レビュー
» 2018年01月21日 12時00分 公開

どう見ても“地面に突き刺さったイカ” きのこライターによる同人誌『イカタケ』が記憶に焼き付くインパクト司書メイドの同人誌レビューノート

かわいらしい『きのこの雨宿り』もご紹介。

[シャッツキステねとらぼ]
シャッツキステ

 昼間は沈丁花のつぼみを見つけて、早春を感じつつ、夜は底冷えのする日が、まだまだ続いていますね。こんな日はことこと煮込んだスープとか良さそうです。白菜と、ベーコンと、どっさりきのこを入れて、いいうま味が出そうなスープを……。と、日頃から食卓でよくお世話になっているきのこ。しかし、きのこの世界は広い! 図鑑を開いても、多種多様なきのこが存在しています。今回の同人誌は、その中でも、見た目が個性的なきのこに出会った、きのこ好きさんのレポート本、2冊をご紹介します。

今回紹介する同人誌

『きのこの雨宿り』 B6 12ページ 表紙・本文カラー

『イカタケ』 B6 16ページ 表紙・本文カラー

著者:堀博美


同人誌『きのこの雨宿り』 きのこ 軒下から、ちょっと顔をのぞかせたような愛らしさ
同人誌『イカタケ』 きのこ 土からイカが生えているとしか思えないインパクト


こんな場面に出会いたい。メルヘンの世界みたいな雨宿りするきのこ写真

 1冊目は『きのこの雨宿り』。表紙の、“屋根”のような茶色いものはオオノコフキタケ、その下の、白くてぽこぽこ頭を出しているのは、ササクレヒトヨタケというのだそうです。誰でも入れる公園の木の根元でこんなかわいい場面が繰り広げられていたなんて! 屋根に守られ、寄り添うような群れは、雨宿りという言葉がぴったりですね。しかも、ササクレヒトヨタケはその名の通り、一夜で傘が溶けてしまうほどのはかなさ……と知ると、ますます愛らしさ倍増です。

同人誌『きのこの雨宿り』 きのこ 出会いは偶然に。しかしこのあと、意外にも再会は困難なことに……

 とにかく存在がかわいい“雨宿り”の姿。これを捉えたのは、著者さんが何度もその様子を見守って観察された成果なんです。ある日、偶然に出会い、あまりのかわいさに「しっかり撮影したい!」と願うも、再訪するとササクレヒトヨタケがいなくなっていたり、傘が溶けてひょろひょろになっていたりと、なかなか思うように撮れません。しかしTwitterを通じて発信することで得た情報を参考にしたり、天気を予測したり、持てるスキルを惜しみなく注ぎ込み、ついに再び、あのかわいい雨宿りの姿を見ることができるのです!

 全ページカラーで、現場でどんな風にきのこがはえているのかわかりやすい写真で、レポート文は日記を読んでいるようにやさしい文章です。著者さんは、日本初の「きのこライター」を名乗られる、きのこに関する商業誌もこれまで多数出された、いわばきのこ描写のプロ。その穏やかな文からは、著者さんの「きのこに出会いたい!」「出会えてうれしい!」が溢れだしています。

同人誌『きのこの雨宿り』 きのこ “屋根”のオオミノコフキタケにも注目。周囲までチョコレート色になった姿、こちらは茶色で塗ったわけではなく、胞子をまいてるんですって!

これ、イカですね……。一夜にして開く、イカタケの舞を見逃すな!

 見た瞬間、イカが地面に刺さってる!? と、まじまじと表紙を見つめてしまう、2冊目のご紹介は『イカタケ』です。にょろっと伸ばされた足、真っ白な胴、そしてちょっと黒っぽいものが付着しているのすら、イカスミみたいで……。これ、イカですね!? と、例え出会った場所が山の中でも、誤解してしまいそうなほどのインパクト。

同人誌『イカタケ』 きのこ こんな光景がありえることすら、想像したことのなかったお写真です……

 こちらはその名もイカタケという、立派なきのこなんです。きのこ好きな著者の方も、なかなか出会えず、なんと2011年にはテレビ番組「探偵ナイトスクープ」に依頼を出して、見せていただいたことがあったのだとか。そんなレアなきのこですから、「生えているみたいですよ」と情報をもらった著者の方はすぐさまイカタケを見に出かけます。そこで見たものは、珍しいイカタケの群生! 著者さんは「まるで星のよう」と書いていらっしゃいます。真っ白くて、ふくふくした足は、ゆでたてのイカが地面に刺さっているようです……。

 このご本では、さらにそこからイカタケの卵(幼菌)を育て、腕が伸ばされるまでを写真付きで丁寧にレポートされており、アップでその様子を堪能できます。じっくり見ていると、うにょうにょと腕を伸ばす姿は、魔物や怪物を連想させそうなのに、丸みを帯びた形はどこか愛らしさを感じます。

同人誌『イカタケ』 きのこ このぎゅっと閉じた卵から、イカになっていくのです

決定的瞬間を見逃さない。きのこのことを気にし続ける持続力が実る

 2冊とも、奇妙なのにかわいらしさを感じる様な光景を、ばっちり写し取ったご本です。その相手が、いつ、どこから生えてくるのかは分からない! そんなきのこ相手でありながら、この瞬間に立ち会ってらっしゃるのは、著者の方の情熱が実を結んだ成果なのだと、ご本を拝見していると気付きます。日頃から、きのこの出そうなポイントなどを見ている観察力、丁寧に動向を見守る注意深さ、そして「きのこ好きで、きのこに出会いたい!」と普段から声をあげて、情報を引き寄せるPR力がすばらしい!

