「閻魔大王=怖い」は“ギャップ萌え”のための布石 閻魔LOVEな同人誌の愛が深すぎて地獄に届きそう:司書メイドの同人誌レビューノート
今回は『閻魔堂のあるきかた』をご紹介。
街はツリーやイルミネーション、きらきらした飾りものでいっぱい! にぎわいの中をあるいてみれば、ケーキやチキンの箱を抱えた人とすれ違ったり。そんな盛り上がりの中、ちょっと違う方向に、季節を先取りしてみませんか? クリスマスの先にある物は、神社仏閣での年越しとお参り。しかしそこにとどまらず、さらに詣でる先があるのです。そこにいらっしゃるのは……閻魔様!
今回紹介する同人誌
『閻魔堂のあるきかた』
B5 44ページ 表紙・本文カラー
作者:羽流木はない
閻魔様を祀るお堂が全国各地に!
お寺の一画にあるちょっとしたお堂。祀られているのは神様でも仏様でもなく、閻魔様。このご本は、東京を中心に14の閻魔堂を作者さんが実際に訪れて、そのみどころをまとめた同人誌です。全国の閻魔堂リストつき!
神社や仏閣はお参りする機会がありますが、閻魔堂なんてあるんですか? と思ったら、閻魔堂が大ブームだったのは江戸時代のころ。今の世の中では、ちょっとひっそりとしているところも多いみたいですが、そこには江戸の人たちの心に寄り添ってきた閻魔様の魅力が隠されていたのです。
いじられキャラ? ギャップ萌えが愛おしすぎる閻魔様のとりこに
閻魔様といえば、地獄で待ちうけて、生前の行いを厳しく裁く、怖い存在……。でも、実は閻魔様はもともとは人間だったのですって。それが今や、地獄の裁判官に。さぞや厳格な方かと思いきや、今に伝わる閻魔様エピソードは“閻魔様がやらかしちゃった”笑い話が多いらしいですよ。
作者さんは「閻魔様への信仰心が浸透するなかで、笑っても平気そうな親しみやすさが感じられるのでは」「裁判官としてあくせく働く姿に、庶民は心を重ねたのかも」と分析されています。私も初めて知ったのですが、閻魔様自身、人間を“裁く”放漫さを罪として、罪人と同じように毎日3回煮え銅を飲まされているというエピソードもあるのだとか。ほのぼの笑い話も許容したり、自らを戒めていたり……。もー、閻魔様優しすぎでしょ! と頭を垂れたくなって、閻魔堂を建立した江戸の方々の気持ちが分かるような気がしました。
心広く、親しみやすいお方。仏さまに言えないことも閻魔様にならいえる……と、ちょっと後ろ暗い気持ちになってしまうようなお願いごとも聞いてもらえることで、閻魔堂はかつての風俗街などの近くに建てられていることも多いのだとか。ああ〜、心に抱えるあれこれを清濁あわせ飲んで「うんうん」って聞いてもらえるって、やっぱり、やさしさの塊じゃないですか! そりゃ作者さんも「地獄の王なのに現世では弱者の味方ってね ヒュ〜 ギャップが最の高〜!」とテンション上がります。
ちょっとゆるっとした作者さんの絵が、時に熱く、時に穏やかに、とにかく閻魔様をぐいぐい推してきて、さらりと読めるのに、閻魔様への関心度が、ものすごく高くなっている自分に気付きます。閻魔愛すごい。
ちなみに作者さんは閻魔様への思いが募りすぎて、“閻魔様が老婆を助けるために自らの右目を与えた”という伝承に、「は〜〜!? なんじゃそら キーッなによ!?」「私が老婆になっても愛してくれますか!? 長生きしてみますね!!」と取り乱す、閻魔様へのガチ恋勢。
各地の濃すぎる閻魔堂をレポート
閻魔様愛にあふれる作者さんによる閻魔堂レポートは、「とにかく閻魔堂に来てみて! 閻魔様に親しんでみて!」と、楽しみどころを教えてくれるリアル布教型。スタンダードな閻魔像の見応えから、光ってしゃべるハイテク閻魔像の紹介、極楽度・地獄度チェックができる(しかも閻魔様録り下ろしボイス収録)エンタメ力のある閻魔堂、逆にしっとりと緑豊かな閻魔堂まで、写真をまじえてレポートされているので、雰囲気が分かりやすいですよ。
こんなに魅力ある閻魔さまに会いに行ける閻魔堂。いつでも拝観できるところもありますが、年2回、特別に盛り上がるタイミングもあるのです。なぜ年2回なのか? それは閻魔様のお休みの日に合わせているから! ……って、えっ? 閻魔様って、週休2日とかではなく、年休2日なんですかぁ!?
1年に2回しかお休みが無い閻魔様の、次のおやすみは1月16日。もうすぐですね! その日だけ閻魔様のお姿を公開している閻魔堂も多いみたいですよ。いまからなら、事前情報を集めて閻魔堂めぐりを計画するのにぴったりの期間じゃないでしょうか。
いろんな神様仏様の行事を、笑って楽しんじゃえる環境ですもの。星に願いをかけるも良し、閻魔様に願いをかけるも良し! クリスマス、除夜の鐘、初詣に閻魔堂も入れて、バラエティーに富んだ年末年始もありかもですよー。
今週のシャッツキステ
著者紹介
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