同人活動の強い味方! 初心者からベテランまで使える、「おしながき」作りのためのレイアウト本司書メイドの同人誌レビューノート

「おしながき」という文化を守るための1冊にもなりそう。

» 2018年07月08日 12時00分 公開
[シャッツキステねとらぼ]
シャッツキステ

 梅雨が明け、夏の足音……と言うより先に、一足飛びに夏が来てしまったような暑さが街を包みましたね。この時期になると、同人誌を作る人たちはあれこれめじろ押しな夏の大きな同人誌即売会に向けてアップをはじめるのです。「印刷屋さん、予約した?」「え、もう1冊目を入稿したの!?」などなど、楽しい同人誌制作に精を出すころ。原稿用紙と向き合って、表紙をどんな紙にしようかな、なんて悩んで……やっと同人誌が完成! でも実はそのあとも、まだまだ当日に向けてやることがあるのです。その一つが「おしながき」です。

今回紹介する同人誌

『同人作家のためのおしながきデザイン』

B5変型 28ページ 表紙・本文カラー

作者:NALICO


同人誌 シャッツキステ おしながき同人誌 シャッツキステ おしながき シンプルでPRすべきタイトルがぐっと目立っています。デザインは既にはじまっている……。縦長の形もかわいい!

 「おしながき」とは、自分がどんな発行物を取り扱っているかをまとめた画像です。

 ご本の作者さんも、「同人界におけるおしながきは、ネット普及前のイベントでは列のできるサークルさんでまれに使われていた」「ここ数年はSNSの普及で多くの方がイベント前にwebにアップしています」と解説されている通り、大きく分けて「Webでの事前告知」と「当日同人誌即売会の会場で飾る」の2つの使い方があります。

 同人誌の世界では比較的近年にできた風習といえるでしょう。いつの間にか出てきて、今では多くの同人誌サークルさんが作成されています。

 その中身は、発行物の見た目、価格、内容の要約に加え、どの発行物が今回新しく追加されたものなのか、がまとめられています。結構、書くことが多い……! これを自分で作るのですよー。

 情報量の多い「おしながき」どう作ろう? そんなとき、この同人誌が作り方を示してくれます。

言われるまま作れば「おしながき」が作れる。イベント前に時間のないときにもありがたすぎます

 こちらの同人誌は、まず何から取り組んだらいいのか、という最初の一歩から書かれています。例えばはじめのステップは「載せたい画像を全て用意しよう」。そう言われればその通りなんですけど、どこから手をつけたらいいか分からない初心者にはとってもありがたいです。そして、初心者に優しいということは、誰にでも分かりやすいということにつながるのではないでしょうか。

同人誌 シャッツキステ おしながき 基礎から示されているのが心強い

 おしながきは発行物のPRのために作る……つまり、発行物が決まってないと作り始めることができないんですよー! ということは、これを作るタイミングは「ともかく原稿を完成させて、発行物が確定した」という状態。つまり締め切りまでを力いっぱい駆け抜けたあと。締め切り明けだし、時間もないし……。そんなとき、発行物が多い場合、少ない場合、小説サークルの場合など、ケース別に実例を挙げてガイドしてあると、「うちの発行物だと、どんな色づかいがいいかしら?」と、自分だったら……と、ご本を参考に考えを羽ばたかせることができます。初心者のみならず、既におしながきを作ったことのある人にも参考になります。

同人誌 シャッツキステ おしながき イラストの入った実例を元に、まねできるコツがあちこちに

 いざ作ろう! というときに「いい感じの実例を見比べたいなー」と思っても、意外とすぐに見つからないものなんですよね。それが「文字に影やふちを使わず時短デザイン」などの具体的なポイントを交えて書かれています。しかも同じ雰囲気にそろえた値札までイメージが載せてあるのがうれしいです。

 Webで見て、おしながきをイメージしてスペースに立ち寄ってくれる方がいらしたときに分かりやすそうですし、卓上の雰囲気が統一しているとなんだかうれしいし、値札って実は意外と当日現場で「あっ! 値札作らなきゃ」と慌てるアイテムなので、あらかじめ作っているととても助かるし……。こんな細やかな心遣いがとっても助かります!

同人誌 シャッツキステ おしながき コラムのページには、グラデーションの効果についてや、文字の調整などのヒントも

おしながきという風習。100年後の未来へ、文化のタイムカプセルになるかも?

 先にあげたように、おしながきはここ数年で広がった風習です。PCなどで手軽にデザインを楽しめる環境が整ったことが理由にあると思います。このおしながきという制作物が、たった数年前までは影もなく、でもいまはとてもたくさんの人が作っていること、そのものがとても面白いと思います。

 例えば、今では多くの同人誌サークルさんが使っているテーブルクロスも、いつからはやりはじめたのかなぁ……と、不思議に思っても、時代をさかのぼって現場を見ることはできません。でもこのご本が作られたことで、2017年には「おしながき」の風習があり、「多くの人が自分で作る」という状況にあったことが分かるのですよー! そんな観点で見ると文中の「2017年のおしながきは黄色をアクセントに取り入れているものを多く見掛けます」などの、ちょっとした情報も一層興味深くなってきます。

 みんなが「あるといいな」と思っていた本を作り、それを見て作る人がまたレベルアップしていき、さらにエッセンスが未来へと受け継がれるかもしれない……今日のおしながきは、実は明日の同人誌界を楽しくして、未来の同人誌界を盛り上げることにつながっているのかもしれない、そんなご本です。


サークル情報

サークル名:アトリエ ナリコット

Twitter:@a_nalicot

Webサイト:http://nalicot.skr.jp/

入手先:メロンブックス自家通販

イベント参加予定:コミックマーケット94 3日目ナ28a「Highgirl」で入手可能予定


今週のシャッツキステ

シャッツキステ メイド 同人誌 短冊を笹につるして、シャッツキステにご来館された方々の願いがゆらゆらとかわいらしく揺れます。いろんな願いごとがかないますように……

著者紹介

シャッツキステ メイド 同人誌 司書メイド ミソノ 司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る

関連キーワード

同人誌 | 初心者 | デザイン | コミケ | 文化 | コツ


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