「あなたの余命はあと3000文字きっかりです」 まさかのシチュエーションで始まるオムニバスマンガの世界観が好物すぎる件(1/3 ページ)

インタビューと併せてマンガ本編を掲載。

» 2024年02月22日 12時00分 公開
[西尾泰三ねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 「あなたの余命はあと3000文字きっかりです」――村崎羯諦(むらさきぎゃてい)さんの小説をコミカライズした『余命3000文字』が、マンガワン/裏サンデーで1月末から連載が開始されました。

余命3000文字

 世界観が全く異なるショートショート作品群で構成される原作小説のコミカライズを手掛けたのは、構成が春日有さん、漫画は、テレビアニメ「おそ松さん」「うる星やつら」のキャラクターデザインや、「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||(本来は右縦線が太字)」の作画監督など、アニメーターとして活躍する浅野直之さん。原作小説の表題作品となっている「余命3000文字」をどうマンガで表現しているのかも注目したいところですが、このショートショート作品のコミカライズの狙いはどういったところにあるのでしょうか。

 本記事では、コミカライズを手掛けた春日さん、浅野さん、そして同作の担当編集へのインタビューと併せて、マンガ本編を第2話(彼氏がサバ缶になった/心の洗濯屋さん)まで掲載します。なお、本記事で掲載した「余命3000文字」には、枠外に累計文字数を表示しました。

『余命3000文字』作品紹介

※以下、マンガ『余命3000文字』第1話のネタバレに触れています

 のっけから、「あなたの余命はあと3000文字きっかりです」と医師から告げられただただ困惑する青年。年月ではなく文字数が余命というシチュエーションを説明する最初のページだけで232文字、なかなかのハイペースで余命が消費されていきます。

余命3000文字 くいっ

 治療法はなく、あるのはただ残りの人生を3000文字で収めるという対策のみ。できるだけ同じ毎日を過ごし、当たり障りのない人生を送れば、文字数の上限に達する前に寿命を迎えるだろうと医師は淡々と説明します。

 そんな不条理な余命を突きつけられてしまった青年は、文字通り何ら代わり映えしない日々を送ることに腐心するようになります。家と会社の往復で日々を過ごし、休日はひきこもり。人との交流も極力控えるなど、文字数を気にしながら彩りのない人生を過ごし、気付けば30代の半ばに差し掛かっていました。

余命3000文字
余命3000文字

 文字の消費を抑えながら、天寿を迎えるその日を待つ男性。生きていると言えるのかどうか分からない生気のない表情で「むなしくないと言えばうそになるが、若くして死ぬよりはよっぽどまし」と状況に達観し、余計なことを考えることをやめてしまったさなか、近隣のビルで火災が発生してしまいます。

余命3000文字

 それすらも冷めた目で、面倒ごとに巻き込まれないよう一度はその場を去ろうとする男性。しかし、子どもが建物に取り残されていることを知り、残り1000文字程度になった自分の人生をそのまま穏やかに過ごすべきか、それとも覚悟の上で救出に向かうべきか、逡巡します。気付けばその足は救出へと向かい出していました。

余命3000文字

 救助の過程でどんどんと文字数が消費されていく中、状況としても絶体絶命となる男性。それでも最後の力を振り絞って子どもを抱いてビルから飛び降り、無事子どもは生還。しかし、炎が体に燃え移ってしまった男性は、残り文字数を確認するまでもなく、今際の際にいることを悟るのでした。

余命3000文字

 それでも安らかな余生を送ること以上に、穏やかで満ち足りた気持ちとなった男性。最期に目にしたのは、救出した子どもが母親と抱き合い無事を喜ぶ姿。ゆっくりと目を閉じたページでは、あらがえなかった余命3000文字にピッタリ達していたのでした――。


 後述のインタビューでも触れられているように、原作小説は表題作の「余命3000文字」をはじめ、世界観の全く異なる26の短編で構成されていて、そのうち『彼氏がサバ缶になった』『心の洗濯屋さん』『焼き殺せよ、恋心』など11編がコミカライズ予定です。「余命3000文字」とは世界観も絵柄も異なる、世にもユニークでシニカルな視点が楽しめます。

マンガ『余命3000文字』インタビュー

――― 文字数が余命となるレトリックなしかけを有した表題作が印象的な作品のコミカライズですが、この作品のコミカライズを決めた思いや狙いがあれば教えてください。

 『余命3000文字』という小説は、毎話異なる世界観が楽しめるショートショート作品です。世界観もリアルなもの、ファンタジー、現実世界に似ているけれど少し不思議……とそれぞれ違いがありますし、コメディー、恋愛、ホラー、不条理など、読み味もさまざまなので、1冊読むととても満足感があります。

 初めて読んだときに、この世界観を漫画で表現したらどうなるのだろう、それも毎話異なる絵のテイストにしていただいたらとても面白いのではないかと思いました。そこで、小説『余命3000文字』の担当編集者を通じて、原作の著者・村崎羯諦先生にコミカライズのご相談をさせていただきました。

