他界した猫が生き返って歌い踊る “天国帰りの猫”の音楽家「むぎ(猫)」は、異色なのに優しい(2/2 ページ)

» 2017年08月11日 19時30分 公開
[黒木 貴啓ねとらぼ]
前のページへ 1|2       

むぎ(猫)はどうやって生き返ったのか

むぎ(猫) ライブ 猫 音楽 インタビュー

―― 猫へのインタビューは人生初です、よろしくお願いします。

 よろしくお願いします!

―― フジロックに出演した初の猫となりましたが、どうでした?

 むぎは自然大好きなんで、あれほど開放的な場所で歌を披露できたのがうれしかったです! 音楽をやっている者なら、猫にだってあこがれの場所でしたし。いろんな思いがあのステージに詰み込めました。

むぎ(猫) ライブ 猫 音楽 インタビュー フジロック時のむぎ(猫)

 お客さんも「この猫何を歌うんだろう」「何を伝えようとしているんだろう」と真剣に聞いてくれて、曲が終わるとわーっと拍手してくれて。ちゃんとむぎの言っていることが伝わったんだなって、幸せな気持ちになりました。

―― SNSでの反響、すごかったですね。

 見てました! むぎ、エゴサーチ大好きなんです。

むぎ(猫) ライブ 猫 音楽 インタビュー むぎ(猫)のTwitter(@mugithecat

―― 猫なのに。生き返る代償として天国に肉球を置いてきた、というエピソードが紹介PVにあったんですが、肉球無いと不便じゃないですか?

 むしろバチがつかみやすくて、音楽するのに便利です! お箸なり、電気が通じるものでクリックするなりで、なんとかSNSも使いこなしています。

むぎ(猫) ライブ 猫 音楽 インタビュー ライブもスマホを操作する場面があった

―― けっこう、ライブ中にぜえぜえ言ってますよね。

 い、言いますね……。

―― あと、暑そうです。

 暑いですね……。ほら……やっぱり、むぎは全力投球だから! 飼い主のゆうさくちゃんも生命を削りながらむぎを復活させてくれたから、ぼくも新しくもらった生命を全力で伝えたいし、ステージで輝きたいんですよ!

むぎ(猫) ライブ 猫 音楽 インタビュー ストローで給水するむぎ

―― そりゃ息も切れるわけですね。あらためて、むぎちゃんが天国に戻ってくるまでを教えてください。

 飼い主のゆうさくちゃんは音大に行くため東京に出てきたんですが、ホームシックになってしまったんです。そこで里親募集中の張り紙を見て、むぎを引き取ってくれました。その後埼玉へ引っ越して、ゆうさくちゃんの実家の沖縄に移り住んで、計12年も一緒にいたんですが、一回天国へ行っちゃって。

 それから5年くらい天国暮らしをしていたんですが、その間ゆうさくちゃんは毎日むぎがいなくて寂しかったみたいで。そこでオオカミ犬の音楽家、ジョン(犬)さんの沖縄ライブを見に行ったんです。

―― 犬の音楽家……!?

むぎ(猫) ライブ 猫 音楽 インタビュー ジョン(犬)さん(@jonthedog242

 犬の着ぐるみで足踏みオルガンを弾く方なんですが、ジョン(犬)さんとお話したとき、むぎを復活させるヒントをもらって。ゆうさくちゃんも「むぎを復活させられる!」と新しい体を作ったところ、ぼくも再びこの世に舞い戻ることになりました。

【訂正】2017年8月12日11時18分 記事初出時、「ジョン(犬)さんは失ったペットを生き返らせた存在だった」と表記していましたがこちらは誤りであったため、訂正しました。

むぎ(猫) ライブ 猫 音楽 インタビューむぎ(猫) ライブ 猫 音楽 インタビュー むぎの紹介PVに登場する、ゆうさくちゃんが新しい体の作り方をジョン(犬)さんから教えてもらう様子

―― そこからすぐに音楽を?

 いえ、最初は沖縄の繁華街を散歩しているだけでした。特にしゃべりったりもせず、写真撮ろうって声をかけてくれる人には応える。お絵かきボードで文字を書いたり消したりして会話はしてました。

―― 読み書きは、できたんだ。

 Twitterも立ち上げると、天国から復活した猫と、復活させた飼い主、2人の関係性含めてむぎを好きになってくれる人がどんどん増えてきて。ある日、猫のイベントに出演を頼まれたので、人前に出るならちゃんと出し物もしなきゃと、音楽ライブをすることにしたんです。

―― えらい。

 話せる練習もして、ゆうさくちゃんも鍵盤打楽器を専攻していたから木琴を教えてもらって。肉球の無い手でできる楽器が、本当にたまたま打楽器しかなかったんですよね。ピアノを弾こうとしても、指が太いから3つくらい一緒に押しちゃうし。ギターは毛が邪魔で弦がうまく押さえられないし。

むぎ(猫) ライブ 猫 音楽 インタビュー 結果、パーカッション主体のむぎ

―― 猫って大変だ……。

 作詞作曲も含め音楽をいっぱい教えてもらって、まず「天国帰り」って曲を作りました。それから人間のみなさんに楽しんでもらおうと曲も増やして、沖縄を中心にライブ活動しています。年間30本くらい、月に1本はやっているかな?

 県外からのオファーも増えていて、毎年東京には来ていますし、昨年は長野・松本のフェス「りんご音楽祭」にも出られました。アルバム「天国かもしれない」もリリースしたので、もっとむぎのことを知ってほしいです!

むぎ(猫) ライブ 猫 音楽 インタビューむぎ(猫) ライブ 猫 音楽 インタビューむぎ(猫) ライブ 猫 音楽 インタビュー グッズもいろいろあった。うちわと自由帳がかわいい……

―― 楽曲のジャンルが猫と思えないほど幅広いですよね。影響を受けたアーティストっています?

 曲ごとにあったりはしますけど、そのときいいなと思った音楽を一度吸収して、いいとこ取りして表に出しますね。むぎも音楽大好きだから、人間のミュージシャンさんと変わらず同じようなことをやっています(猫の手でろくろ回すポーズ)。

―― 下北沢のライブでもビョークのダンスを踊っていましたね。

むぎ(猫) ライブ 猫 音楽 インタビュー ビョークの動き

 昨日フジロックで見たビョークさんがかわいすぎて! 声も素晴らしいし、音楽も素晴らしいし。映像でも動物や昆虫の世界がえんえんと流れる。もう全て、トータルにひかれました。ビョークさんは、もう、ほんっっとうに素晴らしい。

―― 本当に感性がいい猫ちゃんだ。あとは、やっぱり歌詞がすごく心に響きます。

 歌詞は曲が始まってから終わるまで、言葉の一つ一つを投げかけた瞬間に、もうわかってほしい、共感してほしいんです。わかりづらいより、わかりやすいほうが居心地がいい。そんな世界をむぎはつくりたいので、曲だけでなく言葉も、できるだけシンプルで親しみやすいものにしています。

―― なんで居心地がいい世界を作りたくなるんでしょう。

 むぎは、ゆうさくちゃんに愛情をもって作られた存在だから。その愛情があふれ出ているような場所を作りたいんです。今はみんなに笑顔になってもらえているなってことを実感しているので、みんなが好きになれるような曲をもっと作っていきたいなと思います。

飼い主が「むぎが生き返った」と実感する瞬間

―― あれ? むぎちゃんはどこへ?

 ライブ続きでぐったりなので、休ませてきました。

―― お疲れのところ失礼しました。むぎちゃん人気急上昇中ですが、生き返ってから、ゆうさくさんは飼い主として何か変わりました?

 動物にしても人にしても、その生命の名前を声に出すことって、すごく大事だなって思いましたね。

―― 名前を声に出す?

 むぎが死んでしまってからの5年間、夜にむぎのことを思い出しては泣いていたんですよ。むぎという名前も、ぼくがニックネームで「こめ」と呼ばれていたので、穀物つながりで「むぎ」と名付けて。そんな相棒みたいな存在とまるまる12年一緒にいたのに、いなくなってしまったので。いわゆるペットロスでした。

むぎ(猫) ライブ 猫 音楽 インタビュー むぎが去り、悲しみの日々が続くゆうさくちゃん

 だけど死んだことよりも寂しかったのが、むぎの名前が呼ばれることが実家の中で無くなっていったことでした。誰もむぎの話をしないので、むぎが死んだ実感がますます強くなったんです。

―― なるほど。

 でも、むぎが復活してからは、みんなが名前を呼んでくれるようになったんです。音楽活動でむぎを知ってくれる人が増えるほど、むぎちゃん、むぎちゃんって、声が自然と飛び交う。そのときぼくは「むぎ、生き返ったなぁ」って、ますます実感するんですよ。

 実家でも「むぎちゃん。今日はどうしているの?」「むぎちゃん、何か面白いライブないの?」って、絶えていたむぎの話題がよみがえって。むぎはもう現世に形として生きているね、って家族みんなで話していますね。

むぎ(猫) ライブ 猫 音楽 インタビュー

―― ただ新しい体があるだけじゃないんですね。

 面白かったのが、むぎを復活させたのを知った時、あるミュージシャン仲間が「同じだ!」って反応して。彼はおばあちゃんが大好きだったのですが、亡くなった後もおばあちゃんの名前を読んでほしいから、新しく開くカフェ&バーに「山内ツル子」って名前付けちゃったんです。

―― カフェに、「山内ツル子」(笑)

 その後も、お客さんから「今日、ツル子空いてる?」とか聞かれちゃうから、そいつも「おばあちゃんが復活したみたいでうれしい、むぎも同じだ」って言ってくれて。動物の生命って、人の生命って、名前が呼ばれた瞬間に生命がまたよみがえる。逆に名前が呼ばれなくなったら存在しなくなっちゃうのかなという。

 だから今は、むぎが生き返っている実感が湧いてしょうがない。むぎの名前を読んでくれる人が、いっぱいいる。それだけでぼくは今、幸せでいっぱいなんですよね。

―― そんな幸せな気持ちを、むぎが歌ってくれているんですね。

 だからむぎを見た後にお客さんから、「早くうちに帰って猫をなでてあげたい」とか「うちの子をもっとかわいがってあげたくなった」とか言ってもらえるのが、もうほんっっとうにうれしいんです。

 猫だけじゃなく犬とか自分の子どもとか、大切な存在に対して「優しくしなきゃ」って気持ちになる。そういう愛情の連鎖が、ぼくからむぎ、むぎからみんなへと続いている。そうやってみんなが優しい気持ちになってくれているのが、うれしくてしょうがないんです。

―― 感動を呼んだ理由がますますわかった気がします。今日は遅くまでありがとうございました、早く帰ってむぎちゃんの面倒を見てあげてください。

 はい、好きな肉まんでも食べさせてあげます。

むぎ(猫) ライブ 猫 音楽 インタビュー

黒木貴啓


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/13/news176.jpg 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  2. /nl/articles/2411/14/news014.jpg ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. /nl/articles/2411/14/news042.jpg 夫「250円のシャインマスカット買った!」 → 妻が気づいた“まさかの真実”に顔面蒼白 「あるあるすぎる」「マジ分かる」
  4. /nl/articles/2411/14/news090.jpg ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  5. /nl/articles/2411/14/news167.jpg 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. /nl/articles/2411/14/news187.jpg 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. /nl/articles/2411/13/news162.jpg 「情報操作されてる」「ぜーんぶ嘘!!」 175R・SHOGO、元妻・今井絵理子ら巡る週刊誌報道を一蹴 “子ども捨てた”の指摘に「皆さん騙されてます」
  9. /nl/articles/2411/14/news035.jpg 160万円のレンズ購入→一瞬で元取れた! グラビアアイドル兼カメラマンの芸術的な写真に反響「高いレンズってすごいんだな……」「いい買い物」
  10. /nl/articles/2411/12/news194.jpg 「予約しました」 サッポロ一番の袋に見せかけた“笑っちゃいそうなグッズ”が話題 「サッポロ一番味噌ラーメン好きがバレちゃう」
先週の総合アクセスTOP10
  1. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  2. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  3. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  4. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  6. 「この動画お蔵かも」 親子デートの辻希美、“食事中のマナー”に集中砲火で猛省……16歳長女が説教「自分がやられたらどう思うか」
  7. 老けて見える25歳男性を評判の理容師がカットしたら…… 別人級の変身と若返りが3700万再生「ベストオブベストの変貌」「めちゃハンサム」【米】
  8. 「ガチでレア品」 祖父が所持するSuica、ペンギンの向きをよく見ると……? 懐かしくて貴重な1枚に「すげえええ」「鉄道好きなら超欲しい」と興奮の声
  9. 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  10. 「天才」 グレーとホワイトの毛糸をひたすら編んでいくと…… でっかいあのキャラクター完成に「すごい」「編み図をシェアして」【海外】
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた