松江の名物駅弁に「もぐり寿し」が生まれた理由とは 松江駅弁・一文字家に聞く
宍道湖のしじみに価値を見出した、松江・一文字家の駅弁が「大和しじみのもぐり寿し」。二度と繰り返さない「くにびき国体の過ち」とは……。









【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
「もぐり」という言葉は、しばしばネガティブな表現で使われます。法律違反や隠れた行為、学生のころ、どうしても聞きたい先生の授業を、「もぐり」で受けていた方もいることでしょう。この「もぐり」という言葉には中国地方の郷土料理「もぐり寿し」のような表現も存在します。松江の名物駅弁「もぐり寿し」は一体、どのようにして生まれたのか? そして、駅弁業者にとって最もつらかった出来事も、一文字家・景山社長に伺いました。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第30弾・一文字家編(第4回/全6回)
宍道湖畔を駆け抜けて行く山陰本線の特急「スーパーまつかぜ」。「まつかぜ」の愛称は、国鉄時代、京都・大阪〜博多間を山陰本線経由で結んでいた特急列車をイメージさせる由緒ある名前です。現在の「スーパーまつかぜ」は、平成15(2003)年、山陰本線・鳥取〜米子間の高速化工事完成に合わせ、それまでの「スーパーくにびき」を改称して誕生。“くにびき”は、出雲に伝わる「国引き神話」に由来する名前です。
山陰本線・伯耆大山〜知井宮(現・西出雲)間が電化開業したのが、昭和57(1982)年。特急「やくも」が新製の381系によって、気動車から電車に代わったのもこのときでした。この年、島根県では「くにびき国体」が開催されるのに合わせて、インフラの整備が一気に進んで、まちが新しくなったと話すのは、松江駅弁「一文字家」の景山直観代表社員。この「くにびき国体」には、残念な辛い出来事もあったと言います。
二度と繰り返さない! くにびき国体の過ち
―昭和57(1982)年の「くにびき国体」、一文字家には苦い思い出があるそうですね。
景山:私はまだ学生でしたが、大きな食中毒事件を出してしまいました。父は頭を丸めて、全国の被害に遭われた方のお宅を、一軒ずつ伺って謝罪しました。その後、地元の団体から再び大口のご注文をいただいた際も、「謹慎中なので」と丁重に断ろうとしたのですが、「あれだけ大きなことを起こしたのだから、いまがいちばん安全でしょう」とおっしゃって下さいました。父は男泣きに泣いたと言います。それから40年近く経ちますが、いまも地元の方に支えて貰っています。本当に感謝の言葉しかありません。
―辛いご経験もあって、いまの工場は、とても衛生に気を遣っていらっしゃいますね。
景山:平成17(2005)年、山陰地方で初めて、衛生基準が厳しいHACCP認定の工場を作りました。建物の約半分は炊飯設備で学校給食向けのご飯を炊いています。昭和50年代、それまでのパン給食から、週1回の米飯給食が始まりました。パン屋さんが炊飯設備を整備するのは厳しい状況だったため、父の代に大きな設備投資を行い、一文字家が、お受けすることにしました。
駅弁大会は、駅弁店の大黒柱!
―ただ、この規模の工場を、ずっと稼働させていくのは大変ですね。
景山:松江駅で売れる駅弁は、利用されるお客様の数を考えますと、コロナ前でどんなに頑張っても1日200〜300個です。でも、このときに大量に炊飯できる設備を整えたことが、のちにイベントなどさまざまな場面でケータリングにも対応できるきっかけになりました。
―きっと、冬の駅弁大会シーズンには、フル稼働ですね?
景山:駅弁大会のトップシーズンになりますと、たくさんのご注文をいただきます。作った駅弁は飛行機に載せて百貨店へ輸送しています。駅弁大会はウチの大黒柱です。最近はひところより注文数が減ってしまいました。これは大都市のターミナル駅に通年で全国の駅弁を販売する店ができたことが大きいと思います。非日常の駅弁大会が日常になってきてしまっているのが、いろいろと考えさせられるところです。
宍道湖のしじみに「価値」を見出した、一文字家の駅弁!
―私は駅弁大会で「大和しじみのもぐり寿し」を初めていただいたときの感激が忘れられません。
景山:松江といえば「宍道湖七珍」は有名でしたが、それまでしじみといえば、味噌汁の出汁になる程度で、みんな価値の低いものだと思っていました。当然「しじみ寿司」を考えた人もいませんでした。でも、一文字家が父の代のとき、しじみを甘辛く炊いて酢飯と合わせて駅弁としました。ネーミングもこだわって、砂のなかに潜っているしじみをイメージして、「もぐり寿し」と名付けたのです。駅弁大会でも売れて、ヒット駅弁になりました。
長年愛された「大和しじみのもぐり寿し」は、2000年代に入ってヤマトシジミの漁獲減少、および価格高騰に伴って販売を終了しました。現在は「蟹としじみのもぐり寿し」(1330円)がその系譜を受け継いでいます。掛け紙の「もぐり寿し」のロゴも「大和しじみ……」と同じ。ちなみに一文字家の駅弁の掛け紙には、駅弁に使われている食材のこだわりが記されています。この薀蓄を読んでからいただくと、一層、駅弁が美味しく感じられますね。
【おしながき】
- 酢飯(島根県飯南町産コシヒカリ)
- ベニズワイガニの酢漬け
- しじみのしぐれ煮
- かにしんじょう
- 汐吹き椎茸
- とんばら漬け
境港で水揚げされ、新鮮なうちに加工されたベニズワイガニをメインに松江の郷土料理・しじみのしぐれ煮をしっかり載せた「蟹としじみのもぐり寿し」。“もぐり寿し”の名前の通り、酢飯のなかに隠れているしじみを見つけられたときが、この駅弁の最も楽しい瞬間です。おかずのフワッとしたかに真丈、いい塩っ気の椎茸、そして、奥出雲に由来するとんばら漬けでアクセントをつけながらいただいていくと、あっという間に完食してしまうことでしょう。
水の都・松江のシンボル、宍道湖。松江駅からは、路線バスで約5分とアクセスも良好。とくに国道9号沿いは、夕日スポットとして多くの人が訪れます。ちなみに「宍道湖七珍」とは、シラウオ、アマサギ、スズキ、コイ、エビ、シジミ、ウナギの7品です。なかでもシラウオ、アマサギ、スズキは冬がシーズン。一文字家の駅弁には、いろいろなところに“七珍”のおかずが隠れています。次回は一文字家のこだわりの米と屋号の由来について伺います。
(初出:2021年11月18日)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/
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