どう見ても“地面に突き刺さったイカ” きのこライターによる同人誌『イカタケ』が記憶に焼き付くインパクト:司書メイドの同人誌レビューノート
かわいらしい『きのこの雨宿り』もご紹介。
昼間は沈丁花のつぼみを見つけて、早春を感じつつ、夜は底冷えのする日が、まだまだ続いていますね。こんな日はことこと煮込んだスープとか良さそうです。白菜と、ベーコンと、どっさりきのこを入れて、いいうま味が出そうなスープを……。と、日頃から食卓でよくお世話になっているきのこ。しかし、きのこの世界は広い! 図鑑を開いても、多種多様なきのこが存在しています。今回の同人誌は、その中でも、見た目が個性的なきのこに出会った、きのこ好きさんのレポート本、2冊をご紹介します。
今回紹介する同人誌
『きのこの雨宿り』 B6 12ページ 表紙・本文カラー
『イカタケ』 B6 16ページ 表紙・本文カラー
著者:堀博美
こんな場面に出会いたい。メルヘンの世界みたいな雨宿りするきのこ写真
1冊目は『きのこの雨宿り』。表紙の、“屋根”のような茶色いものはオオノコフキタケ、その下の、白くてぽこぽこ頭を出しているのは、ササクレヒトヨタケというのだそうです。誰でも入れる公園の木の根元でこんなかわいい場面が繰り広げられていたなんて! 屋根に守られ、寄り添うような群れは、雨宿りという言葉がぴったりですね。しかも、ササクレヒトヨタケはその名の通り、一夜で傘が溶けてしまうほどのはかなさ……と知ると、ますます愛らしさ倍増です。
とにかく存在がかわいい“雨宿り”の姿。これを捉えたのは、著者さんが何度もその様子を見守って観察された成果なんです。ある日、偶然に出会い、あまりのかわいさに「しっかり撮影したい!」と願うも、再訪するとササクレヒトヨタケがいなくなっていたり、傘が溶けてひょろひょろになっていたりと、なかなか思うように撮れません。しかしTwitterを通じて発信することで得た情報を参考にしたり、天気を予測したり、持てるスキルを惜しみなく注ぎ込み、ついに再び、あのかわいい雨宿りの姿を見ることができるのです!
全ページカラーで、現場でどんな風にきのこがはえているのかわかりやすい写真で、レポート文は日記を読んでいるようにやさしい文章です。著者さんは、日本初の「きのこライター」を名乗られる、きのこに関する商業誌もこれまで多数出された、いわばきのこ描写のプロ。その穏やかな文からは、著者さんの「きのこに出会いたい!」「出会えてうれしい!」が溢れだしています。
これ、イカですね……。一夜にして開く、イカタケの舞を見逃すな!
見た瞬間、イカが地面に刺さってる!? と、まじまじと表紙を見つめてしまう、2冊目のご紹介は『イカタケ』です。にょろっと伸ばされた足、真っ白な胴、そしてちょっと黒っぽいものが付着しているのすら、イカスミみたいで……。これ、イカですね!? と、例え出会った場所が山の中でも、誤解してしまいそうなほどのインパクト。
こちらはその名もイカタケという、立派なきのこなんです。きのこ好きな著者の方も、なかなか出会えず、なんと2011年にはテレビ番組「探偵ナイトスクープ」に依頼を出して、見せていただいたことがあったのだとか。そんなレアなきのこですから、「生えているみたいですよ」と情報をもらった著者の方はすぐさまイカタケを見に出かけます。そこで見たものは、珍しいイカタケの群生! 著者さんは「まるで星のよう」と書いていらっしゃいます。真っ白くて、ふくふくした足は、ゆでたてのイカが地面に刺さっているようです……。
このご本では、さらにそこからイカタケの卵(幼菌)を育て、腕が伸ばされるまでを写真付きで丁寧にレポートされており、アップでその様子を堪能できます。じっくり見ていると、うにょうにょと腕を伸ばす姿は、魔物や怪物を連想させそうなのに、丸みを帯びた形はどこか愛らしさを感じます。
決定的瞬間を見逃さない。きのこのことを気にし続ける持続力が実る
2冊とも、奇妙なのにかわいらしさを感じる様な光景を、ばっちり写し取ったご本です。その相手が、いつ、どこから生えてくるのかは分からない! そんなきのこ相手でありながら、この瞬間に立ち会ってらっしゃるのは、著者の方の情熱が実を結んだ成果なのだと、ご本を拝見していると気付きます。日頃から、きのこの出そうなポイントなどを見ている観察力、丁寧に動向を見守る注意深さ、そして「きのこ好きで、きのこに出会いたい!」と普段から声をあげて、情報を引き寄せるPR力がすばらしい!
ただの偶然ではなく、きのこのことを考え続けて必然で巡り合った一期一会の光景。それを惜しみなく公開されていて、きのこに出会えたうれしさが伝わるご本です。
今週のシャッツキステ
著者紹介
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