松江の名物駅弁に「もぐり寿し」が生まれた理由とは 松江駅弁・一文字家に聞く

宍道湖のしじみに価値を見出した、松江・一文字家の駅弁が「大和しじみのもぐり寿し」。二度と繰り返さない「くにびき国体の過ち」とは……。

» 2022年01月09日 12時00分 公開
[ニッポン放送(1242.com)]
ニッポン放送
駅弁 松江 松江「大和しじみのもぐり寿し」(1330円)
駅弁 松江 駅弁 松江 駅弁 松江 駅弁 松江 駅弁 松江 駅弁 松江 駅弁 松江 駅弁 松江 駅弁 松江

【ライター望月の駅弁膝栗毛】

 「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。

 「もぐり」という言葉は、しばしばネガティブな表現で使われます。法律違反や隠れた行為、学生のころ、どうしても聞きたい先生の授業を、「もぐり」で受けていた方もいることでしょう。この「もぐり」という言葉には中国地方の郷土料理「もぐり寿し」のような表現も存在します。松江の名物駅弁「もぐり寿し」は一体、どのようにして生まれたのか? そして、駅弁業者にとって最もつらかった出来事も、一文字家・景山社長に伺いました。

駅弁 松江 キハ187系気動車・特急「スーパーまつかぜ」、山陰本線・来待〜玉造温泉間

「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第30弾・一文字家編(第4回/全6回)

 宍道湖畔を駆け抜けて行く山陰本線の特急「スーパーまつかぜ」。「まつかぜ」の愛称は、国鉄時代、京都・大阪〜博多間を山陰本線経由で結んでいた特急列車をイメージさせる由緒ある名前です。現在の「スーパーまつかぜ」は、平成15(2003)年、山陰本線・鳥取〜米子間の高速化工事完成に合わせ、それまでの「スーパーくにびき」を改称して誕生。“くにびき”は、出雲に伝わる「国引き神話」に由来する名前です。

駅弁 松江 合資会社一文字家・景山直観代表社員

 山陰本線・伯耆大山〜知井宮(現・西出雲)間が電化開業したのが、昭和57(1982)年。特急「やくも」が新製の381系によって、気動車から電車に代わったのもこのときでした。この年、島根県では「くにびき国体」が開催されるのに合わせて、インフラの整備が一気に進んで、まちが新しくなったと話すのは、松江駅弁「一文字家」の景山直観代表社員。この「くにびき国体」には、残念な辛い出来事もあったと言います。

駅弁 松江 一文字家

二度と繰り返さない! くにびき国体の過ち

昭和57(1982)年の「くにびき国体」、一文字家には苦い思い出があるそうですね。

景山:私はまだ学生でしたが、大きな食中毒事件を出してしまいました。父は頭を丸めて、全国の被害に遭われた方のお宅を、一軒ずつ伺って謝罪しました。その後、地元の団体から再び大口のご注文をいただいた際も、「謹慎中なので」と丁重に断ろうとしたのですが、「あれだけ大きなことを起こしたのだから、いまがいちばん安全でしょう」とおっしゃって下さいました。父は男泣きに泣いたと言います。それから40年近く経ちますが、いまも地元の方に支えて貰っています。本当に感謝の言葉しかありません。

辛いご経験もあって、いまの工場は、とても衛生に気を遣っていらっしゃいますね。

景山:平成17(2005)年、山陰地方で初めて、衛生基準が厳しいHACCP認定の工場を作りました。建物の約半分は炊飯設備で学校給食向けのご飯を炊いています。昭和50年代、それまでのパン給食から、週1回の米飯給食が始まりました。パン屋さんが炊飯設備を整備するのは厳しい状況だったため、父の代に大きな設備投資を行い、一文字家が、お受けすることにしました。

駅弁 松江 京王百貨店新宿店・元祖有名駅弁と全国うまいもの大会(2020年撮影)

駅弁大会は、駅弁店の大黒柱!

ただ、この規模の工場を、ずっと稼働させていくのは大変ですね。

景山:松江駅で売れる駅弁は、利用されるお客様の数を考えますと、コロナ前でどんなに頑張っても1日200〜300個です。でも、このときに大量に炊飯できる設備を整えたことが、のちにイベントなどさまざまな場面でケータリングにも対応できるきっかけになりました。

きっと、冬の駅弁大会シーズンには、フル稼働ですね?

景山:駅弁大会のトップシーズンになりますと、たくさんのご注文をいただきます。作った駅弁は飛行機に載せて百貨店へ輸送しています。駅弁大会はウチの大黒柱です。最近はひところより注文数が減ってしまいました。これは大都市のターミナル駅に通年で全国の駅弁を販売する店ができたことが大きいと思います。非日常の駅弁大会が日常になってきてしまっているのが、いろいろと考えさせられるところです。

宍道湖のしじみに「価値」を見出した、一文字家の駅弁!

