静岡駅の駅弁は、なぜロングセラーになっていくのか? 静岡駅弁・東海軒インタビュー東海軒「富士の味覚」(1200円)

駅弁誕生から135年あまり。コロナ禍で観光業が大打撃を受ける中、これからの駅弁はどうあるべきなのか。老舗駅弁店のトップに聞きました。

» 2021年11月14日 12時00分 公開
[ニッポン放送(1242.com)]
ニッポン放送
駅弁 静岡 東海軒「富士の味覚」(1200円)
駅弁 静岡 駅弁 静岡 駅弁 静岡 駅弁 静岡 駅弁 静岡 駅弁 静岡 駅弁 静岡 駅弁 静岡 駅弁 静岡 駅弁 静岡

【ライター望月の駅弁膝栗毛】

「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。

駅弁が誕生して135年あまり。その草創期から営業する静岡駅弁・東海軒は、ご当地駅弁の先駆けを作り、いまも地元の有名ブランドとコラボした新作や、冷凍駅弁を開発するなど、コロナ禍でも積極的な取り組みをしています。その背景にあった、静岡ならではの駅弁文化や、これからの駅弁について、100年以上続く老舗駅弁業者のトップが語ります。

駅弁 静岡 373系電車・特急「ふじかわ」、身延線・西富士宮〜沼久保間

「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第29弾・東海軒編(第7回)

静岡で東海道新幹線「ひかり」と接続して、身延線経由で甲府へ向かう特急「ふじかわ」。「ふじかわ」のいいところは、何と言っても、ワイドビューの大窓から富士山と富士川をじっくりと眺められることです。8月末に中部横断自動車道の開通で静岡〜甲府間の高速バスも再開されましたが、静岡〜山梨間の旅では迫力の富士山を拝むのが粋というもの。とくに身延線・西富士宮〜沼久保間の富士山は、「ふじかわ」ならではの絶景です。

駅弁 静岡 株式会社東海軒・平尾清代表取締役社長

「○○ならでは」という視点で言えば、駅弁は「日本ならでは」の食文化であり、静岡駅弁の東海軒は、明治30(1897)年発売の元祖鯛めしによって、「ご当地ならでは」の駅弁の先駆けとなった駅弁屋さんです。「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第29弾・東海軒編。株式会社東海軒・平尾清代表取締役社長のインタビューは“延長戦”となりましたが、今回が完結編です。

駅弁 静岡 211系電車・普通列車、東海道本線・富士川〜新蒲原間

駅弁は日本が誇る食文化!

―近年、静岡のご当地名物とコラボした弁当が増えていますね?

平尾:東海軒の人気駅弁上位は、「幕の内弁当」「元祖鯛めし」「サンドイッチ」「助六ずし」で、戦後ほとんど変わっていません。これは強みですが最大の弱点でもあります。新作弁当は随時開発してきましたが、なかなか5年続きません。でも、新しい定番も作っていきたい。近年、アニメ「ちびまる子ちゃん」とコラボした弁当を出したころから、社内に「新たなトライをしていきたい」空気が生まれてきました。そんな折、「ホテイフーズ」さんや「はごろもフーズ」さんからお声がけをいただき、コラボ駅弁を出すことができました。

―これからニッポンの駅弁をどんな形で盛り上げていきたいですか?

平尾:いま、コロナ禍のどん底状態で、のぞみやひかりを見出すのが本当に難しい時期ですが、駅弁は「世界に誇ることができる文化だ」という矜持はあります。私自身も世界を見てきて、ただのテイクアウト商品はあっても日本の駅弁のようなものはないんです。駅弁を将来へ引き継がなかったら、日本の食文化の継承すら危ういという思いがあります。駅での売り上げは、コロナ禍前に戻ることはないかも知れません。戻っても8〜9割といったところではないでしょうか。それを踏まえて、生き残っていくことを模索しなくてはなりません。

駅弁 静岡 東海軒売店

クオリティを保ちながら、駅弁文化をさらなる高みへ!

―静岡駅の駅弁文化を残していくためには、何が必要でしょうか?

平尾:いま、静岡駅の売れ筋駅弁は、全て1000円以下です。全国を見てもこのような状態は、静岡駅以外にないと思います。この背景には(国鉄時代からの慣習もあって)原材料費が大幅に高騰しても、値段を据え置いてきたことがあります。つまり、駅弁店自身が自分の首を絞めてきたとも言えます。駅弁店は駅弁の品質に見合った対価をお支払いいただけるように、経営努力もクオリティを保つ努力をしていかなければならないと思います。

―駅弁を買い求める私たちも、文化の継承にはそれなりのコストがかかることを認識したうえで、「いいものにはしっかりとお金を出していく」ことが、経済の循環もよくなりますし、日本の食文化をひとつ上のステージへ上げていくことにつながると考えていきたいですね。

平尾:静岡市内のスーパーにも東海軒の弁当を置かせていただいていますが、他の惣菜より、明らかに高いわけです。それでもありがたいことにお買い求め下さっています。静岡競輪場で販売した際も、他の弁当は500円未満でしたが、800円台の東海軒の幕の内が最初に完売して、追加で発注を受けました。この夏に販売した国産うなぎを使った3000円の「うなぎ弁当」も多くの方にお買い求めいただきました。お客さまも見極める目を養われていて、「いいもの」にはお金を出していただける時代になってきているように感じます。

駅弁 静岡 N700S新幹線電車「ひかり」、東海道新幹線・新富士〜静岡間

富士山を眺めながら、東海軒の駅弁を!

