“聖地巡礼”のその先へ 作品を体感する場所に住む人々のリアルな声をまとめた同人誌『聖地移住』:元司書みさきの同人誌レビューノート
聖地に住むことについて、さまざまな角度から書かれています。
寒さが続く中、小さく梅が咲いているのを見つけました。季節が移り変わりつつありますが、一方で雪のニュースもまだまだ聞こえてきたりして。各地の空模様を想像してみています。冬から春は環境の変わる人の多い時期でもありますね。今回のご本は、大好きな作品をきっかけに住まいの地域を変えた方々についての同人誌です。
今回紹介する同人誌
『聖地移住』A5 156ページ 表紙カラー・本文モノクロ
著者:夷(ゑびす)
自身も聖地移住した作者さんがまとめる1冊
“聖地”という言葉が、好きな作品の舞台になった土地を指す言葉として広まり、そこを訪れる様子が“聖地巡礼”と呼ばれることは、近頃ではすっかりなじんだような気がしますが、このご本では旅するだけでなく、その地に住む“聖地移住”について書かれています。自身も思い入れのある作品に関連した街に移住した経験をされている作者さんが、聖地移住した人たちへのインタビューや聖地移住が地方にもたらす影響などを企画開始から3年をかけてまとめました。
作品を体感する場所に住んだ人々の声
ご本は文章が中心で、聖地移住した方々の声もインタビューとして豊富に掲載されています。茨城県大洗、埼玉県秩父、静岡県沼津、広島県竹原……実際に全国各地に引っ越しした人たちの体験談から、きっかけやいきさつ、一人暮らしか家族も一緒になど、一口に“聖地移住”と言ってもそれぞれに事情が違うことが分かります。中には移住後、好きな作品につながるような仕事をしたり、地域の盛り上げに協力されたりといった方もおられますが、作品が好きでも引っ越しとなると、なかなか大きな出来事ですよね。“いいことたくさん!”な面ももちろんながら、“迷ったこと”“計画したこと”などへの言及も端々にあることに誠実さを感じます。
そんなインタビューと対をなすように、作者さんも、地域と移住者と作品はどう関係していくのか、データも交えながら考えていきます。移住した当人だけでなく、逆に作品に興味がなかった地元の人にも影響が波及していく点、地方創生を念頭に置いた視点なども合わせて考察されていきます。
暮らしと地域の関りを考え、一歩を踏み出した記録
作品と人、そしてどう暮らしていくのかも、事情や考えによってずいぶんと違うものだと、ご本を読みながらしみじみと感じます。移住後もどっぷりと作品に浸るような非日常に飛び込む楽しさとともに、好きな作品の中に身を置くことがじんわりと日常になっていく静かな“聖地移住”もとてもすてきだと思いました。
あとがきで触れられていますが、新型コロナの影響で人の暮らしは変化しました。また企画から長い時間をかけて丁寧に取り組まれており、インタビューした方の中はさらに別の地に引っ越しされた方もいらっしゃるそうです。ご本には、地方に移住する際の制度の情報や参考資料も載っているので、実際に移住を考える方の参考にもなるのはもちろん、暮らしと“好き”をどうミックスしていくか、いますぐ環境の変化がない人にも興味深い内容ではないでしょうか。
サークル情報
サークル名:日々是妄想
Twitter:@ye_bi_su
Webサイト:http://ukatensei.blog50.fc2.com/blog-entry-920.html
入手できる場所:メロンブックス、南砺市クリエイタープラザ内書店(現地販売のみ)
次回参加イベント:コミックマーケット102
今週の余談
大好きな作品に関連するところにいるのって、とっても楽しいですよねぇ……! 涼しかったなぁとか、おいしかったなぁ……といった作品と感覚が結び付くうれしさを思い出します。旅する楽しさ、住まう楽しさ、それぞれに魅力的ですね。
みさき紹介文
公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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