで至れる人はなかなかいない。頭の良さと確信の強さの両方を持っているという点で、かなり貴重な人材だなと思ってしまいますね。
関連記事
- The Game Awardsが選ぶ「ゲーム・オブ・ザ・イヤー」は「SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE」! 「デス・ストランディング」も3部門で受賞
おめでとうございます! - ぶっちゃけ、電ファミって利益出てました? 「電ファミニコゲーマー」編集長・TAITAI氏に聞く、独立の裏側、これからの野望
2016年のオープンから3年、大きな転機を迎えた電ファミは今後どうなる? - ついにネットミームにまで発展した「SEKIRO難しすぎ問題」から考える、フロム・ソフトウェアという会社の“本当の強さ”
「SEKIRO」はイージーモードを入れるべきだったのか。 - 殺され続けながら笑っていた―― SEKIROをプレイして「ボコボコにされる楽しさ」を実感した話
ネタバレあり。 - なぜ「ドラクエV」はここまで「語られる」のか? “ビアンカフローラ論争”がいつまでも終わらない理由と「ドラクエV」というゲームの巧妙さ
「ドラクエV」とは、ストーリーで発生した「欠落」を、プレイヤーがゲームシステムによって補間するゲームである。 - 水平思考(ねとらぼ出張版):『岩田さん』という本のこと、永田泰大という編集者のこと
かつてファミ通に「風のように永田」という編集者がいたことを覚えていますか。 - 「名探偵ピカチュウ」は2019年の「ブレードランナー」である “ポケモンと暮らす都市”が描くポケモンの本質とは
「名探偵ピカチュウ」は、これ以上ないほど「ポケットモンスター」の本質、原理にのっとった映画だった。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
-
ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
-
柄本佑、「光る君へ」最終回の“短期間減量”に身内も震える……驚きのビフォアフに「2日後にあった君は別人」「ふつーできねぇ」
-
“プラスチックのスプーン”を切ってどんどんつなげていくと…… 完成した“まさかのもの”が「傑作」と200万再生【海外】
-
100均のファスナーに直接毛糸を編み入れたら…… 完成した“かわいすぎる便利アイテム”に「初心者でもできました!」「娘のために作ってみます」
-
「品数が凄い!!」 平愛梨、4児に作った晩ご飯に称賛 7品目のメニューに「豪華」「いつもすごいなぁ」【2024年の弁当・料理まとめ】
-
「秋山さん本人がされています」 “光る君へ”で秋山竜次演じる実資の“書”に意外な事実 感動の大河“最終回シーン”に反響 「実資の字と……」書道家が明かす
-
「私は何でも編める」と気付いた女性がグレーの毛糸を編んでいくと…… 「かっけぇ」「信じられない」驚きの完成品に200万いいね【海外】
-
鮮魚コーナーで半額だった「ウチワエビ」を水槽に入れてみた結果 → 想像を超える光景に反響「見たことない!」「すげえ」
-
セリアのふきんに、糸で“ある模様”を縫っていくと…… 思わずため息がもれる完成形に「美しい」「やってみます」
- ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
- ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
- フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
- 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
- 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
- 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
- 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
- ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
- 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
- セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
- 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
- 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
- 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
- アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
- 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
- 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
- ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
- 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」