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» 2021年11月06日 12時00分 公開

懐かしの大垣夜行、深夜の静岡駅で駅弁を売った背景とは? 静岡駅弁・東海軒に聞く

昭和時代の東海道本線は、長距離を走る特急・急行・普通列車が昼夜を通して走り、ホームの駅弁立ち売りも盛況でした。そんな時代の駅弁事情、東海軒に聞きました。

[ニッポン放送(1242.com)]
ニッポン放送
駅弁 静岡 東海軒「助六ずし」(580円)
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【ライター望月の駅弁膝栗毛】

「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。

鉄道の長距離移動は、新幹線が主流となって久しいですが、昭和の頃の東海道本線は、長距離を走る特急・急行・普通列車が昼夜を通して運行され、ホームにおける駅弁の立ち売りは盛況を博しました。中年以上の世代では、静岡駅で平成の初めごろまで深夜の“大垣夜行”で駅弁の販売があったのが、懐かしく感じられます。深夜の静岡駅でなぜ、駅弁の販売が行われていたのか、その背景を歴史と地域事情から紐解きます。

駅弁 静岡 313系+211系電車・普通列車、東海道本線・金谷〜島田間

「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第29弾・東海軒編(第4回/全6回)

昭和の終わり頃まで、東京駅の“湘南電車”と案内された東海道本線のホームに立つと「東京―静岡」「東京―浜松」などと、サボ(行先案内板)を出したグリーン車付の列車に出逢えたものです。湘南色の電車が当たり前のように行き交っていた牧之原の茶畑も、いまはステンレスの車両が短編成で行き交います。国鉄の頃は30分〜1時間おきだった静岡地区の列車が、10〜20分間隔でサクサクやって来るのは、とても有難いですね。

駅弁 静岡 東海軒・平尾社長

ペットボトルが無い時代、駅弁のお茶は汽車土瓶(のちにポリ土瓶)で販売されました。茶どころ・静岡でも、汽車土瓶は東海道本線開通直後からあったものと考えられています。そんな、懐かしの汽車土瓶を片手にお話をして下さっているのは、静岡駅弁の株式会社東海軒のトップ、平尾清・代表取締役社長です。今回は、昭和の静岡駅弁についてお話しいただきました。

駅弁 静岡 静岡駅の立ち売り風景(東海軒提供)

戦争と戦後の混乱を乗り越え、昭和30年代に黄金時代を迎えた駅弁!

―大正から昭和初期にかけて旅行ブームで、東海軒の「鯛めし」も広く認知されました。さあ、これからというときに、日本は戦争の時代へ突入していくんですよね?

平尾:戦争中も「不要不急の外出はするな」「(食料の)節売に協力せよ」と言われていました。そのなかにあって「駅弁」は鉄道省の事業の一部とみなされ、軍隊が移動するときに製造した「軍弁」などを通じて、戦争遂行に必要なものとされました。静岡市にも軍が置かれて、軍弁の需要は高かったようで、米も優先的に配給され、会社は生き残ることができました。戦時中は東海軒でも産業報国隊を作って連日、護国神社へ戦勝祈願を行ったと文献に残されています。しかし、戦後は物資不足で、米の調達には大いに苦労したといいます。

―戦後の苦境のあと、一転、駅弁の黄金時代と言ってもいい昭和30年代を迎えます。昔は「立ち売り」が主流だったんですよね?

平尾:私が10年あまり前に東海軒に入った頃は、中学を卒業しそのまま東海軒に入社されて「立ち売り」を経験した古株の社員がおりました。彼は普通に話をしていても、ほかの人の何倍も声が大きかったと記憶しています。当時の東海軒の立ち売りは「花形」の職業で、中学を出たときに、「東海軒に就職が決まった」と言ったら親戚を挙げてお祝いしてくれたといいます。

駅弁 静岡 373系電車・快速「ムーンライトながら」(2006年撮影)

立ち売りのゴールデンタイムは「夜行列車」!

―立ち売りにも「工夫」があったんでしょうね?

