「あなたの余命はあと3000文字きっかりです」 まさかのシチュエーションで始まるオムニバスマンガの世界観が好物すぎる件(1/3 ページ)
インタビューと併せてマンガ本編を掲載。
「あなたの余命はあと3000文字きっかりです」――村崎羯諦(むらさきぎゃてい)さんの小説をコミカライズした『余命3000文字』が、マンガワン/裏サンデーで1月末から連載が開始されました。
世界観が全く異なるショートショート作品群で構成される原作小説のコミカライズを手掛けたのは、構成が春日有さん、漫画は、テレビアニメ「おそ松さん」「うる星やつら」のキャラクターデザインや、「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||(本来は右縦線が太字)」の作画監督など、アニメーターとして活躍する浅野直之さん。原作小説の表題作品となっている「余命3000文字」をどうマンガで表現しているのかも注目したいところですが、このショートショート作品のコミカライズの狙いはどういったところにあるのでしょうか。
本記事では、コミカライズを手掛けた春日さん、浅野さん、そして同作の担当編集へのインタビューと併せて、マンガ本編を第2話(彼氏がサバ缶になった/心の洗濯屋さん)まで掲載します。なお、本記事で掲載した「余命3000文字」には、枠外に累計文字数を表示しました。
『余命3000文字』作品紹介
※以下、マンガ『余命3000文字』第1話のネタバレに触れています
のっけから、「あなたの余命はあと3000文字きっかりです」と医師から告げられただただ困惑する青年。年月ではなく文字数が余命というシチュエーションを説明する最初のページだけで232文字、なかなかのハイペースで余命が消費されていきます。
治療法はなく、あるのはただ残りの人生を3000文字で収めるという対策のみ。できるだけ同じ毎日を過ごし、当たり障りのない人生を送れば、文字数の上限に達する前に寿命を迎えるだろうと医師は淡々と説明します。
そんな不条理な余命を突きつけられてしまった青年は、文字通り何ら代わり映えしない日々を送ることに腐心するようになります。家と会社の往復で日々を過ごし、休日はひきこもり。人との交流も極力控えるなど、文字数を気にしながら彩りのない人生を過ごし、気付けば30代の半ばに差し掛かっていました。
文字の消費を抑えながら、天寿を迎えるその日を待つ男性。生きていると言えるのかどうか分からない生気のない表情で「むなしくないと言えばうそになるが、若くして死ぬよりはよっぽどまし」と状況に達観し、余計なことを考えることをやめてしまったさなか、近隣のビルで火災が発生してしまいます。
それすらも冷めた目で、面倒ごとに巻き込まれないよう一度はその場を去ろうとする男性。しかし、子どもが建物に取り残されていることを知り、残り1000文字程度になった自分の人生をそのまま穏やかに過ごすべきか、それとも覚悟の上で救出に向かうべきか、逡巡します。気付けばその足は救出へと向かい出していました。
救助の過程でどんどんと文字数が消費されていく中、状況としても絶体絶命となる男性。それでも最後の力を振り絞って子どもを抱いてビルから飛び降り、無事子どもは生還。しかし、炎が体に燃え移ってしまった男性は、残り文字数を確認するまでもなく、今際の際にいることを悟るのでした。
それでも安らかな余生を送ること以上に、穏やかで満ち足りた気持ちとなった男性。最期に目にしたのは、救出した子どもが母親と抱き合い無事を喜ぶ姿。ゆっくりと目を閉じたページでは、あらがえなかった余命3000文字にピッタリ達していたのでした――。
後述のインタビューでも触れられているように、原作小説は表題作の「余命3000文字」をはじめ、世界観の全く異なる26の短編で構成されていて、そのうち『彼氏がサバ缶になった』『心の洗濯屋さん』『焼き殺せよ、恋心』など11編がコミカライズ予定です。「余命3000文字」とは世界観も絵柄も異なる、世にもユニークでシニカルな視点が楽しめます。
マンガ『余命3000文字』インタビュー
――― 文字数が余命となるレトリックなしかけを有した表題作が印象的な作品のコミカライズですが、この作品のコミカライズを決めた思いや狙いがあれば教えてください。
『余命3000文字』という小説は、毎話異なる世界観が楽しめるショートショート作品です。世界観もリアルなもの、ファンタジー、現実世界に似ているけれど少し不思議……とそれぞれ違いがありますし、コメディー、恋愛、ホラー、不条理など、読み味もさまざまなので、1冊読むととても満足感があります。
初めて読んだときに、この世界観を漫画で表現したらどうなるのだろう、それも毎話異なる絵のテイストにしていただいたらとても面白いのではないかと思いました。そこで、小説『余命3000文字』の担当編集者を通じて、原作の著者・村崎羯諦先生にコミカライズのご相談をさせていただきました。
中でも「余命3000文字」は、原作小説の表題にもなっている代表的な1篇なので、コミカライズするならば絶対に入れたいと思いました。小説ならではの仕掛がさく裂している1篇なのでとても難しい試みですが、漫画にもしがいがあるのではと感じました。(担当編集:森原)
――― “3000文字ルール”が他の回に影響するわけではないということですよね。
はい。“3000文字”のルールは、この「余命3000文字」という1篇だけのものです。原作の小説は「余命3000文字」という1篇を筆頭に、世界観の全く異なる読み切り短編が26篇も収録されているのです。その中から11のエピソードをピックアップして、漫画にさせていただくので、「余命3000文字」以外にも、あっと驚く世界観を、毎話、楽しんでいただけると思います。(担当編集:森原)
――― レトリックなしかけがある「余命3000文字」のコミカライズは大変ではなかったのでしょうか? コミカライズでお気に入りや手応えのあるポイントがあれば教えてください。
小説の表題にもなっている、「余命3000文字」という1篇は、原作の小説では3000文字のうち、会話文に使っている文字数はあまり多くなく、主人公視点の情景描写や心理描写がメインになっています。情景描写は漫画では絵に変換されるため、その分の文字数をどのようにして漫画に盛り込むかが悩みどころでした。
そのためコミカライズでは、なるべく原作の印象を崩さないよう気をつけながら多少セリフを追加させていただきました。長いセリフは避けるべきとされる漫画では、逆に原作小説から文字数を削ったセリフもあります。そのためセリフ追加以外にも文字数の消費ひとつとして「描き文字」も文字数としてカウントするようにしています(「トントン」「ガラガラッ」など)。
そうしたシーンでは一人称の原作とは少し違った雰囲気になっているかもしれませんが、コミカライズ版として楽しんでいただけるとうれしいです。(構成担当:春日有)
――― アニメーターとしても活躍されている浅野直之さんがマンガの作画を手掛けられています。過去には『せめてポカリスエットだけは僕を潤してくれ』でマンガを描き下ろされたかと思いますが、アニメーターとマンガ作画の違いや共通点、今作のマンガ作画でご自身にとってチャレンジングなこと、その手応えがあれば教えていただけますか?
アニメとマンガの作画の違いはいろいろありますが、1番は描線の量だと思います。
アニメ作画はたくさんの枚数の絵を描く必要があるため、できる限り描線の量を少なくしなくてはならないのですが、マンガは細かい線やタッチを入れたりなど、描き込む線の量をアニメほど制限しなくて良いというところが大きく違います。
アニメは何枚もの絵を描いて動きを表現しますが、マンガは一ページ内の絵で動いてるように表現するものだと思うので、アニメ制作における絵コンテに近いかもしれません。
アニメの作業はキャラクターデザインとその色彩や小物、背景などの設定をそれぞれ専門のスタッフと分担して作業しますが、マンガの場合は作家さんが全て考える必要があります。その他にも、アニメは役者さんの声や効果音、音楽といったさまざまな要素が合わさって完成しますが、マンガは作家さんが原稿を仕上げた段階でほぼ完成となるというところなど、いろいろ違います。
共通しているのは、マンガ作画も線画以外のトーン作業や背景作業をアシスタントさんが描いたりなど、ある程度分業制になっていたりするところですが、膨大な手間と時間がかって大変な作業なのは結局どちらも同じかもしれません。
本作はエピソードがそれぞれ全く異なるテーマや世界観で構成されている原作ですので、作画も各エピソードで全く違う絵柄のテイストで描いてみたいと考えてましたが、いざ進めていると予想以上に難しくて、結局はどれも自分の手癖みたいなものがにじみ出てしまっているように思います。
作画だけでも大変なのに原作もネームも短期間で考えて原稿を完成まで仕上げるマンガ家さんは本当に偉大だとよく分かりました……。
まだ作画するだけで精いっぱいでなかなか手応えはないのですが、残りのエピソードでは普段のアニメの作画では描けないような絵柄やキャラクターが見せられるよう、できる限りチャレンジいたしますので、こうご期待ください! (作画担当:浅野直之)
――― 最後に、作品に関心を持った読者にメッセージをお願いします。
小説と漫画における文字数の印象やそれぞれが得意とする表現の違いなどを、分かりやすく感じることができる企画だと思います。
原作小説を読まれた方にもコミカライズを読んでいただきたいですし、コミカライズで初めて「余命3000文字」を知った方にも是非原作小説を読んでいただきたいです。(構成担当:春日有)
関連記事
- 最愛の人が残した臓器を巡る即席親子のロードムービーマンガが切ない 「読後の余韻が凄い」「つらいけどよかった」
先日完結した高村秀路さんのマンガ『うらうらひかる 津々に満つ』。とてもいい……。 - 事故死した御曹司がたどり着いた“最後の晩餐”を振る舞うお店 異色のグルメマンガ『冥天レストラン』が笑えて泣けておいしそうな大盛りストーリー
グルメ×ファンタジー×ヒューマンドラマな、コメディータッチのマンガ。 - 【マンガ】斬った人間の記憶が見える少年、“自分の師匠”を処刑して見た光景とは…… 『竜送りのイサギ』が和風ファンタジーな世界観の良作
「サンデーうぇぶり」で好評を博す和風ファンタジー。 - 過労死したOLが神に願った力とは…… “人間以外の生物に好かれる能力を持つ女の子”の異世界転生マンガが癒やされるかわいさ
もふもふ。 - 弱音を吐けない限界OLが泣いた“女子大生の一言” ダメなところを認めてもらえるうれしさを描いたマンガに「癒やされた」「人間の面白さが詰まってる」
分かる……。 - 誰からも愛されない“できない自分”の物語 マンガ『だめっ子みーちゃん』に「胸がギュッと締め付けられた」「考えさせられる」とネット上で反響
読むと心に突き刺さる読み切りマンガ。 - 事故死した息子夫婦のカフェを「オラたちでやるべな」 老夫婦の第二の人生を描いたマンガに「号泣」「親の声を聞きたくなった」と感動の嵐
2010年、文化庁メディア芸術祭審査員推薦作品になった『かへ』。 - “遊女の子どもの霊”を母のもとに連れて行くと…… 遊廓を舞台にさまざまな人間模様を描くマンガ『あおのたつき』が泣ける
浮世と冥土のはざまにある「鎮守の社」に迷い込んだ遊女を主人公とするストーリー。 - 絶滅危惧種になった人間の少女の結婚に、幼馴染のキメラ族は…… SNSで名作と話題のファンタジー漫画『リストルージュ』が切ない
「いろいろな人に読んでほしい!」「世界観も絵も表現も全て好き」の声。 - 最後の1ページでまさかのどんでん返し 異世界転生モノの流行を逆手に取ったマンガ『最強勇者パーティーは愛が知りたい』に「そうきたかァ〜」「最高の流れ」の声
一度読んでみてほしい話題作。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
-
ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
-
ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
-
「懐かしい」 ハードオフで“30年前のPC”を購入→Windows 95をインストールしたら“驚きの結果”に!
-
「靴下屋」運営のタビオ、SNSアカウント炎上を受け「不適切投稿に関するお詫び」発表 「破れないストッキング」についてのやりとりが発端
-
餓死寸前でうなり声を上げていた野犬を保護→“6年後の姿”が大きな話題に! さらに2年後の現在を飼い主に聞いた
-
毛糸でフリルをたくさん編んでいくと…… ため息がもれるほどかわいい“まるで天使”なアイテムに「一目惚れしてしまいました」「うちの子に作りたい!」
-
「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
-
放置された池でレアな魚を狙っていた親子に、想定外の事態 目にしたショッキングな光景に悲しむ声が続々
-
脱北した女性たちが初めて“日本のお寿司”を食べたら…… 胸がつまる現実に考えさせられる 「泣いてしまった」「心打たれました」
-
父「若いころはモテた」→息子は半信半疑だったが…… 当時の“間違いなく大人気の姿”に40万いいね「いい年の取り方」【海外】
- イモトアヤコ、購入した“圧倒的人気車”が思わぬ勘違いを招く スーパーで「後ろから警備員さんが」
- 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
- パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
- 高校生のときに付き合い始めた2人→10年後…… 現在の姿に「めっちゃキュンってした」「まるで映画の世界」と1000万表示突破
- 大谷翔平の妻・真美子さん、ZARA「8000円ニット」を着用? 「似合ってる」「シンプルで華やか」
- 新幹線で「高級ウイスキー」を注文→“予想外のサイズ”に仰天 「むしろすげえ」「家に飾りたい」 投稿者に感想を聞いた
- 高校生時代に父と撮った写真を、29年後に再現したら……再生数1000万回超えの反響 さらに2年後の現在は、投稿者に話を聞いた
- 散歩中、急にテンションが下がった柴犬→足元を見てみると…… 「そんなことあります?」まさかの原因が860万表示「かわいそうだけどかわいい」
- コメダのテイクアウトで油断して“すさまじい量”になってしまった写真があるある 受け取ったその後はどうなったのか聞いた
- 「やめてくれ」 会社で使った“伝言メモ”にクレーム→“思わず二度見”の実物が200万表示 「頭に入ってこない」
- 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
- 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
- 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
- アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
- 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
- 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
- ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
- 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」