狂気の映像兵器「がんばれいわ!!ロボコン」をきみは見たか コロナ禍で撮影された映画の新時代の幕開け(2/2 ページ)
さらに、前述した冒頭でヘヴィメタルの音楽をかける演出や、汁なしタンタンメンがチンゲンサイでおっぱいを吸おうとするシーンは、浦沢氏の脚本には書かれていない、石田秀範監督のアイデアだったのだという。石田監督は白倉プロデューサーから「自由にやってください」と言われたため、リミッターを外して、思いっきり無邪気に撮ることができたらしい。
つまり、「がんばれいわ!!ロボコン」にあふれる狂気は、プロデューサー・脚本家・監督それぞれの意向が噛み合って生まれた奇跡なのである。どれか1つでも歯車が狂えば、どこかでストップがかかって、もう少しだけでもまともな映画になっていただろう。
4:コロナ禍で行われた、感染予防をした撮影はこれからの映画製作の見本になる
本作はゴールデンウイーク明けに撮影を予定していたのだが、新型コロナウイルス感染拡大により撮影が延期されていた。実際にクランクインしたのは緊急事態宣言の解除から間もない、6月8日だったのだという。そのため、本作はソーシャルディスタンスの確保やマスクの着用など、感染予防対策を実施した上で撮影が行われた。
例えば、メイキング映像では、出演者の清水ミチコが感染予防のためフェイスシールドをつけて現場入りする姿が収められている。
他にも、飲食店を切り盛りするママ役の高橋ユウとパパ役の芋洗坂係長はマスクをつけて演技をしていたり、エキストラは(おそらく一般の方を呼べないため)撮影スタッフの中から選出されていたりもする。
さらに、本作はオールアフレコでの体制を採っている。これにより、現場で“音待ち”をしなくていいため撮影をどんどん進めていけるというメリットが生まれていたのだという。
結果的に、「がんばれいわ!!ロボコン」は緊急事態宣言が明けた後にクランクインした日本映画の中で、クランクアップも劇場公開も最も早い映画となった。映画作りがそのものが難しくなったコロナ禍の中で、しっかり感染予防をした上で作り上げたという事実は、掛け値無しに称賛されるべきであるし、これからの映画製作における1つの見本となるだろう。
そういえば、劇中ではベロを伸ばして求愛行動をしてきたロボコンが、ヒロインのロボットにボコボコにされるというシーンがあった。無用な濃厚接触を良しとはしないという、コロナ禍の世相を反映した作劇かもしれない。気のせいかもしれない。
5:短編アニメ「スプリンパン」もすごかった
「がんばれいわ!!ロボコン」は、「人体のサバイバル!」の他に、約5分の短編アニメ「スプリンパン まえへすすもう!」も併映されている。こちらも「がんばれいわ!!ロボコン」と同じくすさまじい作品だった。
内容はキャラクターたちが歌って踊るミュージカルなのだが、主人公の女の子のお供となるのが、“山どん”と“リンゴリーダー”である。この名前も見た目もアバンギャルドなキャラを受け入れる暇もなく、「こうして冒険が始まったのです〜」などと歌われている。ただし実際の冒険の内容は映像としては出てこず、同じステージで歌って踊っているだけなので、「こうして」と言われても冒険している感がなさすぎて納得できない。
衝撃的なのは「家にいるお母さんを思い浮かべて旅の報告をするシーン」だ。3DCGではない、2Dのイラストで描かれた、夜空に浮かぶお母さんは、違和感とかそういう概念を超越していた。
しかし、こちらもネタ的に紹介するだけでは申し訳ない要素もある。キャラクターたちの歌とダンスは全て、何と元劇団四季のメンバーや現役のダンサーが担当している。モーションキャプチャーにより、プロの技をアニメに取り入れているのだ。
本作の監督・脚本(詩)・カメラワーク・編集・音楽監督まで務めた井上ジェット氏の意向については同氏がnoteでも詳しく書いている。とても志の高く、尊いメッセージのある作品でもあることがわかるので、ぜひ読んでいただきたい。
6:ちゃんとしている良作「人体のサバイバル!」
「がんばれいわ!!ロボコン」に続き「スプリンパン まえへすすもう!」も脳が常に異常信号を発するすごい作品であるが、最後に上映される「人体のサバイバル!」はちゃんとした良作アニメ映画だった。こちらを目当てに映画館に足を運ぶのも存分にオススメできる。
「人体のサバイバル!」の原作は小学生を中心に絶大な人気を誇る“科学漫画サバイバル”シリーズで、その全世界での発行部数は3000万部を超えている。今回の映画は“腸の蠕動(ぜんどう)運動”や“赤血球の働き”などの人体のメカニズムも学びつつ、人体の中を冒険し脱出の術を探す様が描かれており、二転三転する展開はエンターテインメントとしてとても面白い。
キャラクターはみんなかわいらしくて魅力的で、伏線回収もしっかりしていて、構成もクライマックスに向けて盛り上がるようにうまく計算されている。病気に立ち向かう人々を勇気付けるメッセージも、コロナ禍の世の中ではより響くものだった。同じく身体への理解が深まることで話題になった「はたらく細胞」が好きな方もきっと気にいるだろう。
何より、「がんばれいわ!!ロボコン」と「スプリンパン まえへすすもう!」で狂いかけていた精神を、このまともな作風の「人体のサバイバル!」で正してくれたという功績は大きい。この3本の同時上映で本当に良かった、ありがとうといま一度感謝を告げたい。
まとめ:どうせ何でも面白い
「がんばれいわ!!ロボコン」は、劇中で「暴力は良くない!」と言葉にしていたり、主人公を“甘やかしすぎない”作劇もされていたりと、子ども向け作品としてまっとうなメッセージ性も備えている。ロボコンの声を務めた斎藤千和は見事にハマっているし、ヒロインのロボットを演じていた子役の土屋希乃もとてもかわいい(変顔のしすぎで撮影後は筋肉痛になったらしい)。スタッフとキャストが一丸となり、コロナ禍の中で猛スピードかつ全力で作り上げた作品であることは、疑いようもない。
そうしたまともな要素もあるのにもかかわらず、それらが全編で吹き荒れる狂気の嵐のせいでかすんで見えるのである。いや、むしろまともな要素が全て狂気で塗り固められているというのがすごい、と言うべきか。
ぜひ「がんばれいわ!!ロボコン」の狂気を全身に浴び、続く狂気のコンボ「スプリンパン まえへすすもう!」をくぐり抜け、ちゃんとしている「人体のサバイバル!」までたどり着くというサバイバル(脳への負担的な意味で)をやりぬいてほしい。一部の劇場ではさまざまな演出を体感できるMX4Dでの上映も行われているので、こちらで堪能してみるのも良いだろう。
ちなみに、「スプリンパン まえへすすもう!」の劇中では「こうしなきゃいけない決まりなんてない、どうせ何でも面白い」という趣旨の劇中歌が歌われる。これはこの3作にある理念を完璧に表現している上、全ての創作物における、ある種の真実である。全くその通り、ここまでめちゃくちゃやっても(だからこそ)、面白いのだ。
(ヒナタカ)
参考記事:『がんばれいわ!!ロボコン』石田秀範監督が語る、悪戦苦闘「タンタンメン」の演技 | マグミクス
『人体のサバイバル!/がんばれいわ!!ロボコン』7月31日(金)全国公開!
『人体のサバイバル!』原作「科学漫画サバイバル」シリーズ(朝日新聞出版)/(C)Gomdori co., Han Hyun-Dong/Mirae N/Jeong Jun-Gyu/Ludens Media /朝日新聞出版・東映アニメーション、『がんばれいわ!!ロボコン ウララ〜!恋する汁なしタンタンメン!!の巻』原作:石ノ森章太郎/(C)石森プロ・東映
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