 中でも「余命3000文字」は、原作小説の表題にもなっている代表的な1篇なので、コミカライズするならば絶対に入れたいと思いました。小説ならではの仕掛がさく裂している1篇なのでとても難しい試みですが、漫画にもしがいがあるのではと感じました。(担当編集:森原)

――― “3000文字ルール”が他の回に影響するわけではないということですよね。

 はい。“3000文字”のルールは、この「余命3000文字」という1篇だけのものです。原作の小説は「余命3000文字」という1篇を筆頭に、世界観の全く異なる読み切り短編が26篇も収録されているのです。その中から11のエピソードをピックアップして、漫画にさせていただくので、「余命3000文字」以外にも、あっと驚く世界観を、毎話、楽しんでいただけると思います。(担当編集:森原)

――― レトリックなしかけがある「余命3000文字」のコミカライズは大変ではなかったのでしょうか? コミカライズでお気に入りや手応えのあるポイントがあれば教えてください。

 小説の表題にもなっている、「余命3000文字」という1篇は、原作の小説では3000文字のうち、会話文に使っている文字数はあまり多くなく、主人公視点の情景描写や心理描写がメインになっています。情景描写は漫画では絵に変換されるため、その分の文字数をどのようにして漫画に盛り込むかが悩みどころでした。

 そのためコミカライズでは、なるべく原作の印象を崩さないよう気をつけながら多少セリフを追加させていただきました。長いセリフは避けるべきとされる漫画では、逆に原作小説から文字数を削ったセリフもあります。そのためセリフ追加以外にも文字数の消費ひとつとして「描き文字」も文字数としてカウントするようにしています(「トントン」「ガラガラッ」など)。

 そうしたシーンでは一人称の原作とは少し違った雰囲気になっているかもしれませんが、コミカライズ版として楽しんでいただけるとうれしいです。(構成担当:春日有)

――― アニメーターとしても活躍されている浅野直之さんがマンガの作画を手掛けられています。過去には『せめてポカリスエットだけは僕を潤してくれ』でマンガを描き下ろされたかと思いますが、アニメーターとマンガ作画の違いや共通点、今作のマンガ作画でご自身にとってチャレンジングなこと、その手応えがあれば教えていただけますか?

 アニメとマンガの作画の違いはいろいろありますが、1番は描線の量だと思います。

 アニメ作画はたくさんの枚数の絵を描く必要があるため、できる限り描線の量を少なくしなくてはならないのですが、マンガは細かい線やタッチを入れたりなど、描き込む線の量をアニメほど制限しなくて良いというところが大きく違います。

 アニメは何枚もの絵を描いて動きを表現しますが、マンガは一ページ内の絵で動いてるように表現するものだと思うので、アニメ制作における絵コンテに近いかもしれません。

 アニメの作業はキャラクターデザインとその色彩や小物、背景などの設定をそれぞれ専門のスタッフと分担して作業しますが、マンガの場合は作家さんが全て考える必要があります。その他にも、アニメは役者さんの声や効果音、音楽といったさまざまな要素が合わさって完成しますが、マンガは作家さんが原稿を仕上げた段階でほぼ完成となるというところなど、いろいろ違います。

 共通しているのは、マンガ作画も線画以外のトーン作業や背景作業をアシスタントさんが描いたりなど、ある程度分業制になっていたりするところですが、膨大な手間と時間がかって大変な作業なのは結局どちらも同じかもしれません。

 本作はエピソードがそれぞれ全く異なるテーマや世界観で構成されている原作ですので、作画も各エピソードで全く違う絵柄のテイストで描いてみたいと考えてましたが、いざ進めていると予想以上に難しくて、結局はどれも自分の手癖みたいなものがにじみ出てしまっているように思います。

 作画だけでも大変なのに原作もネームも短期間で考えて原稿を完成まで仕上げるマンガ家さんは本当に偉大だとよく分かりました……。

 まだ作画するだけで精いっぱいでなかなか手応えはないのですが、残りのエピソードでは普段のアニメの作画では描けないような絵柄やキャラクターが見せられるよう、できる限りチャレンジいたしますので、こうご期待ください! (作画担当:浅野直之)

――― 最後に、作品に関心を持った読者にメッセージをお願いします。

 小説と漫画における文字数の印象やそれぞれが得意とする表現の違いなどを、分かりやすく感じることができる企画だと思います。

 原作小説を読まれた方にもコミカライズを読んでいただきたいですし、コミカライズで初めて「余命3000文字」を知った方にも是非原作小説を読んでいただきたいです。(構成担当:春日有)

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2410/05/news022.jpg 「クレオパトラみたい」と言われ傷ついた55歳女性→カット&パーマで大変身! 「本当にびっくり」「素敵なマダムに」
  2. /nl/articles/2410/05/news040.jpg 伝説の不倫ドラマ「金曜日の妻たちへ」放送から41年、キャストの現在→75歳近影が「とても見えません」と話題
  3. /nl/articles/2410/02/news116.jpg 余りがちなクリアファイル、“じゃないほう”の使い方で食器棚がまさかのスッキリ 「目からウロコ」「思いつかなかった!」と反響
  4. /nl/articles/2410/05/news023.jpg 七五三で刀を持っていた少年→20年後には…… “まさかの進化”に「好きなもの突き進んでかっこいい!」
  5. /nl/articles/2410/05/news018.jpg 野良猫が窓越しに「保護してください」と圧をかけ続け…… ひしひし感じる強い意志と表情に「かわいすぎるw」「視線がすごい」
  6. /nl/articles/2410/05/news012.jpg 「あのお客さんに幸あれっ!」 小銭の出し方が完璧な“神客”にレジ店員感激 会計がスムーズになる配慮が参考になる
  7. /nl/articles/2410/04/news048.jpg 「こういうの好き」 割れたコップの破片を並べたら…… “まさかの発想”で息を飲むアート作品に 「すごいセンス良い」「前向きな考え」
  8. /nl/articles/2410/04/news040.jpg 50代女性「モンチッチみたいにしてほしい」→美容師がプロのワザを見せ…… 別人級の変身に「めっちゃお洒落」「すごい!」
  9. /nl/articles/2410/04/news025.jpg 「これが免許証の写真???」 コスプレイヤーが公開した“信じられない”免許証が話題 コスプレ姿との比較に「両方とも可愛いすぎる」
  10. /nl/articles/2410/05/news032.jpg 大型犬が18年間、ドアを開け続けた結果……そうはならんやろな驚きの末路に「どうしたらこんな風になるのよ」の声
先週の総合アクセスTOP10
  1. ネットで大絶賛「ブラウニー」にカビ発生 業務スーパーに7万箱出荷…… 運営会社が謝罪
  2. 「全く動けません」清水良太郎がフェスで救急搬送 事故動画で原因が明らかに「独りパイルドライバー」「これは本当に危ない!!」
  3. トラックがあおり運転し車線をふさいで停車…… SNSで拡散の動画、運転手の所属会社が謝罪
  4. 「ヤヴァすぎる!!」黒木啓司、超高級外車の納車を報告 新車価格は5000万円超 2023年にはフェラーリを2台購入
  5. そうはならんやろ “ドクロの絵”を芸術的に描いたら…… “まさかのオチ”に「傑作」の声【海外】
  6. 「ウソだろ?」 ハードオフに3万円で売っていた“衝撃の商品”に思わず二度見 「ヤバいことになってる」
  7. 「結局こういう弁当が一番旨い」 夫が妻に作った弁当に「最強すぎる!」「絶対美味しいビジュアル」
  8. “メンバー全員の契約違反”をライブ後に発表 異例の脱退騒動背景を公式が釈明「繋がり行為などではなく」
  9. 「言われる感覚全く分からない」 宮崎麗果、“第5子抱いた服装”に非難飛び……夫・黒木啓司は「俺が言われてるのかな?」
  10. 大沢たかお、広大プールを独り泳ぐ“バキバキ姿”が絵になり過ぎ 盛り上がる筋肉の上半身に「50代とは思えない」「彫刻みたい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. “緑の枝付きどんぐり”をうっかり持ち帰ると、ある日…… とんでもない目にあう前に注意「危ないところだった」
  2. 「しまむら」に行った58歳父→買ってきたTシャツが“まさかのデザイン”で3万いいね! 「同じ年だから気持ちわかる」「欲しい!」
  3. 友人に「100円でもいらない」と酷評されたビーズ作家、再会して言われたのは…… 批判を糧にした作品が「もはや芸術品」と490万再生
  4. 高校3年生で出会った2人が、15年後…… 世界中が感動した姿に「泣いてしまった」「幸せを分けてくださりありがとう」【タイ】
  5. 「ま、まじか!!」 68歳島田紳助、驚きの最新姿 上地雄輔が2ショット公開 「確実に若返ってる」とネット衝撃
  6. 荒れ放題の庭を、3年間ひたすら草刈りし続けたら…… 感動のビフォーアフターに「劇的に変わってる」「素晴らしい」
  7. 食べた桃の種を土に植え、4年育てたら…… 想像を超える成長→果実を大収穫する様子に「感動しました」「素晴らしい記録」
  8. 「天才!」 人気料理研究家による“目玉焼きの作り方”が目からウロコ 今すぐ試したいライフハックに「初めて知りました!」
  9. 「エグいもん売られてた」 ホビーオフに1万1000円で売られていた“まさかの商品”に「めちゃくちゃ欲しい」
  10. 義母「お米を送りました」→思わず二度見な“手紙”に11万いいね 「憧れる」「こういう大人になりたい」と感嘆の声