 ただの偶然ではなく、きのこのことを考え続けて必然で巡り合った一期一会の光景。それを惜しみなく公開されていて、きのこに出会えたうれしさが伝わるご本です。

同人誌『イカタケ』 きのこ ひと晩で足を伸ばすところを丁寧にレポート

サークル情報

サークル名:SPORE

Twitter:@horihiromi

次回イベント参加予定:文学フリマ京都(1月21日)


今週のシャッツキステ

シャッツキステ メイド 雨宿りをする“シズク”ちゃん。雨降って地固まる、雨垂れ石をうがつ……そして晴耕雨読! 雨が降るといいことありそう! 物語の中でも、すてきな出会いフラグがよく立ちますものね。今度、シズクちゃんにどんな雨宿りがしたいか聞いてみましょ!

著者紹介

司書メイド ミソノ 司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る

関連キーワード

同人誌 | 写真 | 撮影 | レビュー


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2312/05/news021.jpg 柴犬が見つけた瀕死の子猫、最後の力で立ち上がり…… 優しさが救った小さな命が600万再生「感動と感謝です」
  2. /nl/articles/2312/07/news111.jpg 小沢仁志、愛車・マスタングを“世界に一台の色”に大胆カスタム 生まれ変わった姿に「おっほ!」「エルメス着やがった」
  3. /nl/articles/2312/06/news119.jpg 中尾明慶、「金八」で“めちゃくちゃケンカした同級生”と因縁の再会 10年前の悪態謝り倒し「芸能界でおかしくなっちゃった」
  4. /nl/articles/2312/04/news166.jpg アンパンマンの食パンを切ったら…… まさかの中身に「怖い」「うわぁぁぁ!!」など恐怖の声
  5. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. /nl/articles/2312/02/news048.jpg 「明らかに写真と違う」 東京クリスマスマーケットのフードメニューが物議…… 購入者は落胆「悲しかった」
  7. /nl/articles/2312/07/news129.jpg 34年前の“伝説の名車”購入のオール巨人、72歳までの歴代免許証をずらり公開 「歴史を感じますね」「いい年の取り方」
  8. /nl/articles/2312/05/news100.jpg 兄犬が大好きすぎる弟犬、お散歩中もピッタリくっついて…… 二度見必至の光景に「迷惑だけどかわいすぎる」の声
  9. /nl/articles/2312/07/news024.jpg 生まれて間もなく捨てられていた保護子猫が“真っ白なエビフライ”に おなかいっぱい食べられるおうちで過ごす姿に心あたたまる
  10. /nl/articles/2312/07/news119.jpg 「ブギウギ」、幻の名曲熱唱に「これ朝ドラなんですか」「凄すぎる」 公式は「できるだけ楽譜に忠実に再現」
先週の総合アクセスTOP10
  1. オール巨人、30年モノな“伝説の1台”に自負「ここまでキレイな車はない」 国産愛車の雄姿に称賛の声「気品がある」「凄くエレガント」
  2. 「明らかに写真と違う」 東京クリスマスマーケットのフードメニューが物議…… 購入者は落胆「悲しかった」
  3. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  4. 田中みな実、“共演した姉”の存在に反響「居るとは聞いていたけど」「激似やなぁ」 すらっとしたたたずまいに「品のあるお方」
  5. 藤本美貴、“全然かわいくない値段”のテスラにグレードアップ スマホ一つでの注文に「震えちゃ〜う!」
  6. マックで「プレーンなバーガーください」と頼んだら……? 出てきた“予想外の一品”に驚き「知らなかった」
  7. 伊藤沙莉、“激痩せ報道”の真相暴露→広瀬アリスの株が上がってしまう 「辱めったらない」告白に「アリスちゃん、ええ人や〜」
  8. 「あなたは日本人?」突然送られてきた不審なLINE、“まさかの撃退方法”に反響 「センス良い」「返しが秀逸」
  9. “鬼ダイエット”で激やせの「Perfume」あ〜ちゃん、念願の姿に「着れる日が来るなんて」と大喜び
  10. 900万再生のワンコに「電車で笑ってしまった」「つられてめちゃくちゃ笑っちゃうw」 “突然魔王になった犬”に腹を抱える人続出
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「酷すぎる」「不快」 SMAPを連想させるジャンバリ.TVのCMに賛否両論
  2. 会話できる子猫に飼い主が「飲み会行っていい?」と聞くと…… まさかの返しに大反響「ぜったい人間語分かってる」
  3. 実は2台持ち! 伊藤かずえ、シーマじゃない“もう一台の愛車”に驚きの声「知りませんでした」 1年点検時に本人「全然違う光景」
  4. 大好物のエビを見せたらイカが豹変! 姿を変えて興奮する姿に「怖い」「ポケモンかと思った」
  5. 渋谷駅「どん兵衛」専門店が閉店 店内で見つかった書き置きに「店側の本音が漏れている」とTwitter民なごむ
  6. 西城秀樹さんの20歳長男、「デビュー直前」ショットが注目の的 “めちゃくちゃカッコいい”声と姿が「お父さんの若い頃そっくり」「秀樹が喋ってるみたい」
  7. “危険なもの”が体に巻き付いた野良猫、保護を試みると……? 思わずため息が出る結末に「助けようとしてくれてありがとう」【米】
  8. 「やばい電車で見てしまった」「おなか痛い、爆笑です」 カメがまさかの乗り物で猫を追いかける姿が予想外の面白さ
  9. おつまみの貝ひもを食べてたら…… まさかのお宝発見に「良いことありそう」「すごーい!」の声
  10. 「3カ月で1億円」の加藤紗里、オーナー務める銀座クラブの開店をお祝い “大蛇タトゥー”&金髪での着物姿に「極妻感が否めない」