レビュー
» 2017年09月17日 12時00分 公開

“もしも埼玉にプロサッカークラブがなかったら” 架空の“埼玉”が舞台のちょっぴり変わったサッカーマンガ司書メイドの同人誌レビューノート

同人誌『かつてこの地に栄えたというでんせつの』をご紹介。

[シャッツキステねとらぼ]
シャッツキステ

 すっかり秋めいて、風が涼しくなりました。日差しも和らいで、外で体を動かすのにもってこいの季節。そして、世の中もスポーツの話題で日々、盛り上がっていますね。野球もサッカーも、リーグや大会のニュースが飛び交っています。そんな中、今回レビューする同人誌は、サッカー少年を主人公にしたマンガです。

今回紹介する同人誌

『かつてこの地に栄えたというでんせつの』 B6 20ページ 表紙1色刷り・本文モノクロ


同人誌『かつてこの地に栄えたというでんせつの』同人誌『かつてこの地に栄えたというでんせつの』 表紙は白の紙に白いインクで印刷され、シンプルでかっこいい! イラストの絵柄はこちらのうれしそうなフィールドでの様子

“もしも埼玉にプロサッカークラブがなかったら”……架空の“埼玉”が舞台のサッカーマンガ

 “かつて日本には「サッカー王国埼玉」と呼ばれる架空の国が存在してたらしい”

 物語はこの一文からスタートします。いきなり、伝説が過去形で語られていて「あれ? そうなの?」と首を傾げてみたのですが、調べてみると埼玉には「浦和レッドダイヤモンズ」と「大宮アルディージャ」という2つのプロサッカーチームがあり、なでしこリーグに所属する女子チームも「浦和レッズレディース」と「ASエルフェン埼玉FC」があります。そう、このマンガは完全に架空の物語なのです。

 主人公は中学校に上がったばかりの少年。入学した学校にはサッカー部が無いことに目を丸くします。世の中、こんなにサッカーで盛り上がっているのに、自分の身近にそれがないなんて……。

同人誌『かつてこの地に栄えたというでんせつの』 サッカー王国なのに、サッカー部がない!?

少年はサッカー王国を見つけられるか? もどかしさを根底に抱える青春

 かつて「サッカー王国」とまで言われた地元の現状に、少年は茫然(ぼうぜん)と立ち尽くしてしまうのですが……この主人公くんがカワイイ! 黒目がちな瞳に、ヤマアラシみたいなツンツン頭。中学生男子らしく、ちょっと無愛想なくらいにそっけない表情をしているけれど、家族と食卓を囲んでごはんをもぐもぐする素直なところも見られます。

 そんな初々しさがにじみ出る少年の顔が曇るシーンがあります。それは「ええ? サッカー部の新設ゥ? 困ったわねえ」「あたしの担当じゃないし」「野球部じゃダメか?」と職員室でたらいまわしにされたときのこと……。あああ、大人を信じられないと思っているのが、手に取るように分かる眉の寄り方! 見ているこちらの胸までぎゅーっと痛みます。物語の中で、少年は大人に問うのです。「サッカー王国埼玉ってどこにあるんですか?」と。少年はサッカー部を作ることができるのか、そしてサッカー王国を見つけることはできるのか……。正味15ページのマンガの中に、少年が感じるもどかしさ、立ち上がるきっかけ、未来に向ける真っすぐなまなざしが、温かみのあるタッチで、しっかりと語られています。

同人誌『かつてこの地に栄えたというでんせつの』 ああ、少年のまなざしが痛い……!

どこにでもある伝説、どこにでもある出発をさわやかに描く

 作者さんもあとがきできちんと触れていらっしゃるのですが、現実の埼玉にはプロサッカーチームは存在しています。それなのになぜ、あえてこの地を舞台にされたのでしょうか。私は架空の世界にすることで、この物語は日本のどこにでもあるんだ、という印象を受け、身近なファンタジーのように思いました。スポーツに限らず、かつて何かが隆盛したけれど今は衰退の一途をたどり……という場面は、どんなところでも聞く話ではないでしょうか。

 少年は大切なものへのアプローチを諦めずに、一歩踏み出していく。そしてサッカーにはそうさせる力がある、魅力あふれるスポーツなんだ、と登場人物たちがサッカーを大切に思っていることがマンガから分かります。私はサッカーにはあまり縁が無い方ですが、そんな彼らの熱い思いが、ファンタジックな架空の埼玉で描かれることで、「もしかしたら私の身近でも起こりうる話かも」と、肌身に迫るように感じられたのです。

 少年はどんなサッカー王国を見つけるのでしょうか……。やわらかな少年の心に寄り添うような、さわやかサッカー物語です。

同人誌『かつてこの地に栄えたというでんせつの』同人誌『かつてこの地に栄えたというでんせつの』 「サッカー王国」はどこにあるのか、その答えは果たして……

サークル情報

サークル名:12Log(わんつーろぐ)

購入場所:アリスブックス

Webサイト:http://12log.net/

Twitter:@_12Log


今週のシャッツキステ

シャッツキステ ウクレレ弾きのノバラちゃんが、秋の夜に弾き語ってくれました。“お肉の歌”を歌うノバラちゃんのなんとうれしそうなことか……

著者紹介

司書メイド ミソノ 司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る

関連キーワード

サッカー | 同人誌 | 埼玉 | 漫画 | レビュー | スポーツ


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2402/20/news021.jpg 2歳娘とパパ、愛と平和しかないやりとりに「100億年分のストレスが消滅した」 涙が出るほど幸せな会話に称賛の声
  2. /nl/articles/2402/20/news025.jpg 9歳娘、パパへの“謎のお願い”が「今だけのかわいさ」と260万再生 その後ママの思わぬオチにも笑ってしまう
  3. /nl/articles/2402/19/news025.jpg 「生後0カ月。もうクソデカい」 大型猫の赤ちゃん時代に「顔は子猫だけどサイズがすごい」「可愛いが大きすぎます」
  4. /nl/articles/2402/20/news026.jpg 赤ちゃんの目の前で、パパとママが寝たふりをしてみたら……? もん絶級の“検証結果”に「かわいすぎ!」と共感の声【海外】
  5. /nl/articles/2402/19/news013.jpg 【今日の計算】「1−2+3−4+5−6+7−8+9」を計算せよ
  6. /nl/articles/2402/20/news014.jpg メカブを持ち帰ろうと思ったら…… 予想外の展開とおいしいオチが460万件表示「海老で鯛を釣るならぬ…」
  7. /nl/articles/2402/20/news154.jpg 「肉の万世」秋葉原本店の閉店で「パーコー麺どうなるの?」と不安広がる もう食べられないのか聞いた
  8. /nl/articles/2401/17/news044.jpg 1人遊びに夢中な0歳赤ちゃん、ママの視線に気付いた瞬間…… 100点満点のリアクションにキュン「かわいすぎて鼻血出そう!」
  9. /nl/articles/2402/20/news135.jpg マドンナ、ワールドツアー中にステージで盛大に転倒 さすがの神対応に「まさにスーパースター」「これがプロってもの」
  10. /nl/articles/2402/19/news035.jpg 猫の飼育に猛反対していた雷親父が今では…… オチ完璧な現在の姿に6万いいね「もはや猫と一体化」「見事に懐柔されて」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 8歳兄が0歳赤ちゃんを寝かしつけ→2年後の現在は…… 尊く涙が出そうな光景に「可愛すぎる兄妹」「本当に優しい」
  2. 犬が同じ場所で2年間、トイレをし続けた結果…… 笑っちゃうほど様変わりした光景が379万表示「そこだけボッ!ってw」
  3. 宿題する8歳娘と、邪魔しつづける猫を1年記録したら…… 490万再生の愛がつまったやりとりに「最強の名コンビ」
  4. 真田広之の俳優息子、母の手塚理美がエール「彼なりに頑張ってる」 両親ゆずりのルックスに「イケメン」「男前」の声
  5. 野生の鯉を稚魚から育て4年後、判明した事実に飼い主「僕は今まで何を…」 激変した姿に「爆笑してしまいました」
  6. 1歳妹を溺愛する18歳兄、しかし妹のひと言に表情が一変「ちがうなぁ!?」 ママも笑っちゃうオチに「かわいいし天才笑」「何度も見ちゃう」
  7. 食用でもらった車エビ、4歳息子に「育てたい」と懇願され…… 水槽で飼育した貴重な記録に「可愛い姿見せてくれてありがとう」
  8. 2歳娘とパパ、愛と平和しかないやりとりに「100億年分のストレスが消滅した」 涙が出るほど幸せな会話に称賛の声
  9. 3歳双子姉妹、17歳お姉ちゃんを修学旅行で見送ったら…… 寂しくて号泣する様子に「もらい泣きです」「愛されてますね」
  10. 1人遊びに夢中な0歳赤ちゃん、ママの視線に気付いた瞬間…… 100点満点のリアクションにキュン「かわいすぎて鼻血出そう!」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「天までとどけ」長女役、芸能界の「負の連鎖」訴え 主演俳優の“お誘い”拒否し「他の演者やスタッフからも無視」「本当の事なんか誰も話さない」
  2. 田代まさし、南部虎弾さん通夜で“一団”に絡まれる騒動へ……にらみ合いの末に「ちょっと来い」「止めろよお前」
  3. 妊娠中の英俳優、授賞式での“金太郎”ドレスが賛否両論 「半裸の妊婦なんて見てられない」「ホットなママ」
  4. 「変わんないもん俺のと」 所ジョージ、ホンダ軽を超速カスタムで高級外車と“まったく同じ”外見に 「朝から楽しいよ」「完璧!」
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 「意識もうろう」「何も食べられない」 すい臓がんステージ4の森永卓郎、痩せた顔出しで“最悪の時期”告白 息子は「『死ぬ』が冗談に聞こえなかった」
  7. 授業参観の度に「かっこいい」と言われた父親が10年後…… 「時間止まってる?」と驚愕の声がやまない父子の姿が870万再生
  8. 65歳マドンナ、ワールドツアー中のダンスが“おばあちゃん”だと視聴者衝撃 「もうやめなよ」「こんなふうに終わりを迎えるなんて」
  9. 人気ブロガー医師が4年の闘病の末に42歳で逝去 夫が伝える「素敵な女性がいたということを皆様の心に残していただければ」
  10. 能登半島地震により海底が“隆起”→すさまじい様子を収めた写真に「自然の脅威を感じる」