七尾線の観光列車、特急「花嫁のれん2号」に乗ってみた!
石川・七尾線を走る美麗な観光列車「花嫁のれん」。“走る旅館”と名高いこの列車でいただける“料亭の味”を堪能してきました!
【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
全国のローカル線で運行される観光列車。目玉の1つに据えられているのが「食」です。北陸新幹線の金沢開業後、石川県の七尾線で運行を開始した特急「花嫁のれん」では、上り列車で、加賀藩御膳方をルーツに持ち、いまも料亭を営みながら、金沢駅の駅弁を製造している「株式会社大友楼」の食事が楽しめます。今回は「駅弁屋さんの厨房ですよ!」大友楼編のスピンオフとして、特急「花嫁のれん2号」の食事を楽しんでみました。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第33弾・大友楼編(特急「花嫁のれん」の旅)
七尾線の和倉温泉駅に、ひときわ目を引く鮮やかな赤を基調に華やかな装飾が施された2両の気動車が停車しています。この列車は全車指定の観光列車・特急「花嫁のれん」。北陸新幹線が開業した平成27(2015)年の秋から、週末を中心に金沢~和倉温泉間で1日2往復運行されています。乗車4日前までの予約で、金沢発の列車では「スイーツセット」、和倉温泉発の2号は「和軽食セット」、4号では「ほろよいセット」が提供されます。
「花嫁のれん」とは、幕末から加賀藩に伝わる婚礼の風習の1つで、嫁入りのとき、嫁ぎ先の仏間に掛けられ、花嫁がくぐるのれんのこと。これがご先祖様への挨拶となり、晴れて嫁入りが認められ、結婚式が始まると言います。平成22(2010)年から、東海テレビ・フジテレビ系の昼の連続ドラマとして数回にわたってシリーズ化されたことで、ご存知の方も多いでしょう。和倉温泉駅にはのれんの展示があり、誰でも気軽にくぐる体験ができます。
特急「花嫁のれん」は、“走る旅館”と云ってもいい列車です。最大の魅力は何といっても、そのおもてなし。長年、観光業界の専門紙が主催する投票でも高い評価を受けている、和倉温泉「加賀屋」の監修を受けた和装アテンダントの方が乗車しています。車内での食事の配膳をはじめ、その動きは、まるで温泉宿の仲居さんのよう。担当されている方も、「加賀屋さんで受けた研修は、本当に目からうろこが落ちた」と話されていました。
とくに1号車は、通路に日本庭園の飛び石をイメージした絨毯が敷かれており、真ん中がS字に緩やかなカーブ。「桜梅の間」「撫子の間」といった呼び名が付けられている全部で8つの半個室は、それぞれ友禅のオールドコレクションをあしらった空間となっています。列車のなかから温泉宿に着いたような気分になれますので、気が置けない人同士のプライベートな旅なら、人気の1号車を指名買いしたいものです。
一方の2号車は、通路が流水のイメージで、座席は紅色の生地と背面の木の格子が特徴的なオリジナルの回転クロスシート。内装は、伝統的によく使用される輪島塗の図柄が施されていると言います。発車時刻になると、車掌さんによる「この列車は“お客様の幸せを願う列車”、花嫁のれん○号、○○行です」とアナウンスが入って、列車はゆっくり発車。始発駅では、駅員さんや観光関係者の方が、いっぱい手を振って見送って下さいます。
今回は、和倉温泉をお昼に発車する「花嫁のれん2号」に乗車。和倉温泉から金沢まで、約1時間15分の旅となります。2号だけで楽しめるのが、金沢駅弁・大友楼が製造する「和軽食セット」(2500円)です。指定が取れたら、乗車4日前までにJR西日本・四国のみどりの窓口で「食事券」を購入。これと引き換えで、アテンダントさんが配膳してくれます。首都圏からは、クレジット決済で「JR西日本電話予約サービス」の利用が便利かも。
【おしながき】
- 口取り
厚焼き玉子、焼き魚(サケ)・はじかみ、季節の蒲鉾、能登牛時雨煮グリンピース
- 天麩羅
加賀蓮根磯部天、キス天、イカ天、ナス天、ししとう、プチトマト、レモン
- 煮物
治部煮(合鴨肉、金時草麩、すだれ麩、生麩、椎茸、ほうれん草、山葵添え)
- 酢の物
金沢春菊おひたし、千切人参
- 和え物
甘海老とホタテ・ブロッコリーのマヨネーズ和え
- 御菓子
季節のお菓子
- 押し寿司
カニ押し寿司・レモン・木の芽添え
- 季節御飯(石川県産コシヒカリ使用)
“和軽食”となっていますが、何とスライド式の2段重ねのお重に加賀料理がたっぷり! 私が乗車した2月は、冬バージョンの料理が提供されていて、ご飯はハレの日にいただくカニの押し寿司となっていました。大友楼によると、郷土食の豊かさと料亭の味、季節感などを考えながら、春と夏・秋、そして冬の年3回、メニューを変えていて、加賀と能登を結ぶ時間を楽しんでもらえるように作っているということです。
冬バージョンでは、加賀蓮根の天ぷら、金沢春菊のおひたしをはじめとした、金沢野菜のおかずが随所に光ります。もちろん、大友楼自慢の「治部煮」や、オリジナルの能登牛しぐれ煮も入っていて、金沢駅弁の美味しいところがぎっしり詰まっています。大友楼では、JR西日本金沢支社から依頼を受けた令和元(2019)年から車内の食事を提供しており、社員のアイデアやJR社員さんとの試食会を経ながら、ブラッシュアップしているそうです。
ちなみに、3月下旬からの春バージョンの「和軽食セット」はこちら。ご飯が桜ご飯になり、春らしく菜の花のおひたしが入っています。また、金沢の郷土料理「鯛の唐蒸し」も、春バージョンならではのおかずだそうです。「冬と春は、とくに北陸の食材が豊かな季節なので、ぜひ『花嫁のれん』の食事を味わって欲しい」と、大友楼8代目の大友佐悟(おおとも・さとる)常務は話しています。
1号車の乗車口付近には、車内販売カウンターがあって、「花嫁のれん」グッズをはじめ、加賀・能登のお菓子や名産を販売しています。下りの1.3号で提供されるスイーツセットの焼菓子の詰め合わせも購入可能。ちなみに一番人気は花嫁のれんのクリアファイルで、お菓子では、珠洲の揚げ浜の塩を使った塩ようかんが人気を集めているそう。こちらでは、現金決済のみとなっていますので、小銭の用意もお忘れなく。
車内販売カウンターでは飲み物も販売しています。今回は和軽食セットをいただいたあと、「ホットコーヒー」(300円)を注文してみました。準備ができると、何とアテンダントさんが、温かいコーヒーを座席まで持ってきて下さいます。やっぱり車内販売は温かいコーヒーが嬉しいもの。コロナ対策でアテンダントさんのご苦労も多いと思いますが、マスクの下でも笑顔を忘れないおもてなしに、財布のひもは緩みっぱなしでした。
加賀屋監修のアテンダントさんによる給仕で加賀藩ゆかりの料亭、金沢駅弁・大友楼の和軽食セットが楽しめる「花嫁のれん2号」。能登が誇るおもてなしによる「お見送り」が金沢まで続いて、加賀が誇る料理による「お出迎え」が和倉温泉から始まります。加賀・能登の文化が重なり合いながら列車が進んでいく1時間15分。ぜひ食事の予約をして、存分に楽しみたい「花嫁のれん」の旅です。
(初出:2022年3月28日)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/
おすすめ記事
関連リンク
Copyright Nippon Broadcasting System, Inc. All Rights Reserved.