平尾:当時は歩合制の契約を結んでいて、売れたら売れただけ、彼の収入が増えたそうです。彼曰く、静岡駅に列車が到着すると、列車の窓から10本も20本もお客さまの手が伸びてくるのが普通だったといいます。発車時刻になり汽車が動きだすと、お客さまがお札を細長く折ってシュッと売り子に向かって飛ばしたといいます。売り子はそれを受け取って、弁当をサッと投げたこともあると言っていました。

―よく売れた列車はあるのでしょうか?

平尾:東海軒で一番売れたという方が工夫したのは、勤務に入る時間帯だったそうです。ほかの仕事仲間が嫌がる、東京を深夜に発ってくる夜行列車と朝方の列車で、ひたすら駅弁を売ったといいます。とくに静岡に夜中1時〜2時に停まる列車は、本当によく売れたそうですよ。それもあって後年、いわゆる大垣夜行(のちの快速「ムーンライトながら」、令和3(2021)年運行終了)でも、夜中の駅弁販売を続けていたのかも(?)しれませんね。

駅弁 静岡 静岡駅前の徳川家康像と国道1号を挟んで建つ葵タワー、かつて東海軒があった場所

コンビニ以前から24時間営業だった「駅弁店」

―大垣夜行で駅弁を買い求めた世代の方にとっては、懐かしいでしょうね。

平尾:静岡駅前に「東海軒」の社屋があった頃は、24時間営業でした。列車の時刻になると、台車で駅へ弁当を持って行きました。加えて、静岡駅前は国道1号ですので、コンビニエンスストアがない時代は、夜の需要も大きかったんです。深夜12時前後は、飲食店等で仕事を終えたお姉さん方が買ってくださいました。大垣夜行のあと、午前3時くらいからは、トラックドライバーの皆さん、早朝の釣り客の方がよく立ち寄って下さいました。

―かつては在来線の車内販売もされていた一方で、新幹線開業以降は様々な多角化を図られていますね?

平尾:いまも在籍している社員にも、車内販売の経験者がいます。新幹線の開業では立ち売りの方は180度世界が変わってしまったかと思いますが、新幹線の旺盛な需要もあって、昭和の間は駅弁販売も好調でした。これを活かして、昭和41(1966)年に静岡駅ホームで立ち食いの「富士見そば」を始め、43年には結婚式も出来る「東海軒会館」をオープンさせました。昭和52(1977)年には西武百貨店静岡店への出店も行っています。好景気に支えられながら多角化を図ったことが、いまとなってはよかったのだと思います。

駅弁 静岡 助六ずし

駅弁の黄金時代と言われる昭和30年代。その幕開け、昭和30(1955)年に発売され、いまも静岡駅の人気駅弁上位に食い込んでいるのが「助六ずし」(580円)です。歌舞伎に由来する弁当だけに、紙蓋のデザインもそれをイメージさせてくれます。コロナ禍でコスト削減の影響か、既製の割箸にシフトし箸袋のデザインが失われる業者も少なくないなか、東海軒の割箸は、蒸気機関車の絵が描かれたオリジナルの箸袋が嬉しいものです。

駅弁 静岡 助六ずし

助六ずし

【おしながき】

  • いなりずし
  • かんぴょう巻き
  • ガリ
駅弁 静岡 助六ずし

いなりずしとかんぴょう巻きにガリが添えられただけのシンプルな「助六ずし」。東海軒のいなりずしは、甘めの揚げが特徴とされ、比較的落ち着いた味わいのかんぴょう巻きとのバランスが食欲をそそります。昔ながらの「助六ずし」が駅弁として成立していることからも、地元の皆さんが駅弁を“普段使い”する食文化が育まれていると感じられ、東京・名古屋への移動が約1時間と短いことも、軽食駅弁の存在を後押ししていると思われます。

駅弁 静岡 113系電車・普通列車、東海道本線・由比駅(2006年撮影)

昭和から平成にかけて、東海道本線の主力として活躍した車両が113系電車でした。静岡地区では、平成19(2007)年まで活躍していたのはもちろん、平成16(2004)年までは、東京からグリーン車付きの直通列車も運行されていました。昭和はもちろん、明治からのロングセラーが目白押しの静岡駅・東海軒の駅弁。次回はその美味しさのベースとなっている取り組みとエピソードを伺っていきます。

(初出:2021年9月22日)

連載情報

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ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史

昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。

駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/


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