第17回:これ以上ないプレイヤーへのご褒美!? 極上の快感を与えてくれるエクステンドの演出:なぜ、人はゲームにハマルのか?(3/3 ページ)
心地よいリズムと緊張感を生み出す「エブリ設定」の魔法
昔は特定のスコアに到達するとエクステンドになる作品が多かったことは冒頭でも紹介したとおりですが、やがて時代が進むにつれて一定のスコアを稼ぐたびに何回でもエクステンドするゲームが増えていきました。このような、決まった間隔のスコアごとにエクステンドが繰り返し発生するシステムは「エブリ設定」などと呼ばれています。
「エブリ設定」を採用した有名タイトルをいくつか挙げますと、ナムコが1981年に発売した「ギャラガ」では最初にエクステンドが発生するのが2万点で2回目は7万点、それ以降は14万点、21万点、28万点……と7万点おき(7万点エブリ)に自機が増えるように設定されています。同じく、1983年に発売した「ゼビウス」では最初が2万点、2回目は6万点でそれ以後6万点エブリです。他のメーカーのゲームでも同じようなパターンは非常に多く見られ、カプコン作品では1984年に発売したアクションゲームの「魔界村」でも7万点以降は7万点エブリ、シューティングゲームの「1942」は10万点を超えてからは10万点エブリで主人公および自機が増えるようになっています。
また、先ほどもご紹介した「パックマン」や「ギャラガ」「魔界村」などの作品では、クレジット投入直後に何点でエクステンドが発生するかをゲーム開始前にあらかじめ表示するようにもなっていました。明朗会計(?)を実現する、地味ながらも素晴らしいアイデアだと筆者は思いますが、はたしてみなさんはどうお考えになりますか?
※PS版「ナムコミュージアムVOL.2」を使用
(C)1995 NAMCO LTD., ALL RIGHTS RESERVED.
※「魔界村」:PS2版「カプコン クラシックス コレクション」を使用
(C)CAOCOM CO., LTD. 2005,2006,
(C)CAPCOM U.S.A., INC. 2005,2006 ALL RIGHTS RESERVED.
「エブリ設定」のシステムを取り入れたことによって、プレイヤーは単純にプレイ時間が延ばせるだけでなく、遊んでいる最中にプレイするうえでの目標を自然と見出せる効果をもたらすメリットも生み出しました。つまり、スコアがゲームの実力を示すバロメーターであると同時に、あと何点稼いだらエクステンドになるかを考えながらプレイすることで、「このステージは簡単だから、敵を倒しまくって点を稼ごう!」とか、「このボスは強いから、スコアよりもまず倒すことと自分が死なないことを優先して戦おう!」などというように、いつの間にか頭の中でプレイ戦略を立てるようになり、ゲームにどんどん夢中になってしまうというワケです。
また、以前の当コラムでも紹介したボーナスゲームやチャレンジングステージなどのイベントを盛り込むことで、プレイヤーに対してエクステンド到達の大きなチャンスあるいはモチベーションを与えることにもつながります。さらに、「エブリ設定」と同じように一定間隔でボーナスゲームを登場させることによって、ゲームの中で大まかに以下のような一定のリズムあるいはサイクルが作り出されるのです。
通常ステージをプレイ → クリア時にスコアを確認する(あと何点取ればエクステンドなのかを確認) → 次のステージの戦略を考える → 途中でピンチなったらボーナスゲームまで粘ろうと考える(緊張感の発生) → 無事ボーナスゲームへ進んだらひと安心(達成感) → ボーナスステージに挑戦(モチベーションアップ) → エクステンド達成でさらに快感が増幅(※失敗時は悔しさ増幅〜再挑戦へと気持ちを切り替える) → <以後、先頭に戻ってこの繰り返し>
このように、プレイ中はずっと法則性に基づいた繰り返しのリズムが生まれ、ゲームがテンポよく遊べるようになるのです。ただし、最初のエクステンドに到達するまでのスコアを稼げるだけの腕を持ったプレイヤーでないと、このようなテンポの存在に気付けないというデメリットはあるのですが……。
よって上手なプレイヤーは、たくさん得点を稼いでエクステンドを繰り返し利用できる、すなわち自機のストックを必然的に多く集められるようになります。またも余談になりますが、「ゼビウス」やKONAMIのシューティングゲームの「グラディウス」シリーズなどでは、エクステンドを繰り返すとストック数を示すマークを画面の端から端までズラリと埋めることが可能です。筆者は少年時代に、自機ストックが何十機も並ぶ画面を初めて見たときにはびっくりしたのと同時に「こんなにゲームがうまい人が世の中にいたなんて!」と、たいへん感動しました。そして「俺もあの兄ちゃんみたいにうまくなりたい!」と(生意気にも)さらなる挑戦意欲を喚起してくれたものでした……。
ちなみに、KONAMIが1988年に発売した「グラディウスII」では、初期バージョンの基板は7万点エブリだったのが新バージョンでは15万点エブリへと大幅に設定が変更されました。これは、ある地点で得点をうまく稼ぐと短時間で軽く7万点以上のスコアが稼げるため、この方法を覚えたプレイヤーは永久に遊べてお店側が商売にならなくなってしまうので、その対策として得点間隔を広げたというワケですね。
さらに時代が進むと、1993年にセイブ開発が発売した「雷電II」、およびタイトーが1995年に発売した「ダライアス外伝」の両シューティングゲームのように、「エブリ設定」はおろかスコアによるエクステンド方式すら採用しなくなってた作品も登場するようになりました。その代わりに、特定の場所である条件を満たすと隠しアイテムの1UPが登場するようになっています。ただし、「雷電II」はアイテムの出現条件が非常に難解で出すためには高度なテクニックが必要で、「ダライアス外伝」は毎回同じ場所を数発撃てば出現するので比較的探しやすいものの、7面クリア後に必ずゲームオーバーになるルールのため、どんなに上手なプレイヤーでも遊べる時間には必然的に上限が設けられるようにしてあります。
「エブリ設定」によってテンポよくゲームが遊べるようになった反面、やがてアーケードゲームでは上手なプレイヤーが増えるにつれて、特にシューティングゲームではお店によってインカム(売上)が下がって儲からないという深刻な問題が生じるようになりました。このため、初期設定では「エブリ設定」になっているゲームであっても店側の判断で基盤の設定を変更し、エクステンドに到達するまでのスコアの間隔を広げたり、あるいは「エブリ設定」そのものを発生させないようにして運営するケースも少なくありませんでした。
こうしてエクステンドの出現条件に関する仕組みや変遷を調べてみると、そこには日々ゲームの腕を上げることに精進するプレイヤーたちと、客の気分の損ねないようゲームの中身を工夫しつつ長時間遊ばせまいとするメーカー、あるいはオペレーター(ゲームセンター)の言わばせめぎ合い、しのぎ合いの歴史があったことも見えてくるのです。
※PS2用ソフト「タイトーメモリーズ上巻」を使用
(C)TAITO CORP. 1978-2005
と、いうことでエクステンドに関するお話はいかがでしたでしょうか? 単にプレイ時間が増えるだけにとどまらず、さまざまな特徴やゲームを夢中にさせる効果があることもお分かりいただけたのではないかと思います。
本稿を執筆していてふと思ったのですが、現在流行のソーシャルゲームでは相手プレイヤーと対戦する形式のゲームにおいて、「あと2回勝てば体力完全回復!」とか「あと3回成功すればレベルアップ!」などといったルールがあるものをたびたび見かけますが、これもある意味エクステンドの親戚のようなシステムなのかもしれませんね……。
またまた余談になりますが、昔は多くのビデオゲームでは初期状態、すなわち電源投入直後に表示されるハイスコアは、多くの作品において最初のエクステンドが発生するスコアと同じ数字に設定してありました。つまり、プレイヤーが目標を立ててプレイするための暫定的な指標を示し、同時にエクステンドの存在を気づかせるようにしたいというワケですね。みなさんももし機会がありましたら、各タイトルごとに最初のハイスコアが何点に設定されているのかをぜひチェックしてみてください。もしかしたら、そのスコアにはエクステンド意外にも思わぬヒミツが隠されているかも!?
それでは、今回のお話はここまで。また次回お会いしましょう!
今回登場したソフトはココで遊べます!
- 「スペースインベーダー」:Wiiバーチャルコンソール、PS2用ソフト「タイトーメモリーズ下巻」
- 「パックマン」:Wiiバーチャルコンソール、PS3用ソフト「ナムコミュージアム.comm」、PSP用ソフト「ナムコミュージアム」、PS用ソフト「ナムコミュージアムVOL.1」
- 「ギャラクシアン」:Wiiバーチャルコンソール、PS用ソフト「ナムコミュージアムVOL.3」
- 「ポールポジションII」:PS用ソフト「ナムコミュージアムVOL.3」
- 「Mr.Do!」:Wiiバーチャルコンソール
- 「バブルボブル」:PS2用ソフト「タイトーメモリーズ上巻」
- 「キューティQ」:PS用ソフト「ナムコミュージアムVOL.2」、
- 「ギャプラス」:Wiiバーチャルコンソール、PS用ソフト「ナムコミュージアムVOL.3」
- 「ドラゴンスピリット」:Wiiバーチャルコンソール、PS3用ソフト「ナムコミュージアム.comm」、PS用ソフト「ナムコミュージアムVOL.5」
- 「ゼビウス」:Wiiバーチャルコンソール、PS用ソフト「ナムコミュージアムVOL.2」、PS3用ソフト「ナムコミュージアム.comm」
- 「ギャラガ」:Wiiバーチャルコンソール、PS3用ソフト「ナムコミュージアム.comm」、PSP用ソフト「ナムコミュージアム」、PS用ソフト「ナムコミュージアムVOL.1」
- 「魔界村」:Wiiバーチャルコンソール、「カプコン クラシックス コレクション」
- 「ダライアス外伝」:PS2用ソフト「タイトーメモリーズ上巻」
著者プロフィール
鴫原 盛之 Morihiro Shigihara
1993年よりゲーム雑誌および攻略本などでライター活動を開始。その後、某メーカーでのグッズ・店舗開発や携帯コンテンツの営業、ゲームセンター店長などの職を経て、2004年よりフリーに。現在は各種雑誌やwebサイトでの執筆をはじめ、某アーケードゲームの開発なども手掛ける。著書は「ファミダス ファミコン裏技編」(マイクロマガジン社)、「ゲーム職人第1集 だから日本のゲームは面白い」(同)の他、共著によるゲーム攻略本・関連書籍を多数執筆。近刊は共著「デジタルゲームの教科書 知っておくべきゲーム業界最新トレンド」(ソフトバンククリエイティブ)がある。
Twitterは「@m_shigihara」です。
著者近況
2月17〜18日にかけて幕張メッセにて開催された、最新アーケードゲームの展示イベントであるアミューズメントエキスポ(AOUショー)に行ってきました。ライターデビュー当時の1993年に初めて訪れたときに比べ、ビデオゲームの出展タイトル数が激減していたのを目の当たりにして時代の変化を痛感せずにはいられませんでした……。
そんなこともあり、今後も当コラムでは多くの人の記憶から消えかけていたり、すでに絶滅しかかっている古い時代のゲームならではの面白い仕組みをどんどん取り上げ、昔の事情を知らないみなさんにもどんどんご紹介していきたいと思います。よろしくどうぞ!
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