かしわめしの老舗駅弁店が「立ち売り」を守り続ける理由 折尾駅弁・東筑軒(6):折尾駅「新・驛物語」(1080円)
コロナ禍で厳しいとされる駅弁業界。駅弁老舗店はこの状況をどのように乗り越えようとしているのか。名物の「立ち売り」、今後の展望は? 東筑軒トップに聞きました。
【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
100周年を迎えた鹿児島本線・折尾駅(福岡県)の名物駅弁「かしわめし」。製造・販売する東筑軒は2019年、新たに遠賀工場を稼働させました。コロナ禍で厳しいとされる駅弁業界にあって、設備投資を行った背景には何があるのか? そして、この状況をどのように乗り越えようとしているのか? 絶大な人気を誇る「かしわめし」「立ち売り」の今後の展望など、トップにたっぷりと語っていただきました。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第28弾・東筑軒編(第6回/全6回)
洞海湾を望みながら走る筑豊本線のBEC819系電車。非電化区間もバッテリーで走行できることから「DENCHA(デンチャ)」の愛称があります。福岡県北九州市の若松と筑紫野市の原田(はるだ)を結ぶ筑豊本線。筑豊炭田が華やかだったころは、遠賀川の水運に代わって、石炭輸送も盛んで、多くの人やものが複線の線路を行き来していたと言います。いまは2両編成の普通列車が、日中は約30分間隔で運行されています。
折尾の駅前を流れる「堀川」。この川は江戸時代、福岡藩により遠賀川の治水対策の一環として、洞海湾まで人工的に掘り進められた約12kmの運河です。折尾は、この堀川とともに発展してきました。いまから130年前の明治24(1891)年、筑豊興業鉄道(いまの筑豊本線)の開業で人やものの流れが水運から鉄道に移り、折尾駅は、九州鉄道(いまの鹿児島本線)との結節点として大いににぎわうこととなったわけです。
その折尾駅に大正10(1921)年、東筑軒の前身の1つ「筑紫軒」によって、名物駅弁「かしわめし」が誕生してから、2021年7月で100年を迎えました。駅前の本社売店にも「創業100周年」の装飾が施され、個数限定で復刻掛け紙の「かしわめし」とともに、記念の汽車土瓶も販売されました。そんな東筑軒の舵取りを担うのは、4代目の佐竹真人社長(64)。インタビューの最終回は、これからの駅弁について、アツく語っていただきました。
働き方改革で、新たに遠賀工場を建設!
―JRになり、平成・令和と、駅弁の販売事情は大きく変わりましたね?
佐竹:10年ほど前、社長に就任したころは、駅弁ブームで百貨店などの催事は大変賑わったのですが、近年はマンネリ化が否めなくなっています。加えて、旅のお供としての駅弁だったのが、とくに九州では新幹線の開業もあって高速化の影響を受け「車内で駅弁を食べる時間がない」というのが実情です。このため、駅弁のラインアップも「かしわめし」をメインとした売れ筋に絞り込むことで、「選択と集中」を行っています。
―そのなかで、令和元(2019)年には新たに遠賀工場を稼働させました。このタイミングで、新工場を作ったのはなぜですか?
佐竹:「働き方改革」の影響です。これまで東筑軒は従業員の皆さんに夜中に出社してもらって、炊飯や調理をし、当日のうちに折に詰めて出荷、次の日の仕込みをするという勤務でした。新工場には大型のフリーザーを導入し、一部のおかずを冷凍化することで、夜間勤務を極力減らしました。また、自動炊飯システムを導入し、重い鍋の持ち運びなど、従業員の体力的負担を軽減しましたが、コロナ禍でフル稼働とはいかないのが実情です。
百貨店が“密”を警戒するほどの絶大な人気を誇る、折尾の「かしわめし」!
―コロナ禍の1年半あまり、どのようなご苦労がありましたか?
佐竹:いちばん苦しかった2020年5月は、売り上げが前年比3割ちょっとまで落ち込みました。その後も、前年比5割に届くか届かないかの売り上げが続いています。駅弁はもちろんですが、仕出しは、運動会や敬老会、企業のレクレーションといった際に愛用いただいていましたが、軒並み減ってしまいました。また、駅弁大会への出品も、航空便の減便でコンテナが取れず、出品できなかったケースもありました。
―この苦境をどのように乗り切ろうとしていますか?
佐竹:製品づくりの効率化で人件費を抑制するしか方法がない状況です。いまは、地元の大型ショッピングモールなどの量販店への出品も行い、売り上げの減少をカバーしています。九州のある百貨店系のバイヤーさんは、以前、東筑軒の「かしわめし」を折込チラシに載せて集客を図ったら、大変な“密”が生まれてしまったと言うのです。このため、「かしわめし」を置きたいのに、なかなか上司のGOサインが出ないと話されていました。
安全・安心を第一に、「駅弁の原点」を守りたい!
―次の100年へ向けて、佐竹社長が開発したい駅弁、やってみたい分野はありますか?
佐竹:まずは、新工場で可能になった「かしわめし」の冷凍商品化を実現したいと考えています。冷凍化すると、どうしても味や美味しさが変わってしまうんです。今後も研究を続けまして、クオリティを保った形で冷凍化を実現できたらと考えています。合わせて強化したいのはインターネットによる通信販売です。今回の創業100周年に当たっては、自慢のうどん・そばと100周年記念の丼を販売いたしました。
―改めて、「東筑軒」が駅弁作りで最も大切にしていることは、何でしょうか?
佐竹:安全・衛生です。これがいちばん大事です。次が伝統の味の維持です。東筑軒は「かしわめし」の味を高く評価していただいています。この味を落とさずに、次の世代へ守っていくことが大事です。合わせて「立ち売り」は、採算は別にしても、駅弁文化を守るために、できる限り続けていきたいです。立ち売りは、「駅弁の原点」だと思うんです。
遠賀川の流れを思い浮かべて、経木の折箱で「かしわめし」を!
―佐竹社長は、これからニッポンの駅弁をどんな形で盛り上げていきたいですか?
佐竹:立ち売りもそうですが、「昔ながらの駅弁」をできるだけ継続していきたいと考えています。その1つが経木(きょうぎ)の折箱に掛け紙という駅弁のスタイルです。正直、コストはかかっています。いまでは折箱に使う木材そのものも、国産では賄うことができず、インドネシアなどからの輸入材に頼っています。じつはこの折箱も、東筑軒の社屋のなかで組み立てているんです。
―佐竹社長お薦めの、東筑軒の駅弁を“美味しくいただくことができる”車窓は?
佐竹:この地域の母なる川・遠賀川(おんががわ)の鉄橋を渡りながらいただくのが美味しいと思います。できれば、筑豊本線(福北ゆたか線)のほうが、のどかな雰囲気を楽しめるかも知れません。いま日中の列車はほとんど「DENCHA」になっていますが、比較的空いている時間帯やクロスシートの列車が来る時間帯でしたら、ぜひチャレンジしていただけたら。折尾は、この遠賀川から引いた「堀川」とともに発展してきたまちですので。
平成21(2009)年に撮影された、かつての折尾駅舎の写真が使われている駅弁は、「新・驛物語」(1080円)です。九州地区で時折開催されている「九州駅弁グランプリ」に向けて開発された駅弁で、現在は幕の内駅弁の1つとして位置付けられ、2日前までの予約制で販売されています。まるで迷路のようだった折尾駅ですが、いまは改築が進み、レトロな雰囲気を活かしながら、いまどきの駅へと生まれ変わっています。
【おしながき】
- かしわめし 鶏肉 錦糸玉子 刻み海苔 紅生姜
- 白飯
- 焼き魚
- 蒲鉾
- 玉子焼き
- 鶏肉の唐揚げ
- 白身フライ
- コロッケ
- 牛肉しぐれ煮 きぬさや
- 煮物(しいたけ、かぼちゃ、里芋、花にんじん、れんこん)
- うぐいす豆
- しそ昆布
- 桜大根
駅舎のふたを開けると、かしわ・錦糸卵・刻み海苔の“三色”のかしわめしに、焼き魚・蒲鉾・玉子焼きという、幕の内“三種の神器”をしっかり押さえた駅弁が登場しました。折尾の新しい駅舎が出来上がり、新しい駅の物語が始まったいまこそ、いつもの「かしわめし」よりチョット奮発して、懐かしの駅舎に思いを馳せながら、たっぷりのおかずと一緒に味わえば、それは感慨もひとしおというものでしょう。
100年の節目に東筑軒・佐竹社長にお話を伺って、いちばん嬉しかったことは、「立ち売りは駅弁の原点なので、できる限り守りたい」と力強く語って下さったことです。佐竹社長曰く、担当の小南さんがホームに立っているだけで、全国から多くの方がいらしてくれるとのこと。鉄道で最優先される「安全」への取り組みが厳しくなるなか、100年にわたって続けられる駅弁の立ち売りは、いまや“無形文化財”と言っても過言ではない存在です。
「文化を守れ」と言うのは簡単ですが、文化を守るためには経済的な裏付けも必要です。今回、折尾をはじめ東筑軒のお店を訪ねて、お客様とのやり取りを見ながら感じたのは、地元の方との間に味への確かな信頼関係ができていること。この関係があるから「立ち売り」の文化を守ることができている……。折尾駅の立ち売りは、地元の皆さんの「かしわめし」や「かしわうどん」への温かい愛情によって支えられているのかもしれません。
かつて、蒸気機関車が率いる石炭列車がたくさん渡っていた遠賀川を、バッテリーで走ることも可能な2両編成の電車が軽快に渡って行きます。明治の最先端だった筑豊本線は、いまも最新鋭の列車が走ります。その列車が停まる駅でしっかりと守られている、昔ながらの駅弁の伝統。駅弁に興味がある方もない方も、まずは自分の足で折尾駅を訪ねて、名物の「かしわめし」を味わってみてはいかがでしょうか。
(初出:2021年8月20日)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/
おすすめ記事
関連リンク
Copyright Nippon Broadcasting System, Inc. All Rights Reserved.
-
釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
-
しぶとい雑草“ドクダミ”を生やさない超簡単な方法が115万再生! 除草剤を使わない画期的な対策に「スゴイ発見」
-
“女子小学生”がメンズカットしたら……「え!」 その驚きの大変身に「な、なに!?」「絶対モテる」と反響
-
顔の半分は童顔メイク、もう半分の仕上がりに驚がく 同一人物と思えない半顔メイクが860万再生「凄いねメイクの力」
-
正体不明の「なにかふしぎなもの」がハードオフで販売→Twitterで情報集まり正体が判明
-
「とんでもないものが売ってた」 ハードオフに“33万円”で売られていた「まさかの商品」に思わず仰天
-
「起動しません」 ハードオフで4000円のジャンクPS4購入→電源入れると“驚きの結果”に「そんなことあるんだ」
-
スーパーで買ったレモンの種が1年後…… まさかの結果が635万再生「さっそくやってみます」「すごーい!」「手品みたい」
-
小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
-
「ワンピース」ナミに扮したイタリアのコスプレイヤーが麗しい! 「完璧」「美しい!」と称賛
- 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
- 富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
- 2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに少々強引な寝かしつけをされると…… コントのようなオチに「爆笑!」「可愛すぎて無事昇天」
- 異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
- 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
- 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
- 1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
- 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
- 祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
- 「妹が入学式に着るワンピース作ってみた!」 こだわり満載のクラシカルな一着に「すごすぎて意味わからない」「涙が出ました」
- フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
- 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
- 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
- フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
- スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
- 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
- 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
- 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
- がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
- 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」