―その意味でも、静岡の皆さんとともに歩んでいく姿勢が、とても大事ですね。

平尾:東海軒の駅弁の人気上位が変わらないのは、明らかに「美味しい」からと自負しています。この美味しさが(130年あまりの間に)静岡市民の間で共有され、定着しているのは貴重な財産です。駅弁はどちらかと言えばB級に近い食べ物かも知れません。B級のなかでも「ホッとする味、慣れ親しんだ味、安心する味」で、「やっぱりこの味だよね」という認識が静岡市民のDNAに組み込まれている……そのくらいのご支持をいただいていることが、東海軒の自信と誇りにつながっています。

―平尾社長お薦め、東海軒の駅弁を“美味しくいただくことができる”車窓は?

平尾:東海軒の駅弁を列車でいただくなら、やはり「富士山」を眺めながら召し上がっていただきたいですね。静岡から上りの新幹線に乗られましたら、富士川を渡って新富士〜三島の間にかけて左手に富士山を眺めながら駅弁をいただくことができます。下りの新幹線に乗られたら、浜松の先、浜名湖の辺りでいただくのが最高です。いい時期が来たら富士山や浜名湖を眺めながら、それまでは新たな冷凍駅弁で味わっていただけたらと思います。

駅弁 静岡 富士の味覚

富士山を眺めながらいただくのに、ピッタリな静岡駅弁と言えば「富士の味覚」(1200円)。平成20(2008)年の富士山静岡空港開港時、地元のタウン紙の皆さんと共同開発した“不二の味覚”をリニューアルして、いまの「富士の味覚」となりました。昔ながらの折箱が多い静岡駅弁にあって、富士山型の三角容器はひと際目を引く存在。静岡駅コンコースの売店では右端に置かれていることも多く、知る人ぞ知る駅弁かもしれません。

駅弁 静岡 富士の味覚

【おしながき】

茶飯 桜海老のせ

豆腐ハンバーグ

レンコンのはさみ揚げ

黒はんぺんの磯辺揚げ

じゃこ入り玉子焼

煮物(南瓜、筍、椎茸、人参、昆布巻)

茄子味噌

抹茶わらび餅

駅弁 静岡 富士の味覚

茶めしと言うと、茶色いご飯も多いなか、東海軒の茶めしは、ちゃんと緑茶の緑色が特徴。これに駿河湾でおなじみの桜えびが載せられており、おかずにも「黒はんぺん」が入って、初めて訪れた方でも「静岡らしさ」が感じられる彩り華やかな駅弁です。東海軒十八番の幕の内系駅弁でありながら、いまどきにアレンジされた一面も感じられます。とくに女性の少人数旅には、ちょうどいい雰囲気かもしれませんね。

駅弁 静岡 N700S新幹線電車「ひかり」、東海道新幹線・静岡〜新富士間

静岡に停まった東海道新幹線「ひかり」号が、加速しながら一路、東京を目指します。「東海軒」の強みは駅弁が“普段の食べ物”になっていること。背景には東海道の豊かな移動需要と、地元の方の「味への信頼」があり、130年の歴史の重みにつながっています。食材の高騰と普段使いできる駅弁文化を両立させるべく、これからもお客様との対話を重ねていくに違いない東海軒。鉄道150年の節目が迫ってきたいまこそ、鉄道の歩みに思いを馳せながら、明治以来の伝統を誇る静岡駅弁を味わってみませんか。

(初出:2021年9月29日)

連載情報

photo

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史

昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。

駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/


「駅弁膝栗毛」バックナンバー



おすすめ記事

Copyright Nippon Broadcasting System, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/13/news176.jpg 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  2. /nl/articles/2411/14/news014.jpg ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. /nl/articles/2411/14/news042.jpg 夫「250円のシャインマスカット買った!」 → 妻が気づいた“まさかの真実”に顔面蒼白 「あるあるすぎる」「マジ分かる」
  4. /nl/articles/2411/14/news090.jpg ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  5. /nl/articles/2411/14/news167.jpg 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. /nl/articles/2411/14/news187.jpg 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. /nl/articles/2411/13/news162.jpg 「情報操作されてる」「ぜーんぶ嘘!!」 175R・SHOGO、元妻・今井絵理子ら巡る週刊誌報道を一蹴 “子ども捨てた”の指摘に「皆さん騙されてます」
  9. /nl/articles/2411/14/news035.jpg 160万円のレンズ購入→一瞬で元取れた! グラビアアイドル兼カメラマンの芸術的な写真に反響「高いレンズってすごいんだな……」「いい買い物」
  10. /nl/articles/2411/12/news194.jpg 「予約しました」 サッポロ一番の袋に見せかけた“笑っちゃいそうなグッズ”が話題 「サッポロ一番味噌ラーメン好きがバレちゃう」
先週の総合アクセスTOP10
  1. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  2. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  3. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  4. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  6. 「この動画お蔵かも」 親子デートの辻希美、“食事中のマナー”に集中砲火で猛省……16歳長女が説教「自分がやられたらどう思うか」
  7. 老けて見える25歳男性を評判の理容師がカットしたら…… 別人級の変身と若返りが3700万再生「ベストオブベストの変貌」「めちゃハンサム」【米】
  8. 「ガチでレア品」 祖父が所持するSuica、ペンギンの向きをよく見ると……? 懐かしくて貴重な1枚に「すげえええ」「鉄道好きなら超欲しい」と興奮の声
  9. 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  10. 「天才」 グレーとホワイトの毛糸をひたすら編んでいくと…… でっかいあのキャラクター完成に「すごい」「編み図をシェアして」【海外】
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた