北陸新幹線開業から7年! “かがやき”増す、金沢の名物駅弁とは? 金沢駅弁・大友楼:金沢「利家御膳」(1300円)
長野〜金沢間開業7周年の北陸新幹線。開業フィーバーは一息つきましたが街の魅力は変わりませんね。今回は、明治の金沢駅開業時から営業を続ける金沢駅弁の魅力をお届けします。












【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
2022年3月で北陸新幹線(長野〜金沢間)は開業7年周年。開業フィーバーもひと息ついた金沢ですが、街の魅力は変わりません。人出が落ち着いた分だけ、金沢本来の“かがやき”を増しているようにも感じられます。今回は、明治時代の金沢駅開業時から駅弁を手掛けている駅弁屋さんを訪問。駅弁の製造秘話や歴史をたっぷり、6回シリーズでお届けします。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第33弾・大友楼編(第1回/全6回)
金沢駅を発車した上りの北陸新幹線「かがやき」が、東京を目指して加速して行きます。「かがやき」は途中、上野・大宮・長野・富山のみに停車(一部は上野通過)。いまでは東京〜金沢間が最速2時間27分で結ばれています。それまで、上越新幹線・越後湯沢乗り換えの特急「はくたか」で約3時間45分かかっていたのに比べ、乗り換えもなくなり、大幅な時間短縮となりました。首都圏と北陸の心理的な距離も、とても近くなりました。
北陸新幹線の金沢駅は、無機質な新幹線駅も多いなか、とても趣が感じられる駅です。新幹線ホームには金箔がふんだんに使われ、駅の随所には石川県が誇る伝統工芸が紹介されています。そして、下り立った人を出迎えるのが、新しいシンボル「鼓門(つづみもん)」。金沢の伝統芸能・能楽で使われる鼓をイメージしていて、高さは13.7mあると言います。天候に恵まれると、鼓門をバックに記念撮影をする観光客の姿も多く見られます。
鼓門のある東口とは反対の西口近くに社屋を構えるのが、明治31(1898)の金沢駅開業から駅弁を手掛ける「株式会社大友楼」です。大友楼は、加賀藩の御膳方を務めていた大友家が天保年間に創業した料亭。駅近くにあるこちらの建物は、駅弁などを製造する「弁当部」となります。駅弁膝栗毛のシリーズ「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第33弾は、金沢駅弁「株式会社大友楼」に注目してまいります。
「大友楼」の名物駅弁といえば、何といっても「利家御膳」(1300円)。平成14(2002)年の大河ドラマ「利家とまつ」の放映を記念し、姉妹品の「おまつ御膳」とともに生まれた駅弁で、2022年で発売20周年です。前田利家公をはじめ、歴代藩主が城内の宴席で食されていた献立を基本に作られていて、籠をイメージしたパッケージが目を引きます。今回は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、調理場の撮影は大友楼の方にお願いしました。
「利家御膳」が素晴らしいのは、何といっても加賀料理を代表する「治部煮」が、彩りよく盛り付けられているところ。上にちょこんと載ったわさびが、甘めの味にいいアクセントで、この配分で悩むのが本当に楽しいひとときです。大友楼によると“利家御膳”と名乗る以上、金沢を代表する料理・治部煮を入れたら面白いのではというところから始まったとのこと。本来は鴨肉ですが、お求めしやすいよう、鶏肉で本格的な治部煮を実現したそうです。
駅弁の治部煮も、手作業で丁寧に作られています。大友楼によると、「治部煮」の由来は諸説あるものの、“ジブジブ煮る”ところから“治部煮”となったのが有力で、普段は“治部”と呼ぶそう。加賀藩には、「料理ちから草」というレシピ本があり、これに作り方などが記載されていたところから、一般庶民にも、武家の料理が広まっていくことになったと言います。ちなみに、金沢の古いお宅には“治部専用”のお椀がある家もあるそうです。
「利家御膳」は二段重ねの駅弁です。治部煮をはじめとしたおかずが盛り付けられる折と、ひょうたん形の白飯と梅形の五目御飯が楽しめる折が2つ重ねられていきます。
大友楼によると、話題性の高い大河ドラマの放映に合わせて、金沢を訪れてくれた方に、何かおもてなしができないかというところから始まり、社内でいろいろ議論を重ねて、二段重ねの籠をイメージした容器になったと言います。
【おしながき】
<一の重>
- 白飯 梅干し
- 五目御飯(ごぼう・たけのこ・こんにゃく・人参・鶏肉・油揚げ)
- 大福
<二の重>
- 治部煮(ほうれん草・鶏肉・すだれ麩・椎茸・麩・わさび)
- 玉子巻き
- 蓮根のはさみ揚げ(鶏肉入り)
- 焼き鮭
- 揚げボール(魚肉)
- 笹かまぼこ
- 昆布巻き
- 中華いか山菜(いか・せり・きくらげ)
籠型の容器が目を引く「利家御膳」ですが、じつは焼き鮭・笹かまぼこ・玉子焼きという、幕の内弁当の“三種の神器”が入った基本に忠実な駅弁です。彩りも美しく、ふたを開け、じっくり愛でてからいただくと、金沢のまちが醸しだす雅な雰囲気に包まれる感じがします。しかも、加賀藩の御膳方にルーツを持つ、料亭の大友楼が手掛けていることを思えば、1300円で百万石の“お殿様気分”が満喫できる、何とも贅沢でありがたい駅弁です。
東京を早朝の「かがやき」に乗れば、午前中から金沢のまち歩きが楽しめるようになり、首都圏在住者には、実にありがたい北陸新幹線。全車指定の「かがやき」は、停車駅も少なく、車内があまりワサワサしないのも、快適な移動につながっていると感じます。そんな金沢で駅弁を作り続けて120年あまりの「大友楼」。次回は、香林坊近くの料亭に伺ってその歴史をたっぷり掘り下げてまいります。
(初出:2022年3月14日)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/
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