日本と大陸を結んだ「敦賀」、駅弁が生まれたきっかけとは?:敦賀「角鹿弁当(幕の内弁当)」(930円)
敦賀は明治の早い時期、日本海側で初めて鉄道が開通した街。明治時代から多くの人が行き交った敦賀の駅弁はどのように発展していったのでしょうか。
【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
北陸新幹線の工事真っ只中の福井県・敦賀。2年後には東京から金沢経由で新幹線がやって来ます。敦賀は明治の早い時期、日本海側で初めて鉄道が開通したまち。しかも、東京〜敦賀間では、明治の終わりから戦前の間「欧亜国際連絡列車」が運行されました。日本から大陸への最短ルートを担い、多くの人が行き交った敦賀。敦賀の構内営業は、どのようにして生まれ、発展していったのか、その歴史を紐解きます。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第32弾・塩荘編(第2回/全6回)
名古屋・米原〜金沢間を結ぶ特急「しらさぎ」号。名古屋を出ると尾張一宮、岐阜、大垣、米原と停まって東海道新幹線「ひかり」と接続。北陸本線に入り長浜、敦賀、武生、鯖江、福井、芦原温泉、加賀温泉、小松に停車し、終着・金沢までは約3時間の旅となります。木ノ本を通過して、左にカーブして余呉湖が見えてくると、いよいよ、この列車も北陸路へ。いま、米原〜敦賀間は約30分で結ばれています。
いまでは米原〜金沢(2015年までは直江津)間が「北陸本線」とされていますが、長浜〜金ケ崎(敦賀港)間は、明治17(1884)年、東海道線の支線として開業した区間です。なかでも、木ノ本〜敦賀間は、昭和32(1957)年に現在のルートになるまで急勾配が続く柳ヶ瀬経由で運行されて、当初、金ケ崎〜長浜間は、じつに2時間36分を要しました。旧線跡はいま、県道などに転用されていて、一部は自動車などで通ることも可能です。
新橋〜横浜間に日本初の鉄道が開業してから12年。東海道本線の全線開通より早く、急ピッチで工事が進められた長浜〜敦賀間の鉄道。その敦賀駅で明治時代から駅弁を手掛けてきたのが、「株式会社塩荘(しおそう)」です。「駅弁屋さんの厨房ですよ!」の第32弾、社長さんインタビュー編は、平成9(1997)年から約四半世紀、塩荘の舵取りを担っている、刀根荘兵衛代表取締役にお話を伺いました。
5代目「荘兵衛」の襲名とは?
―「刀根荘兵衛」という名前は、「襲名」されたんですよね?
刀根:「荘兵衛」は江戸時代から代々名乗って来た名前です。明治以降は刀根荘兵衛と名乗るようになり、私が5代目です。もともとは刀根勤と言いました。先代の4代目は、「元祖鯛鮨」を考案した私の祖父です。父は襲名前に50歳で亡くなってしまいました。平成9(1997)年、私が代表取締役に就任するのに合わせて、「荘兵衛」の名を襲名することになりました。
―改名って、どんなことをするんですか?
刀根:私も40代になっていましたし、平成の時代に入って「○兵衛」と名乗るのは正直、気が引けるところもありました。ただ、私も3兄弟のいちばん上で、駅弁店を継ぐ気持ちでやってきましたし、母をはじめ、刀根家の総意もあって「荘兵衛」と改名することになりました。改名は、家業で代々受け継がれてきた名前であることを書類に書いて「家庭裁判所」に申立てを行い、認められました。これを受け、市役所に届け出をしました。
塩屋の「荘兵衛」が、「塩荘」の由来
―刀根家のルーツは?
刀根:もともと、いまの敦賀市内で、江戸時代の後半には、塩の商売をやっていたようです。敦賀は昔、塩田があって京へ塩を送っていました。明治時代に料亭旅館を始めるときに、通称の「塩屋の荘兵衛」から、「塩荘(しおしょう)」と屋号を付けたと聞いています。ただ、皆さん「塩荘」という文字を見て「しおそう」と読まれる方が多いんです。このため、読みやすさの観点から、いまでは「塩荘(しおそう)」が正式な屋号となっています。
―敦賀は明治時代の早い段階に開業した駅ですが、「塩荘」が構内営業に参入されたのは、明治36(1903)年ですよね?
刀根:鉄道開業当初は利用者がほとんどいませんでした。初代の駅弁業者はすぐに店をたたんで、敦賀は駅弁のない状況が長く続いていました。ところが、20世紀に入ってから、敦賀〜ウラジオストク(ロシア)間に定期航路が開設され、日本の大陸進出も相まって、敦賀を経由して、海外と行き来する人が増えていきました。一方で鉄道も、福井から金沢、直江津と延伸されて、「北陸本線」ができていったのです。
大陸との結び付きが強まり、「北陸本線」の開通で、駅弁が「成立」するようになった敦賀駅
―敦賀は「世界への玄関」であり、水陸の交通の結節点となっていったわけですね?
刀根:国も駅弁の空白を解消するため、敦賀町(当時)の町議会議員を務めていて、料亭を経営していた初代・刀根荘兵衛に新たに敦賀駅の構内営業者となるように求めました。最初は儲かる商売ではなかったとは思われますが、国からの依頼ですので、副業として敦賀駅の駅弁を始めました。その後、明治時代の終わりには、「欧亜国際連絡列車」が運行されるなど、お客さまもさらに増えたことで、料亭をたたみ、駅弁専業となったんです。
―最初の敦賀駅は、いまの気比神宮の辺りにあったそうですね?
刀根:当時は金ケ崎(後の敦賀港)までの路線で、手前の気比神宮の辺りに敦賀駅がありました。福井方面への延伸ではスイッチバックする形で線路が敷かれたので、敦賀で蒸気機関車の付け替えのため、30分くらいの停車時間があって、よく駅弁が売れたようです。明治の終わりにスイッチバック解消のため短絡線が設けられ、いまの場所に移転しました。当時の記録は戦災で残っていませんが、幕の内弁当などを販売していたと思われます。
【おしながき】
- 白飯(福井県産コシヒカリ) ごま
- 鯖の塩焼き
- かまぼこ
- 玉子焼き
- 白身魚フライ
- しゅうまい
- 鶏肉煮
- 海老煮
- 高野豆腐
- いも茎の佃煮
- あさりと山芹の煮物
- 三色煮豆
- しば漬け
「角鹿(つぬが)弁当」(930円)は、現在販売されている敦賀駅弁・塩荘の幕の内弁当。敦賀という地名の由来の1つと考えられる「角鹿(つぬが)」のエピソードと、気比神宮の鳥居が描かれた水色の紙蓋を開けると、福井県産コシヒカリの俵型ご飯とさばの塩焼き、かまぼこ、玉子焼きと、三種の神器をしっかり押さえた幕の内が現れます。さば・蒲鉾は、ともに地元の名産。出汁巻き玉子も昔は手作りで、出汁が多すぎず、少なすぎないよう作るのが“職人技”だったそう。いまも、そのスピリットを受け継いだ味わいが広がります。
敦賀から米原まで、敦賀から福井まで、現在の特急「しらさぎ」は約30分で結んでいます。しかし、いまの北陸本線のルートに落ち着くまでには、敦賀駅周辺の険しい地形を乗り越えるべく、さまざまな苦難の道があって、敦賀駅の構内営業もそれとともに発展してきました。次回は、敦賀の名物駅弁「鯛鮨」が生まれた背景と昭和のころの駅弁販売事情について、刀根社長にお話を伺っていきます。
(初出:2022年1月26日)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/
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