私は駅弁大会で「大和しじみのもぐり寿し」を初めていただいたときの感激が忘れられません。

景山:松江といえば「宍道湖七珍」は有名でしたが、それまでしじみといえば、味噌汁の出汁になる程度で、みんな価値の低いものだと思っていました。当然「しじみ寿司」を考えた人もいませんでした。でも、一文字家が父の代のとき、しじみを甘辛く炊いて酢飯と合わせて駅弁としました。ネーミングもこだわって、砂のなかに潜っているしじみをイメージして、「もぐり寿し」と名付けたのです。駅弁大会でも売れて、ヒット駅弁になりました。

駅弁 松江 蟹としじみのもぐり寿し

 長年愛された「大和しじみのもぐり寿し」は、2000年代に入ってヤマトシジミの漁獲減少、および価格高騰に伴って販売を終了しました。現在は「蟹としじみのもぐり寿し」(1330円)がその系譜を受け継いでいます。掛け紙の「もぐり寿し」のロゴも「大和しじみ……」と同じ。ちなみに一文字家の駅弁の掛け紙には、駅弁に使われている食材のこだわりが記されています。この薀蓄を読んでからいただくと、一層、駅弁が美味しく感じられますね。

駅弁 松江 蟹としじみのもぐり寿し

【おしながき】

  • 酢飯(島根県飯南町産コシヒカリ)
  • ベニズワイガニの酢漬け
  • しじみのしぐれ煮
  • かにしんじょう
  • 汐吹き椎茸
  • とんばら漬け
駅弁 松江 蟹としじみのもぐり寿し

 境港で水揚げされ、新鮮なうちに加工されたベニズワイガニをメインに松江の郷土料理・しじみのしぐれ煮をしっかり載せた「蟹としじみのもぐり寿し」。“もぐり寿し”の名前の通り、酢飯のなかに隠れているしじみを見つけられたときが、この駅弁の最も楽しい瞬間です。おかずのフワッとしたかに真丈、いい塩っ気の椎茸、そして、奥出雲に由来するとんばら漬けでアクセントをつけながらいただいていくと、あっという間に完食してしまうことでしょう。

駅弁 松江 宍道湖の夕日

 水の都・松江のシンボル、宍道湖。松江駅からは、路線バスで約5分とアクセスも良好。とくに国道9号沿いは、夕日スポットとして多くの人が訪れます。ちなみに「宍道湖七珍」とは、シラウオ、アマサギ、スズキ、コイ、エビ、シジミ、ウナギの7品です。なかでもシラウオ、アマサギ、スズキは冬がシーズン。一文字家の駅弁には、いろいろなところに“七珍”のおかずが隠れています。次回は一文字家のこだわりの米と屋号の由来について伺います。

(初出:2021年11月18日)

連載情報

photo

ライター望月の駅弁膝栗毛

「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!

著者:望月崇史

昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。

駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/


「駅弁膝栗毛」バックナンバー



おすすめ記事

Copyright Nippon Broadcasting System, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/13/news176.jpg 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  2. /nl/articles/2411/14/news014.jpg ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. /nl/articles/2411/14/news042.jpg 夫「250円のシャインマスカット買った!」 → 妻が気づいた“まさかの真実”に顔面蒼白 「あるあるすぎる」「マジ分かる」
  4. /nl/articles/2411/14/news090.jpg ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  5. /nl/articles/2411/14/news167.jpg 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. /nl/articles/2411/14/news187.jpg 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. /nl/articles/2411/13/news162.jpg 「情報操作されてる」「ぜーんぶ嘘!!」 175R・SHOGO、元妻・今井絵理子ら巡る週刊誌報道を一蹴 “子ども捨てた”の指摘に「皆さん騙されてます」
  9. /nl/articles/2411/14/news035.jpg 160万円のレンズ購入→一瞬で元取れた! グラビアアイドル兼カメラマンの芸術的な写真に反響「高いレンズってすごいんだな……」「いい買い物」
  10. /nl/articles/2411/12/news194.jpg 「予約しました」 サッポロ一番の袋に見せかけた“笑っちゃいそうなグッズ”が話題 「サッポロ一番味噌ラーメン好きがバレちゃう」
先週の総合アクセスTOP10
  1. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  2. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  3. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  4. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  6. 「この動画お蔵かも」 親子デートの辻希美、“食事中のマナー”に集中砲火で猛省……16歳長女が説教「自分がやられたらどう思うか」
  7. 老けて見える25歳男性を評判の理容師がカットしたら…… 別人級の変身と若返りが3700万再生「ベストオブベストの変貌」「めちゃハンサム」【米】
  8. 「ガチでレア品」 祖父が所持するSuica、ペンギンの向きをよく見ると……? 懐かしくて貴重な1枚に「すげえええ」「鉄道好きなら超欲しい」と興奮の声
  9. 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  10. 「天才」 グレーとホワイトの毛糸をひたすら編んでいくと…… でっかいあのキャラクター完成に「すごい」「編み図をシェアして」【海外】
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた