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「人工心臓」をめぐる親子と姉弟の物語 「オルガの心臓」の続きが気になって眠れないので3巻はよ!虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第42回

今回はITAN WEB COMICから、雨宮もえ先生の「オルガの心臓」を紹介します。

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 ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。

 PCやタブレット端末からねとらぼをご覧の方にはすでにおなじみとなっているツナミノユウ先生の週末連載マンガ「つまさきおとしと私」。社主も毎週楽しみに読んでいて、最初の頃は「咲ちゃんかわいいな」などと感じさせるほのぼのマンガだったのが、今やちょっとしたホラーと化している昨今ですが、今回はこの「つまわた」でコラボしている講談社の季刊マンガ誌「ITAN」から1作品をご紹介します。「ITAN」作品は田中相先生の傑作「千年万年りんごの子」(全3巻)以来久々ですね。


画像 「オルガの心臓」(〜2巻、以下続刊/講談社)→ 1巻試し読みページ

 今回取り上げるのは、ITANのウェブサイト「ITAN WEB COMIC」にて連載中、雨宮もえ先生の「オルガの心臓」(〜2巻、以下続刊)です。昨年発売された第1巻を手に取ったきっかけは、決意を秘めたようにこちらを見つめる本作の主人公・オルガの表情に惹かれたからなのですが、実際に中身を読んでみて「これはすごい!」と感銘を受けた、近頃読んだマンガの中でもドラマ運びに頭一つ抜けた感のある作品でした。

 「これはいずれ紹介せねば……」と温存していた本作、今月待望の2巻が発売。やっとこさ取り上げるタイミングがめぐってまいりました。



「人工心臓」をめぐる物語

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 医療が発達し、人工臓器の開発が進んだ現在。かつて都心で人工心臓の研究を行っていたオルガ=シャルトーはある出来事をきっかけに研究所を追われ、今は田舎の診療所で密かに人工心臓の研究を続けていました。

 彼女が秘密裏に作り上げた人工心臓は、世間ではまだ解決していないバッテリーの問題を克服した画期的なもの。これが公になれば医療技術に更なる進歩をもたらすことは間違いないはずですが、名声や金銭に執着のない彼女はそれを望まず、自身の診療所で極秘に移植手術を行っています。

 そのオルガと共に暮らしているのが弟のニト。オルガの異母姉弟にあたる彼はオルガの研究が世間に知られれば自分たちの穏やかな生活が脅かされると考え、オルガに外出を禁じるなど、極端なまでに彼女を他人から遠ざけ続けています。

 さて、物語はニトが最近街でうわさになっている「偽の人工心臓」の実態調査に乗り出すところから始まります。偽の人工心臓騒ぎが拡大すれば、いずれ本物を知るオルガのもとにまで騒動が飛び火するかもしれないと考えたニトは、ついにその偽物のありかを突き止めます。

 その潜入中出会ったのが少年・マナ。彼は自分の将来を思って心臓を売ったものの、粗悪な人工心臓を植え付けられて動けぬ体になってしまった母の心臓を取り戻すため、偽の人工心臓を作っていた組織に侵入しようとしていたのでした。

 マナが心臓を求める理由を知ったニト。「唯一の身内である母のため」という少年の一途さにかつての自分を重ねたのか、容体が悪化するばかりの母に姉・オルガが作った人工心臓を再移植するよう促します。

 マナが姉弟の隠れ家で見たものは、緑色の電子の光が舞う本物の人工心臓。この人工心臓に母の細胞を入れて培養、再度移植手術を行うことで無事母の容体は回復していくのでした。



ただの医療ドラマでは終わらない

 ここで「マナのお母さんは回復しました、めでたしめでたし」なら、1話完結型の医療ドラマに過ぎなかったかもしれません。しかし本作の真骨頂はここからです。

 手術が成功し、オルガによる新たな心臓が拍動しはじめたマナの母。しかし、彼女の食は進まず、自らを助けてくれたマナに対しても口を開けば「ごめんね」「ごめん」と、息子への謝罪を繰り返すばかり。

 彼女を苦しめるのは、子どもを貧しく生んでしまったことへの罪悪感です。いわゆる貧民街で生まれ育った彼女は息子に同じ思いをさせまいと頑張ってきたものの、それが上手くいかず、結局最後には自分の心臓を売ってお金を得るしかなかった。けれど皮肉なことに、代わりに入れられた粗悪な人工心臓のため、結局息子に苦労をかけさせてしまった――。そんな罪悪感が彼女をむしばみ、その姿を見たマナもまた苦しむという悪循環。この鎖がどのように断ち切られるか、普段は無愛想、前髪に隠れて表情も読み取れないニトがマナの母に対して浴びせた心からの言葉はぜひ本編にて読んでいただきたいです。



一切無駄のないストーリー運び……3巻はよ!

 親子の体と心を救ったオルガとニトの物語はこの後、オルガの心臓のうわさを聞き付けた医師シマ=バークリー、そして現在は絶縁状態にあるものの、2人の父であり人工心臓製作の第一人者でもあるイレール=カテルの登場とともに、大きなドラマへと発展していきます。

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 とりわけ本作最大の見どころは親子の関係です。このテーマは先ほどのマナ親子のエピソードの中心にもなっていましたが、それが敷衍(ふえん)される形で語られる「愛の上に望まれて生まれてきたわけではない」オルガと「愛されて生まれてきた」ニト。母が異なる2人それぞれの少女・少年期のストーリーは、幼い頃の家庭機能不全が大人になってもトラウマとして残る「アダルトチルドレン」に重なるところが多分にあるように思えます。

 姉弟で抱きしめるシーンが多い第1巻を読んだときは、正直なところ「いくらなんでもブラコンシスコンすぎるだろ」と思った、共依存なオルガとニトの姉弟関係も、第2巻を読んでからは「こんな状況に置かれたらそうなるのもやむないわ……(と言うか、自分もオルガさんに抱きしめられたい)」と納得できるようになった部分もありますし、また2巻の帯にもなっている「私は弟を恨んでいるの? 愛しているの?」というオルガのアンビバレント(二律背反)な感情も非常に人間らしくて良いです。

 それにしても、今これを書くため改めて繰り返し読み直しているのですが、読めば読むほど本作におけるストーリー運びの無駄のなさには驚かされます。「オルガの心臓」は雨宮先生にとって初の単行本ということだそうですが、初作品とは思えないほどレベルの高いマンガに仕上がっています。

 現在はまだ「ITAN WEB COMIC」にて連載継続中ですが、今秋発売予定の次巻にて完結とのこと。第2巻収録分の最後でオルガさんがえらいことになっていたので、私、本気で続きが気になります。3巻はよ!

 今回も最後までお読みくださりありがとうございました。


(C)雨宮もえ/講談社 ITAN



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