ガイダ、カヴァル、ドゥヴォヤンカ 同人誌『バルカン物産収集記』を読んで異国の楽器に思いをはせる元司書みさきの同人誌レビューノート

どこの国の楽器か分かりますか?

» 2023年02月26日 12時00分 公開
[みさきねとらぼ]
同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 春の季語に駒鳥笛(こまぶえ)という言葉があるそうです。こまどりの鳴き声をまねた笛とのことですが、軽やかな笛の音と春のあたたかさは確かにつながるような気がします。さて、異国ではどんな音がその土地に流れているのでしょうか。今回はブルガリアの楽器を紹介する同人誌です。

今回紹介する同人誌

『バルカン物産収集記 民族楽器編』A4 24ページ 表紙カラー・本文モノクロ

著者:xpucmo(フリスト)


同人誌『バルカン物産収集記 民族楽器編』 見慣れない不思議なこれも、それも楽器!

ナナメに吹く笛も? ブルガリアの楽器3種を紹介

 こちらのご本では、ブルガリアの楽器であるガイダ、カヴァル、ドゥヴォヤンカの3種類が紹介されています。それぞれの構造、音階、調律、演奏方法などを文章と写真で解説し、要所要所に図やイラストも添えられています。名前を聞いても全く想像できなかった楽器ですが、読んでいくうちに「ガイダはバグパイプに似ているんだ」「カヴァルって斜めに構えて吹くの!?」「ハナミズキやスモモの木で作る笛もあるんだ」と少しずつ、見知らぬ異国の楽器の姿が見えてきました。

同人誌『バルカン物産収集記 民族楽器編』 3種それぞれが解説されます

実物を手にし、資料をひもといて書く

 作者さんは音楽の専門家ではないものの、日本語でブルガリアの民族楽器を紹介している書籍が見当たらないことから、ご自身で買い集めた楽器の実物やブルガリアの文献を中心に、国内の演奏者さんから聞いた話も盛り込んでまとめられたそうです。

 本文でさりげなく言及される、現地とは違う日本での乾燥・湿気対策は、きっと楽器の実物を手にしているからこそ伝えたいことでしょう。一方で、斜めに吹く笛カヴァルが「蜂蜜のような」と描写される音色であることや、ガイダの材料にシカやヤギの角が使われることもあると書かれれば、まだ聞いたことのない音を頭の中であれこれ想像し、その土地にいる動物たちの姿も思い浮かびます。実物を生かしたリアルな部分と、実用だけでないエピソードや成り立ちの話の部分が合わさり、その土地への興味が広がっていくような気持で読み進めました。

同人誌『バルカン物産収集記 民族楽器編』 写真は作者さんの収集したコレクションから

収集した楽器にスポットを当てて、紙の本で残すこと

 実はご本を作られた理由の一つには「せっかく収集した楽器たちにもう一度スポットライトを当てたかった」というお気持ちがあったそうです。自分だけで心ゆくまで愛でるのもコレクションの楽しみですが、その魅力をもっとたくさんの人に知ってもらいたい! と活動的になるのも、とっても面白い方法ですね。

 そのために紙の本という手段を選んで、構成を決め、資料を読み、原稿を書いて入稿して、と四方八方からさまざまに手を尽くして光を当てておられる姿……それは大切なコレクションを輝かせる照明職人さんのようです。未知のものを普及しながら、ご自身の大切なものをきらりと輝かせるご本です。

同人誌『バルカン物産収集記 民族楽器編』 斜めに吹くってこんな感じですか! かわいいイラストが入って想像しやすいです

サークル情報

サークル名:アインコーンの杜

Twitter:@einkornltd

ブログ:https://skuchendnevnik.blog.fc2.com/blog-entry-514.html


今週の余談

 今どきはどんな音かな? と思ったら、音声や動画を聞くサービスで手掛かりを探すこともできるようになりました。でもなんにも知らないと最初の一歩の踏み出しようもなかったり……。今回はご本のおかげでブルガリアのすてきな音楽を聞くことができましたよ。

みさき紹介文

 公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

関連キーワード

同人誌 | 図書館 | コミケ


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/21/news027.jpg 大きくなったらかっこいいシェパードになると思っていたら…… 予想を上回るビフォーアフターに大反響!→さらに1年半後の今は? 飼い主に聞いた
  2. /nl/articles/2411/20/news049.jpg 高校生の時に出会った2人→つらい闘病生活を経て、10年後…… 山あり谷ありを乗り越えた“現在の姿”が話題
  3. /nl/articles/2411/20/news222.jpg ディズニーシーのお菓子が「異様に美味しい」→実は……“驚愕の事実”に9.6万いいね 「納得した」「これはガチ」
  4. /nl/articles/2411/20/news027.jpg 「こんなことが出来るのか」ハードオフの中古電子辞書Linux化 → “阿部寛のホームページ”にアクセス その表示速度は……「電子辞書にLinuxはロマンある」
  5. /nl/articles/2411/20/news054.jpg 「防音室を買ったVTuberの末路」 本格的な防音室を導入したら居住空間がとんでもないことになった新人VTuberにその後を聞いた
  6. /nl/articles/2411/20/news050.jpg プロが教える「PCをオフにする時はシャットダウンとスリープ、どっちがいいの?」 理想の選択肢は意外にも…… 「有益な情報ありがとう」「感動しました
  7. /nl/articles/2411/21/news083.jpg 間寛平、33年間乗り続ける“希少な国産愛車”を披露 大の車好きで「スカイラインGT-R R34」も所有
  8. /nl/articles/2411/21/news085.jpg 「もしかしてネタバレ?」 “timeleszオーディション”候補者がテレビ局を退社 ディズニーの“船長”としても話題
  9. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
  10. /nl/articles/2411/21/news018.jpg グルーミングが出来ない生まれたての子猫、とんでもない体勢になり…… 想像以上のへたくそっぷりに「どこにも届いてないww」「反則級」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた